134.ついに魔の手が神王に!!
「くぅ~ん…」
ヴェリウスのその鳴き声を聞いた瞬間、私の中で何かがブチブチッと音をたてた。
ただの犬となったヴェリウスが、悲しそうに鳴いているのだ。飼い主として怒らないわけがない。
「みーちゃん……」
トモコも私の顔を見て瞳を潤ませている。
私の可愛い飼い犬と心友の力を奪い、調子に乗って今度はロードにまで喧嘩を売ってきている親子に、私が鉄槌を下さず誰が下すのか!!
「ローッ」
ロード!! と呼ぼうとした瞬間、カッと雷が光り、氷のはられた地を伝ってバイリン国の親子に襲いかかった。
バリバリッ バチバチッという音と光が瞬く間に親子にぶつかりドオォォォォンッッと耳を塞ぎたくなるような爆発音と爆風をたてたのだ。
爆発と風圧にびっくりして頭が真っ白になった。
ドラゴンボー○の○空とフ○ーザが、自分の目の前で突然戦い始めたと想像してほしい。
まさに今、目の前がそんな感じなのである。
もうもうと上がった砂煙が晴れてくると、姿を現す氷の盾。
「ククッ 何と素晴らしい力だっ 雷すらも私の脅威にはならない」
「父上、私が奪った神の力も中々ですよ」
ロードの攻撃に余裕そうな声を出し、厭らしい笑みを浮かべる親子は成る程確かに似た者親子なのだろう。
いくらイケメンであってもこんな男に辱しめを受けたエルフは、確かに死にたくなるのも分かる。
「……」
ドォォォンッ ドォォォンッ ドォォォンッ
喋っている親子に、黙ったまま無表情で連続攻撃を仕掛けるロードは流石鬼畜である。
そして、ロードが攻撃する度に地面が揺れて、この城が崩壊するんじゃないかという恐怖を感じる。
ドォォォンッ ドォォォンッ ドォォォンッ
いや、ロードさん怖い。
これは相当お怒りではないだろうか。
今までにない無表情な攻撃がその本気度を表している。
「怒りで我を忘れたか?」
バイリン国王はほくそ笑むと、氷の剣を作り出した。
もしかしたら剣が得意なのかもしれないが、剣をチョイスした時点で見た目重視な人らしい事が伺える。
「父上、」
「私が殺る。お前は手を出すな」
王太子が一歩前に出たが、相当自信があるのか国王はそれを制してロードへと氷の剣を向けた。
フェンシングスタイルか? と様子を見ていれば、ロードは私には見せた事もないような冷たい瞳で相手を見据え、自身の双剣をどこからともなく取り出したのだ。
双剣はロードが人間の時に使っていた武器だ。
大剣を使用せずそれを選んだという事は、ヴェリウスの力を奪ったとしても相手の技量はその程度という事なのだろうか?
「ほぅ、神でも剣を使うのか」
バチッ
そんな音と共に双剣の周りに一瞬火花が散ったと思ったら、バチバチバチッと、刃の周りから放電しているような火花を散らし始めた。
どうやらロードが双剣に雷を纏わせたようだ。
あの刃に触れたが最後、感電死する未来しか見えない。
感電しながら斬り殺されるとか悲惨すぎると思いながら、ただのワンちゃんになったヴェリウスを撫でる。
やはりただの犬でもヴェリウスは可愛いし、毛並みも良い。
「何かドラゴンボー○みたいだね~」
神ではなくなってもトモコはトモコらしく、通常運転だ。
「目の前で本格的な戦闘が行われたらヤ○チャじゃなくてもビビるわ」
「手も足も出せないよね~」
等とトモコと話している間にも、戦闘は続く。
お互いに剣を武器にして間合いを測っているのだろう。
無言で睨みあっている。
刹那、ロードのあの巨体がその場からかき消え、ギィィンンッという金属同士がぶつかり合ったような音が耳に届いたのだ。
バイリン国王を見ると、双剣を振り下ろされ、氷の剣で受け止めている所であった。
瞬間移動したように見えたロードは、常人には見えないスピードでバイリン国王のそばまで一気に間合いをつめ、攻撃を仕掛けたのだ。
刃と刃が重なった瞬間、ギィィィンッという金属音に遅れて、ボコっと国王の足元が沈む。まるで国王の周りだけに何倍もの重力がかかったようだった。
しかもそこから、風圧が波紋のように発生して私達を襲う。
周りに結界を張って事なきを得たが、何も無ければ風圧に飛ばされて壁に激突し即死だろう。
ちなみにエルフも私のそばに転移させて結界で守っているので安心してほしい。
更に、沈んだ足元から亀裂が生まれ、それが何本も枝分かれして伸びてくる。
それを見た時、床が崩れるかもしれないと思ったのは私だけではないはずだ。
ギリギリと音をたてて交わっていた刃が、突然地面から生えた巨大な氷の棘に阻まれ離れる。
そう、バイリン国王が氷魔法を使ってロードを攻撃したのだ。
それをとっさに避けて足蹴にし、その反動を使って空中を一回転しながらこちらへと戻ってきたロードは、ドンッという重い音をたてて目の前に着地した。
あ、床が抜ける。
そう思ってしまったが仕方ない事だろう。
ロードは汗ひとつかいておらず、息も乱していないようだ。
それはバイリン国王も同じようで、ボロボロと崩れていく巨大な氷の棘を、ジャリっと踏み鳴らしながら一歩一歩近付いて来る。
その表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
「ククッやはり神とは、人間と比べ物にならない程力があるらしい」
3メートル程間を空けて歩みを止め、何が可笑しいのか笑い声を上げながら喋り始めたバイリン国王は、ロードを興味深そうに見ている。
そんなバイリン国王を、やはり無表情で見据え無言を貫くのは相当腹に据えかねているのだろう。
しかし、氷と雷はあまり相性がよくないかもしれない。
純水は雷を通しにくいというし、氷は…しかも魔法で出した氷は、不純物がほとんど含まれないのだ。
そう考えると、魔法対決はしない方がいいかもしれない。
「次は私の番かな」
不敵な笑みを浮かべたバイリン国王がそう言葉を発し、氷の剣をフェンシングの突きをするようにロードに放ったのだ。
ロードはそれを双剣で受け止めると軌道を変え、上体が崩れた所に自身の剣を振り下ろす。
しかし、氷の盾を使って防いだバイリン国王がニヤリと笑ってロードの足元に斬りかかった。
双剣だった事が功を奏したのか、一方の剣でそれを防ぐともう一方を振り下ろす。しかし氷に弾かれ、砕かれた氷の欠片がキラキラと宙を舞った。
はっきり言おう。常人では目で追えない速さで動く2人をこれ以上解説するのは無理である。
シュンッと消えてシュンッと現れて、ガキンッドンッ的な事を繰り返すドラゴンボー○的戦闘は、一般人から見れば何をしているのか全くわからないのだ。
だれかスロー再生出来るカメラを下さい。
そうこうしている内に部屋はもうぐちゃぐちゃでどんどん破壊されているわけで、なんなら天井には穴が開いて空が見えている。
「いや~風通しが良くなったね~」
「そうだね~」
等とトモコと話してると、ヴェリウスが「ガウッガウッ!!!!」と何事かと言わんばかりに吠えている為、そっちに注意を向ければ……
バカ息子…王太子が私に向かって何かを投げつけてきていたのだ。
ソレは私の首に巻き付き、トモコが「みーちゃん!!」と悲鳴を上げた。
「ミヤビ!!!?」
トモコの悲鳴に気付き駆け付けたロードが叫んだ。
そう、私の首には首輪が付けられており、それを気持ち悪い笑みを浮かべた王太子が見下ろしていたのだ。




