148.人間は怖いよ
「何故バイリン国で目立つような真似をしたのだね?」
ザボンジュースのイタズラの後、私達にまともなお茶を出してくれたルーベンスさんは、真剣な顔(いつも真剣だが)をして言った。
「君の存在は、力は、君が思うよりもずっと価値があるのだよ。それを“ランプホーンの大神罰の再来”などと呼ばれるような事件を引き起こすなど、とても常人のする事ではない」
「ミヤビは神だぜぇ。人の縛りなんて関係ねぇのさ」
待て待て、何故おかしな人扱いをされているのだ?
山を吹っ飛ばしたのはロードだ。私ではない。
ロードをおかしな人扱いするならまだしも、私をおかしな人扱いするのはお門違いもいいところである。
ところで、
「“ランプフォーンのだいしんばつ”って何ですか?」
何となくファンタジーな響きの単語に食い付くがそれを聞いたルーベンスさんは、こんなに有名な事を知らないの!? 今ニュースでもワイドショーでもTVを付ければやってるし、新聞にも一面に出てるよ!? というような表情をした。
「ミヤビ、“ランプホーン”な。大神罰ってなぁ神々の罰の事だ」
ロードが丁寧に教えてくれるのでふんふんと頷きながら聞く体勢を整える。
「昔ランプホーンっつー国でな、神王への信仰心を無くした人間達が、世界の崩壊を神王のせいだなんて無茶苦茶言い出した事があってよぉ…それにキレた神々がそいつら全員から祝福も加護も、守護すら取り上げちまって結果、苦しみながら死んでいったっつー話だ。それを今じゃ“ランプホーンの大神罰”って言ってんだよ」
「へぇ~」
ロードの昔話にまるで子供のように相槌をうっていると、
「待ちたまえ。なぜ当事者(神)であるミヤビ殿がその話を知らないのだね」
ルーベンスさんがそうツッコんできた。
「あ? そりゃミヤビはその時居なかったからだろ」
「いない……? ああ、彼女はまだ若い神なのか。そういえば、ミヤビ殿の神域が確認されたのはつい最近だったな。成る程、若い神だからこその行動か……」
何故か納得されたが、ルーベンスさんの中での神像がおかしな事になってないか心配だ。
「そういやオメェ、生まれたばっかだったよな」
「ロードだって(神としては)生まれたばかりでしょ。私の方が先輩だからね」
「バカな事抜かすな。神王に先輩も後輩もねぇだろ。唯一無二なんだからよぉ」
等とロードと会話をしていると、ルーベンスさんがじっとこちらを見てくるので話に入りたいのかと思って声をかける。
「ロードのこのビッグな態度どう思います? 初めて会った時から自己中で困ったもんですよ」
「あ゛? 俺ぁ自己中じゃねぇ。ミヤビ中心に世界が回ってんだよ。ついでに世界もお前中心に回ってるがなぁ」
何故ロードが答える。しかも自分の話に大笑いするんじゃない。
「……神とは神域が生まれたと同時に生まれるのではないのかね?」
ロードの一人大爆笑を軽く無視して聞いてくるルーベンスさんはさすがだ。
「神にもよるんじゃないですかね? 少なくとも私は自分の神域が出来る前には生きてましたよ」
一回死にましたけどねと心の中で付け加えておく。
「まぁ、神々の中では最近生まれた部類に入りますけどね~。少なくともルーベンスさんよりは年下です」
実際はオバサンと言われる年齢だが、150才超えの人にはさすがに若く思われたい。
私の切実な願いが通じたのかルーベンスさんは、
「若い神とは質が悪い。君より長く生きている私から助言させてもらうならば、あまり人間に近づかないようにという事だけだな」
と言って顔をしかめた。
「ルーベンスさん以外には近付いてないですよ?」
「バイリン国にエルフが捕らわれていると聞いてさっそく行動にうつしたのは誰だったかな?」
「それは…浮島に住民を、「まず人間を神王様のお膝元に連れて行こうなどという考えが危険なのだ」…し、神王サマは別の場所に住んでるし」
説教を始めたルーベンスさんは、私のしどろもどろな答えに瞳を鋭くさせ言い放つ。
「ミヤビ殿、人間に神王様の在処を語るなど言語道断。
我々人間は未だ神王様は御隠れになったものだと考えていたが、今の君の言葉で神王様がこの世界にお戻りになられたのだと確信した。しかも浮島の神殿には御住まいでない事もな。もし仮に私がそれを利用したらどうするのかね」
ルーベンスさんの弾丸説教に困りロードを見れば、自分の話に自ら爆笑していた面影はなく、真剣な顔で私を見てルーベンスさんを肯定していた。
「ミヤビ、俺もこんな奴と同じ考えってのは嫌だが、同感だ。オメェは人懐こくて、素直で可愛くて騙されやすいからな。そこが良いところでもあるが、欲深く腹黒い人間はいくらでもいる。オメェの目の前にいるこの男もその一人だ」
「言ってくれるな。ロヴィンゴッドウェル第3師団長」
「本当の事だろうが」
ロードとルーベンスさんが口喧嘩を始めてしまったので収まるまで半眼で待つ事にする。
「ミヤビ、北の国でも頼むから人間との接触は極力減らしてくれよ。俺も勿論同行するけどな」
「北の国は国としての体をなしてはいないからな…心配あるまいが、気を付けるのだよ」
2人の言葉に頷けば、本当に大丈夫か? という表情をされた。
初めての買い物に行く子供はこんな気持ちなのかもしれない。




