表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

168/303

166. 憎悪と悲しみ


人族であるコリーちゃんのお父さんは、つがいを他人と二人きりにさせる事に抵抗があるようだ。


「父ちゃん、精霊様なら大丈夫だよ」


愛娘の言葉に渋々出ていく事になったが、本当は妻のそばに居たいのだと顔に書いてあった。

渋々でも従ったのは、妻を治してもらえるかもという打算もあったのだろう。


「俺は扉の外にいるから、何かあったら呼べよ」


リンは騎士らしく扉の外に待機してくれるらしい。

「分かった」と頷き、三人が出て行ってからコリーちゃんのお母さんを見た。


((私の息子がいないの……どこにもいないのよ…っ))


「……貴女の息子さんは亡くなりました」


((やめて))


「息子さんが何故亡くなったのかは伺っていませんが、」


((やめて……やめてっ))


「魔素が尽きた事により病気になったのでしょう」


((やめてェェェ!!! にくい……憎い、世界が……ッ 息子を奪った神王(・・)が、憎い!!))


「そう、ですか……」





…………ッ あかーーーん!! 荷が、自分には荷が重すぎた!! 神王憎いって言われてますやん!? 私がその神王ですってバレたら殺されそうなレベルですやん!?


って、つい関西弁擬きになってしまったが、どうすればいいのか。

これはもう、話をそらすしかないだろう。そうだろう。



「……憎しみに囚われないでください。貴女の大事な人は息子さんだけではないはずです」


((憎いのよっ どうして息子なの!? あの子が一体何をしたっていうの!?))


あばばば…っ ど、どうしよう!? 意気込んで二人きりにしてくれと言ったものの、私には無理だったよ~と、今更リンを呼べない。


助けて~ヴェリえもーん!!


そうだ!! コリーちゃんッ この人にはまだコリーちゃんが居る!!


「……コリーちゃんは、貴女が息子さんを奪ったものを憎んでいる間、ずっと母ちゃん、母ちゃんと呼んでいるコリーちゃんは、大切ではないのですか?」


((……コリー…?))


お、良い反応だ。


「貴女のご主人は、憎しみ囚われている貴女を、自分を見てくれない貴女を、それでも愛しそうに見つめてらっしゃいましたよ。けれど、どこか寂しそうでもありました」


((ヌードル……っ))


ヌードル!? ご主人の名前ヌードルなの? 美味しそうな名前ですね。


「貴女の大切な人は、息子さんだけではないはずです」


((あ…あ、わたし……っ))


神王から徹底的に話をそらせるんだ雅!! でないと刺されるぞっ


「それに…息子さんは亡くなりましたが、この世界から消えたわけではありません」


((え…?))


「この世界で亡くなった者は、この世界で生まれ変わるのです」


((この、世界で……生まれ変わる?))


よしよし、神王憎い!! からそれているな。

頑張れ雅!! 憎悪を受ける前にそらせるのだ!!


「少しだけ、お視せ(・・・)しましょうか」


((視せるって…??))


「“魂が巡る様子”を、です」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



リン視点



「騎士様、妻は本当に大丈夫なのでしょうか?」


扉の前にたたずんでいる俺に、不安気に話し掛けてくるこの家の主人は、人族だけありつがいの事となるとどうも心配してしまうようだ。

人族って面倒な性質だなとつくづく思う。

つがいに執着し過ぎるきらいがあるから、どんなに大人しそうな人でも問題を起こしたりする事があるのだ。


「あの方が貴方の奥方を傷付けたりする事はありませんのでご安心下さい」

「そうだよ父ちゃん!! ミヤビお姉ちゃんは面白くて優しいお姉ちゃんだよっ」


ミヤビ…お前子供に面白いって評価されてるぞ。


「そ、そうだね。私の腕を治して下さった精霊様だしね」


戸惑いながらも微笑んでコリーの頭を撫でる父親。


「それなんですが、あの方が精霊様だという事は秘密にしておいていただけないかと」

「え?」


父親は意外そうに俺を見る。いや、確かにアイツは何でもなさそうに力を使っていたけど、あれ国家機密の一つなんで。

本っ当考えなしで力使いまくってたけどな!


「精霊様が我が国の王宮に現れるというのは有名な話ですが、お顔を知られれば狙われる可能性が高いのです。その…あの方はああいった性格をされているので余計に。ですので、あの方の話は他ではされませんようお願い致します」


頭を下げれば、「き、騎士様っ 頭を上げて下さい!」と恐縮された。が、俺がここで噂が出回るのを引き止めなければ俺の未来はない。


「何卒、お願い致します」

「分かりましたから!! 勿論お約束しますっ ですから顔を上げて下さい!」

「ありがとうございます」


顔を上げてにっこり微笑めば、引きつった表情をされたが知らねぇ。


「コリーも約束する!!」


子供は可愛いなぁ…。


ミヤビ、さっさと終わらせて出て来てくれ。


俺はそんな事を思いながら天を仰いだ。


一時間の鐘か鳴ってから、もう四半刻が過ぎていた。




トプン━━…っ


水の中を沈んでいくように意識を沈ませ、見つけたコリーちゃんのお母さんの意識を連れて世界を巡る。

水の流れに身を任せるように美しい光と緑、多種多様の動植物に溢れたこの世界を意識だけで巡るのだ。


足を踏み入れたのは光のトンネル。

水流が増したように進むスピードが上がり、周りの景色は目まぐるしく変化していく。


そう、ここは“魂が世界を巡る道”の中。

魂を浄化する場所だ。


私達は剥き出しの“魂”ではなく、“意識”であるのでそのまま転生する事はないが、通常意識だけであってもこの“道”の中に入れば戻れなくなるので真似はしない方がいいだろう。

ただし、浄化してもらえるので魂はピカピカになる。記憶も全てまっさらピカピカだが、試したい方はどうぞ。


((ここは……))


コリーちゃんのお母さんはさっきから目と口を開いたまま呆然と周りを見ている。


「ここは“魂が世界を巡る道”の中です」


説明していると、私の横を光の塊が通りすぎる。


「ほら、見えますか? あれが“魂”です」


((魂……))


「魂とは肉体に宿る精気…心の働きを司るものとでもいいましょうか。つまり肉体の中に存在するものです。生きとし生けるもの全てが亡くなったら魂だけとなり、この道へとやってきます」


光の塊は大きいものも小さいものもあり、形もバラバラだが皆が同じ方向へ向かって進んでいる。


神王の不在か魔素の枯渇で道が滞り、転生が上手くいってなかった為に人口減少に拍車をかけていたらしく、神王が新たに誕生した事によりそれが回りだした為に今、ベビーラッシュが到来したらしい。

死んだ者はまた同じ世界に生まれ変わるのだから。


光の塊が前へと進んでいく。そして光のトンネルのような場所を抜けた先にあったのは、真っ白な空間だ。

ここで浄化された魂は転生するのを待つのだ。

所謂、待合室や休憩場である。


((じゃあ、ここに息子が……っ))


「居たでしょうね。ただ、貴女の息子さんはもう無事に転生を果たしているようですが」


((ああ…っ あの子は、生まれ変わって…っ))


涙を流し始めたコリーちゃんのお母さんの手を引き、もうすぐ生まれ変わる魂へと飛ぶ。

美しく磨かれた魂は、先程よりも白く輝き、やがて中心が透けていく。


((…あれは?))


「もうすぐ生まれ変わる魂です。…ああ、丁度人間へ生まれ変わるようですね」


透けた中心には人間の赤子の姿がうっすら映る。

魂を覆っていた光はタンポポの綿毛のように柔らかなものに変わり、赤子を包むとふわふわと浮き上がって私達の頭上まで上がると、すぅーー…と消えていった。


「…人はああやって転生していきます」


よくみると、頭上をふわふわ沢山の綿毛が飛んでいる。

なんというか可愛らしい光景ではあるが、周りが白いのでどうもわかりにくい。


((…綺麗だわ))


「そう、ですか?」


((ええ。とっても綺麗……あの子も、ああして生まれ変わったのね…))


綺麗と言われれば綺麗…なんだろうか?

まぁ、初めて見た人は綺麗に感じるかもしれない。


私の中では、転生=魂の洗濯。というイメージなのだが。


ちなみに神々の場合はこの道は通らない。神々は転生ではなく、世界の一部になるのだ。




「……戻りましょうか」


コリーちゃんのお母さんの手を取り、共に自身の身体へと戻るよう願う。

すると、ふわりと浮いた感覚がして光に覆われた。

眩しくて目を閉じ、暫くして目を開ければ元の部屋に戻ってきていた。


「ふぅ…どうでしたか?」

「……あの子が、この世界のどこかにいるのなら…」


虚だった瞳に光が戻り、私に焦点を合わせて自身の口で話し始めたコリーちゃんのお母さんは、やっと世界と繋がったようだった。


「主人にも娘にも寂しい思いをさせてしまったわ…っ」

「正気の貴女を見れば喜びますよ」


ポロポロと涙を流すコリーちゃんのお母さんは、すっかり神王の事を忘れてくれたようでホッとした。


「愚かな母を、許してくれるかしら」

「それはご自分で確かめられたらいかがですか」


にっこり笑いながら、この人が二度と壊れないように精神力をレベルアップさせればいいんじゃないか? とふと思い付いた。


「そうね。そう、するわ。ありがとう……」


涙ながらにお礼をいうコリーママの精神力を2上げてみた。


「どういたしまし「あら? 私今までどうしてこんなにうじうじしていたのかしら。ご近所さんだってご家族を亡くした方は沢山居るのに。私には主人も娘も居るのにっ」」


急にどうしたのだろうか? さっきまで涙を流していた儚い系美女がハキハキ話し出したぞ。


「ヌードル!! コリー!!」


大声でご主人とコリーちゃんの名前を呼んだコリーママは、バッとベッドから立ち上がり、床へ飛び降りると扉へ駆け出した。


「フルート!?」

「母ちゃん!?」


同時に扉が開き、ご主人が目の前にいるコリーママに驚いた瞬間、コリーママが二人を豪快に抱き締めたのだ。


「ヌードル、コリーっごめんなさい!! 私が愚かだったわっ」


何が起きたのかわからず目を白黒させているお父さんとコリーちゃんをぎゅうぎゅう抱き締めて反省しているコリーママ。


「っフルート!? 戻ってきてくれたのかい!? 私が分かるのか!?」

「母ちゃんっアタシが分かるの!?」

「勿論よ!!」


感動のシーンだが、コリーママがかなり強い女になった気が……


「おい、お前一体何やらかしたんだよ」


リンが恐る恐るこちらへやって来て口を開いたが、私は「いや~ハハハ」と乾いた笑いしか出てこなかった。



精神力2アップって…まずかった?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ