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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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165.心の病


「コリー、お嬢さんは何を言って……!!?」


お父さんの中で命の恩人から一気に怪しい奴になってしまったようだが、言葉を切ったお父さんは目を見開いて自身の右腕を見た。


「な…う、動く……っ」

「父ちゃん?」


お父さんの様子に、コリーちゃんは心配になったのか近づいて行く。

リンは「やっちまったぁ~」と手で顔を覆っている。


やっちまったぁ~って何だ。

見てみろこの純真な親子を。


「腕が動く!!!」

「父ちゃん!?」

「コリー!! 腕が動くんだよ!! ほらっ」


両手でコリーちゃんを抱き上げたお父さんにコリーちゃんは瞠目し、次の瞬間には涙を浮かべて「父ちゃんっ」と抱きついたのだ。


「奇跡だ……っ」


瞳を潤ませ天を仰ぐお父さんと、お父さんの首に抱きついて泣いてるコリーちゃん。二人を見てウンウンと頷けば、リンは大きな溜め息を吐いた。


「お前、母親も…とか思ってんだろ」

「う~ん…お母さんの方はねぇ、例え心を治しても本人次第で再発しちゃうからねぇ。治して壊れてって繰り返させるのも酷だよね…」


小さな声で話し掛けてくるリンにそう返事をすれば、意外そうな顔をされる。


人の心(・・・)だけは、“力”ではどうにもならないんだよ」


勿論助力は出来るけどね。

リンはそうか、と言ったまま黙り込んだ。


「お姉ちゃんッ ありがとう!! 父ちゃんの腕、本当に治ったね!!」

「そうだね」


子供の笑顔とはいいもんだ。

チラリとお父さんを見れば目が合い、平身低頭された。


「もしや、あなた様は王宮に現れたという精霊様では!?」

「え!? お姉ちゃん精霊様なの!?」


跪いているお父さんと私を交互に見て驚いているコリーちゃん。


「いえ、私はただの冒険者です」

「それは無理があるだろ」


ボソリと言うリンの声など聞こえていない。

現に嘘はついていないのだ。精霊ではないし、冒険者登録はしているのだから。


「っ…ありがとうございます!! これで娘と妻を路頭に迷わせる事なく働けます!!」

「ありがとうございます精霊様!! 騎士様!!」


コリーちゃん良い子だねぇ。でもお姉ちゃん精霊じゃないんだよね。


「あの、奥様なんですがちょっと会わせてもらっても良いですか?」

「え? あ、はいっ」


お父さんは立ち上がると、此方ですと奥さんのいる部屋に案内してくれた。


「お姉ちゃ…精霊様、お母さんも治してくれるの…?」


不安そうな顔で私の手を握ってきたコリーちゃんの手を握り返す。


「お母さんのご病気は特殊だからなぁ、治るかはお母さん次第だけど、私も出来るだけお手伝いしてみるよ」

「ありがとう、精霊様っ」


潤んだ目がしっかり私を捉えていて、この子は強いなぁと頭を撫でる。


「精霊様じゃなくて、お姉ちゃんって呼んでね」

「う、うん! お姉ちゃんっ」


コリーちゃん可愛いなぁ。


「おい、顔がゆるんでるぞ」

「仕方ないでしょ。この子可愛いんだもん」

「もんじゃねぇよ。ったく……刻一刻と時間が過ぎて行くと思うと胃が痛くなるっての!」

「若いのにおっさん臭いですよ。リン君」

「お前のせいだろうが!!」


リンと漫才していたら、「こちらです」と二階の奥の部屋に案内された。

店舗部分と同じ位の部屋にはベッドが一つと洋ダンス、そして小さな机と椅子しかないシンプルさだった。

ベッドにはコリーちゃんと同じ色をした長い髪の女性が、焦点のあっていない瞳を窓の外へ向けている。


「フルート、お客様だよ」


それはもう優しい声音でその女性に話し掛けるお父さんの瞳は愛しげに細められ、こちらが照れてしまう位だった。

しかしその声にも反応しない女性をコリーちゃんは一瞬悲しそうに見て、その表情をすぐに笑顔に変え「母ちゃん」と声を掛ける。


「母ちゃん、精霊のお姉ちゃんと騎士様だよ!!」


可愛い盛りの娘の声にも反応がない。二人の声は聞こえていないようでただただ空を見つめているのだ。


「……この世界は、貴女にどう映っていますか?」


問いかけてみるが反応はない。

ゆっくりとベッドに近付き、「私の声が聞こえますか?」と問いかける。この人の心に届きますようにと願いながら。


ピクリと反応した身体はゆっくりと此方を向き、虚な瞳が私を捉えた。

その瞳にうつるのは悲しみなのか、憎しみなのか……。


「貴女の大切な息子さんを奪った世界が憎いですか?」


指がまた、ピクリと反応する。部屋の中に居る誰もが、息を潜めて私達に注目していた。


「貴女にとって、この世界は優しくはないですか?」


((あの子は何処? 私の可愛い息子……っ))


突然聞こえてきた声に驚き身体を一瞬引いてしまった。


「ミヤビ?」


リンがどうしたんだとそばに来たのでそれを止める。


「何でもないよ。少し、二人きりにさせてもらっても良いですか?」




私の言葉に、戸惑ったのはコリーちゃんのお父さんだった。

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