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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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181.いざ、深淵の森攻略へ


「書いてある…」

「マジかよ。お前依頼書は隅から隅まで目を通しとけよな」

「アンタには言われたくねぇわ」

「馬鹿共、言い合いしてねぇで嬢ちゃんの話を聞こうぜ」


等と目の前でわいわいしているおっさん共を横目に、鬱蒼とした森を眺めながらルーベンスさんとの話を思い出す。


2週間前、深淵の森が私達の契約通り解禁する沙汰が下されたのだが、その内容がAランク以上の冒険者パーティーと限定されてしまった事でお金を稼ぎたい私にはメリットが全く無くなってしまったのだ。

その為、見かねたルーベンスさんが提案したのがこの案内人というバイトであった。

労働時間は1日5時間。休憩60分。

森の案内をするだけで3万ジットという金額が国から支給されるらしい。

地球の仕事に比べれば破格といってもいい労働条件であるが、ヴェアやヤコウ鳥で金銭を得てしまった私にはどうも安く感じてしまう。


手っ取り早く儲けたいものだとズボラというよりクズ的な考えをしていれば、4人のおっさん達に話し掛けられた。


「嬢ちゃんよぉ、まずは嬢ちゃんの仕事内容を詳しく聞かせてもらえるか?」


この4人の中でリーダーっぽい白熊獣人のおっさんが眉を下げて質問してくる。ふわふわの丸い耳よりも少し茶色がかった白色の髪の毛はふさふさでなかなかのイケオジだ。35過ぎ位だろうが。まぁロードの方が顔は整っているかもしれない。


「詳しくと言われても…案内人のバイトなので、そのまんま森を案内するのが仕事です」


4人共長身で、一番低い人でも180センチ超え。さらに身体もマッチョで映画で見るようなアメリカ軍人っぽい厳つさがある。

ロードの方が大きいし筋肉もすごい(←イメージは北○の拳のラオ○だ)が、それでも4人もの巨体に囲まれると息苦しさを感じるものだ。

まさに筋肉の壁。


「あのなぁ嬢ちゃん、依頼は遊びじゃねぇんだ。命懸けの仕事なんだぜ。おめぇさんの仕事が案内人なら、狩りの時の守りはどうするかってのも考えなきゃなんねぇし、嬢ちゃんは何が出来て何が出来ないのかってのも教えてもらわねぇと俺らも動けねぇだろ」


目線を合わせる為に屈んで、子供に言い聞かせるように真剣に話しているのはこのパーティーのブレーン的存在らしい弓を背負ったおっさん。多分一番年長者で人族だ。見た目は50歳位に見えるが、M字型ハゲなので老けて見えるだけなのかもしれない。


「そうですよね。ごめんなさい…。あの、私は精霊様から防御の魔法をかけてもらっているので守ってもらう必要はありません。例え攻撃されても怪我一つしないので気にせずお仕事に集中して下さい」

「精霊様から!?」


私の言葉にびっくりして目を剥いたのはこのパーティーでも一番若く見える人族の男。腰には剣をぶら下げてぎょっとした顔でこちらをみている。30過ぎだろうか。


「この森と一番相性が良い冒険者として精霊様に選ばれました。ここは神域ですので、神の居住区へ接近しないように案内人として私が派遣されたのです」

「神の居住区ってなぁこの森全体だと思ってたけど、そうじゃねぇんだなぁ」


一番若そうな人とじゃれあってた35歳から40歳の間位の、目付きが悪い黒髪のおっさんが余計な事をボソリと言った。無精髭が目付きの鋭さと相俟って一番ヤクザっぽい。腰に色んな種類のナイフをさしているので解体や料理が得意なのかもしれない。


「まぁそんな感じです。森のマップは私の頭の中に精霊様が叩き込んで下さったので信じて付いてきて下さい」


サラッと流し、先頭をきって森へ入ろうとしたら白熊獣人のおっさんに襟首掴まれて止められた。


「嬢ちゃんは念のため俺の後ろで進む方向を教えてくれ」

「俺らで嬢ちゃんを囲んでた方が安全だろ」


等と言われて前後左右をおっさん達で囲まれたのだ。

精霊の防御魔法を施されていると言っているのに、何とも優しいおっさん達だった。


「ありがとうございます」


ボソリとお礼を伝えれば、ククッと格好良さげに笑われた。


こうして“焔の鳥”というおっさんパーティーと、案内人のバイト中の私は“深淵の森”へと入ったのだ。



◇◇◇



こっち…いやこっちか。う~ん、それともこっち??


「なぁ嬢ちゃん、さっきから一人でぐるぐる回転してるが…大丈夫か?」


白熊のおっさんが何か言っているが今はそれどころじゃない。私は今、自分の体の向きをどこにむけていいのか分かっていないのだ。

だって深淵の森に外側から入るの初めてだし。転移でしか出入りしていなかったし。


大体“ドローンマップ”を展開していても森なんだから東西南北とさっき入ってきた所しか分からない。入り口からどの地点にいるかは分かる。が、自分の身体が今どっちの方向に向いているのか分からないのだ。

決して迷子ではない。


「待て待て嬢ちゃん、そっちは獣道ですらねぇぞ」


地図は回転させて見る派である。そして自分も回転する派だ。


「おい、おめぇさんまさか迷ったんじゃねぇだろうな」

「迷ってませんーー!! 今はこの森のこの辺にいますぅ!!」


疑ってくるM字ハゲのおっさんへ地面に図を描いてバッテン印をつける。


「そこまで分かっていながら何でぐるぐる回ってんだ。おめぇは犬か」


一番若そうな男が半眼で見てくるのでつい反論してしまう。


「どの辺が犬に見えますかー。回っているのはアレですぅ。自分の身体の方向をマップに合わせようとしてるんですー」

「おい、コイツ相当の方向音痴じゃねぇか。案内人として死んでんぞ」

「死んでねーわ!!」


目付きの悪い無精髭のおっさんが失礼な事を言ってくる。しかも「誰だよ。方向音痴を案内人に指名した阿呆は」とまで言われた。

方向音痴もその阿呆も私だよ!! とはさすがに言えなかった。


「あー…迷ったわけじゃねぇし、今なら引き返せるだろ」

「そうだな。一度引き返すか」


と白熊とM字ハゲが話し始めたのでマズイと冷や汗が出てくる。

ここで引き返されたら私にはお金が入らないし、今後も案内人としてのバイトが出来なくなるからだ。


「待って下さい!! 大丈夫。案内は出来る!! 迷わないから!!」

「あのなぁ嬢ちゃん、マップを持ってる案内人が方向音痴っつーのは俺らの命にかかわんだぞ。まぁ俺たちはまだ森を歩くのは慣れてっからこのまま進もうと思やぁ進めるが、嬢ちゃんは危険だ。だから一旦引き「大丈夫!! ちゃんと案内するからっ私で不安なら森に詳しい子を呼ぶから!!」…呼ぶ?」


もうこれは呼ぶしかない!! 助っ人を!!!!


「誰か一人助けにきてェェェ!!」


森に向かって叫べば、おっさん達4人は私をおかしくなった子のような目で見ていた。



暫くすると地鳴りがし始める。


「お、おい。地面が揺れてねぇか…」


徐々に大きくなる地震に4人のおっさんの顔色が変わり始めた。

と、その時。


ギャオォォォォ!! という咆哮が聞こえてき、おっさん達が目付きを鋭くさせて各々の武器を構えたのだ。


「嬢ちゃんっ ここから離れるぞ!!」


白熊のおっさんの肩に担がれるが冗談じゃない。私は案内人の仕事を遂行するのだ!!


しかしおっさん達は武器を構えたまま走り出してしまった。


「ちょ、ま…っ」

「喋るんじゃねぇっ 舌噛むぞ!」


何かヤバいモンスターに追われている冒険者感が出てきた。

車にでも乗っているような速さで走るおっさん達に、この世界の人の身体能力の高さを知る。


そんなおっさん達の横側から、メキメキと木々がしなり…というか木々をぶっ倒しながら出てきた巨大な影は、土煙を巻き上げながら跳躍し、おっさん達の前方を塞いだのだ。


ズゥン…と大きく地面が揺れる。


「クソッ」と方向を変えようとした時、後方からギャオォォォッと声を上げ、バキバキィッ と木々を薙ぎ倒し現れたモノにおっさん達の顔が絶望に変わる。


土煙が収まり、二つの巨大な影の全貌が見えてきた。


前方に居るのは巨大サンショウウオの珍獣“サンショー兄さん”。

後方から飛び出してきたのはティラノサウルスの珍獣“ティラー姉さん”だった。


魔獣化して現れた2人はデカい上にグルル…ギャオォォッと唸っているわで、“瞬殺される!!”と思わせるような迫力がある。


「ッ囲まれた……っ」

「何だコイツら!? こんな奴らがこの森にいるなんて聞いてねぇぞ!?」

「ヤベェな…何とか嬢ちゃんだけでも逃がさねぇと…」


今のおっさん達の状況はさながら、地下3階でダンジョンボス2体に出会った心境だろう。因みにダンジョンボスは地下20階に居ると予想される強さだ。




「一人って言ったのに二人で来ちゃったの?」


サンショー兄さんとティラー姉さんを見れば、サンショー兄さんはクルル…と鳴き、ティラー姉さんはサンショー兄さんをキッと睨むと私に頭を下げてギャウグゥと何かを言っている。


うん。わからない。クルクルギャウギャウ言われても可愛い事しかわからない。


「あのね、道案内を頼みたいんだけど…狩りや薬草採取もしないといけないから、そういうのが詳しい方にお願いしたいの」


言えば二人が話し合いを始めた。

端から見ると魔獣同士の戦闘の様相だが。


「仲良くね~」


と言えばギャウ!? と鳴いて穏便に話し合いをし始めたのでホッとした。


「お、おい嬢ちゃん!! こりゃ一体どういう事だ!?」


しかし一部始終を見ていたおっさん達は、武器を構えたまま固まっていたのだ。


白熊のおっさんの声にハッとした他のおっさん達が、一斉に注目する。


「おめぇさん魔獣と話が出来んのか!?」

「今のうちに逃げた方がよくねぇか!?」


おっさん達はパニックに陥っていた。



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