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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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154.集う虫


巨大芋虫をジュリアス君が食し、阿鼻叫喚だった部屋はアルフォンス君の登場により終息する。


「おい、客人に“モピットの幼虫”なんて出すんじゃねぇよ。いくらご馳走っつってもキメェだろうが!! このネエチャン達の叫び声がうるっせぇんだよ!」


口は悪いが意外と女心の分かるアルフォンス君は、“モピットの幼虫”とかいう芋虫料理を下げてくれた。


「オメェらもエルフなめてっからこんな目に遭うんだよっ嫌なら嫌って言えや!!」

「あ、ハイ。すいません」

「チッ」


謝ったら舌打ちされた。


「みーちゃん、この子みーちゃんの事好きなんじゃない?」


トモコがバカな事を言ってくるので元々死んでいる目がさらに死んだ。

今舌打ちされたの見たよね。


「みーちゃんって昔っから動物とヤンキーとおじいちゃんにモテてたし」

「動物は寄って来たけど、ヤンキーは従兄がシメてただけだし、おじいちゃんとは不思議と話があっただけだろうが」

「これは嵐の予感……」


ニヤニヤしているトモコを小突き、ソファに腰かける。

その間もアルフォンス君はヤンキー座りで睨みをきかせていた。




「お待たせ致しました」


一時間後、デリキャットさんが私達の居る部屋に直接やって来た。後ろにはギルフォードさんとキングデリキャットさんに仕えている2人も従えている。

しかしドリーさんとテリーさんの姿は見えない。


「アルフォンス、お前はもう戻って大丈夫だよ」


コソッとキングデリキャットのナイトの1人がアルフォンス君に言えば、「自分、コイツらの監視役なんでここにいるっス」と言って頑なに部屋から出ていこうとはしなかった。

まだ怪しまれているようだ。


「アルフォンス、これから大事な話があるんだ。だから……」

「…わかったっス。エルフなめられねぇように頼んマス」


アルフォンス君はそう言い残して部屋から出ていったのだ。

彼が出て部屋の扉が閉まった途端、私達のパーティー以外の全員が土下座した。


エルフは土下座の文化を持っているのだろうか。


そんな土下座をしているエルフの前にまずショコラが出て言い放った。


「移動する決意はしましたか~?」


いや、私から何の説明もしていないのにそれ言っちゃうの? ショコラちゃん。


「無論、神々からの要請であるならば我々が拒否する事など有り得ません」


デリキャットさんが何かを言おうと口を開いたが、横からギルフォードさんがハッキリした声で答えた為、鯉のように開いた口をパクパクとして諦めたのか一文字に結んだ。

ギルフォードさんの答えにショコラと、げてもの食いのジュリアス君は満足そうに頷きトモコは首を傾げた。


「あのさ、いくら神からの要請でも嫌なら断って良いと思う。それに、村の皆の要望は聞かなくていいの?」


トモコの言葉にうんうんと頷けば、デリキャットさんが


「申し訳ありません。これから皆の意見を聞こうと思っております。もうしばらくお待たせしてしまいますが宜しいでしょうか」


と聞いてきたので頷いた。

どうやら先程の答えはギルフォードさんが勝手に言った言葉のようだ。その証拠にデリキャットさんはギルフォードさんの膝を密かにつねっている。口もパクパクしていたしね。

ギルフォードさんは涙目だ。


「デリキャットさん、皆の意見を聞いたら教えてくれるかな」

「かしこまりました。それではもうしばらくお待ち下さい」


デリキャットさんが行きますよ、とギルフォードさん達3人を連れ部屋を出ると、私達はまたそれぞれの過ごしやすい場所に座る。


「主様~よろしいのですかぁ~?」

「うん。時間はたっぷりあるし、しばらくゆっくりしてようか」


柔らかなショコラの髪を撫で、デリキャットさん達が戻って来るのを待った。

一から十まで完全にデリキャットさんに任せてしまっているが、それはもう、キングデリキャットだった彼の宿命なのだと思って欲しい。決して面倒だからではない。




私達がそんな風にゆったりしている間に、ロードとヴェリウスがルーベンスさんの事を調査していたなんて、夢にも思っていなかったのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ヴェリウス視点




ミヤビ様達が北の国に旅立った後、ルーベンス・タッカード・ルーテルを見張らせておいた精霊と連絡をとった。

精霊達曰く動きはないようだが、私は奴を信用出来ずにいた。

ミヤビ様は何故か父のように思っているようだが、奴の言動や行動の端々に感じられる違和感がどうにも拭いきれぬのだ。


ミヤビ様をお守りする為にも、私がしっかりせねばなるまい。


ロードがやっと鬼神へと進化してくれたおかげで守りは堅固となったが、安心は出来ぬからな。



引き続き精霊達にはルーベンス・タッカード・ルーテルを見張るように言いつけておいたが……私もミヤビ様と共に北の国へ行けば良かったと、旅立ったメンバーを思い返し後悔しながら影へと潜ったのだ。


今はただ、大切な御方を守る為に行動せねばと━━…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ロード視点



「へっぶしッ」

「ぶぁ!? きったないなぁ!! 唾全部飛んできたんだけど!?」


何やら嫌な予感がしやがる……。俺のミヤビに虫が集っている。そんな予感だ。


「というか、そのおかしなくしゃみは何ですか。普通“クシュン”や“ハクション”じゃないんですか? “へっぶしッ”って明らかに唾を撒き散らす為にわざと出した擬音ですよね」

「顔に散った!! タオルっ誰か濡れタオルをくれ!!」


うるさい外野はどうでもいい。今はミヤビだ。


陛下の執務室へ持って来た書類の山を机に置き、窓の外を見る。


「ギャーッ 雪崩れがぁ!! 書類の雪崩れがぁぁ!!」


今頃俺のミヤビは北の国でエルフ達に囲まれて居るのかもしれない。

ミヤビは俺みたいな見た目の男が…いや、俺が(・・)好きだからおかしな事にはならないと思うがどうにも心配だ。

何せ俺のミヤビはエキゾチックな美人だ。妖精に間違えられる位に見目麗しい。ミヤビ自身は興味無くとも、エルフの野郎共に好かれる事はあるだろう。


ああっ心配だ。何で俺ぁこんな所で大量の書類を運んでんだ!


「俺ぁ今すぐつがいの元へ行くぞ!!」

「バカな事を叫んでないで貴方の執務室にある書類の山を何とかしなさい!! こんなくそ忙しい時に“蜜月休暇”を取るバカがいるなんて思いもよりませんでしたよ。それも師団長という重役に付いている者が。一週間取ってもまだ足りないなどとほざくつもりですかっ」


陛下の部屋を出て行こうとしたらレンメイに捕まり説教された。結局自分の執務室に閉じ込められ、大量にある書類が片付くまで出てくるなと部下まで監視に付けられた。


「ミヤビィィ!!!! 虫共に誘惑されてもフラフラついて行くんじゃねぇぞォォォ!!!!」

「黙って仕事をしなさい!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ミヤビ視点



「おーっキノコのシチューだ!! 胡桃のキャラメリゼもある!!」


ずらりと並ぶ料理の数々は、現在地下のダンジョンに閉じ込められている状態のエルフ達が私達の為に用意してくれた物であった。


「どんどん召し上がって下さい!!」

「我等の王様を奪還してきて下さったなんて! 貴殿方は神様だ!!」

「しかも王様が我等をここから連れ出してくれるっ」

「やっと空の下で暮らせるのね……っ」


デリキャットさん達が村人達に移動の件を伝えたら、今まで太陽の届かない極寒の地のさらにその地下に隠れ住み、あげく閉じ込められてしまっていたエルフ達は大層喜び、そして宴会となったわけである。


しかも100年前に拐われた王様まで帰ってきたのだ。それはもうすごい騒ぎになった。

今、そのキングデリキャットさんは村人に囲まれてさながらアイドルの握手会のような状態となっている。

勿論私達も王様を奪還し連れ帰った勇者扱いで、外に簡易的に設置されたテーブルのお誕生日席に座らされ、目の前にはエルフ達のご馳走が並べられているのだ。


「虫じゃなくて良かった……」


とキノコのシチューを食べようとしたその時、


「みーちゃん待って!!」


と真っ青な顔のトモコに止められた。

え、何? どうしたの?? と首を傾げれば、今すぐ料理を“鑑定”しろと真剣な顔で言われたので、その迫力に負け鑑定する。


“キノコのシチュー”

モピットの幼虫の体液とキノコを煮たもの。クリーミーな味わいが絶品。


“胡桃のキャラメリゼ”

胡桃を森アリのお尻からでる分泌液に絡めたもの。甘く香ばしい。


「ぎぃええェェェ!!!?」


虫料理だった!!


よくみたら、イナゴの佃煮みたいな物やモピット料理の数々、そして蜂の子料理まである!! 虫だらけだっ


「ムリムリムリ!! 果物や木の実そのまんまとかないの!? 何で虫!?」

「みーちゃんっこれは由々しき事態ですよ!! 我々は今、虫に包囲されている!!」

「トモコさん!! ここはゲテモノ食いのジュリアス君に任せて、我々は少食で食べれませんアピールをするしかない!!」

「そうだね!!」


机の下にもぐって作戦をたてる私とトモコは、ロードの、虫が集うという予感がある意味当たっているとは思いもよらなかったのだ。

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