152.エルフの王様
「主様に矢を放った……ッ」
「神王様に攻撃しやがった!!」
ショコラとジュリアス君の目の色が変わる。
ブチギレ寸前のようになっているが、この矢は攻撃ではなく警告だろう。
これ以上侵入すると本気で攻撃するぞというアレだ。
だからこそ当たらないように少し離れた所へ矢を飛ばしたのだと思う。
「こらこら2人共、暴走しないで」
「そうそう。さっきの矢はこれ以上近づくなっていう警告だよ~。熱くならないで」
トモコも分かっているのかそう言って2人を諌める。
しかしショコラは爬虫類特有の瞳に変わり、前方を睨みつけていた。
「警告であろうと主様に武器を向ける者は敵です。排除します」
「そうそう。畏れ多くも神王様に矢をいったんだ。それだけで死刑に値する」
この子達の忠誠心が重いんですけどぉぉ!?
「私は怪我一つないから、大丈夫だから落ち着いて!」
止めるが2人の殺気はどんどん膨れ上がっていく。
ドサッと前方の木から何かが落ちた音が聞こえ、驚いて見れば人が地面に倒れ伏しているではないか。
しかも次々と木から人が落ちていく。
人型の実が成る木!? と一瞬頭をよぎったが、そんなものがあったら気持ち悪すぎると頭を振った。
「ショコたんとジュリちゃんの殺気にあてられて気絶してるみたいだよ……」
引きつった顔で私を見てくるトモコから目をそらし、先程貧血で倒れ、まだ目を覚ましていないデリキャットさんを見る。
多分あれはエルフ族だと思うから、デリキャットさんに何とかしてもらいたいんだけど、早く目覚めてくれないかなぁと、全てデリキャットさんに押し付けようとしている私は酷いだろうか。
「主様、奴らを捕らえました」
いつの間にか木から落ちた人間を何処から出したのかロープで縛っていたショコラに声をかけられた。
「早ッ って違う! そうじゃないよショコラっ」
傷付けなかったのは偉いけど、その人達はこれから浮島に住んでもらう予定の人達!! 縛っちゃダメ!!
「ダメですか~?」
「う…可愛く言ってもダメです! とりあえず縛らずに攻撃出来ないよう体が硬化するようにしとくから。ね?」
「みーちゃん、それ縛るのと何が違うの?」
何とかショコラを説得し、ロープをほどいて気絶している人達が何も出来ないように身体を硬化させる。勿論安全性を重視していますのでご安心下さい。
しかしこの倒れている人達は皆、揃いも揃って美人である。
デリキャットさんには劣るが、トモコ並みの美人だ。
髪の色はデリキャットさんの銀髪とは違い、プラチナブロンド、ストロベリーブロンドと金寄りの色合いだ。
耳は尖っていて色白で、スラッとしたモデル体型はザ・エルフという感じでドキドキする。
「ぅ、ん…」
色っぽい声を出して、他のエルフ族よりも先にデリキャットさんが目を覚ました。
「あ、デリキャットさん大丈夫ですか?」
「!? 私は……ハッ し、神王様の御前で…っ 私は何と失礼な事をしてしまったのか!!」
私の顔を見た途端土下座をしたデリキャットさんを見て呆気に取られてしまう。彼は「申し訳ございません」と謝っているが何に謝られているのか分からない。
「あの、よく分からないですが失礼な事は何もされていないのでどうか立ち上がってください」
と手を差し出せば益々恐縮…いや、それを通り越して真っ青な顔色になったので「やっぱり横になってください」と言い直したのだ。
土下座で貧血が悪化したのだろう。
「やはり私は神王様に無礼を働いてしまったのですね…っ」
と泣きそうな表情で訴えられたが、途中でトモコが爆笑しながらデリキャットさんに話し掛け、私に任せろという顔をこっちに向けてきたので任せる事にした。
多分貧血に効く回復魔法をかけるのだろう。
私がやってもよかったのだが、デリキャットさんは神王という肩書きに敏感なようなので、私が何かすると大げさに感謝されそうだった為止めておいたのだ。
実は私は、外国人のオーバーリアクションとハイテンションが怖い。
幼い頃母に連れられて体験入学した英語教室のあのテンションの高さについていけなかったトラウマが尾を引いているのかもしれない。
なのでオーバーな態度をとられると固まってしまうのだ。
決して嫌ではないが、何が起きているんだ!? と脳がパニックを起こしてしまう。
ちなみに着ぐるみに近付かれてもそうなるので、ゆるキャラ達に関しては遠くから見て楽しみたいものだ。
自分でもよくわからない回想をしてしまったが、とにかくデリキャットさんには元気になってエルフ達を説得してもらわなければならない。
初対面で殺気を放って気絶させてしまったが、エルフとの対話が上手くいくといいなぁと、気絶しているエルフ達を険しい目で見ているショコラとジュリアス君から顔をそらし、天井を見上げた。
「あの……彼らは何故倒れているのでしょうか?」
今まで気を失っていたデリキャットさんの疑問ももっともである。
ショコラとジュリアス君の殺気にあてられた3人は、未だ目覚める事もなく地面に直接寝かされている。
あんな綺麗な髪が、起きたら土だらけなのだろう。なんならアリとか団子虫とか絡まってるかもしれない。
「奴らはあろう事か、神王様に向かって矢を放ったんだ」
まだ怒っているらしいジュリアス君がそう言って寝ている3人を睨む。が、ちょっと言わせていただきたい。
あれは私に向かって攻撃したわけではない。私達全員に向かって警告する為の矢を放ったのだ。
「!? 何という愚かな事を…っ」
昔の少女マンガのショックを受けた時のような顔をして、おののいているデリキャットさんは、またもやぶっ倒れそうな蒼白な顔色をしている。
「このデリキャット、愚かなエルフ族の罪をこの身に全て受け腹をかっさばきます!! 申し訳ございませんでした!!」
土下座の上、頭を地面に擦り付けているデリキャットさんは、どこぞの侍のような事を言い出した。
「貴方一人の命だけで許せる程軽い罪じゃないですよ~。エルフ族は全滅です~」
ショコラちゃんんんん!? 全滅です~って可愛い顔して何言ってるの!?
「申し訳ございません!! どうかっどうか…っ この者達と私の命だけでお許しを…っ」
デリキャットさん…何気に寝てる人の命まで捧げたんだけど。
「こらこら、デリキャットさんをからかってないで寝ている3人を起こそうか」
ここは冗談という事にするしかないと、そんな声かけをしたのだがショコラもジュリアス君も納得いかないような顔をしている。
「エルフ族を浮島に住まわす事に成功したら、ご褒美にバーベキューパーティーしようと思ってたんだけどなぁ……」
ボソリと呟けば、「バーベキュー!?」と2人だけでなくトモコまでもが食い付いたのだ。
「ショコラはお肉がいーーーっぱい食べたいですぅ~!!」
「肉!? オレも!! コイツよりももっといーーーっぱい食いてぇ!!」
「豚汁とか焼おにぎりとかも作ろう!? ソーセージも!!」
などと騒ぐ3人に目もくれず引き続き土下座で額を地面に擦り付けたまま固まっているデリキャットさんは、クレーム処理のスペシャリストのような風格さえ漂っている。
「デリキャットさん、顔を上げて下さい。この子達はちょっと大人をからかう癖があるんです。神とは言え子供なので。だから気になさらなくていいんですよ」
「からかい…? あ、の…エルフ族は、お許しいただけるのでしょうか?」
「許すも何も、特に攻撃はされていませんし」
チワワのように潤んだ瞳で震えているデリキャットさんにそう笑いかければ、ホッとしたように微笑み返してくれた。
ショコラ達の頭はすでにバーベキュー一色で此方を気にしている様子はないので、私への忠誠心がバーベキューに負けた事を知る。
「さ、これからデリキャットさんにエルフ族を説得してもらわないといけませんから、立ち上がって額に張り付いた土を落として下さい」
「は、はいっ」
サッと立ち上がったデリキャットさんは額についている土を恥ずかしそうに落としている。
やはり男性だけあって、中性的で華奢でも180センチはあるので大きく感じる。
この世界は男女共に身長が高い上、身体もがっしりしているので私やトモコは小柄に見えるのだ。160センチはあるのに…。
ちなみに見た目10歳位のショコラの身長は150センチ近くあるが、この世界からすれば小柄だろう。
「ぅ…っ」
身長について考えを巡らせていると、寝ていた3人がどうやら目を覚ましたらしい。
バーベキュー一色だったショコラ達も警戒して私のそばへとやって来た。
「ぐ…っ な、んだこれは…!? 身体が動かないっ」
「一体何が!?」
「クソッ」
身体を動かそうともがいているが、硬化させているので動けないでいる為恐怖が増しているようだ。
私達に気付いた3人は顔を真っ青にし、それでもキッと睨みつけてきた。
「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。敵ではありませんから」
と声を掛けたが、
「どう考えても敵だろ!? この状況で寝惚けた事言ってんじゃねぇぞ!?」
とこの中ではリーダーっぽいエルフに返された。
こんなに美人なのにヤンキーみたいな喋り方で驚きである。
「っ何という口の聞き方をしているのだ!! この愚か者共!!」
そんなヤンキーエルフに激怒したのは、他でもない。いつも穏やかでニコニコしているチワワエルフのデリキャットさんだった。
「!? あ、あなたは…っ」
「その銀髪…っ」
「まさか、王様!?」
え? 王様??




