124.その後の恥ずかしい事情
『━━…ミヤビ様の御子様についてですが』
天空神殿の日本建築ゾーンのある一室で、妊娠したわけでもないのにヴェリウスが何故か私の子供の話を始めた。
恥ずかしさのあまり気絶してしまったあの後、喜び勇んでお土産の生肉と共にやって来たヴェリウスは、白目を剥いて倒れた私を発見して母親の如く介抱してくれたらしい。
ロード? ロードは後ろ足で蹴りあげて庭に転がしたんだとか。トモコが後で教えてくれたよ。
で、やっと起き上がれるようになったので寝室として使用していた部屋ではなく、応接室として使用している畳敷きの部屋に3人と1匹で集まって話しているのだが、突然ヴェリウスが子供について切り出してきたのだ。
『神王様が今まで御子様を生む、または生ませるというような事例は無く、御子様がどのようなお力を持ってお生まれになるのか定かではありません。更に言えば、御子様が出来るのかどうかすら不透明なのです』
いや、出来る出来ないの前に、生ませるって何ですかーーー!?
え? もしかしてロードを孕ます事も可能だと!?
ついロードを凝視してしまい、私が不安になったと勘違いしたのか、ロードに抱き寄せられた。
「ミヤビ、不安になる事ぁねぇさ。まだ何も分かっちゃいねぇんだ」
ニカッと爽やか? に笑うのでつられてヘラリと笑ってしまう。しかし、妊娠はしたらした時考えればいい事なので、その話は今は置いておく事にした。
「子供についてはとりあえず置いておいて、村はどうなったの?」
放り出してきていいのかと聞けば、トモコがムフフとおかしな笑い方をするので嫌な予感しかしない。
『村は順調です。収穫と鬼神誕生というおめでたい事が重なった事もありお祭り騒ぎでして、抜け出してくるのが大変でした』
ぬぉぉぉぉ!! お祭り騒ぎとかこっちへのダメージがデカ過ぎる! 頼むから知らないフリをしていて欲しい。
「村はね~ちょっと振り出しに戻っちゃったんだけど、明日には見れる所までいけると思うよ~。あ、浄水場、下水処理場は1週間あれば完成すると思う! みーちゃんへのサプライズにしたいから、1週間は天空神殿で過ごしてもらっていいかな?」
振り出しに戻るって何!? トモコのサプライズとか不安しかないんだけど!?
『ミヤビ様、トモコは私が監視していますから安心して此方でお過ごし下さい』
ヴェリウスが言うならまぁ……不安は残るが。
「その“村”を見た事がねぇ俺はオメェより不安だよ」
ボソリと呟かれたロードの言葉に、重みを感じた。
「あ、浮島の街なんだけど、住人を最低でも1000人は確保しなきゃいけないって専門家に言われたよ」
ふぅ~と、緑茶を飲んだ後息を吐く。
畳の部屋とはいえ、床にはペルシャ絨毯のような敷物を敷き、その上に洋風のテーブルと椅子を置いているので、正座をしなくてもお茶が飲めるこの部屋はわりと気に入っている。
和洋折衷の部屋は大正時代の雰囲気を感じられて好きなのだ。
「え!? みーちゃん真面目に浮島の街に取り組んでたの!?」
心底驚いたという顔をするトモコに頭突きしたくなった。
「失礼な。一応専門家に色々アドバイスをもらいましたー」
「面倒臭がりのあのみーちゃんが……っ 偉いぞみーちゃん!!」
抱きついてくるのでドヤ顔で対応してみせると、ロードが可愛いなぁとデレデレの表情を見せたのでそっと目をそらした。
「ところで専門家って何? 街作りの専門家がいるなら私にも紹介して~」
「紹介って、トモコもこの間会ってるでしょう。ルーベンスさんに」
「あ~ルーベンスさんかぁ~……ん? ルーベンスさんって、あの、ルマンド王国の宰相の?」
トモコの言葉に頷けば、「好色の?」と続くのでそうだと肯定する。
「みーちゃん!! 何でよりにもよって国の重鎮に!?」
トモコの反応に、ロードがだよな~という顔をするので首を傾げる。
「宰相なんて欲の塊みたいな役職でしょ!? 浮島の事を言えば自分の物にしようと仕掛けてくるのが目に見えてるよ!?」
うんうん頷くロードをキッと睨む。
「でも統治なんてしたくないって言ってたし、協力はしてくれるって」
「怪しい!! それは絶対怪しいよ!! ルーベンスさんって見るからに切れ者じゃない。そんな人が協力だけで終わるわけないから!」
そうかなぁ~とトモコの話に戸惑っていれば、
『いくら切れ者でもたかが人間。歯牙にかける程のものでもありません』
ヴェリウスが魔王の右腕のような事を言い出したのだ。
「確かに神ですらミヤビの敵にはなり得ないからなぁ」
アーディンと対峙した事を思い出したらしいロードは、ヴェリウスに追随した。
それを聞いたトモコも、「そうだったね~」と納得し、ルーベンスさんの件は問題視されずに終わった。
「それでね、神々の候補者だけだと全然足りないから自分で探しに行く事にしたんだぁ」
何事もなかったかのように話を続けると、トモコはふんふんと相槌をうちながら聞いてくれる。
「北の国にね、“エルフ”が隠れ住んでるらしくて、隠れてる位なら浮島に誘ってみようかと思ってるんだけどさぁ」
「“エルフ”だってぇ!? ハイハーイ!! 行くっ私も同行します!!」
やはりエルフに食いついたトモコは、目を輝かせて立候補したのだ。




