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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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135.平凡な女


「一番弱そうだが、ここに居るんだ。貴様も神か精霊だろう?」


ニヤニヤとそんな事を言う王太子に、2人と1匹の殺気が膨れ上がった。


「ククッその首輪は力を奪うだけじゃない。隷属の呪いも付与されている。貴様らの仲間は既に我らの手中というわけだ!!」


殺気をぶつける2人と1匹にそう言い放つと今度は私を見た後トモコを見て、


「まぁ、その首輪はそっちの女神に付ければ良かったと後悔しているがなぁ」


などとのたまいやがったのだ。

平凡な見た目で悪ぅございましたね!!


って、あれ……? この首輪本当に呪い発動してる??


付けられてるけど力が奪われた感じもしないし、命令を聞かないとっていう思いも一切沸かないんだが。


ただの首輪です。


そういえば、あのラップが巻かれていた鎖を触っても平気だったし、皆が言う禍々しい力も感じなかったなぁ……。

ていうか、この首輪にもラップが巻かれているから、肌に張りつく感じは不快ではある。


「、……さねぇ」


そんな事を思っている私の横で、ロードが何やら呟いている。

え? 何、何て言った?


「テメェら……、さねぇ…っ 絶対ぇ、許さねぇ…ッ」


鬼が、スーパー○イヤゴリラが…怒りで進化しようとしている!?


ロードの周りはバチバチと静電気の火花が散り、地面がバキバキと割れて亀裂が入っている。


ロードの真っ黒な角は更に成長してねじり巻きされたようにうねり、もう見た目がタロットカードに出てくるような悪魔である。黒い息を吐きそうだ。


王太子はその見た目に「ヒッ」と声を上げ後退りしたが、何とか奮起し、私に言った。


「その男神を止めろ!!」


無理じゃない? そんな無茶振りされても、例え操られていたって無理だと断ったに違いない。

だって、王太子のその言葉を聞いたロードの顔……この世のものとは思えない位怖いんですけど。


「どうした!? 何故言う事を聞かない!?」


全く動かない私に焦れた王太子は叫んでくるが、空気を読んでここは操られてますというていを装った方がいいのだろうか?


「みーちゃん?」


段々怪しみ出しているのか、トモコが恐る恐る顔を覗き込んできた。


「……わ、ワタシニアンナオニガトメラレルワケナイダロ」


操られた風で喋ってみたがどうだろうか。


「みーちゃん……」


速攻でバレた。


「いや、だってコレただの首輪だし。ムリムリ。私そういう趣味ないんで。ラップを巻かれた首輪とかいらないんで」


バレたので空気を読む必要も無くなった為、ラップをペリペリ剥がしてから首輪を普通に取れば、ぎょっとした顔の王太子と目が合った。


「お返しします」


と首輪を渡そうとすれば、ぷるぷると震え出したので不思議に思いトモコを見る。


「みーちゃん、そこは首輪を普通に返すんじゃなくて叩きつけるシーンだったんじゃない?」


声を潜めてそうアドバイスしてきたので、成る程と納得する。隣でヴェリウスが「きゅ~ん」と残念そうに鳴いているが、気にしない。


「こんなもんいらへんわ!!」


take2である。何故下手くそな関西弁なのかというと、何となくだ。

関西の皆様ごめんなさい。


首輪を王太子に投げ返すと、王太子は余計に身体を震わせ、バッと顔を上げた。


「何故だ!? 神をも只人にする呪いの魔道具が……っ 何故効かない!?」


相当動揺しているようで、恐怖に顔が歪んでいる。


しかし私は王太子に注目している暇など無かったのだ。

そう、あの悪魔…ゴホンッ スーパーサイ○ゴリラであるロードが、私の下手くそな芝居に気付かず暗黒騎士の鎧を纏ってしまったのである。


黒い稲妻が落ち、竜巻が起こり、どう考えても悪魔の誕生のようなそれに、バイリン親子は2人して固まった。


黒い稲妻と竜巻で天井も壁も崩壊し、残ったのは今にも崩れそうな床のみである。

城の頂上に近い場所から見る景色はとても良い。遠くに山が見えるが、あれはランタンさんの神域のそばにある山だろうか。その隣(といっても結構離れているが)の山の麓は魔神の少年が移住した聖域があるんだそうだ。



見晴らしの良い所に建っている城だな。と、現実逃避したい程の光景が今目の前で繰り広げられている。


兜からはねじり巻きされた真っ黒な角がのぞき、コフー…コフー…と黒い(気がする)息が吐かれる。瞳は兜の中から鈍く光り、直視しただけで心臓が止まりそうだ。


トモコも私もあばばばばと互いに抱き合い震えている位だ。


「みーちゃん!! アレ止めないとこの国が滅びる!!」

「ワタシニアンナアクマガトメラレルワケナイダロ」

「もうその芝居しなくていいから止めてェェ!?」

「ムリーーーー!!!! ムリムリムリ!!!!」


トモコの無茶振りにブンブン首を横に振っていれば、勇者が現れた。


「ッ何という力……しかし私も息子も神の力を手に入れたのだ。2神と1神ならこちらの方が有利なのは間違いない……何を呆けているのだ!! 私の補助をしないか!!」

「は…はいっ」


そう、バイリン国王と王太子であった。



「よいか、私の攻撃が奴に確実に当たるよう、お前は奴を引き付けるのだ」

「!? それではまるで囮ではないですかっ」

「馬鹿者!! ひきつけ役は立派な作戦の一つなのだ!! 死ににいけと言っているわけではない。ギリギリまでひきつけろと言っているのだ」


いや、バイリン国王よ。それは死ににいけと言っているも同義だと思うが。


暗黒鬼神をこれから相手にしようとしている勇者2人は、親子のわりに仲違いをしつつある。元々バイリン国王の人望が無いからか、息子はどうにも父親が信用出来ないようなのだ。


「だったら貴方が囮役をやればいい!! 攻撃は私がする!!」

「貴様……ッ」


拗れてきたなぁ。

その間にもロードは暗黒の闘気を纏わせ、黒い稲妻と風を発生させながら2人へと近付いている。


ズシン…ズシン…と一歩一歩前進する中、バチバチ音をさせながら取り出したのは……呪いの魔道具など比べ物にならない程の禍々しさを放つ大剣だった。



この国、終わったな。



そう思っていると、「くっ」と焦りを見せているバイリン国王と目が合った。

すると国王はニヤリと笑い、こう言ったのだ。


「あの男神は女を必死に守ろうとしていたな」




次の瞬間には、私はバイリン国王の腕の中に居て、氷の拘束具で両手足を固められていた。


「邪神よ。それ以上近付けば貴様の大切な女を傷付ける事になるが」


え゛……。人質?


「父上、そんな平凡な見た目の女で邪神が止まりますか!?」


おい、ロードは邪神じゃないぞ。後、平凡で悪かったな。


「奴は明らかにこの女を庇っていた。そもそも奴の暴走はこの女が切欠だろう」

「そ、うですね……信じられない事ですが、確かに邪神はこの平凡な女が大切なようだ」


この王太子は私に何か恨みでもあるのだろうか。

あ、さっき首輪を投げつけたから根にもっているのか。心の狭い男だな。


「みーちゃん!!」


トモコが心配そうに叫ぶが、私なら大丈夫だ。いや、大丈夫じゃないかもしれない。

邪神が…邪神の歩みが止まらないのだ。


「トモコォォォ!! 助けてェェ!? 殺されるっ邪神に殺される!!」


邪神を直視してしまった恐怖から心友に助けを求めるが、「無理ーー!!」と返された。


「父上、この女仲間に助けを求めていますが……実はあの邪神は仲間じゃないのでは?」

「…………」


ざわざわしだしたバイリン親子に、ロードが大剣を振り上げた。


「クッどうやらこの女は人質としての価値が無さそうだ。“チェン”よ、この女を奴に投げつけるのだ。私は女ごと氷の楔で奴を貫く」


バイリン親子のヒソヒソ話が鬼畜すぎるーー!?

氷の楔で私ごとぐっさり()る気だ!! これはもう、私の周りとロードの周りの結界を強化しまくるしかない!!


しかし、氷の楔よりも邪神に投げつけられた時の方が怖いのは何故だろうか。


ロード、私ごとあの大剣で斬ったりしないよね? 信じていいよね?



「分かりました。ではカウント3で。……3、2、1」



カウント3で王太子に本当に投げつけられた私は、ロードの鎧に思いっきり額をぶつけた。ゴンッという鈍い音がして頭がくらくらしたと思ったら、ロードが私を片手で抱きしめ、大剣を振り下ろしたのだ。

驚いて反射的に目を閉じれば、風をきるようなゴウッという音が耳元で聞こえ、刹那、凄まじい風圧を感じた。


恐る恐る目を開けて見上げる。


兜を被ったままなので表情が全く分からなかったが、何とか理性はあったのか、私を抱き締めている手は優しい気がする。


「ロード……?」


声をかけるが、ロードは私の後ろ…バイリン親子がいる方を見ているのでゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと振り返った。


「……」


ロードが暗黒鬼神化した際に無くなった壁の向こうには、さっきまで見えていた山の姿は無く、バイリン親子は……ロードの攻撃をやっとの事で避けたのだろう。頭頂部の髪が切られ河童のように禿げ、尻餅をついて茫然とした様子で固まっていたのだ。

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