107.神級のマジックアイテム
「あの、良かったらこれを…」
頬を赤く染めて、ルビーのように美しい石を差し出してきた魔神の少年。お手本にしろという事だろうか?
するとロードが、机に置いてあったもうひとつの石を手に取り、握りしめた。
石を握りしめた拳からバチッと静電気の火花が舞い、手を開くと、そこには紫色の宝石がキラキラと輝きながら顕現していた。
「ミヤビ、これを常に身に付けてくれ」
私の手の平にアメジストのようなそれを乗せて、手ごと握り込まれ、驚いてロードを見る。
「それでみーちゃんの魔石をロードさんにあげれば、結婚指輪の魔石バージョンだね~」
トモコの言葉にドキリとし、段々と顔が熱くなってくる。
「結婚指輪? 何だそれ」
こちらに結婚指輪はないのか、ロードは分からないようで首を傾げている。
トモコよ、それ以上余計な事を言うんじゃない。
「オメェらが住んでいた世界じゃ、婚姻を結ぶ時に指輪を渡すのか?」
「そうそう。指輪を交換して、お互いの左手の薬指につけるんだよ。それは結婚している限り身に付けたままなの。貴方は私ので、私は貴方のよっていう証みたいなもの? かなぁ」
「ほぅ…」
ニヤリといやらしく笑ったロードは、私の手の平を開き、先程くれたアメジストのような石に触れると、
「なぁミヤビ、この石がついた指輪を作ってくれねぇか? そんで、オメェの魔石で作った指輪を俺にくれ」
と見つめてきた。
え? これってプロポーズ?? それとも逆プロポーズしろって事?!
『ジュリアスよ……泣くな』
「ヴェリウスぅ~…ズビ」
え? そんな感涙する所!?
涙目になっている魔神の少年の肩を、前足でポンポンたたく芸達者な犬の姿を遠い目で見てしまう。
「みーちゃん!! 結婚指輪はどんなデザインにする?」
「結婚指輪って……結婚してない「みーちゃん!! ちょうど良い雑誌があるじゃない!!」」
私が元の世界で買ってきたファッション雑誌を、勝手に漁っているトモコに呆れた視線を送るも、奴は笑いながら「こんなのどう~?」と私好みのシンプルな指輪が載ったページを開いて見せてきた。さすが心友。こちらの好みを熟知している。
「ペアリングだから、ロードさんにも似合うのにしなきゃね~」
「ちょっと待って! ロードは騎士だから指輪は邪魔になるでしょ。大体結婚してな「なら俺ぁ指輪を首に下げとくから、それ用の切れないチェーンも作ってくれ。あ、丁度心臓の上にくる長さで頼まぁ」」
話を遮るな。そして私は職人か!!
「無くならないように、落としたり盗られたりしても勝手に戻ってくるようにもしておいた方が良いよ」
「そりゃそうだな。後はしっかり愛を込めて作ってくれよ~」
等と注文をつけながら抱き締めてくる。
仕方ない。取り敢えず私の分の指輪を創るか……。
この2人には何を言っても無駄だろうと諦め、自分の指輪を創る事にした。
手の平に握らされた、ロードの神力のこもった石を見つつ、雑誌のようなリングになれと願う。勿論トモコとロードに注文された事を付与しながらだ。
すると握った拳が中側から輝きだし、石の感触が変わったので開いてみると、想像した通りの指輪が出来上がっていた。
ロードの魔石は小さな宝石となり指輪にちょこんと埋め込まれている。
「おーっ良い感じ!!」
『ふむ、魔石のリングとはなかなか洒落ているな』
「神王様さすがだぜ!!」
2人と1匹が覗き込んで感想を言ってくる。
皆の言う通り、良い出来だと思う。
指輪の出来に満足していれば、ロードが魔神の少年に石を出せとカツアゲしだした。端からみれば、ヤンキー少年に本物が絡んでいるようだと半目になった。
石をゲットしたロードは、嬉しそうに私に渡してきたが魔神の少年に謝った方が良いと思う。
「ほら、さっさと神力込めて俺達の結婚指輪作れ」
いや、それ恋人への態度じゃねぇから。結婚もしてないからな。
ムカッとしながら石に触れると、パーンッと破裂音がして石が粉々に砕け散った。
「「…………」」
場がシーンと静まりかえり、気まずい空気が流れる。
どうやら力をこめすぎたようだ。
『ミヤビ様、石に一滴しずくをたらすイメージで力をこめるといいかと』
そっと新しい石を渡してくれたヴェリウスに感謝だ。
今度は失敗しないように心を落ち着けて、ヴェリウスの言ったようにしずくを一滴たらすイメージを持ちながら石に力をこめる。
すると、途端に輝きだした石は辺りを包み込み、暫くして徐々に光を弱めていった。
光が弱まったとはいえ、未だキラキラ輝いている石は、角度を変えると様々な色へと変化するおかしな石になっていたのだ。
虹色…とはまた違う気もするが、それに近い色合いだ。
『これが“神王様の石”…』
「綺麗だねぇ~」
女性陣はうっとりと石を見ている。
一方男性陣はというと……
「すっげぇ!! 少しの神力をこめただけでこの輝き!! こんな強力な魔石見たことねぇよ!! もうこれはアクセサリーじゃなくて武器だって!! 神族の最終兵器!!」
「こりゃとんでもねぇな……」
とんでもないものが誕生したと喜んでいるのか、引いているのか。
とにかく、創れと言われたので、この石からロードの指輪を創りましょうかね。
『また神々の秘宝が生み出されてしまったか……』
ロードへ渡す結婚指…じゃなくて、御守り的な指輪ね。
えーと、付与するのはさっき言われた盗難防止と持ち主に戻ってくる仕様にして、御守りなんだから防御や回復機能を付けた方がいいよね。後はこの際だから身につけたら健康になる指輪とかどうだろうか。40越えると肩こりや腰痛、疲労に疲れ目とかあるだろうし。歯科医とかいなさそうなこの世界じゃ歯の病気も怖いからなぁ。
それと切れないチェーンだよね。
だめだ。ロードのぶっとい首に付けるチェーンを思い浮かべると、プロレスラーが振り回しているようなチェーンしか浮かんでこない。
そんな雑念に苦戦しながら創り出した指輪とチェーンは、どうにかお洒落と言ってもいいものになった、と思う。
「うわぁ~ロードさんには勿体無い位素敵に出来たね~」
「テメェどういう意味だコラ」
トモコに微妙な悪口を言われ、オラオラ言いながらも嬉しそうに指輪を見ているロード。
ヴェリウスと魔神の少年も興味津々で見ている。
「みーちゃんこれ“鑑定”してみてもいい?」
「え? トモコ“鑑定”なんて出来るの?」
いつの間に“鑑定”などという魔法(?)を覚えたのだろうか。
「“鑑定”はステータス見るのとほぼ変わらないよ? 人を見るか物を見るかの違いだけだし」
そう説明され、成る程と納得する。
それならヴェリウスやロードにも出来るのだろうかと1人と1匹を見れば、頷かれた。
この人達はいつの間にそんな魔(神)法の実験をしていたのだろう。
「うわ!! 何これっ」
珍しい虫でも発見したかのようなトモコの声に、ヴェリウスとロードも“鑑定”しだした。魔神の少年も“鑑定”出来るようで、さすが魔神だと感心する。
しかし、皆が指輪を“鑑定”した後、何故か半眼になっている事に気付き首を傾げた。
『ミヤビ様…なんという物を生み出したのですか』
「え?」
そんな大層な物を生み出した覚えはない。
防御と回復をメインに付与した指輪だ。石に力を込めた時に魔神の少年が言っていた“最終兵器”などにはなり得ないのだ。
「みーちゃん、これは伝説のマジックアイテムか何かを創ろうとしたのかな?」
「そんな物創るわけないでしょ」
健康グッズ的な要素を入れた指輪なのだ。おじいちゃん、おばあちゃんになった時に重宝しそうだとは思ったが。
「ミヤビ……この指輪は身に付けるだけで、この世界のありとあらゆる病が治り、傷や欠損部も修復される上にMP(GP)とHPも完全回復する。しかも自動で発動する防御用の結界付きときたら、伝説級どころか、もはや奇跡を起こす神級…も超す何かだ。こりゃ人間に知られちゃならねぇもんだ」
何ソレ。
私が創った物は、腰痛、肩こり、眼精疲労や歯痛に効く指輪なんですけど。
『ミヤビ様、これはもう“神々の秘宝”です。ミヤビ様の正装と、暗黒騎士の装備に並ぶ代物。みだりに創り出して良いものではありません』
ピップ○レキバン的健康グッズの指輪が何故か秘宝扱い。解せぬ。
「まぁ、出来ちまったもんは仕方ねぇし、取り敢えずお互いの魔石が入っている指輪を交換して身に付けようぜ」
と言って先程創った私用の指輪を、私の左手の薬指にはめてくれたロード。
「ミヤビの可愛い手によく似合うな」
そう恥ずかしげもなく言い切って、ニッと上機嫌に笑うので顔から火をふくかと思った。
「ミヤビ、俺の首にもそれをかけてくれ」
片膝をついて頭を下げてくるので、慌てて指輪をチェーンに通し、ロードのぶっとい首にかける。日に焼けた肌に銀色のチェーンが映え似合っていると思う。
チェーンに通した指輪の“魔石”が、ロードの胸でキラリと光っている事に恥ずかしさが増した。
「ありがとうな」
嬉しそうに微笑むロードに、心臓がドキドキとなってうるさい。
「指輪の交換が終わったら誓いのキスだよ。ぶちゅっとしちゃいなよ。そら! キース、キース」
「トモコォォ!! バカな事いってないで……んん!?」
バカなトモコの頭をはたこうとしたその時、お腹に腕を回されたと思ったら、あっという間に引き寄せられて唇を塞がれたのだ。
ロードに。
唇を押し付ける、ちょっと強引なキスをされて固まっているとすぐに解放されたが、トモコはキャーキャーとうるさくはしゃぐし、ヴェリウスはゴホンゴホンとわざとらしく咳をするしで顔が熱くてたまらない。
「誓いのキス、だろ」
ニヤリと笑うロードが、男前過ぎて殴りたくなったのは何故だろうか。




