104.トモコのメーロンメロメロパーン
結局騎士4人は、額を思いっきり床にぶつけて記憶の一部が飛んでいた。
私の事はさっぱりと忘れ、「俺達はここで一体何をしているんだ??」と混乱し、ロードをみて余計混乱したあげくに敬礼して帰っていった。
「ロードって偉い人だったんだねぇ」
王宮を歩けば皆から敬われ慕われているロードを何度も見て、そんな感想をもらせば、
「神王が何言ってんだ」
と呆れられた。
私は神王と呼ばれる種族の一般人だと言えば、そんな種族はねぇと言い切られた。
『“神王”様はこの世でただお一人。ミヤビ様だけです。例えミヤビ様に御子が出来ようと、御子は“神王”にはなり得ません』
ヴェリウスがそう言って私を見た。可愛すぎる様子に悶えそうになる。やはり犬は可愛い。
「“神王”ってのは人間の王族と違って世襲制じゃねぇんだな」
ヴェリウスの話にロードが加わった。興味を持ったようだ。
『その通り、“神王”とはその魂を持つ者にしかなれぬ。故に唯一無二なのだ』
「んじゃ、俺とミヤビの子は神族って扱いになんのか?」
『それは……今まで神王様が御子を作られた事は無いのでな。生まれてみねば分からぬ。恐らくはお主の種族……鬼神を継ぐだろうと考えられるが』
ヴェリウスとロードの会話が、私の子供が生まれる前提で話している為動揺してしまう。
王妃様の所でも子供の話が出たが、今まで自分が子供を生むなんて考えた事もなかった。
相手がいなかったからというのもあるが。
チラリとロードを盗み見れば、視線を感じたのかロードもこちらを見て目が合った。
「俺達の子供の事は後々考えれば良いだろ。それより今は、その過程の事を考えねぇとな」
ニヤニヤしながらバカな事を言うエロゴリラに胡乱な目を向けていれば、「みーちゃん達みぃつけたーー!!」と言う声に脱力しかけた。
『馬鹿者。時間がかかり過ぎだ』
見た目だけは極上美少女のトモコに近づくと、尻尾でトモコのお尻をベシンッベシンッと叩き、師匠らしく説教を始めたヴェリウス。
制限時間ギリギリとはいえ、時間内に見つけたのに何で怒られるの!? という顔で助けを求めてくるトモコから目をそらす。
かくれんぼをしていた事をすっかり忘れていた。
『お主は気配察知能力をもっと向上させねば、守れるものも守れぬぞ!』
ガミガミと説教を続け、尻尾でお尻を百叩きする光景に薄目になってしまったのは言うまでもない。
「そういやぁ、明日っから忙しくなりそうでなぁ。飯が作れそうにねぇんだ」
説教中にロードがそんな事を言い出したので驚いた。
普段は忙しくても、朝昼晩のご飯を作ってくれていたロードが、ご飯も作れない忙しさとは、家に帰れないと言っているのと同義なのだ。
「王宮に泊まり込み?」
「ちぃとばかしやる事があってな。寂しい思いをさせちまうな……」
それは大丈夫だが、師団長は大変だなぁと思う。
「(ロードはゴリラだから体力は大丈夫だと思うけど、)無理しないでね?」
その一言でロードは歓喜に震えているようだ。
「何か新婚夫婦の会話みてぇでいいな。ソレ」
新婚夫婦!? 何言ってんだ!! まだ結婚してないしッ こ、こ、恋人になったばかりだし!!
「ククッ 可愛い反応だなぁ。ミヤビ」
「っロードだってさっきから赤くなったりしてたでしょ!」
そんな言い合いをしていると、いつの間にか説教が終了していたらしいヴェリウスとトモコが呆れたような目でこっちを見ていた。
「このバカ夫婦、どうにかしてほしいんですけど~」
『無理だな。人族のつがいとは一重にこのようなものだと理解する他ない』
スイマセンデシタ。
◇◇◇
明日といいながら、今日から王宮に泊まり込む事になったロードと別れ、深淵の森へと帰って来た私達3人は、お城とは正反対の小さな家の小さなリビングでリラックスしながら明日の事を話していた。
当然明日は一日中ゴロゴロする気満々の私だったが、ランタンさんと魔神の少年が来るとの念話がヴェリウスに入ったらしく、ゴロゴロも諦めざるをえなくなった。
そういえば、ランタンさんに関して何か話題があった気がするが、何だっただろうか? トモコがキーワードだった気が……う~ん、思い出せない。
思い出せないという事は、そんなに重要な事じゃないんだろう。
そんな風に軽く流していたのだが、その翌日……あんな惨劇が起ころうとは、この時の私は思いもよらなかったのだ。
翌日、念話通りやって来たランタンさんと魔神の少年。
2人共朝からハイテンションで困ってしまう。
「キャー! ミヤビ様ぁ~っ おはようございますぅ」
相変わらずメロンな水風船を揺らして登場したランタンさんは、天空神殿で私が変えてしまったマーメイドドレスがよほど気に入ったのか、それ以来普段着でもマーメイドラインの服を着ている。
ランタンさんいわく、“エルフ”の洋裁屋に発注して作ってもらったらしい。
“エルフ”とは耳の長い森の民とか呼ばれているあの“エルフ”の事かと聞けば、森の民と呼ばれてはいないが確かに耳は長いと言われた。
この世界の“エルフ族”は手先が器用で装飾品や服を作る仕事に就いている人も多いらしい。
ただ、気の弱い種族らしく、ストレスには滅法弱いのだそう。遊び半分で驚かしたりしても失神してしまうそうで、脅しや恐喝などもってのほかなのだとか。
あまりの恐怖に死んでしまう事もあるらしい。
何という繊細さだろうか。トモコにエルフの爪の垢を煎じて飲ませたい程だ。
「神王様っ オレっ、わ、私を覚えてるか…ッ お、おい、ででしょうか!?」
ランタンさんと服の話題で盛り上がっていれば(ほぼランタンさんが一方的に弾丸トークしていた)、そう言って顔を真っ赤にした魔神少年が話しかけてきたので頷いた。
名前は忘れたが、マカロンを竜王と勘違いしていた事や、ロードと一触即発だった事、大食漢な食いしん坊ということ等は覚えている。そして敬語が下手くそだということも。
「っ嬉しい、です!! あの、オレ、神王様に「あーっ ランタンさんにジュリーちゃん、来てたんだぁ。みーちゃん、来たんだったら教えてよ~」」
魔神少年の言葉を遮って登場したのは勿論トモコだ。
「トイレ入ってたから教えられなかったの」
「あ、そっか」
エヘヘとキラキラの美少女スマイルをくりだすが、さっきまでトイレでふんばってたのだから効果は半減だ。
「トモコ!! オレが今神王様に挨拶してるんだから邪魔すんじゃねぇよっ」
「え~。ジュリーちゃんどうせみーちゃんに相手にされてないんだからそんな気張らなくていいでしょ」
「放っとけ!!」
何だかフレンドリーだなと思っていたら、ヴェリウスが何処からかやって来た。
『やはり来たか……』
真面目な顔で呟いているが、約束したのだからそれは来るだろう。とヴェリウスとランタンさん達を交互に見る。
「あら、トモコ! 貴女なぁに、その寝癖! みっともないから綺麗になさいよっ」
トモコを見て母親のような事を言い出したランタンさんに、何か注意しなければならない事があったような……と一瞬頭をよぎる。けれど出てきそうで出てこない。
メロン……いや、メーロンを揺らしながらトモコに近付いていったその時、
パァァーーーーーンッッ
風船が割れたような音がして、すぐ後に「ギャアアァァァァァ!!!!」という悲鳴が上がったのだ。
トモコのそばで悲鳴をあげるメーロンの無くなったランタンさんと、引きつった顔でランタンさんの胸元を見ている魔神少年。そして、北○の拳ばりにオーラ的何かを出しながら、眉間にシワをよせて、今にも「お前はもう、死んでいる」と言い出しそうなトモコが立っているという混沌とした状況の中、唯一動揺していなかったヴェリウスが、『やはりか』と呟いた事で思い出した。
昨日のステータスの“etc.”を。
「メロンは滅する。山は潰す。私の近くに立つことは許さない……」
ぶつぶつ言っているトモコは、ついに新たなスキルを手に入れたのだ。
“貧乳の怒り”
発動条件は、神王特製メーロンの水風船を目にした時。
その後は巨乳に怒りを感じた時に発動可能。効果は神王の力で創った水風船を破壊。 巨乳はまな板に。
というふざけたスキルであるが、それを見事に手に入れたトモコ。
「とぉ゛ぉ゛~もぉ゛ぉ゛~こぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッッ」
地を這うような、完全に男の声でトモコの名を叫ぶランタンさんに、更なる攻撃を仕掛けたトモコ。
「スキル、 “魅了”発動!!」
「!!?」
ピンク色の光がランタンさんを包んだと思えばすぐに消え、ランタンさんも何が起こったのかよく分かっていないようで、「一体何だったの??」と動揺している。
「まさかスキルの連続攻撃とは……しかも“魅了”って、怒ったランタンさんを自分にメロメロにさせて許してもらおうって事?」
『確かに、“魅了”を使えばそれも可能かと』
ヴェリウスとトモコの攻撃について話していると、ランタンさんの様子がおかしくなったのに気付いた。
「あら……?」
自分の胸元を見て、トモコを見てを繰り返すランタンさん。
「やっぱり神であってもトモコの“魅了”は効くのかぁ」
『トモコ自身も神ですからね……しかし創世の神の一人であるランタンに効くとなると厄介ですね』
ヴェリウスの言葉に頷きながらトモコ達を見る。
「これは……っ あ、アタクシ…アタクシ…っ」
俯いて震えだしたランタンさんは、耳が赤い所を見るとかなり興奮しているらしい。
「アタクシの胸筋ってなんって素晴らしいのかしらぁ!!!!」
え?
ヴェリウスと2人、首を傾げる。
「メーロンがなくってもアタクシの胸、素敵すぎるわぁ~~!!」
自身を抱き締めながらクネクネしているランタンさんが気持ち悪い。
え? “魅了”って……まさか、トモコを好きにさせるんじゃなくて、まな板胸を好きにさせる為に使ったって事?
「フッ これが本当の、“トモコのメーロンメロメロパーン”」
呟いたトモコ。言ってもいいかな……
ツッコミが追い付かない。




