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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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186.魔法の授業


「アフィラートさん、状態保存の魔法っていつ頃から使えるようになったんですか?」


ヴェアを解体中のアフィラートさんに聞いてみる。


「唐突に何だ」

「いや、だって半年前までは魔素が尽きかけていたわけだから魔法は使えなかったでしょ? それなのに突然状態保存の魔法が使えるようになるのかなぁって疑問に思いまして」


そう言えば、訝しげだったアフィラートさんは毛皮と肉の間にナイフを入れ、くいっと引っ張りながらそれらを器用に割きつつ教えてくれた。



「魔素が満ちてからひと月程経ったある日、ふとした拍子に薪に火をつける事が出来たんだ。それで自分が魔法を使えるようになった事を知った。状態保存魔法は、ウチに古くから伝わる魔術書があってな。そこで覚えたんだよ」


何それ。見せて欲しいんだけど!


「他の魔法は?」

「本に載ってたのは、生活魔法ばかりでな。攻撃魔法や防御魔法なんかはさっぱりだな」


火が灯せるなら攻撃にも転用できそうだけどなぁ。


「どんな魔法を覚えたいんですか?」

「そりゃ空間魔法だろ。それがありゃ狩りも楽になるしなぁ。ま、そんな魔力量ねぇがな」


とヴェアの肉をカットしている。

確かに今のままでは無理かもしれないけど、魔石があればマジックバッグ位は作れそうなんだよね。この人。


「魔力量は消耗しても休めば元に戻るよね?」

「まぁな」


カットした肉と毛皮を状態保存の魔法をかけて袋に入れていくアフィラートさん。


「アフィラートさんちょっと待って」

「あ?」


面倒そうに答えてこちらを見上げてくるがまぁいいだろう。この人はこんな感じの人だ。


「もしかして、いつも一つ一つに状態保存魔法かけてたりする?」

「そりゃそうだろ。かけねぇと痛んじまう」


無駄ァァァ!! 何という魔力の無駄遣い!! それなら狩った物を入れる袋にかけておけばいいでしょ!? 何でそんな無駄な事してんの!?


「アフィラートさん、魔法のレッスンしましょうか」

「はぁ?」


胡散臭そうな面持ちでサンショー兄さんの上にいる私を見たアフィラートさんは、何言ってんだコイツと語る目を隠そうともしなかった。



◇◇◇



「━━…だから、袋に状態保存魔法をかけておけば狩ったものにいちいち魔法をかける必要もないんです」

「袋にかけたらその袋だけが状態保存されるんじゃなかったのか……」

「確かにそう思われるかもそれませんが、状態保存魔法というのは━━…」


私は今アフィラートさんと、サンショー兄さんの背中の上で魔法の授業をしている。

おっさん達のパーティーには急遽アフィラートさんの代わりにティラー姉さんに人化して入って貰ったのだ。

最初は戸惑っていたおっさんパーティーだったが、アフィラートさんが魔法を覚えられるならと承諾してくれた。


というか、何故私がこんなに魔法に詳しくなったかというと、頻繁に開かれるお茶会が魔法研究についての発表の場のようになっているからだ。

新魔法から理論まで様々な議論が交わされるお茶会のメンバーは、ヴェリウス、ロード、トモコ、ジュリアス君。たまにランタンさんである。

それらが集まるとそれはもう白熱する。なので純粋にお茶会を楽しんでいる私の耳にも入ってくるというわけなのだ。


「次にアフィラートさんの魔力ですが、数値にすると28です。ちなみに状態保存魔法一回につき0.5減っていきます。生活魔法も同数値程度です。

つまりアフィラートさんは状態保存魔法のみであれば56回使用できるという事になります」

「ちょっと待て。俺の魔力量がなんで分かるかってのも気になるが、俺は56回も状態保存魔法を使った事もねぇし、その前に魔力切れを起こした事もある」

「そう! それなんですっ何故56回使用する前に魔力切れを起こすのか」


サンショー兄さんの背中をペチンと叩きながら私は演説する。


「原因は、“魔力の無駄遣い”に他なりません」

「無駄遣い?」


眉間にシワを寄せて真っ直ぐに私を見るアフィラートさんは真面目に授業を聞いてくれているようだ。


「そう。アフィラートさんは状態保存魔法をかける際に、使わなくてもいい魔力まで使用してしまってるんです。0.5でいいところを2、3と使ってるんですね。ちなみに3というのは拳大の炎を出せる位の魔力量です」


勿体無い事してますね~と言えば、「拳大の炎…」と呆然としているので、魔力量の無駄遣いにショックを受けているのだろうと思っていたら、「嬢ちゃん!!」と突然大きな声で呼ばれた。


「俺の魔力量が28っつったよな!?」

「あ、はい。そうですネ…?」


アフィラートさんはいつもの無愛想な表情とは明らかに違う、少年のような顔で私に言ったのだ。


「て事ぁ、ものすげぇデカい炎を出したり出来るって事だよな!?」



誰かが言った。“男とは永遠に少年の心を持ち続ける生き物だ”と。

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