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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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136.因果応報


「ぷ…っ」


噴き出したトモコの声が、反響する壁すら無くなった部屋に何故か響いた。



山を一つ吹き飛ばしたロードは、満足したのか動きを止めたが、困った事に私を抱き締めたまま離してくれない。

硬い鎧に潰されている状態の為動きがとれないのだ。せめて早く鎧を脱いでほしい。

何より、暗黒鬼神は見た目も心臓に悪い。


「河童だ……ププッ」


聞こえていないと思っているのだろうか、自分の通る声を自覚していないトモコは、バイリン親子の頭を見て「河童だ」と言いながら笑っているが、全部聞こえている。


「ロード、落ち着いたら鎧を脱ごうか」


私も釣られて笑いそうになったが、鎧の硬さと冷たさで笑いも薄れたのだ。


「……ミヤビ」


怒りで暴走していたのか、呆然と私の名前を呟いたロードに「どうしたの?」と返事をする。

表情は兜で覆われ全くわからないが、目だけは見えるので(それが余計に怖い)声とその目だけで何とかロードの感情を読み取る。


「首輪は……」

「あれはただの装飾品? だったよ。呪いなんて私には効かないからね」


ドヤ顔で語れば、ロードはホッとしたような声色で「良かった、無事で」と呟き両腕で抱き締められたのだ。


「ロードさん、鎧が硬くて痛いんですケド」


鎧の尖った部分が骨に当たるのが地味に痛い。


ミヤビ、ミヤビ、とこちらを無視してすり寄ってもくるので、私達の間でゴツゴツという鈍い音がたっている。

しかし止めてくれそうにないので、トモコと河童…バイリン親子をチラリと見てからロードを見る。


「あの二人からヴェリウスとトモコの力を取り戻さないと」


私の言葉にやっと反応してくれた暗黒鬼神は、変身を解く…違った…暗黒装備を外すと(外す時にも暗黒の稲妻と竜巻が現れた)、河童親…ゴホン、ゴホン。バイリン親子に視線を移したのだ。


「さて、そこで呆けている擬き(・・)の諸君、奪った力では、本物の神に勝てない事は理解出来たかな?」


親子揃って腰が抜けたのか、座り込んだまま立ち上がろうとしないバイリン親子に問いかける。


「理解出来たのならその“神の力”、返してもらおうか」


今まで呆けていたバイリン国王が、その言葉に瞳を大きく見開いて口を開ける。


「ッ…返す、だと……!?」

「ち、父上、どういう事ですか? 神とは、奪われた力を取り返す事が出来るのですか!?」


息子は聞いてないよ!? というように父親にすがる。


「一度奪われた力は、例え魔道具を破壊したとしても二度と戻らないはずだ!」

「そ、そう、ですよね?」


バイリン国王の断言に、息子はホッとし胸を撫で下ろすとこちらを睨み付けてきた。


「デタラメを並べても無駄だぞ」


等と言い募る王太子は、まるで鬼の首を取ったかのように得意気である。

実際は鬼神に頭頂部の髪の毛を刈りとられた河童なのだが。


「まぁ、さっくり返してもらうから」


バイリン親子から神の力の返還を願えば、2人から神力らしき光の玉が抜け出て私の手元にやって来た。


「!!!? バカなっ」

「!? 父上!! 話が違うではありませんかっ」


神力を失った親子は、そんな言い合いが出来ていたのも最初だけで、身体に強大な力を宿した反動からか、髪の毛がハラハラ抜けていき、顔や身体もシワシワになって筋肉も萎んでしまったのだ。


「ぁ……あ…っ」


互いの姿を見て慌てたバイリン親子は、今度は抜けた髪の毛とシワシワの自身の手を見て驚愕し、愕然としていた。



その光景からそっと目をそらし、手元にやって来た神力をヴェリウスとトモコへと返す。

光の玉は、待ってましたと言わんばかりに1人と1匹の身体に飛び込んでいき、白く美しい光を発したのだ。



ヴェリウスの身体が徐々に大きくなり、萎れてしまっていた毛並みもハリを取り戻しふんわりサラサラと輝き出す。濡羽色とは言うが、まさにだ。


トモコもふわりと輝き、まるで天使のような美しさだ。


おかしい。バイリン親子が彼女らの神力を奪った時にはこんな現象は起きなかったのに、元に戻った途端この輝きである。


やはり、神力は持ち主でないと扱えないのかもしれない。


トモコの場合は、神力の持ち主だった神と神王(ワタシ)が認めたから、抵抗なく力を自身のものとしたのだろう。異世界人という事もあるのかもしれないが定かではない。


『ミヤビ様、力を取り戻していただきありがとうございます』


いつもの大きさに戻ったヴェリウスは、輝く黒い毛並みを風に靡かせ頭を下げた。


『そして、不甲斐ない様をお見せしました事、お許しください』


耳をペタリと後ろに倒し、尻尾を下げて謝罪するヴェリウスの首に抱きついて頭を撫でる。


「ヴェリウスが元に戻って良かった」


本当はいつでも力を取り戻せたが、暗黒鬼神のロードが怖すぎて力を使うタイミングが遅れてしまった事を気まずく思う。

謝らなくてはならないのは私の方なのだ。


「みーちゃん、私もいるからね!」


後ろから抱きついてきたトモコが、ありがとうとすり寄ってくるのでヴェリウスと共に抱き締める。

神力を奪われた彼女らが禿げなくて良かったと思いながら。





「ぁ…ぁ…っどうして…っ」


どうしてこうなった、と力なく呟き悲壮にくれるバイリン親子を尻目に、さっきまで呪いの魔道具が収納されていた場所を見れば、ロードの力に吹き飛ばされており影も形も無くなっていた。


「呪いの魔道具ごと壁を吹き飛ばしたんだね」


ロードを見上げて言えば、見晴らしの良くなった場所を見渡して何でもないように口を開く。


「あ? ああ、そういやぁ壁も天井も無くなってんなぁ」


軽い。

他人(ヒト)王宮(イエ)をここまで破壊しておきながら、こんなに軽く流せるとは……さすが悪魔だ。


『馬鹿者。ミヤビ様の前で力を暴走させるなど言語道断。帰ったらまた鍛え直しだ』

「ぅげっ」


師匠(ヴェリウス)の言葉に心底嫌そうな顔をしたロードだが、本当は彼女が元に戻って嬉しいのだという事は分かっている。ヴェリウスが力を奪われた時、本気で怒っていたからね。


『勿論トモコもな』

「ぅええ!?」


それは仕方ない。ヴェリウスがせっかく助けてくれたのに油断して力を奪われたのだから、トモコも鍛え直されるのは火を見るよりも明らかである。


「そ、そんな事よりも、バイリン親子どうするの!?」


話をそらすトモコにヴェリウスが溜め息を吐く。


『奴らはもはや抜け殻も同然。何かをしようにも神に制裁を受けたとされ王にも戻れまい』


神がバイリン国に来た事は誰も知らないのに周囲はそんな風に思うだろうか?


『ミヤビ様、山を一つ吹き飛ばすなど神にしか出来ぬ事。今頃はこの国どころか周辺国でも色々と噂されている事でしょう』


ヴェリウスの言葉に成る程と頷く。

実際は神とは名ばかりの悪魔がやりましたとは言えない。


『しかし……あの山の麓はジュリアスの神域。奴は驚いているやもしれませんね』

「ジュリーちゃんからクレーム来るんじゃないかなぁ」


ヴェリウスとトモコの言葉に顔をそらしたロードは、私を抱き上げて「帰ろうぜ」と言ってきた。

それはいくらなんでも無理ってもんですぜ旦那ぁ、と言いたくなる。


「後処理しないとダメでしょ。後エルフの事も忘れないで」


そう。皆様お忘れかもしれないが、エルフがいるんですよ。

一言も喋らず呆然と、姿を消した山とバイリン親子を眺めている麗しのエルフがね。


「あ、そうだった~」


とエルフに近づくトモコはマイペースである。

トモコに気付いたエルフは慌てて姿勢を正すと、「か、神よ……一体何が…?!」と混乱して何が起きたのかを聞いてきたのだ。


「突然真っ黒な稲妻と、竜巻が……っ バイリン国王と王太子が神の怒りに触れた事は分かりましたが……」


そういえば、エルフにはロードの姿も私の姿も見えていなかったなぁと思い出す。姿も見えない、声も聞こえない結界が未だ張られていたままだった。

つまりエルフには、バイリン親子が黒い稲妻と竜巻に向かって何やらやっていたようにしか見えなかったのだ。

見えない何か(私)を盾にしようとしたり、見えない何か(私)に向かって平凡だの弱そうだのと言っていたり、コントを見せられている気分だったに違いない。

そして今もヴェリウスとトモコが見えない何かと喋っている。

エルフにとっては不可解で恐ろしい光景だろう。


心の中でごめんよと謝りながらエルフを見れば、予想に反してキラキラ輝く瞳をこちらに向けていたのだ。


「畏れ多く、口に出す事もこの矮小な身には憚られますが、神々が頭を下げられる御方などこの世で唯一。

神獣様、人族の女神様、かの御方にお声をお掛けする事すら出来ぬ私ですが、感謝の気持ちを思う事だけはどうかお許し下さい」

『ふむ。本来ならば、お主らはその気配さえ感じる事を許されぬ御方。しかし、今回だけは私からそなたの思いをお伝えしておこう』

「っ…有り難き幸せにございます」


ヴェリウスの言葉に涙を溢すエルフに、そんな高貴な御方がいらっしゃるのかと周りを見るがどこにもいない。となると…成る程、暗黒鬼神様かとロードを見て納得した。


そりゃ暗黒の稲妻に竜巻ですもの。畏れ多くもなるわ。と思いながらバイリン親子を見る。



さて、バイリン国をどうするかだよなぁ……。

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[一言] ミヤビが首輪を投げ付けられた時もあったはずの結界は何を防ぐためのものだったのか?:あらゆる攻撃 声も聞こえない結界が未だ張られていたままだった。
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