109.村を作ろう!!
翌日、ウチの裏手から少し距離をあけた場所にやって来た私とトモコとヴェリウスは、鬱蒼と茂る木々を見上げていた。
「みーちゃん、ここに“村”を創るの?」
『ここならばミヤビ様の家に近いので、奴らも喜ぶ事でしょう』
1人と1匹が心なしかウキウキしながら話しかけてくるので頷く。
「本当は開けた場所の方が良いんだけど、ウチの近くだと無いからね~」
大きな木々達は、昼間なのに不気味さすら感じさせるほど葉を生い茂らせて、空を覆っている。
ウチの周りは開けた場所なのでそんな事はないのだが、ここは影が差しジメジメしている。
「まずはこの木々達に村を創れるだけの空間を開けてもらおうかなぁ」
『木々を切るのですか?』
それでしたら、とばかデカイ氷の刃をパキパキという音と冷気を出して作っていくヴェリウス。
「あ、大丈夫だから。木は切らないよ」
『では…?』
私の言葉にパリン…と氷の刃を散らせ、首を傾げた。
「木々達に少し避けてもらうだけだよ」
そう言うやいなや、私の思った通りにそこが開けた場所となった。
別に木々を転移させたり無くしたりしたわけではない。ただ、村を創る空間を確保する分だけ森を拡張させて木々達がその分外側へ移動したのだ。つまりこの森が村一つ分広がった事になる。
実はこの森……というかこの世界、地形を変えようとすると、私の頭の中ではドローンで空の上から見たような映像が浮かぶ。
土地を拡張したり移動したりを想像すれば現実でその通りになるのだ。
ゲームのような感覚で色んなものを創ったり移動したりできるのだが、怖いのであまり使わないようにしていた能力の一つである。
『さすがは神王様』
感心したような声で呟いたヴェリウスの瞳は、子供のようにキラキラと輝いていた。
「みーちゃんのステータスだけは見れないからなぁ。未だに能力の全容が見えないんだよね~」
トモコが勝手に人のステータスを見ようとしていた事が発覚した。
「トモコ、人のステータスを盗み見しようとするんじゃない」
「だって~“神王様”のステータスだよ。興味ない人いないでしょ」
大抵の人は興味ないんじゃないかなぁ?
「みーちゃんは他人に興味ないからそんな風に思うだけで、普通は興味津々だからね。
大体みーちゃんの事だから自分の能力も全部把握してないんでしょ。駄目だよ。強大な能力ほどきちんと把握してないと、恐ろしい事になるんだよ」
いや、ナチュラルに心を読むんじゃない。
しかも自分のステータスを見ていない事が何故バレた?
『ミヤビ様、トモコは阿呆ですが、一応言っている事は正しいです。今すぐではなくていいですが、近いうちに自身のステータスは確認しておきましょう』
「ヴェリーさん、みーちゃん1人で確認させたらよくわからない能力はスルーしちゃうからダメっ ヴェリーさんと私も一緒に確認作業した方が良いって」
トモコ……阿呆は認めてるんだな。
『確かにその通りだな。ではミヤビ様、近々ステータス確認をご一緒致しましょう』
「あ、ハイ。宜しくお願いシマス」
2人の押しの強さに負け、今まで面倒だと思ってしていなかったステータスの確認をする約束をさせられた。
『さて、次はどうしましょうか?』
目の前に開けた広場を眺めながら、尻尾をパタンパタンと鳴らし、上目遣いで伺ってくるウチのワンちゃんに笑みが漏れる。
「次はどんなイメージの村にするか、なんだよね」
「え? まだイメージ決めてなかったの?」
てっきりドラク○みたいな牧歌的な村にするかと思ってた~と話すトモコに、それでも良いんだけどね~と答えていると、
「主様ぁ~!!」
可愛らしい声がウチの方から聞こえてきた。
タタタッと軽快な足音と共に、お腹にタックルをかましてきた女の子。
「ショコラ、お帰り」
そう。ドラゴンの女の子、ショコラだ。
「ただいま戻りました~!」
今まで天空神殿で警備をしていたショコラを、今日の村創りの為にあらかじめ呼んでいたのだ。
「主様、言われた通り皆からどんな村にしたいか聞いて来ました!!」
「ありがとう」
あくまで珍獣達の村なので、ショコラにどんな村にしたいかを聞いてきてもらってきたのだ。
“神王様のおそばに居れるならそれで”
“神王様のお好きなものが我々の好みです”
“神王様の創って下さる村ならば何でもいいです!”
“神王様とお話したい”
“逆に神王様はどんな村がよろしいでしょうか?”
“これはもしや文通でしょうか!? お返事いただけるのでしょうか!?”
いやいや、何かなコレは?
ショコラから預かった手紙に書いてあった、望みと思われる一部分を抜粋したのが上記だ。
時候の挨拶から始まり、丁寧に書かれた手紙達はぶっちゃけ長すぎて全て読むのが大変だった。
私はどんな村にしたいのかを教えて欲しかったのだが、手紙から読み取れたのは、“何でもいいです”という事だけであった。
「…ショコラはどんな村が良いと思う?」
珍獣達の手紙ではどうにもならないので、ここに居るショコラに聞いてみる事にする。
「ショコラは主様のお家に住まわせてもらってるので、村をこうして欲しいという要望はありません。主様のお家がショコラのお家です。だからショコラを追い出さないで下さい~っ」
お腹に抱きついてくるショコラの頭を撫でる。
どうやらどんな村にしたいか聞いたせいで、家を追い出されるのではと勘違いしたらしい。
「追い出したりしないから。ショコラのお家は今のままだよ」
「主様ぁ~っ」
涙目で見上げてくるこの美少女っぷりに羨ましくなる。
どうして私の周りには顔面偏差値の高い人が多いのだろうか?
「みーちゃんどうする? 結局皆みーちゃんの好みで良いって言ってるけど。ドラ○エの村みたいにしちゃう?」
ワクワクしたようにド○クエ推ししてくるトモコ。
それを呆れた顔をして見ていたヴェリウスが、アドバイスしてくれた。
『ミヤビ様、まず“村”において絶対に必要なものから考えましょう。例えば田畑等の農場、広場や役場、図書館といった公共施設。そして道(整備)等も“普通の村”には存在するものです』
確かに。家だけでなく公共施設等も充実させてあげないとダメだよね。村民が集まれるような場所は重要だって小説とかにもよく書いてあるし。
さすがヴェリウス。私のブレーンだけあるなぁ。
「魔獣達は農業とかするのかなぁ? 今まではどうしてたんだろう? 農場作っても畑仕事をしなければ意味はないよね?」
トモコの言葉にハッとした。
ここは珍獣達の住む村なのだから、普通の村とは違うのだ。
ヴェリウスとはまた違った着眼点を持つトモコもなかなかの切れ者である。
『魔獣としては森の動物を狩って食べていたのだろうが、人型になってからは料理を覚えたからな。畑仕事も必要であろう』
「じゃあ農場は絶対必要だね~」
『後は役場のような場所も必要ではないのか?』
「それは村長の家と兼用にしたらどうかなぁ?」
『ふむ。それでも良いな』
「一番重要なのは上下水道の整備だと思うんだけど」
1人1匹の会話からポンポンと出てくるやらなければならない事を、頭の中の広場に配置していく。
「主様~、ショコラは浮島にある“ジャングルアスレチック”がここにもあればいいな~って思います!」
ショコラの言う浮島の“ジャングルアスレチック”とは、数ある浮島の一つ、“テーマパークの島”の一部分にあたるアトラクションで、某夢の国程度の敷地の中にジャングルを創り、ツリーハウスやキャンプなども体験出来る、森そのものをアスレチックにした公園である。ターザンごっこが特に神族の子供達には人気だ。
「いや、あれはちょっとここには無理かなぁ~」
深淵の森をテーマパークにするわけにもいかないので、いくら可愛いショコラの案でも却下だ。
しゅんとしているショコラも可愛いので頭を撫でておく。
「田畑の水は近くの河川から引っ張ってくれば問題ないし、登り坂になっている所には水車で何とかなるよね。大変なのは上下水道の整備だよ!! 河川の近くに浄水場と下水処理場を作って、そこまでの水道管と下水管をひかないといけないし、後はーー…」
トモコさん詳しいのね…。まぁこの子はもしも異世界に行ったらっていう妄想シミュレーションしてたしね。
『トモコよ、ミヤビ様のお力で汚水の処理や飲み水の確保は何とかなるのではないか?』
「ヴェリーさん!! みーちゃんの神王の力を頼りにした村なんて駄目だよ!! もしみーちゃんに何かあったらすぐ駄目になっちゃうんだよ!? 上下水道の整備は、施設を創ってもらうまではみーちゃんにやってもらっても、後の管理は村人でしなきゃいけないの!! 全て神様に甘えたら駄目な子になっちゃう!! 本当なら村もみーちゃんじゃなく村人でやるべきなんだから!」
と、トモコがまともな事を言っているだとぉ!!!?
空から槍が降ってくるかもしれない!!
「トモコ様の言う通りです!! やはり我々自身で村を作らねば、ここに住む資格などありません!!」
「そうだ! 元々自分たちで作るつもりだったんだ。神王様にご迷惑はかけられん!!」
「異議無し!! 神王様に誉めていただける立派な村を我らで作ろう!!」
「神王様が、この村で暮らしたい!! と言える村にしようぜ!!」
トモコの言葉の後、突然そんな声がして木々の後ろからわらわらと出てきたのは、私が人型にした珍獣達だった。
どうやら村を創ると言った私の様子が気になって、影からうかがっていたらしい。しかも珍獣達皆で。
「あ~あ、出てきちゃいました~」
ショコラは知っていたのか、しょうがない魔獣達ですね~と肩をすくめていた。




