表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/46

第22話 侍女3姉妹「オリビア様は素材がメチャクチャいいので、磨けば最っ高にギャンカワなお姫様になるのです!」

■□オリビア視点■□




 ぼんやりと目を覚ますと、頭の横にモコモコした感触。


 (まぶた)を開けなくても、ポチの毛皮だと分かる。


 ああ。

 とっても幸せ。


 何だかいつもより、布団も心地良い気がする。


 もう少しだけ、眠ってしまおうか?




 そこで急激に、意識が覚醒した。


 ここは離宮ではない。

 それどころか、ヴァルハラント王国でもない。


 わたしはヨルムンガルド帝国に、亡命してきたのだ。




 フカフカの布団から、ガバリと身を起こす。




「おはようございます、オリビア様」


「え……ええ。おはよう。起こしに来てくれたのですね? ありがとう」


 昨日接客してくれた侍女が、ベッドの(そば)まで来ていた。


 やけに楽しそうな笑顔だ。




 似ている――




 ガウニィ・スキピシーヌが、わたしの髪や服をいじり倒す時の笑顔に。




「うふふふ……。昨日申し上げた通り、本日は忙しくなりますよ。皇帝陛下との(えっ)(けん)に備えて、おめかししましょうね」


 そう言いながら侍女は、両手をワキワキさせている。


 何が楽しいのだ?

 こんなちんちくりん王女を飾り立てても、大した美しさには……。




「まずはお風呂です。湯殿へとご案内いたします」


「えっ? あっ? ちょっ?」


 いつの間にか他にも2人の侍女が現れて、わたしの両腕をガッチリ拘束してしまった。


 やはり似ている。

 3姉妹と見て、間違いないだろう。

 姉妹らしい、完璧なコンビネーションだ。


 これはご案内というより、連行なのでは?


 ポチに「助けて」と目配せをした。

 だがわんこは「くわぁ~」と欠伸をして、再びベッドで寝る体勢に入ってしまう。




 わたしはあれよあれよという間に風呂場へと連行され、素っ裸にされてしまった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 浴場はおそろしく広く、神殿のように荘厳な造りとなっていた。


 桶ですくわれたお湯が、ゆっくりと背中にかけられる。


「オリビア様、熱くはありませんか?」


「大丈夫です。ほどよい温かさね」


 離宮に幽閉されていた頃は、井戸水で体を洗うだけの生活。

 冬は寒くて、本当に辛かった。


 湯浴みなど、王宮に居た頃以来。

 何年ぶりだろうか?




「まずは軽く、体を洗わせていただきますね」


「まあ! 帝国の(せっ)(けん)は、ビックリするほど泡立つのですね」


 柔らかそうな布に、モコモコの泡を大量に生み出していく侍女。

 ヴァルハラント王国の石鹸では、こうはいかない。


 泡立てた布で、背中を優しく(こす)られる。


 王国での辛い思い出や、これから先どうなるのかという不安。

 それらも(あか)と一緒に吸い出され、剥がれ落ちていくのを感じる。


 


 お湯で泡を洗い流されると、全身が軽くなった気がした。




「さあ、オリビア様。一旦湯に()かり、お体を温めましょう」


「紅いお湯……とっても綺麗。あっ、花びら。これは()()の湯ね。香りも素晴らしいわ」


「『テネリ・ローザ』という品種の薔薇を、使用しております。200年間美しい姿を保ち続けたという、【薔薇の魔女】テネリにあやかって名付けられたそうです。とても美容に良い湯ですよ」


 「魔女」という言葉に、ドキリとする。

 「あやかって」という表現から、この国ではそれほど悪い意味で使われてはいないようだ。


 帝国の人々なら、【緑の魔女】も受け入れてくれるだろうか?




 湯に浸かると、(ぬく)もりがじんわりと体に伝わってくる。


 心まで、ホカホカしてきた。


 こんな素敵な湯に浸かれるのも、フェン様の口利きによるものだろう。

 彼女には、感謝せねば。




「そういえばフェン様は、どちらにいらっしゃるのです? お会いして、救出してくださったお礼を言いたいのですが」


 わたしの問いに、侍女3姉妹が顔を見合わせる。


 そして、ものすごく嬉しそうに顔を(ほころ)ばせた。




「フェン様の方も、皇帝陛下との謁見に備えて準備をなさっています。潜入任務用ではない本来のお姿で、オリビア様を迎えにこられますよ」


「だからオリビア様も、し~っかりおめかししちゃいましょう」


「宮廷勤め侍女の名に懸けて、オリビア様を最高のお姿にしてみせます!」


 みんなやる気満々だ。

 拳をゴキゴキと鳴らしている侍女もいる。




「さあさあ。お湯から上がったら、このマットの上に寝そべってください。うつ伏せで。全身をマッサージしながら、クリームを塗り込んでいきますね」


 侍女達は手慣れた様子で、わたしの全身をもみほぐしていく。


 くぅ……。


 これは……。


 気持ちいい……。


 気持ち良過ぎて、眠ってしまいそうだ。

 起きたばかりだというのに。


 うとうとして、意識を保っていられない。




「眠っても、大丈夫ですよ」


「でも……皇帝陛下との謁見が……」


「ちゃんと起こしますので、安心してください」


「そんなに()(みん)(むさぼ)るなんて、申しわけないわ。わたしは【緑の魔女】なのだから、他人より頑張らないと……」


 頑張って、みんなの役に立たないと。


 そうしなければ、わたしに居場所などない。




「オリビア様は、今まで頑張り過ぎたのですよ。今は眠って……生まれ変わるのです。本来の姿――【豊穣の聖女】に」


「豊穣……の……聖……女……?」




 謎の呼称に疑念を(いだ)きつつも、マッサージの心地良さには逆らえない。




 段々と意識が、(もう)(ろう)としてきた。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 ボーっとした状態のまま、わたしは謁見仕様にコーディネートされていった。


 (くし)が髪をとかす感触が、妙に心地いい。


 ずいぶん滑らかに、櫛が通るようになったものだ。

 王国で幽閉生活を送っていた頃は、ゴワゴワの緑髪だったのに。


 シャンプーという、髪専用液体石鹸のおかげだろう。


 なんだかやけに上等なドレスに、着替えさせられている気がする。

 パーティ用の(きら)びやかなものではないが、シンプルでも美しいエンパイアラインのドレス?

 色はさわやかな空色か?


 鏡に自分の姿を映して見るが、ぼやけてはっきりしない。


「「「大変よくお似合いですよ」」」


 侍女3姉妹が完璧に声をシンクロさせながら()めてくれるが、実感が湧かない。

 なぜなら目がぼやけているから。




「うう~ん、ダメね。まだ目が覚めない。少しお散歩でもして、頭をスッキリさせたいわ」


「でしたらこの宮殿には、絶好の場所があります。……フェン様にお伝えして。オリビア様は、空中庭園で待っていると。せっかくですから、ロマンチックな場所で対面といきましょう」


 侍女3姉妹のうち1人が、フェン様の元へと向かう。


 わたしは残った侍女2人から、屋外へと連れ出された。

 

 

 

薔薇の魔女、テネリちゃんが活躍するお話はこちら。

https://book1.adouzi.eu.org/n7118hl/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓他にはこのような作品を書いています↓

異世界に召喚され損なったオッサンが、チート能力だけ地球に持ち帰って現金無双
【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

異世界で魔神討伐をして得た超人的な力で、高校野球界を蹂躙せよ!
【異世界帰りの勇者パーティによる高校野球蹂躙劇】~野球辞めろと言ってきた先輩も無能監督も見下してきた野球エリートもまとめてチートな投球でねじ伏せます。球速115km/h? 今はMAXマッハ7ですよ?~

格闘と怪力で、巨大ドラゴンをフルボッコにする聖女の恋愛と冒険譚
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

近未来異世界で繰り広げられる、異世界転生したレーサーの成り上がり物語
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

ファンタジー異世界の戦場で、ロボヲタが無双する
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~
― 新着の感想 ―
[一言] テネリちゃんキターーー!!!!(大歓喜)
[良い点] 磨かれてさらにかわよくなるのいいですよね ぴかぴかになったオリビア見てぎゅんぎゅんするフェンさま期待 [一言] あらー!いいですねいいですね! テネリの言い伝えがある土地!すばら!盛り上が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ