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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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155.森の民は太陽と共に

「キングデリ…デリキャットさんから移動する話は聞いたと思うのだけど、どんな所かについては「私達から説明するね~」」


虫料理地獄からなんとか抜け出した私は、移動先の説明をしようと宴もたけなわな村人達に声をかける。が、トモコにセリフを取られてしまった。


トモコとジュリアス君が立ち上がり、私は座らされて2人が話を進め出す。


「主様が下々に直接お声をかけてはいけないのです~。そうヴェリウス様が仰っていました~」


ショコラに可愛く注意された。

どうやら私は喋ってはダメだったらしい。


「本当はジュリアス様とトモコ様も立場的にはダメなのです~。けれどこの場には御二人以外にお話できる方がいませんから仕方なくですよ~」

「そうなんだ……」


一般人の私にはよく分からない立場的な問題があるらしい。

そういうしがらみを捨てて森で暮らしていたから、上下関係とか疎くなってるんだよね…。


エルフの大移動が終わったら深淵の森(ウチ)に引きこもろう。自分から話を広げていてなんだが、上下関係も人間関係も面倒なんだもん。虫料理ももう見たくない。



「━━…というわけで、皆さんが住む場所は森ではなく街になります」

「勿論各屋敷の庭には植物が茂っている。畑を耕すスペースもある。さらに別の浮島には森タイプのものもあるからそちらへの移動も可能だ」


うじうじした事を考えていると、意外にもきちんと説明していたトモコとジュリアス君の話が終盤を迎えていた。

エルフ達は皆期待と不安に満ちた目で2人の話を聞いている。


「あの、すみません。“うきじま”というのは……??」


話が途切れた時に、恐る恐る手を挙げて質問するエルフに、他のエルフも確かに。とトモコ達を見た。


「空に浮いてる島の事です」


ハッキリ答えたトモコに、皆がざわつき出す。


デリキャットさんは私達が神だと言うことを村人にはふせてくれている。つまり普通の人間に思われている我々の口から空に浮いた島に移動します等という言葉が出ればざわつくのは当たり前だろう。

エルフ達の目に、この話は大丈夫なのだろうかという懐疑的な感情が浮かんできている。


するとデリキャットさんが前に出て来て言ったのだ。


「皆静かに!! 突然の事で驚いた者も多いと思います。ですが、私は実際に浮島を目にしています。そしてここに来る前まではそちらに住まわせていただいておりました。この世のものとは思えぬ程素晴らしい場所です。どうか私を信じて付いてきて欲しい」


演説を始めたデリキャットさんにエルフの大半は絆されていたが、やはり一部は騙されない。いや、騙してはいないが。

どうしても疑り深い者はいるのだ。

「王様の言う事は信じたいですが……」と躊躇いがちに口にする者も数人居たし、困った顔をしている者も居る。

エルフ達は穏やかな性格なのか、ブーイングしたり、怒ったりする者は居なかった。



「よし、じゃあ一度皆で浮島に行ってみようか」


頃合いを見計らってそう伝え立ち上がる私に、デリキャットさんは慌てて跪く。


私はさらにざわつき出すエルフ達を、有無も言わさず浮島に転移させたのだ。


ざわついたのはジュリアス君やショコラもだったが。




「な、な、何だここ!?」

「何処なんだ!? 俺達さっきまで地下の森に居たよな!?」

「いきなり景色が変わった!?」

「幻覚!?」

「浮いてる!?」


一瞬で景色が変わった為に、軽いパニックとなるエルフ達にトモコがドヤ顔をしている。

デリキャットさんも若干口の端が上がっているが、これは笑っているのではなく引きつっているのかもしれない。眉が八の字になってるし。


「皆さ~ん、ここが貴殿方の移動する街、浮島の“エルフ街”ですよ~」


トモコがエルフ街の入り口に転移したエルフ達に声を掛けた。

その声にキョロキョロしていたエルフ達はハッとして街の方を向く。そして、徐々に皆の声が止んでいき……誰の声もしなくなった。


次の瞬間、


エルフ達が一斉に跪き頭を垂れたのだ。

まさにライブ会場のウェーブのごとく。


「……デリキャットさん?」


意味がわからずデリキャットさんを見れば微笑まれ、そして彼も同じように跪き頭を垂れた。


「神々よ。我等をお救い下さいます事、エルフ族一同深く感謝致します」


デリキャットさんの言葉の後、すすり泣く声や、嗚咽、そして、「ありがとうございます…っありがとうございます…っ」と何度も呟く声が耳に届いた。


美しすぎて狩られていた彼らにとっては、安息の地と呼べるのは太陽の届かない暗い場所しかなかった。むしろ、安息など何処にもなかったのかもしれない。


「緑の民だもんね……そりゃ、太陽が恋しかったろうね」



……うん。トモコ、緑の手を持つ“森の民”な。





あれからすぐ、浮島で暮らしたいという話になりデリキャットさんとギルフォードさんが中心になって移動の準備を始めたエルフ達。


皆が張り切って移動の準備を始めたものだから、3日後にはすっかり移動出来る状態になっていた。


そうそう。ギルフォードさんはデリキャットさんの従兄弟らしく、デリキャットさんが居なくなってからずっとエルフ達をまとめてきたのだとか。

とはいえ、エルフの王様になりたいわけでもない上、デリキャットさんは尊敬してやまない人という事で、戻って来たのなら再びデリキャットさんに仕えたいと申し出たらしい。

しかしデリキャットさんは、自分はもう王ではないし浮島の住民ならば王は必要ないだろうという事で王制を廃止したのだ。

その為、今はギルフォードさんを村長…エルフ街の町長にして、自分は相談役という立場に収まったそうだ。


一番良いポジションにちゃっかり収まるデリキャットさんは、実は良い性格をしているのではないだろうか。





そしてついに、エルフ達の引っ越しの日がやって来た。





「━━…ほぅ、まさか本当に幻の種族にお目にかかれるとは思わなかったな」

「何でアンタがここに居る!?」


エルフ街の入り口からエルフ達を物珍しそうに眺めるルーベンスさんに、ロードが威嚇している。なんだか毛を逆立てている猫のようだ。ゴリラだけど。


「君の奥方に招待されたのだよ」


とロードの腕の中に居る私を見て言うルーベンスさんに頷く。


「だってエルフ達の事はルーベンスさんに教えてもらったわけだし、エルフ街の事もルーベンスさんに助言を貰ったんだから引っ越しの時に来てもらうのは当たり前でしょ?」

「ふむ。ミヤビ殿はそこの男と違い礼儀を重んじる御方のようだ」

「んだとコラァ」


バチバチとロードとルーベンスさんの間に火花が散っているが、これはいつもの事である。


それよりも、


「すまんがの、飯はまだかのぅ」

「あの、今召し上がられたばかりですが?」

「ほ? そうじゃったかいの~? ……はて? わしは飯をいつ食べたかのぅ?」

「ですからたった今…」


という会話がエルフ街のカフェにする予定だった場所のオープンテラスから聞こえてきているのだが?


テラスの椅子に座っているのは、白いローブを羽織り、白く長い顎ひげをたくわえたヨボヨボのおじいちゃんだった。

見た感じはこれぞ神様!! という老人である。


机の上には食べかすのついた空の皿が幾つかあり、女性の店員さん(珍獣の一人)は戸惑いながらも老人に丁寧に話しかけている。


「ねぇロード、あそこのテラスに居るおじいちゃん……誰?」


エルフの人におじいちゃんは居なかったんだけど…。

不思議に思いロードに聞けば、


「あ゛? ありゃヴェリウスの客だろ」


などと返ってきた。


ヴェリウスの知り合いかと納得していれば、丁度そこへヴェリウスがやって来たのだ。


ヴェリウスはゆったりと歩いてき、テラスの椅子の上へひょいっと飛び乗った。


「トーマス、久しいな」

「おお!!…………誰じゃったかのぅ?」


親しげに話し掛けたヴェリウスに、初めは嬉しそうにしていたおじいちゃんは、次の瞬間には首を傾げていた。


「ヴェリウスの知り合いなんじゃないの?」

「知り合いだって言ってたぜ?」


では何故おじいちゃんは知らない風なのか。


「トーマスよ、貴様年々痴呆が酷くなっておるぞ」

「はて……?」


どうやらヴェリウスにトーマスと呼ばれているおじいちゃんはアルツハイマーのようだ。


「神王様の御披露目会にも来れぬ程力を失っているとは聞いたが、まさかこれ程とはな……」

「おおっ神王様!! 神王様にお会いしたいのぅ~」

「ふむ…御主はそろそろ次代に座を譲り、世界の一部となる時期か……。とはいえ、創世の10神(・・・・・)で世界に還った者はいないが……」

「そうじゃ! わしはもう次代に座を譲るんじゃ!! 神王様にお会いして、“世界に還る”お許しをもらわねばならん」

「そうだな。で、次代を誰に譲るのだ?」

「それはの、ほれ、あそこの…」


いやいや、ものすごく重要な話をしてる気がするんだけど!?


ロードをみれば顔が引きつっており、ルーベンスさんは唖然としている。


「てめっクソジジィ!! 今までどこ行ってたんだコラァッ てめぇが徘徊してっからこっちは探しただろうが大ボケジジィ!!」


あ、アルフォンス君が暴言吐きながらやってきた。

どうやらアルフォンス君のお知り合いのおじいちゃんらしい。


「おおっコイツじゃ。わしの…え~っと…曾孫? コイツに譲るぞ!!」

「ふむ。ならば神王様にそのようにお伝えせねばならんな」

「ぁ゛? ジジィ、とうとう犬とダチになったのかよ……。しかも腹話術とか、ボケてんのに半端ねぇな」


目の前で繰り広げられるおかしな会話に私達は首を傾げるしかない。

すると、アルフォンス君がこちらに気付き目が合ったのだ。


「……筋肉神輿」


ロードの腕に乗せられている私を見たアルフォンス君はボソリと呟き、アンタそんな趣味があったのかよ…という目で見てきたので、頭を思いっきり横に振る羽目になった。


「ミヤビ、このガキ誰だ?」


ロードはロードで眉間のシワとこめかみに浮き出た血管でヤクザだし、ルーベンスさんは何故か3歩程後ろに下がって他人のフリをし始めるではないか。


「ガキじゃねぇよ。てめぇこそ誰だコラァ」

「ぁ゛あ゛?」


ヤンキーVSヤクザのゴングが高らかに鳴ったのである。


「ミヤビ様、丁度良い所へ」


その時良いタイミングでヴェリウスに呼ばれ、ロードがアルフォンス君を睨み付けながらヴェリウスに近付いてくれた。


「ヴェリウス、どうしたの?」


こちらのおじいちゃんは? という顔で見れば、ヴェリウスがそれに気付き紹介してくれたのだ。


「ミヤビ様、こやつは“エルフ族の神”、トーマスです」

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