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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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162.ぶらり、三人散策


「!?」


子供の声らしき悲鳴に、リンが目を見開いた。


「リンっ行こう!!」


リンがすぐ走り出さなかったのは、多分私が居たからだ。小さな森とはいえ護衛対象を一人にするわけにはいかなかったのだろう。

そんなリンに声を掛けて悲鳴が聞こえた方へと駆け出した。

異世界あるあるだ。と思いながら。


猫の獣人であるリンは障害物が多い森でも素早く、走る速さも半端ない。人間離れしたスピードについていく為には、勿論飛ぶ(・・)のが一番だ。

私はいつものように10センチ程浮き上がり、身体を垂直に保ちながらリンを追いかけた。



暫く走る(飛ぶ)と、ショコラ位の女の子が熊に今にも襲われそうになっている現場が目に入った。


「“ヴェア”か!!」


舌打ちしたリンは、トンッと軽い音をたてて踏み込むとビュンッと風をきり熊の方へぶつかっていった。猫が獲物に飛び付くように。

そのまま体当たりするのかと思いきや、腰の剣を一瞬で鞘から抜き、ブスッと熊の胸をひと突きしたのだ。


両手を上げて今にも襲おうとした体勢のまま、熊は動かなくなり後ろへと身体が傾いたと思ったら、ドスンッという大きな音と共に地面に倒れた。


リンは倒れていく力を利用して熊に突き刺さった剣を抜き、刃についていた血を払って鞘に剣を戻すと……


「大丈夫か?」


うぉーーっっ さすが王子様!! 一撃で熊を倒したよ!! ビューンッ グサッでドスーンだよ!!


「ぁ、ありがとう…」


リンが女の子に手を差し出し、腰を抜かしていた女の子はおずおずとその手をとった。ほんのり頬を染めている様が可愛らしい。


「…子供がこんな所で何してたんだ?」


足がガクガクしている女の子を何とか立ち上がらせて、訝しげだが優しい声で問いかけるリンに、女の子は涙を浮かべて俯いた。


「と、父ちゃんが…怪我したから、今お仕事出来なくて…っアタシが薬草採って帰ったら、父ちゃんの怪我もっ な、治るかもしれないし、お金にもなる…っ かな、って」


ひっく、ひっくと泣き出した女の子に戸惑っているリンは、恐る恐る頭を撫でながらこっちをチラリと見た。


「ねぇ、ねぇ、君は薬草に詳しいの?」

「え?」


突然話し掛けたので驚いたのだろう。女の子は涙に濡れた瞳を此方に向ける。

栗色の髪の、可愛らしい顔の女の子だ。10歳位だろうか。髪と同じ栗色の瞳が太陽の光を反射してキラキラして眩しい。


「薬草、採取してたんでしょう?」

「う、うん。父ちゃんが薬師だから、教えてもらったの」


びっくりして涙も引っ込んだのか、そう言って私の目を見て話す女の子はもう震えてはいなかった。


「じゃあお姉ちゃん達と一緒に薬草探してくれないかな?」

「お姉ちゃん達も薬草探してるの?」

「うん。“ニュラーンの葉”と“ペンペンギの根”っていう変な名前の薬草探してるんだ~」

「知ってる!! ニュラーンはあっちで見たよ!!」


という事で女の子も一緒に薬草採取してくれる事になった。決して、ニュラーンやペンペンギが何なのか分からないからこの子を利用してやるぜぇという悪どい理由ではない。

リンの目が冷たいが、違うからな。


私達はおこづかいを増やす為に薬草を採取しないといけないが、この女の子を一人帰すわけにもいかないだろう。

だから、薬草に詳しいと言うし、一緒に居ればこの子も危険じゃないしさ!!

って、私は誰に言い訳しているのだろう。

まぁそんなわけで、三人で行動する事にしたのだ。



◇◇◇



「お姉ちゃん!! あったよーっ」

「ナイスだコリーちゃん!!」


熊に襲われていた女の子、名前を“コリー”ちゃん(8)というのだが、この子は本当に薬草に詳しかった。

30分程で依頼にあった薬草は集まり、今はコリーちゃんのお父さんの為に薬草を集めているのだ。

え? 1時間の約束はどうしたって? 守るわけないだろう。何だよ1時間の観光って。意味わからんわ。


「いっぱいとれたね~」

「そうだね。後は依頼の品と熊をギルドに売りに行くとしよう」


コリーちゃんとリンが、熊は買い取ってもらえるというのでギルドに売りに行くのだ。

勿論私の空間魔法で収納しているので状態保存され新鮮である。


「そういえば、コリーちゃんのお父さんは何で怪我したの?」


ギルドに向かう途中にお父さんの話をふれば、コリーちゃんは眉を八の字にし、ポツリ、ポツリと答えた。


「父ちゃん…薬師だから自分でも森で薬草を採取してたの。薬草取りに熱中してたら、いつの間にか森の奥に入っちゃったらしくて、さっきのアタシみたいにヴェアに襲われたの。その時に腕を怪我して……っ もう、動かないってお医者さんに言われたの」


成る程……想像以上に重い話だった。


「あ~…じゃあ、これ売ったらお姉ちゃんがお父さんの腕を治してあげるよ」

「本当!? 父ちゃんの腕、治る!?」


また目に涙を溜めていたコリーちゃんは、私の言葉に食い付いた。しかし、


「ぁ…でも、お医者さんでも治せなかったもん…」


そう言って俯いてしまったのでそれ以上は何も言わず、手を繋いでギルドへと向かったのだ。





「おっ嬢ちゃん早かったじゃねぇか。おい、なんで一人増えてんだ」


受付の禿げ散らかしたおっさんが声を掛けてきたので「ただいまー。買い取りお願いしまーす」と採ってきた薬草をアイテムバッグから取り出せば、「買い取りはあっちな」と違うカウンターを指差された。

買い取りカウンターへ行けば、厳つい顔をしたマッチョなおじいちゃんが待っていて、目が合うと「さっさと出せ」と言われたので薬草をカウンターへ置く。

するとマッチョおじいちゃんはそれを手早く仕分けしていく。


「かなり良い状態だな。採ったばかりみてぇだ」


まぁ時間停止のバッグに入れてたしね。


「おじいちゃん、熊…ヴェアも狩ってきたから買い取って下さい」

「ヴェアだぁ? 嬢ちゃんがか!?」


怖い顔をしていたおじいちゃんが目を見開き私を見たが、後ろに居たリンに気付き、成る程なという顔をした。


「で、そのヴェアはどうした」

「ここに出しても大丈夫ですか?」

「…いや、よくねぇな。ヴェアは外に置いてあるんだろ? 外から裏に回ってくれるか?」


おじいちゃんはそう言って立ち上がり、カウンターを出て来る。

おじいちゃんは2メートル超えの巨人だった。


ロードみたいだなぁと見上げていると、頭を撫でられ「行くぞ」と表から外に出たのだ。



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