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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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173.師団長様のおな~り~


契約が成立して上機嫌に部屋を出ていったルーベンスさんを見送り、はたと気づく。



私、まだ釈放されてなくね?



呆然と佇んでいると、ノックの音がしてギィと錆び付いたような軋んだ音をたてながら扉が開いた。

そちらへ注意を向けながらも頭の中は大混乱中である。


ルーベンスさん!! 何も解決してないから!! このままじゃ犯罪者として投獄されるから!!


「お嬢さん、お父上とは話が済んだようだけど……君のお父上は何故か足早にどこかへ行ってしまったんだ。どういう話をしたのか、詳しく教えてもらえないかな?」


先程取り調べをしていたお兄さんが入ってきて困ったように眉を下げる。


ルーベンスさん、せめてどこに行くかは言っておいて下さい。


「こんな事言うのもあれなんだけどね、君は大きな罪を犯してしまっていて、ご家族の立場も危ういんだ。この国の宰相閣下といえど今回の事で責任をとって宰相を辞めなければならなくなるかもしれない」


優しい口調で言っている事は恐ろしいお兄さんに顔が引きつり、あばばばばと変な震えがきた。


「そ、それってつがいも役職に就いていたら辞めないといけない、とか?」


このまま黙っていたら、ロードも師団長を辞めないといけないのか? と思い至りお兄さんに聞いてみたら「お嬢さんのやってしまった事はそれ程重大な事なんだよ」と肯定された。


「……」


いやいや、ルーベンスさんと契約したしそんな事にはならないだろう。きっとルーベンスさんが上手くやってくれるはず……多分。

現在進行形で放っておかれてる状態だけど。


そんな事を考え沈黙していたら、シーンとした空間の中にバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。


もしかしたらルーベンスさんが手を回してくれたのかも、と期待して顔を上げると、ガンガンと粗いノックで扉が揺れた。


「そんなに慌ててどうしたんだ?」


ノックと同時に入ってきた騎士にお兄さんは落ち着いて対応する。反対に慌てている様子の騎士は、全力で走って来たのか肩で息をしながら言ったのだ。


「こちらにっ師団長がいらっしゃる!! 直接、取り調べをされると…っ」

「師団長が? お嬢さんラッキーだよ!! 師団長のつがいは精霊様だから減刑を交渉してくれるかもしれない!!」


お兄さんが大慌ての騎士の話を聞き、嬉しそうにこちらを見た。




「……お嬢さん? 何しているのかな?」


二人が話している内にそーっと扉から出ようとしていた私は、恐怖を感じるレベルの笑顔をしたお兄さんに肩を掴まれ、先程座っていた席へ戻されたのだ。


「何で逃げようとしたのかな?」


やはり笑顔で問いかけてくるお兄さんの、後退した頭を死んだ目で見つめていると、さすがの温厚なお兄さんも段々と顔が引きつっていく。


「お嬢さん、君の視線の先がとっても気になるんだけど」

「そうですか?」

「頭を見てるよね?」

「いえ、毛根が死滅してしまったんだなぁ。などとは思ってませんから」

「完全に思ってるよね。人の傷口に塩を塗りこむ勢いで抉ってきてるよね」


と、現実逃避にくだらないやり取りをしていれば部屋の外が騒がしくなり始め、奴が遂にやって来たのだと知れた。



ギィィ~……

やけに響く扉を開く音に俯いて冷や汗を流す。


「師団長!!」


向かいに座っていたお兄さんが立ち上がり、扉の方へ移動した気配を感じて身体が強張り、今にも心臓が口から飛び出してきそうだ。


「ご苦労だった。お前達は部屋から出ていてくれ」


低く太い声が私の耳に届く。

予想通りの男の登場に益々冷や汗が流れる。


「「ハッ」」


この部屋に居たお兄さんと慌てん坊の騎士が最敬礼をして部屋を出ていき、ギィィ…バタンッ と音をたてて扉が閉まった所で、部屋の中に残った男が口を開いた。


「さて……」


溜め息と一緒に吐かれた呟きに身体がビクリと震える。


「どういう事か説明してもらおうか」


向かいに座った男の椅子がギシリと軋む。

取調室の椅子が随分小さく見えるのは、男の身体が大きすぎるからだろう。


「ミヤビ」


私の名前を呼んだその人は……そう、ロードである。






「……昨日、ロードが作ってくれたヤコウ鳥があまりにも美味しくて、ギルドに持ち込めば街の人が喜んでくれるかなぁって?」

「ほぅ……」


ほぅ…の後無言でこっちを睨んでくるんですケド。


「こ、こんな大騒ぎになるなんて思わなかったから……ゴメンナサイ」

「……」


ロードは何も言ってくれない。

あまりにも沈黙と睨みが続くのでいたたまれなくなってまた俯けば、ギシッと音を立ててロードが立ち上がったのだ。


「ろ、」


名前を呼ぼうと声を発したが、言い切る事なくロードの腕の中へ閉じ込められる。


「まったく、何やってんだオメェは」


いつもの優しい声とあたたかい体温に体の力が一気に抜けた。


「っとに、子供が神域に侵入したとか狩りをしたとかわけわかんねぇ事報告されて来てみりゃあ、取調室からオメェの気配がして焦ったぜぇ」

「ぅ゛…ごめんなさい」

「神王が拘束されるなんざ前代未聞だぞ」


それはルーベンスさんにも言われました。


「で、あのおっさんがオメェの父親ってなぁどういう事だ」


私を抱き上げて目線を合わせ聞いてきたロードは、どうやら保護者としてルーベンスさんの名前を挙げた事に怒っているようだ。


「取り調べしてる人に、保護者の名前を教えてほしいって言われて……ロードは旦那様でしょ? だからこの世界ではお父さんみたいな存在のルーベンスさんの名前を伝えたんだけど、ダメだった?」

「ダンナサマ……っミヤビ、もう一度言ってみろ」

「は?」


説明しているのに、ロードは頬をほんのり赤く染めておかしな事を言い出した。


「旦那様だよ。ダ・ン・ナ・さ・ま。おら、言ってみろ」

「何言ってんだ。今の話の流れでおかしいだろうが」


バカな事を言うロードにツッコミ、話を続ける。

すると舌打ちされて不貞腐れたような顔をするので頬をつねっておいた。


「しっかし、ミヤビがヤコウ鳥をギルドに持ち込むとはなぁ。確かに流通がストップしちまったから不味いとは思ってたが……あ゛~~どうすっかなぁ」

「あ、それなんだけどさっきルーベンスさんにルマンドに所属している冒険者で神域の結界を越えられる人なら狩りしても良いよって話しておいたよ」

「あ゛?」

「ルマンド王国が全部買い取れば、森に入れる人が変な事に巻き込まれることもないだろうからって」

「…………ッッ」


ロードの眉間にみるみる内に深いシワが刻まれていく。

目もつり上がり、こめかみには血管が浮き出てきた。


「ッんな大切な事を、何で相談しねぇんだ!!!」

「ヒィィィ!!」

「いつもいつも言ってんだろっ 何かやらかす前には相談しろってよぉ!」

「ヒィッ ごめんなさい~っ でもでも、ルーベンスさんに相談したのに、そんなに怒る事ないでしょ~?」


怒られたので反論すれば、鬼の形相が鬼神にアップし、ロードの頭から角がニョキっと飛び出してきたのだ。


とその時、



「師団長!? 何事ですか!?」


外に居た騎士達がロードの怒鳴り声に慌てて入ってきたものだから大変だ。

私は慌ててロードの頭に抱きつき、角を隠したのだ。


「「!!!?」」


私達の体勢に、入って来た騎士達はギョッとして固まっている。


もし、ロードが鬼神だとバレたらさすがに師団長は辞めなければならないだろう。

そうなると四六時中一緒に過ごすはめになりそうなのでそれはちょっと勘弁願いたい。

バレるわけにはいかないと必死に隠す。


「ろ…ロード、ごめんね? 大好きだからそんなに怒らないで?」


よし。こう言えば喧嘩したカップルが仲直りのイチャイチャをし始めたと見えるだろう。だからロードよ、どうにか空気を読んで角を引っ込めてくれ。


「ッま、まさかお嬢さんは師団長のつがいの…!?」

「せ、せ、せ、精霊様ァァァ!!?」


あ、変な身バレをしてしまったようだ。


「ミヤビ、もう一回大好きって言ってくれれば引っ込める」


私のお腹辺りでロードがもごもご言ってくる。部下が2人も見ているというのに羞恥プレイとは、何というドS!!


「ぅう~……ダイスキ、デス」

「俺も愛してるぜぇ」


やっと角を引っ込めたロードは、私を抱き締めると微妙な空気になっている取調室を出る為、扉に向かって移動し始めたのだ。



「ッ精霊様!! 申し訳ございませんっ まさか精霊様とは思わず拘束するなど…ッ」

「も、申し訳ございません!! お許し下さい!!」


ロードが私を抱き上げたまま騎士達の横を通りすぎた時、固まっていた2人がハッとして土下座をしたのだ。


「……2人共、顔を上げろ」


ロードは珍しくそう言って部下2人の顔を上げさせる。

真っ青な顔色は今にも倒れてしまいそうでこっちが慌ててしまう。


「元々は何も分からず勝手な真似をしたコイツが悪ぃんだ。オメェらの判断は間違っちゃいねぇよ」

「お騒がせしてすいませんでした」


ロードの言葉に続けて謝れば余計恐縮されるので困ってしまった。


「つー事で今回の件は不問な」


ニッと笑うロードに部下2人は「し、師団長…っ」と感動している。

が、騙されるな!! この男は人一倍心が狭いぞっ だって今ボソッと「次はねぇけどな」って呟いたからね!!



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