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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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106.GPS付けないとダメだって


ロード視点



王宮内で陛下と宰相の執務室を行き来し、諜報部隊の候補をあげて書類を徹夜で作り、また陛下の執務室へ行きを繰り返し、つがいの顔が見られない事にイライラしてきた翌日の午前中。


突然ミヤビの気配が感じられなくなったのだ。


ミヤビは神王だけあって、世界中どこにいてもあの膨大な力を感じる事が出来る。

まるでこの世界を包むような、優しく強大なその力を常に感じられるので安心ではあるが、それがたった今、消えたのだ。


するとさっきまで晴れ渡っていた空は厚い雲に覆われ、次いで雨が降り始めて大雨へと変わった。


嫌な予感がして隊舎へと急ぐ。国同士の戦争よりもつがいの方が大事だ。


隊舎へ入ると俺の部屋へと掛け込み、深淵の森(ウチ)へ繋がる扉を潜る。

転移扉は問題なく使えるようだ。

ミヤビの力が全て消えているわけではない事を確認でき、少しだけほっとする。

が、まだ安心はできねぇ。その姿を確認するまでは。


玄関からそのまま家に飛び込んで、リビングやキッチン、風呂やトイレなどを確認していく。

どこにもミヤビの姿はなく2階へと掛け上がれば、ミヤビの部屋の前で呆然と佇むトモコの姿があった。


「トモコ! ミヤビの気配が消えたっどういう事だ!?」


掛け寄りながら問えば、トモコは涙目になって首を横に振った。

その様子にドクドクと心臓が嫌な音をたてる。


『ミヤビ様は、先程までこの部屋に居たようだ……しかし、忽然と消えてしまった』


ミヤビの部屋から出て来たヴェリウスがそう言って目を細めた。


「何があった……? お前らここに…っミヤビのそばに居たんだろ!?」


一体ミヤビに何が起こったんだ?!


「リビングでジュリーちゃんと話してたの……みーちゃんもそこに居て、でも途中でリビングから出ていっちゃって、その後、気配が消えたってヴェリーさんが騒ぎだして……っ」


ポロポロと泣き出したトモコの足に尻尾を巻き付け、ヴェリウスが俺を見上げる。


『もしかしたら、“異世界”に行ってしまわれたのかもしれぬ……』


異世界だと!?


『アーディンであれば異世界に渡ったミヤビ様を探す事も可能だが、今のトモコには難しかろう……ミヤビ様が自ら帰って来るのを待つ他ない』


なんて事だ! 俺の、俺のミヤビがこの世界に居ないなんて!!


迎えに行く事も出来ない己の無力さを嘆きながら待つしかねぇのか!!



ミヤビ━━━…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ミヤビ視点



実家のそばにある公園に転移(?)した私だが、どうやら能力は使えるようで、靴を出す事が出来た。

ということは、深淵の森にすぐに帰る事も出来る。

少し安心したので、姿を消して母と姉の様子を見に行く事にした。


公園から徒歩1分で実家である。

昼間にもかかわらず母の車が駐車場にあったので家に居るのだろう。

玄関に鍵がかかっているようだが、能力で玄関を通り抜ける。まるで自分が幽霊になったようだと思うが、この世界では死んでいるのだからある意味幽霊で間違いないと笑ってしまう。


まずはリビングへと入る。が、誰も居ない。

続きの和室を覗いて見ても居ないようだ。


異世界ではこのリビングにいつもならトモコとヴェリウス、ショコラがソファやラグマットの上に座ってゆったりしているのだ。

キッチンではロードがあの巨体で料理をしている。天井も扉も、ロードに合わせて少し大きくしているので実家の方が狭く感じる。


しかしキッチンにもいないとなるとトイレだろうか?


そう思った時、カタンと上から物音が聞こえた。

どうやら2階に居たらしい。


階段を上がれば、私の部屋の扉が少し開いていたのでそっと覗いてみた。


母は私の部屋の真ん中に座り込んで、呆っと一点を見つめていたのだ。


「お母さん、何してるの」


つい声をかけてしまい口を塞いだ。


「っ……雅ちゃん?」


ふっくらしていた母はやつれ、一回り小さくなったんじゃないかと思う程に憔悴していた。


キョロキョロと私の姿を探す母を見て、親不孝な事をしたと唇を噛む。

母はよくわからない宗教にハマったが、それは父が死んでしまってからだ。きっと寂しかったのだろう。私があの時母を支えていれば、と今更ながらに思う。


「ごめんなさい。先に逝ってしまって……親不孝な娘でごめんなさい……っ」

「雅ちゃん……っ」


母はきっと幻聴だと思っているだろう。にもかかわらず返事をしてくれるのは、幻聴であっても(ワタシ)の声が聞きたかったからに違いない。


「……お母さん、最近宗教ばかりで貴女に何もしてあげられなかった事、とても後悔しているの。ごめんなさいね、雅ちゃん」


涙を流す母を抱き締める。


「お母さんは頑張ってくれてたよ。それなのにいつも文句ばかり言ってごめんなさい。本当は、ずっとありがとうって感謝してたから。早く言えば良かった」

「っ…ふ…ぅっ 雅ちゃん、バナナの皮で滑って死んじゃうなんて、お母さん予想外で……っ」


そりゃあ予想外だろうよ。今時バナナの皮が道端に落ちているのもおかしいし、それで死ぬのもおかしいよ。

お母さん、アンタ、本当に泣いてる? 笑ってない?


「いや、もう死因とかいいから。それより、お母さんはこれから幸せに生きてよ。大丈夫。もう不幸な事は起きないから。好きな事を思う存分して、自由に生きて」


私は母と姉、そして姉の家族や友人達、トモコの家族の幸せを願った。


「雅ちゃん……?」

「私が願えば叶わない事はないからね! あ、そうそう。私異世界(あっち)でか、彼氏が出来たから! 後、トモコも一緒に居るから心配しないで」

「まぁ!!? トモコちゃんも!! 貴女に彼氏!? どんな仏様かしら!? パンチパーマの方!?」


仏像じゃねぇよ!!


「とにかく!! パンチでも仏像でもないから。だからこっちは気にせずに!!」

「わかったわ。仏様(パンチパーマ)の彼氏とトモコちゃんに宜しくね。あ、後お父さんに、私はもう少しこっちで遊んでからあなたを追いかけますって伝えておいてね」


いや、お父さんはこっちにはいないから。それと仏様の彼氏って……。しかし、実はゴリラですとは言えないしな。


「分かったよ。じゃあそろそろいくから、元気でね。お姉ちゃんに宜しく」

「ハイハイ。雅ちゃんもお父さんに宜しくね」

「ワカリマシタ……じゃあ」


母の顔つきが変わったので、もう大丈夫だろうと思った私は深淵の森に戻る事にした。姉は……バナナの皮が妹の死因だって聞いてきっと大笑いしただろうな。奴はもういい。家族もいるし、大丈夫だろう。


あっちに帰ったら、トモコにもご両親の姿を見せてあげよう。祝福もしておいたよって教えてあげないと。

そんな事を思いながら深淵の森(ウチ)へと転移したのだ━━…



…………いや、待てよ。



せっかく元の世界に帰ってきたのだから、本屋に行ってマンガや雑誌を購入して帰ろう。そうしよう!! あのマンガの続き気になるし、ついでにトモコの好きそうなゲームも買って帰ろう!! あ、ヴェリウスの好きそうな本と、ロードにも料理本を……


この行動が、深淵の森で待っている皆を激怒させるとは、この時の私は思いもよらなかったのだ。



◇◇◇



「しッッッッんじらんない!!!! みーちゃんが急に消えて滅茶苦茶心配したのに、異世界で買い物してたぁ!? バカバカバカ!!!! 何でそんなおかしな行動してんのーー!?」

『ミヤビ様、フォローも出来ません。反省してください』




異世界から帰って来れば、すでに日は落ち、空には満天の星々が輝いていた。


「さっきまで豪雨だったし!!」


何故かリビングでお通夜のような雰囲気を醸し出しながら、皆が集まっている様子を見て本当に驚いた。忙しいと言っていたロードもいたし、魔神の少年もまだ居たし、トモコは泣いているしで、満足な買い物が出来ホクホクで帰って来た私とは正反対であったからだ。


そんな雰囲気の中、恐る恐る「ただいま~」と声をかけてからが説教の始まりだった。

まずロードが体当たりからの絞め殺しで息が止まり、畳み掛けるようにトモコに首を絞められ、ヴェリウスは下半身にまとわりつき、そして買い物袋を目撃されて冒頭のように激怒されたのだ。


「スミマセン…」

「大体行くなら行くで、きちんと伝えてくれないと!! というか行くなら私も行くし!!」

「いや、今回のは偶然でして……」


ロードの膝の間で正座をさせられ30分。そろそろ痺れが……。


先程経緯を説明したのだが、怒り…というよりは心配だったのか、皆の説教が止まらない。トモコに至っては自分も行きたかったんだと主張し始めた。


「ミヤビ、俺ぁ捨てられたかと思った……」


耳元で囁かれるバリトンにゾクゾクして身体を捻れば、ロードが哀しそうな目で私を見ていた。


「捨てるわけないデショウ。ロードの事も母には一応報告してきたし」


パンチパーマの彼氏だと思われているけどな。

母の中では仏様=大仏的なイメージがあるのだろうか? 大仏の頭はパンチパーマじゃないんだよって教えてあげた方がいいのか?


「みーちゃん、おばさんにロードさんの事報告したの!? それはおばさん晴天の霹靂だろうね~」


()天の霹靂”だ。晴じゃない。


「トモコの家族と一緒に“祝福”してきたから、よほどの事があったとしても不幸にはならないよ」


そう伝えれば、トモコは目をパチクリさせた後、エヘヘとうれしそうに笑って「ありがとう~」と言った。


ロードも母に報告したと言った時から若干頬に赤みがさしたので嬉しかったのかもしれない。


そういえば、ロードのご家族にはまだ会った事も話題に上がった事もなかったが、挨拶に行った方が良いのだろうか? 普通は行くよね? もしかしたら魔素の枯渇で亡くなっている事も考えられるが…。


「ねぇロー『しかし、異世界へは神王様のお力でも行けなかったと前に仰っていましたが、何故行く事が出来たのでしょうか?』」


ロードに話し掛けようとしたが、ヴェリウスによって話を遮られた。


「多分前は、元の世界に戻ったらこっちには二度と来れないかもって気持ちが強かったからだと思う。今回はそんな事考えずに、家族の様子が気になっちゃってたから……ほぼ眠りかけだったし」


説明すれば、『成る程』と納得された。

魔神の少年はキラキラとこちらを見ながら、何かを取り出した。


「神王様、今回のように神王様が異界へ行ってしまえば、オレ……私達は追って行く事が出来ない、ません。唯一、世界を越える事の出来る能力を持っている人族の神も、今はまだ幼い為その力をコントロールしきれてない、ませんから」


確かに。と頷けば、小指の先位の大きさの石を机の上に2つ置かれた。

首を傾げて魔神の少年を見れば、にっと笑って続きを話し始める。


「これは力を溜め込む事の出来る石です。ここにこうして神力を送ると……」


石を1つ握り、自身の神力を石に送ると握っていた手を開く。

魔神の少年の手の平には、ルビーのようにキラキラ輝く赤色の宝石が乗っていた。


「お~っ綺麗な宝石だねぇ」

『ジュリアスの力を感じるな。もしやこれは“魔石”か?』


トモコとヴェリウスが興味津々に覗き込んできた。


「さすがヴェリウス。よく分かったな」

『力を溜め込む石となれば“魔石”しかなかろう』


魔神の少年とヴェリウスの話に、トモコの瞳がキラキラし始める。


「神王様、この石は“魔石”と言い、先程も言った…お、伝えしま、したようにこうして“力”を溜め込む性質を持っている。…おります」


魔神の少年はその“魔石”とやらで何がしたいのだろうか?


「オレ達……我々神族は、自分の力であればどこへいっても感じる事が出来るから、神王様が異界に行く際の目印にこの“魔石”を持ってもらったらどうかと思って見せた…お見せ? しまし、た」


成る程。要は発信機か。

GPS代わりに付けておくって事ね。

それにしても、敬語が下手くそだな。もう無理しなくていいから普通に喋ってくれ。

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