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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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175.迷探偵ミヤビ


「どうしよう…」

「俺に黙って変な契約してるからだろうが」


ソファの背もたれの上に丸太のような腕を片方伸ばし、もう片方を私の肩に回しているロードは呆れたような顔で意地悪な事を言ってくる。

しかし自分の行いのせいなので言い返せない。


追い詰められた私は、一生懸命何か解決策がないかと頭を回転させた。



「あっランク!! 確かギルドにはランクがあったよねっ」



確か、

Gランク…赤色のドッグタグ(←私は今ココ)

Fランク…黄色のドッグタグ

Eランク…緑色のドッグタグ

Dランク…青色のドッグタグ

Cランク…紫色のドッグタグ

Bランク…白色のドッグタグ

Aランク…ブロンズのドッグタグ

Sランク…シルバーのドッグタグ

SSランク…ゴールドのドッグタグ


と、こんな感じだった気がする。


「…まぁ、あるな」

「じゃあ、森で狩りをするのはAランク以上の冒険者限定にするとか!?」

「そうすると、ヤコウ鳥の値段は跳ね上がんだろうなぁ。買い取り価格は500万ジットはくだらねぇし、そんな事になりゃ庶民にはまず手が出せねぇ」


200キロのマグロが大体200万円くらいすると聞く。つまりマグロよりも高価という事か!!

それは庶民には手が出ない。


頭を抱えう~ん…と唸っていれば、ロードが言った。


「オメェが今後、俺への相談なしに勝手な行動を取る事を止めるなら解決策を教えてやるが?」

「!? 解決策があるの?」


顔を上げると、ロードはニヤリと笑って見下ろしてきたのだ。


「……何か嫌な感じだからロードに教えは乞いません!!」

「ミヤビ!?」


ロードから顔を背けると、ロードが言った“解決策がある”という言葉と“ロードが死にそうになった状況”に引っ掛かりを覚えたので、焦らず考え直してみる事にした。


確かロードと出会った時、背中を珍獣化する前の魔獣の爪で攻撃された事が瀕死の原因だったはずだ。


ん? ロードは珍獣達に攻撃され死にそうになった…つまりヤコウ鳥に攻撃されたわけではない。

なら珍獣達に冒険者は襲わないよう伝えれば問題ないのでは?


いや、ヤコウ鳥は昔に比べて2倍近く大きくなっていると言っていた…という事は、単純に考えれば一人で狩れていたものを二人で狩らなければならなくなる?

確か“ヴェア”が二人で倒して30万前後、の収入だから、ヤコウ鳥なら生息地が限られているという珍しさと森の難易度から、二人で倒してもその倍…60万程度だと推測される。まぁ国が買い取るならもう少し買い叩くかもしれないが。それならば庶民にも手が届くのではないか。


そんな考えに至り、立ち上がった。

ロードは突然の行動に多少驚いているようだ。


「ロード、解決策が見つかった!!」

「あ゛?」

「珍獣達にさえ冒険者を襲わないように伝えておけば、後は契約書通りでも大丈夫だという考えに至りました!!」


私の言葉に驚いたのか、「何でだよ!?」と叫んだロードは同じく立ち上がって私の腰を引き寄せ見つめてきたのだ。


「だってロードは“珍獣達に殺されそうになってた”でしょう。という事は、深淵の森の動物(・・)は脅威ではないという事だよね。だって神域になる前は狩りに入ってた森なんだから」


どこぞの探偵ばりに推理した事を口に出していれば「単純に考えすぎだろ」と溜め息を吐かれた。


「動物達が私の力の影響を受けて大きくなった事を考慮しても、2、3人で協力すれば狩る事は出来ると思う。だからこの契約は間違っていない!!」


ビシッと人差し指をたててロードにつきつければ、眉間のシワが深くなった。


「ヤコウ鳥がただデカくなっただけだと思ったら大間違いだぜ」

「へ?」


つきつけた人差し指をゆっくり下ろす。


「大きくなってるだけじゃないの?」

「オメェの力の影響を受けてるって言ってんだろ。って何で俺ぁヒント出してんだっ」


今度はロードが頭を抱えてしまった。

ヒントはありがたく受け取ろう。


「う~ん…て事は多少前よりも危険度が増すのか……ならやっぱりランクで区切るのはありかな?」

「……」


黙り込んだロードにニヤリと笑えば、う゛と唸り目をそらしたのだ。


「ありなんだ~。私の考え方は間違ってないって事だよね!! ならその辺をルーベンスさんと相談すれば大丈夫そうだねっ」

「何でルーテル卿なんだよ! そこは俺だろうがっ」

「だってロードに相談したら交換条件付けてくるでしょ」


ジト目で 見やれば、「もうそんな条件付けねぇから!!」と言われ勝ったと思った。


しかし私は忘れていたのだ。

自分のランクが“Gランク”だということを。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



━━…宰相様が精霊様を養女に迎えたらしい。


そんな噂がまことしやかに流れ始めたのは私が捕まってから間もなくだった。

あっという間に王宮内に拡がったその噂は、ロードをこの上なくイライラさせる原因となった。


「やられた…っ」

『貴様が付いていながらなんという様だ!』


契約書の事を聞いて慌ててやって来たヴェリウスは、ロードの執務室で自身の弟子を睨み付け、冷たい声音で言い放つ。


『人間なんぞにミヤビ様との契約を結ばせ、更に養女だと…っ 馬鹿者が! 何故早々に対処しなかった!』


憤慨するヴェリウスを前に頭を抱えるロードが可哀想になってくるが、その原因を作った私にこの部屋へ入る勇気はない。

幸い二人は私が室内の様子をここから伺っているとは気付いていないようなので、そっと扉を閉めその場から離れたのだ。


そう。ルーベンスさんと例の契約書の内容についてお話して、ロードの執務室に戻ってき、扉を少し開いた所で中から二人の会話が聞こえてきたという状況に遭遇したわけだ。


結局契約書の内容は双方の合意により、冒険者ランクを限定する事になった。

それは良いのだがそうなると私のおこづかい稼ぎが出来なくなるとルーベンスさんに泣きついた所、「国が買い取ると言っているだろう。王宮内では君は何故か“精霊”として周知されているのだ。持ち込んだ者が“精霊”ならばギルドのランクがどうのと拒む者も居ないと思うがね」と、何言ってんだコイツというような冷たい目で見られながらそう説明された。

あまりに寒々しい瞳に凍りそうになった。


養女がどうとかいう噂に関しては、「君が私を保護者として指名したのだろう」と言うので否定はしないのかと勿論問いかけたのだ。すると「たかが噂ごときで何故私が否定して回らねばならない。時間の無駄だ」とそれはもうばっさり斬られた。


確かにルーベンスさんの言う事ももっともだったので、特に言い返す事もなく話を終えたのだが、今ロード達に捕まるとお説教コースに直行しそうなので熱が冷めるまでは逃げるしかない。


そうそう、あのコピーしたヤコウ鳥だが70万ジットで売れた。先程ルーベンスさんとお話した時に代金をもらったので今私の手元にはヴェアを売った時の取り分14万ジットと合わせて84万ジット。100万なんて余裕で貯められそうだとほくそ笑む。




「ルーテル宰相様のお噂聞いた?」

「勿論聞いたわよ。何でも例の精霊様を養女にされたとか」

「そうそう。これで益々ルーテル宰相様の地位は安泰ね」

「私ルーテル家に奉公に行こうかしら」

「わかる~! お給料もだけれど、嫁ぎ先の幅が拡がりそうだもの~っ」


ニヤニヤ歩いていれば、メイドさんの控え室だろうか、そこからそんな話し声が聞こえてきたので身を隠した。


「そういえば、あなた精霊様のお姿を見掛けた事がある?」

「あるわよ~。なんだかパッとしない外見の子供だったからちょっとガッカリしたわ。精霊様って見目麗しい方が多いって聞いてたから」


そらどうもすいませんね。

なんて思いながら聞き耳を立てる。メイドさんはどうやら二人で話しているらしい。

茶器やお菓子の用意をしながら話しているようで、ワゴンにはティーセットが並べられていた。

これからどこかでお茶会でも開かれるのだろうか。


「噂は本当だったのね。その精霊様、初めは人族の神様だと思い違いされてたんでしょ」

「そうみたい。本物の人族の神様が最近王宮に出入りし始めたから発覚したんですって」

「え~精霊様はどうしてすぐに否定しなかったのかしら?」

「さぁね。神様みたいに崇めて欲しかったとか?」

「やだぁ~」


芸能人のゴシップを噂するOLのような会話に、話のネタが無いんだなぁと思いつつ姿を消してついて行ってみる事にした。

決してお菓子が美味しそうだから釣られたとかではない。


二人のメイドは暫く他愛もない話をしつつアフターヌーンティーの準備をして、ワゴンと共に移動し始めた。

こそこそと二人の後をついていく。


先程とは違い、一切私語をしなくなり顔付きも変わったメイドさん達に感心しながらもワゴンの上のお菓子を見つめる。




「ブランチャード様、入室しても宜しいでしょうか」


ある部屋の前で止まったメイドさん達は、ノックをして中に声をかける。

“ブランチャード”とは聞いた事がないなと思いながら入室許可を得たメイドさん達と一緒に室内へ入り込めば、


「ああ、もうそんな時間か……」


と声を出した人物を見た。


「ブランチャード様、こちらへご用意させていただいても宜しいでしょうか」

「ああ、頼むよ」


返事をして爽やかな笑顔を浮かべたのは、なんとカルロさんだったのだ。

ここはどうやらカルロさんの執務室らしい。


メイドさん達はお茶の準備をしながらも、ほんのり目元を染めており、カルロさんの色男っぷりにメロメロになっている事がわかる。

しかし、さすがプロ。手早く準備をすると「失礼いたします」と早々に部屋から出たのだ。


どう見てもカルロさん一人で食べきれるとは思えないお菓子や軽食を残して。


ちなみに私は出ようとしたが、出る前に扉が閉まったので取り残された。

決してお菓子達に見入っていたから出遅れたわけではない。


メイドさん達が出ていった後すぐノックがされ、カルロさんの部屋に誰かが訪ねて来たと分かり、やっぱりお茶会かと納得する。


「どうぞ」と入室を促すカルロさんの声に一拍置いて入ってきたのは……。


「お待ちしていました。ルーテル卿」


ルーベンスさんだった。


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