119.非常識な街
「うき島…」
呆然と呟いたルーベンスさんは、ハッとして周りの浮島を見、そして遠い目をした。
「本当にあったのか……」
そんなルーベンスさんの様子を見ていたロードが溜め息を吐いて私を見た。
「こんな所にまで宰相を連れて来やがって……テメェは何考えてやがる」
お互いに指輪を交換したせいか、ルーベンスさんが年配のせいか、今回はリンのように嫉妬はしていないようだ。
ただ、ずっと指輪をしている指を撫でられているのだが。
「う~ん。あのね、ルーベンスさんって、私の“父”に似てるんだよね……雰囲気とか、性格とか?」
「あ゛?」
微妙な顔をするロードに話を続けた。
「父は母一筋の人だったけどね」
クスクス笑っていると、ロードはとろけるような笑みを見せ、頭を撫でてきた。
父が大好きだった私は、小さな頃から週末は父と過ごしていた。それは大きくなっても変わらず、父が亡くなるまでの習慣と化していたのだ。勿論社会人になっても一緒に旅行に行ったりもしていた。無口で無表情ではあったが、不思議と馬が合う人で趣味も似ていた為だろう。いや、父は決して腐男子やオタクではなかったが。どちらかと言えば母が腐女子…いや、貴腐人であった。
話がそれてしまったが父と私の共通の趣味とは、もふもふ大好きという事で、週末のお出掛けルートには必ずペットショップ巡りがあった。そして北野家の愛犬、クーちゃんの様々なグッズ選びも趣味の一つだったのだ。
ルーベンスさんはそんな父に似ていた。
顔というよりは纏う雰囲気が、と言った方が正しいのだが、まぁ顔も近い系統ではある。
娘の私がいうのも何だが、父の顔は外国人寄りで彫りが深かった。キア○リーブスにそっくりだったのだ。ただし日本人らしく背は低く短足ではあったが。
娘の欲目ではない。街に出ればよくキアヌに似てますね!! と声を掛けられたものだ。
父は無表情で返事もしなかったが、モテる人だった。
ちなみに私は、目だけは父に似たらしく、ぱっちりしているが、後は平凡な母似である。
「人にも自分にも厳しい人で、まさにあんな感じでね、ボクシングとか格闘技やってたから姉の旦那さんは滅茶苦茶怖がってたなぁ~」
姉の旦那さんが結婚の挨拶に来たときのあの父の形相は一生忘れないだろう。
みーちゃんが結婚する時には相手を殺しちゃうんじゃないかしら~なんて母に笑われたが、母の隣で冗談とは思えない顔をした父を見てゾッとしたものだ。
「ほぅ。そりゃ手合わせしてみてぇなぁ」
うん。ロードなら大丈夫だな。
「ルーベンスさんは、話せば話す程父に似ていて、他人とは思えないというか、無意識に家族枠に入れちゃってるんだよね」
「あ~…そりゃしゃあねぇか? しっかし、俺ぁあの人を親父とは呼べねぇぞ……」
困ったようにそんな事を言うので、つい吹き出してしまった。
「……私はこんな野生の獣のような男を息子にはしたくないが、ミヤビ殿が娘ならば悪くはない」
いつの間にか私達の話を聞いていたルーベンスさんが入ってきた。
「俺だってアンタみてぇな腹黒で何考えてんのかわからねぇ宰相を親父にしたくねぇよ」
バチバチと火花を散らす2人に呆れる。
「さて、ルーベンスさん。これから浮島の街をご案内しますので、統治するかしないかは後にして率直な感想を頂けますか」
私の言葉にルーベンスさんは仕方ないと言うような表情をして頷き、同じような顔をしたロードの後をゆったりとした足取りで歩き出したのだ。
誰も居ない街は静かだが、今にも箒にまたがって空を飛ぶ魔法使い達が出てきそうな雰囲気でウキウキしてくる。
「この街は住もうと思えばいつでも住んで貰えるように水道も電気も全ての建物に通っています。お風呂も各家にあります。食料に関しては別の場所に農場を設けてあり、道路は車の往来が出来るよう広めに創ってあります。もちろん歩道も横断歩道信号もあるので危険も少ないかと思います。ただしこれは住民へのルールを徹底すれば、という話ですが」
奥に行く程ハリー○ッターの魔法の国っぽくなってはいるが、街の入り口から3分の2は現代イギリス風の街並み(観光地)にしてある。
なので道路は石畳だったり、広場のような所が多く、開放感がある。
「教会はあえて創っていません。上に見えるあの神殿…天空神殿と呼ばれていますが、たまにあそこへ神々が集まります。信心深い方はあちらへ向かって祈っていただければ、気が向いた神が街へやって来る事でしょう」
さっきからルーベンスさんの顔が引きつっている気がするが、何も質問が無いようだし、ロードは止めないし、問題はないだろうと思い続ける。
「家庭で出たゴミは各所に設置されているあの濃い青緑の大きな箱に分別して入れてもらえれば、生ゴミは肥料に、硝子や陶器類は器に、レンガの欠片等も再生されるように出来ています。リサイクルというやつです。エコでしょ? ちなみにトイレでの排便は浄化されて、小は水になり循環され、大は肥料となって自動的に農場や森へ撒かれます」
「おい、ミヤビ」
「後はお風呂ですが、お湯と水が出るようになっていまして…「ミヤビっ」」
ロードが説明を遮ってきたので、不思議に思い見上げる。
もしかして、家の中に入って説明した方が分かりやすかったかな? 分かりにくかった? という顔を向ければ無言で首を横に振られた。
「……9割5分、未知の技術が使われている事と、常識を逸脱した街である事は理解した」
ルーベンスさんの言葉に、やっちゃった! と気付いたが後の祭りであった。




