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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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152/303

150.洞窟


「北の国は今が一番過ごしやすいって言われてるぜ!!」


ビュウビュウと吹雪が顔にあたり、普通なら髪も睫毛も、毛という毛が凍って粉々になっている中でそう話す魔神の少年は、満面の笑みであった。


「へぇ…これ、過ごしやすい時期なんだ……」


皆をチラリと見れば、結界を張っているにもかかわらず真っ青なエルフ…デリキャットさんと、完全防備すぎてほぼ顔が分からないトモコ、そして私に抱きついているショコラが「吹雪で前が見えないです~」と叫んでいた。


「あの…この様な所に、本当に仲間が居るのでしょうか」


不安そうにトモコに聞いているデリキャットさんだが、南極探検隊のような格好のトモコの表情は読めない。


「とりあえず、吹雪を止めようか?」

「すげぇ…さすが神王様。オレの力じゃ吹雪を弱める位しか出来ねぇのに」

「主様すごいです~!!」


キラキラした目で見てくる若者達(見た目が)から目をそらし、吹雪よ止めと願う。

するとピタリと止んだ事で、今度はデリキャットさんが目をひん剥いて口を開けたまま固まっていた。

トモコは装備が重いのか、ゆっくりとした動作で片腕を上げ……サムズアップした。


もうその装備外せ。


「吹雪が止んだとはいえ、一面真っ白で何も無いね……」


見渡す限り白一色の場所には建物はおろか、木一本すら見当たらない。本当に南極大陸に上陸した気分だ。


「これじゃあ何処へ行けばいいのかわかりませんね~」


ショコラが見上げてくるので案内人の魔神の少年を見る。


「昔はこの辺りに城があったんだけど…ちょっと探索(サーチ)するから待ってろ」


魔神の少年はそう言って光魔法を展開した。

得意、不得意はあるようだが、神族は全属性を使用できるようだ。


「あっこの反応!!」


どうやら何か反応があったようだ。


「神王様!! ()だッ、です!! 地下(・・)に多数の反応あり!!」

「地下だと!? 」


つい足元を見てしまうが、当然真っ白な地面(氷)しか見えない。アニメならここで下にスクロールしていき、真っ黒からの地下にバーンッなシーンである。


「何処から入るんでしょうか~? 割りますか?」


拳をぐっと握る少女にゴリラが重なった。

あれ? ショコたんはこんな脳筋でしたっけ?


ショコラの言動に子供らしくて可愛いと思っているのか、ほっこりしているデリキャットさん。これ、マジでやりますよ。


探索(サーチ)の範囲を広げてるからちょっと待てって」

「始めから広範囲で探索すればいいのに」


良いお兄ちゃん風な魔神の少年に、ショコラがボソッと呟いた棘のある言葉は深々と刺さったようで、


「うっせーな!! 探索魔法は繊細なんだよッ大体始めから広範囲なんて力の無駄遣い出来るかバーカ」


と子供みたいに言い返したのだ。何だこの兄妹喧嘩は。

デリキャットさんはますます微笑ましいものを見るような温かい目を向けているが、この子達あなたが思ってる程可愛い子供じゃないですよと言いたい。


さっきから静かなトモコをチラリと見れば、何故か地べたに体育座りをしていた。


「いや、どうした?」

「……この装備、重い」


このパーティー人選ミスですよォォォ!!!!





「神王様、少し先に地下へ潜る洞窟を発見しました!!」


魔神の少年が一人頑張って働いている間、トモコは南極探検隊から普通のコートに着替え、デリキャットさんとショコラは私の出したホットチョコを美味しそうに飲んで温まっていた。


「さて、皆の衆! 冒険の準備は出来たか!!」

「おーっ」

「え? あ、おーぅ??」


トモコの掛け声に楽しそうに片腕を上げたショコラにつられ、デリキャットさんも戸惑いながらおずおずと片腕を上げる。


「勿論だぜ!!」


魔神の少年は安定の少年マンガの主人公だ。


「では、今から地下帝国に乗り込むが遅れを取るでないぞっ」

「「「おー!!」」」


4人は何もない真っ白な平原を歩きだしたのだ。威風堂々と。




少し(・・)歩くと言われてから約1時間。

外国あるあるのこの距離感は、異世界でも適用されるらしい。


何も無かった雪の平原にポツポツと50メートルから100メートル位の間隔で木々を目にするようになってきた頃。



「神王様、ここです!!」


不自然に盛り上がった小山を指差し駆けていく魔神の少年を、元気だな~と思いながら見送り、身体は疲れていないが精神的に疲れた私はゆっくりと小山へと向かった。


雪に埋もれ僅かにのぞいている穴は高さ50センチ、幅は1メートルもない。入り口のほとんどが埋まっている状態である。


「ねぇ、これ洞窟というか熊とかが冬眠する洞穴に見えるんだけど……」

「奇遇だねぇみーちゃん。私にもそう見えるよ」

「「……」」


二人顔を見合わせてどうする? と目と目で会話をしていると、ショコラが積もった雪に近付き拳を繰り出したのだ。


パンッ


乾いた音と共に雪が四方に飛散して視界を真っ白に染め上げた。それも一瞬で、日に照らされた雪はキラキラと光を反射させ地面に落ちた。


「「え?」」


洞窟らしき入り口を覆い隠していた雪はすっかり消え果て、高さ150センチ、幅180センチ程の洞窟(?)の入り口が姿を現したのだ。


「主様~、邪魔な雪はショコラが退かしましたので入れますよ~」


熊が居そうな洞穴なのであまり入りたくないんだけど。等とは言えず、可愛いショコラの笑顔に頷く。


「みーちゃん、本当にここに入るの? 熊に襲われるか、コウモリに襲われるか、虫に遭遇するかのどれかだよ?」


さっきまで冒険だぁ!! とはしゃいでいたのにこの嫌そうな顔。洞窟というより洞穴に入るのを躊躇うのは分かるが、先程とはうってかわってテンションの下がっているトモコの腕を掴む。


「見て、あのショコラの笑顔。ここはもう入るしかないんだよ」

「ショコたん……何て誇らしそうなんだ…っ」


そう、ショコラは私達の役に立てたと嬉しそうにニコニコしているのだ。そんな彼女に洞穴へ入りたくないとは言えない。しかも魔神の少年までワクワクとした顔で洞穴に足を踏み入れこちらを見ている。


「行くしかないんだね~…」


虫類が苦手なトモコは虫除けの結界を自分に張り、引きつった表情で一歩を踏み出した。

私も勿論虫除けの結界を張り後に続く。




「明かりを灯すぜ!」


暗い洞穴の中で魔神の少年はそう言って光の玉をいくつか前方に向かって投げる。

すると光の玉は洞穴の壁にくっつき、洞穴を照らしだしたのだ。


「明るくなったね~…」


びくびくしながら中を覗き込むトモコは私の腕を離さない。


明るくなった洞穴には熊の姿は勿論、コウモリも虫すら居なかった。しかも5メートル程先で行き止まりになっておりそれ以上は進めないようだ。


「行き止まりになってるみたい。何か拍子抜けしちゃったね~」


洞穴を覗いていたトモコがそう言って胸を撫で下ろしている。


「いや、そうでもないぜ」


ニヤリと笑った魔神の少年は、そのまま穴の奥まで進むと「やっぱりな」と呟いた。そして……


「神王様! 階段を発見しました!!」


キラキラした瞳でそう告げたのだ。



◇◇◇



魔神の少年が出した光の玉に照らされながら、階段を一段一段下っていく。


洞穴の奥で見つけた地下へ降りる階段はどう考えても人工的に作られたもので、地下に人の反応があるという探索(サーチ)魔法に間違いはなかったようだ。


私達は魔神の少年を先頭に、ショコラ、私、デリキャットさん、トモコの順で一列に並び降りていく。

この階段は日本人の平均的な成人男性1.5人分位の幅しかないのだ。ロードが居ればきっと狭く感じた事だろう。


「何だか冒険って感じでワクワクするね!」

「おや? トモコ様はダンジョンには潜られた事がないのですか?」


トモコの言葉に反応したデリキャットさんがそう返すと、トモコは“ダンジョン”という言葉に食いついた。


「“ダンジョン”!? まだ行った事ないけど行きたいとは思ってる!! デリカットさんダンジョンがどこにあるか知ってるの!?」


デリカットではなくデリキャットだ。

違う人になるからその間違いは止めなさい。


「はい。昔はよく潜っていましたから。今はその場所にあるか分かりませんが、200年前は世界中にいくつか存在しました」


名前を間違えるという失礼さなのに、デリキャットさんは気にしていないように穏やかに微笑みながら丁寧に答えている。


「200年前かぁ~。やっぱりダンジョンも魔素の枯渇で減っちゃったのかなぁ…あ、でも魔素が満ちたからまた出来てるかもっ」

「そうですね」


トモコを優しい瞳で見ながら相槌をうつデリキャットさんはさすが200歳超えである。

エルフは一体いくつまで生きるのだろうか。


「神王様! もうすぐ地下に到着するぜ!! ます!!」


先頭の魔神の少年から声がかかり前を向けば、確かに光の玉とは違う明かりが見えた。

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