128.秘密の扉
「ここが国王の部屋?」
城の階段をだいぶ上がった奥側に、一際大きくゴージャスな扉があった。
『そうだと思われます』
「まず間違いねぇだろうなぁ」
私の言葉にヴェリウスとロードから返事が返ってくる。トモコはというと、扉の豪華さに感嘆の声を上げ先程の不機嫌もどこへやら、すっかり機嫌をなおしたのか嬉しそうに扉の装飾を触っていた。
「ふぉ~!! これだよ、これ!! やっぱりお城はこうでなくちゃね」
等とニコニコしながら扉を開けたのだ。
『っ馬鹿者!!』
「ヤベェっ 姿や声が見えねぇ結界は張ったが、さすがに扉を開けちまったら誤魔化せねぇぞ!?」
やらかしたトモコを連れて一旦扉のそばから離れ、部屋の様子を伺っているが、一向に人は出てこない。
「……留守みたいだね」
「ああ…」
『お主は一体何を考えておるのだ!!』
冷や汗をかきながらトモコを見れば、キョトンとして首をかしげていた。
『……誰も居らぬのに扉が勝手に開けば、どんな馬鹿でも不審に思うだろうが』
「……ああ!! 確かにっ」
納得ぅ~と、軽い調子でヴェリウスの説明に頷いたトモコを一様に呆れた目で見てしまったのも無理はないだろう。
そんな様子には目もくれず、スタスタと部屋に入って行くトモコの姿に、クエストの勇者ってこういうメンタルを持った人がなるんだろうなぁと思ってしまった。だって色んな家に入って勝手に何かしら盗って行くのがファミコン時代のクエスト勇者だもの。さすが威風堂々トモコクエストである。
『バカな子程可愛いというが……奴はそれを通り越して逆に天才ではないかとすら思えてきた……』
ヴェリウスの呟きに、頷く一同であった。
「皆~何してるの? 誰も居ないんだから早く入ろうよ」
引き続きトモコクエストをお送り致します。
トモコの声に恐る恐る部屋へ入れば、そこはどうやら謁見の間らしく今の時間は使用していないようだった。
駄々っ広い石造りの間には、祭壇に向かって赤い絨毯が真っ直ぐに敷かれ、祭壇の上には豪華な椅子が1脚これでもかとその存在を主張している。
まさにクエストの、王様に謁見する場所! という感じである。
「みーちゃん!! 王道の謁見室だよ~」
嬉しそうに椅子に向かって駆け出すと、ドカリとその椅子に座りふんぞり返ったトモコに注目する。
「クククッ よく来たなぁ。勇者とその一向。我の前でひれ伏すがいい」
魔王か。
「魔王め! 世界を滅ぼす前に貴様を倒す!!」
「ほぅ…人間ごときが我を倒すと?」
「オレたちはその為にここに来たっ」
「ククッ ならばやってみればよかろう。そして絶望しろ。我と貴様らの力の差になぁ!!」
等と2人で魔王と勇者ごっこをしていると、生温かい目でロードに見られている事に気付いた私は、恥ずかしくなってうつむき、手のひらで顔を覆った。
『ミヤビ様、こちらに扉がございます』
いつの間にか祭壇の裏を探っていたヴェリウスに声をかけられ、「え? 扉?」等と恥ずかしさを誤魔化しつつ助かったと心底ヴェリウスに感謝した。
「もしかして秘密部屋??」
瞳を輝かせて発見した扉を見るトモコ。
扉にはどうやら鍵がかかっているらしく、開かない。
しかも結界が張ってあるようで、何やらキナ臭さを感じる。
皆がこちらを見るので、心の中で“侵入した形跡を残さないように開け”と願った。
扉を開いた先は上に続く螺旋状の階段で、何だか本格的なクエストになってきたなと少しワクワクする。
古びた石造りの階段は、なかなか雰囲気が出ていて良い。
しかし、螺旋階段というのは抱き上げられた状態で上ると目が回りそうになるな。ぐるぐるしてきた…。
「ミヤビ、どうした?」
目が回ってロードの肩口に顔を埋めると、若干嬉し気なロードが話しかけてきた。
「ちょっと目が回って…」
ヤバイ。ショコラに乗った時もヤバかったが、まさか螺旋階段で酔うとは。
「目ぇ閉じてそのまま肩に顔埋めとけ」
「うん…」
目を閉じて肩に顔を埋めると、ロードが頭を撫でてきた。しかしそれを見たトモコが、イチャイチャしてんじゃねーですよ! と言って怒り出し、何故か階段から足を滑らして私達の上にダイブしてきた為、ヴェリウスに叱られるというドジをやらかしたのだ。
ちなみに、足を滑らせたトモコはロードが片手で支えたのだった。
「あ゛ーー…ヤバイ。目が回る…酔った」
うぇ゛ーっと地面に手足をついて唸っていると、
「みーちゃん三半規管弱いもんね~」
と先程階段を踏み外して落ちてきたトモコが、そんな事は無かったかのように声を掛けてきた。
「いや……ほぼトモコのせいだから。人が目を回している所に落ちてきて、ロードが支えて上下に揺さぶられたからこんな事になってるんだからね」
ぅう゛…気持ち悪い。
「いやぁ~ロードさんのおかげで助かったわ~」
「危ねぇから階段の上でふざけるんじゃねぇぞ」
私の背を擦りながら、ロードが父親のような事を言っている。トモコは軽い調子で「は~い」と答えながらヘラヘラと笑っていた。
体調よ良くなれと全力で祈り復活する。この能力に感謝しかない。
「あ、全身の筋肉痛が楽になった」
初めからこうすれば良かったと後悔したが、何故かロードは顔をしかめていた。
「何デスカ? その顔は」
「その筋肉痛は俺と愛し合った証でもあったのによぉ」
不満気にぶつくさ言い出した、ゴリラに言いたい。
愛し合った証の筋肉痛って何だ。
「治ったものは仕方ないデショ」
引きつりそうになる顔を何とか誤魔化しながら答えると、「なら今夜は消えない証を残さねぇとな」等と返ってきたので血の気が引いた。今夜こそ息の根を止められる、と。
「も~2人共ちょっと油断するとすぐイチャイチャし始めるんだから~」
腕を前で組み頬を膨らますトモコが絡んでくる。
どこからどう見たらイチャイチャしているように見えるのかは知らないが、こっちは殺人予告をされたとしか思えないロードの発言に、怯えている所なのだ。
「階段も上りきったんだし、次に進むからね」
その言葉にハッとして周りを見た。
階段を上がってすぐ扉があるわけではないようだ。
上りきってから真っ直ぐ廊下が一本道で通っている。
薄暗いので見えにくいが、廊下の奥には扉が見えた。
「奥に部屋があるようだから行ってみよ~!」
『また勝手に扉を開けぬようにな』
ヴェリウスからの注意に、「任せてよ~」等と言っているがとても信用出来るものではない。
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか」
ニヤリと笑うトモコはそう言って歩き出したのだ。
筋肉痛ではなくなったので、トモコの後をついていく。
ロードは抱き上げようとしたが断り、薄暗い廊下を進んでいった。
5メートル程で行き止まりになり、目の前には木で出来た扉が存在をアピールしている。
「古そうな扉だね~。一体何があるんだろ?」
木の扉に触れ、感触を確かめているトモコにまた開けやしないかとハラハラしていると、ヴェリウスが耳をピクピク動かして鼻の頭にシワを寄せた。
「ヴェリウス?」
『……中から鎖の擦れる音が聞こえてきます』
鎖…あまり良いイメージが無いな。
「開けてみる?」
トモコの問いかけに、ヴェリウスとロードを見る。
「鍵がかかってるみてぇだな」
ロードが音をたてないように開けようとしたが、どうやら鍵がかかっているらしく開かないようだ。
一体この中に何があるのか……ますます気になってきた。




