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八十五話 少年期の終わり

 ターシャの礼拝堂に拾われてから数年、兵馬は毎朝毎晩の祈りを欠かしたことはない。

 とは言ってもターシャの祈りに付き合っていただけで、彼自身が信仰心に溢れているわけではない。それは習慣のように身に付いたもので、そこに意味を見出したことはなかった。


 だが今、兵馬は生涯で初めて神へと心からの祈りを捧げている。

 身を清め、瞼を閉じ、正式な手順を踏んで長く祈る。届くように語りかける。


「ええと……天にまします我らの父よ、だっけ」


 ターシャは毎日、自らが殺めた相手へと祈りを捧げていた。

 そして自らの罪がすすがれれるようにとも。


「人を殺しておいて、自分は救われたいんだ。利己的なクズだよ。私はね」


 そう自嘲するターシャは、兵馬に一度も信仰を強いなかった。神父を殺して教会主に成り代わった、そんな自分の信仰を卑下していたのかもしれない。

 だから兵馬の祈りは見様見真似でしかない。それでも、心は精一杯に込めて。


「神よ。どうか……どうか、ターシャを救ってください。

彼女は善人です。俺を救ってくれた。多くの悪を裁き、誰かの悲しみを癒した。こんな目に遭っていい人じゃないんだ!」


 

 ノーリが現れたあの日から、ターシャの病状は刻々と進行し続けていた。

 腹に受けた一撃がトリガーとなったのか、あるいは痩せ我慢の糸が切れたのか。

 濁った血を吐き、肺が破けそうなほどに咳き込み、食事を食べれば胆汁混じりの緑味がかったげろ(・・)を逆流させる。

 高熱と小康を繰り返し、起き上がりざまに転べば軽く打っただけの部位は赤黒いアザになり、震える手はたちまちに痩せ細っていった。

 それでもターシャは兵馬に当たることなく、穏やかに笑みを浮かべてみせる。


「君は、何も心配しなくていいんだよ」

「それは……それは、無理だよ」



 天は自ら助くる者を助く。

 どこの誰が言ったのかは知らないが、目を通した本に記されていた一文だ。

 なるほど、今の兵馬の胸には痛切に響く。どうやら神様は祈るだけでは福音を聞かせてくれないらしい。

 だとすれば、行動するしかないだろう。



「ターシャ、俺はあの科学者に連絡しようと思うんだ」

「……」


 兵馬は一人で暴走する性格ではない。

 話すことで病床のターシャに心労を掛けてしまうが、それでも勝手な決断で動く方が後々、より大きな心労を背負わせてしまうかもしれない。

 そう踏まえ、きちんと筋を通して伝えた。それだけの信頼関係が二人の間には築かれている。


 ノーリ博士の来訪から一ヶ月が経った頃だ。ただそれだけの期間でターシャの頬はやつれ、目元には色濃く死相が浮かんでいる。症状の重さに眠りが浅く、くまができているのだ。

 喉に血痰が絡むようで呼吸が辛そうだ。他人から見ただけではわからない痛みも内には抱えているのだろう。


 消耗しきったターシャは悲しげに目を伏せ、兵馬の手を握りしめて口を開く。


「こうなってから、何度も言ったけど。最後にもう一度だけ私の希望を言うね」

「……うん」

「ここを離れて。あの男は君を追うだろうけど、それを退けられるだけの戦う術も教えたよ。君はもう、一人で生きていける」

「……」


 兵馬は返事ができず、ただターシャの手を見下ろしている。強く握っているつもりだろう彼女の手を見つめている。

 ターシャは力の強い女性だ。出会った日、デコピンをされただけで視界が白飛びしたのを今でも昨日のように覚えている。

 だが今、兵馬の手を包む両手はあまりにも非力だ。力を上手く込められずに微かに震えている。


 そんな自分の状態に気付いたのか、ターシャは窓からの柔らかな陽光に照らされながら、そのまま光に溶けて消えてしまいそうに弱々しく笑った。


「ただの自業自得だよ。孤児が一人で、手段を選ばずどうにか生きてきて、色々な無理のツケが今回ってきた。それだけだから……君が泣くことはないんだよ」


 俯いたまま、兵馬の目からは涙が溢れている。その雫をターシャの指がそっとすくう。

 悲しい。気を抜けば慟哭が喉を突き破りそうなほどに悲しい。

 そんな感情を与えてくれたのはターシャだ。無感動に生きていた自分を人間にしてくれたのはターシャだ。


「君を愛してる。ほんの気まぐれの出会いだったけど、息子か、弟か、どっちでもいいね。とにかく愛してるんだ、心の底から。だから……逃げてほしいの」

「俺も……俺も愛してる。本当に、本当に……!」


 だったら、答えなんて最初から決まってるじゃないか。


 兵馬は彼女の手を力強く握り返し、頬へそっとキスをした。

 ターシャは驚いたようで、「何を……」とぱちくりと目をまばたかせる。


 背丈で追い越し、一人称は僕から俺へと変わり、もう子供ではなくなった兵馬は確固とした個として判断している。

 

「ノーリ博士に連絡して、あなたを助ける。あの博士を信用するわけじゃないけど、このままでいたって死を待つだけだ」

「……最低だね、私は。こうなる前に、君を縛る前に、自分で命を絶つべきだったんだ。けど……できなかった」

「それでいいんだよ、ターシャ。俺はあなたに生きていてほしい。笑っていてほしいから」




----------




「そしてシスター・ターシャの病は治療され、兵馬樹は狂気の科学者ノーリの研究に身を投じました。はい、この話はここでおしまい」

「……は?」


 ちゃんちゃんとばかり両手を広げたドニへ、詩乃が困惑と怒気を半々の視線を飛ばす。

 延々と長語りをしておいて、肝心の部分に差し掛かったところで打ち切りめいて話を閉じる。そんな真似をされて腹を立てない人間はいないだろう。


「いくらなんでも中途半端すぎだよー!」


 プリムラも拳を振り上げてキイキイと怒りを表明している。

 横に並んだ三人で兵馬だけが沈痛な面持ちで俯いていて、詩乃はその様子が気になりながらもドニに話の続きを促す。


「ふざけないで。ちゃんと最後まで話して」


 落ち込んだ兵馬を慰めようにも、事情がわからないのでは言葉の掛けようがない。

 最初は旅費を肩代わりして雇っただけの関係だったが、今はもう旅の仲間だ。その過去を知ることはきっと自分たちにとって大切なことで、どうにかしてドニに話を続けさせなくては。

 詩乃はいつもの寡黙(かもく)ぶりを投げ捨て、テーブル越しのドニへと語気を強める。


「ターシャさんはどうなったの。本当に治ったの? 兵馬は実験に協力したの? ノーリ博士の“ニギア計画”ってのはなんなの。それとドニ、あなたは今の話のどこで兵馬たちと関わってたの?」

「おやおや! そう矢継ぎ早に聞かれては困ってしまう。しかし困ったね、話せるのはここまでなんだよ」

「どうして!」

「危ないからだよ、詩乃」


 口を挟んだのは兵馬だ。

 兵馬は俯いたまま、声だけを尖らせてドニへと向ける。話の続きを押し留める。


「“ニギア”のことを話すのは許さないぞ、ドニ」

「フフ、そう睨まなくとも話さないさ。私はそこまで迂闊ではないよ」


 ドニは微笑み、エッグスタンドに立てられた半熟卵へと塩を振りかける。スプーンで上品に黄身を掬って口へと運ぶ。

 そのやたらに上品な仕草は詩乃を苛つかせ、ガンと拳でテーブルを叩いてドニを睨む。そして兵馬へと目を向けた。


「なんなの……! 秘密主義もいい加減にして!」


 詩乃の激しい語調に応じ、兵馬が顔を上げ……その目は真っ赤に充血していて、詩乃は怒気を削がれてしまう。

 こみあげる涙を堪えているのは明らかで、声も涙声に微かな震えを帯びている。


「……お願いだ、聞かないでくれ。これは俺たちの事情で、知ればもう戻れない。巻き込みたくないんだ。詩乃たちを」


 その声に、詩乃は追求できなくなってしまう。詩乃が知る限りでは兵馬が泣くのは初めてだ。

 いつも飄々としている青年が滲ませた涙と揺れる声は、詩乃とプリムラのことを本心で案じているのが深く伝わってきた。


 黙り込んだ詩乃と兵馬を見比べ、プリムラが悩みながらおずおずと口を開く。


「えっと、兵馬、前に言ってたよね、詩乃に似た人を守れなかったって。ってことは、ターシャさんは……」


 詩乃がドニに目を向けると、彼はまた目元に曖昧を浮かべてみせる。


「ターシャ。彼女の顛末について語る権利は私にはないよ。語れるのは……兵馬、君だけだと思うけれど。どうかな?」

「……俺は。いや、僕は……」


 兵馬の方向へと手を伸ばし、ドニは長い指でストンとテーブルを叩く。

 促されつつも、兵馬はしばらく押し黙ったまま……やがて、消え入りそうな声で訥々(とつとつ)と口を開いた。


「ターシャの病は、ノーリの治療で治った。完治じゃないけど、ほぼ健康体ってぐらいになって、ターシャも驚いてた」

「……治ったんだ」

「意外にもね。ノーリは約束通りにターシャの病巣を取り除いた。二人で一緒に喜んだよ。それを見届けてから、僕は研究の実験体になったんだ」


 兵馬の一人称が“俺”から“僕”に戻っている。それは彼が感情を押し包み、仮面を被ろうとする時の口調なのだと詩乃は理解している。

 だが指摘はせずに、そのまま耳を傾ける。


「さっきも言ったけど、研究については話せない。ただ、色々なことがあって……僕は同じように実験体にされていた何人かと、ノーリを倒そうとしたんだ」

「やっぱり悪人だったの?」

「すこぶる付きのね」


 ふと、ドニが諸手を上げて口を挟む。


「さっきの質問に一つ答えておこうか。兵馬と私の関わりはここさ。共に実験体、共にノーリを倒すべく反旗を翻した。ライラという女性をリーダーとしてね」

「喋りすぎだ、ドニ……!」

「ふふふ、失敬」


(ライラ……? 前に、セントメリアでリーリヤを見たときに兵馬が呟いてた名前。どういう関係が……ううん、それを考えるのは後回し)


 思考は一瞬に留め、詩乃はすぐに顔を上げる。


「……話を戻すよ、詩乃」

「うん、続けて」


 感情を押し殺した声のままに、兵馬は続きを語る。


「僕たちは広い研究所で戦いながら、ノーリを目指して進んでいた。その時……現れたんだ。ターシャが」

「ターシャさんが?」


 横から、ドニが頷いて相槌を挟む。

 その目は詩乃の目鼻を懐かしむように眺めている。


「私が彼女を見たのはその時だよ。佐倉詩乃、本当に君とよく似ていた」

「……」


 兵馬が言葉を継ぐ。


「ターシャは、同じように実験体にされていた。病気の手術のどさくさに紛れて、因子を植え付けられていたんだ。ノーリ、あの男は、ターシャが非適合者だとわかっていながら……」

「……」

「実験に適合できなかったターシャの体は暴走した。

浅はかだった。過去の自分を殺したくなるぐらいに。思わなかったんだ。死ぬよりも酷いことがあるなんて。あんな思いをさせてしまう可能性があるなんて……」


 胃の腑からせり上がってきた感情を噛み殺し、兵馬は苦行僧のような表情で、自罰的に口を動かし続ける。

 詩乃は思わず「もういいよ」と言いそうになるが、兵馬はそれを手で制した。


「ターシャは、ターシャは怪物になっていた。俺の姿を目にした途端、「逃げて」って呟いた。それから皮膚が変色して、膨れて、巨人みたいになって、物凄い強さで暴れ回って、苦しそうに……だから、俺が殺した。殺したんだ、この手で」


 その瞬間を語る時、兵馬は一切の感情を遮断していた。

 目に一切の煌めきを宿さず、ただ事実を淡々と並べ立てる。それほどに耐え難く、それほどに狂おしい悔悟の記憶。

 深海に沈められたような表情のまま、兵馬は話の末尾を結ぶ。


「神に祈っても意味はなかった。ターシャは毎日祈ってたのに、あんな苦しみを味わって死ぬことになった。

もちろん僕のせいだとはわかってる。だけど同時に、僕は神ってモノを二度と信じないことに決めたんだ」


 減圧症のダイバーのような顔で、深海から浮上したかのように長く長く息を吐く。

 そして兵馬は「僕はノーリを殺した。この話は終わりだよ」と語尾を切った。

 きっと老博士のことは単なるケジメとしての結末で、兵馬にとって重要ではなかったのだろう。


 聞き終えた詩乃とプリムラが発する言葉を探していると、それよりも早く、兵馬が鋭い語調でドニへと問いかける。


「ドニ。シャングリラは宗教組織としても動いているな」

「その通り。大都市圏には概ね根を張っているよ。聖都セントメリアも含めてね」

「お前は神になろうとしてるのか?」

「そうだね、偶像であろうとはしているよ。人類をよりよい明日へ導くために。それを神と呼ぶのなら、そうなのかもしれないね」

「今の僕は無神論……いや、廃神論者だ。お前が神になるつもりなら、遠からず敵対することになる」

「フフフ、君とは争いたくないなぁ」


 牽制しあうような会話を横に聞きながら、詩乃は素早く言うべきことを整理する。

 浮かぶ疑問は少なくないが、一番気になる点を口にした。


「ねえ。前にも聞いた気がするけど、兵馬って何歳なの」

「兵馬樹は私のちょうど20歳下だよ」


 兵馬ではなくドニが答えた。

 確か、ドミニク・エルベ議員は40歳に届くか届かないかの年齢だ。だとすれば兵馬が以前に答えた19歳という自称は正しいだろう。


 と、なれば。詩乃には気に入らない点が一つある。

 

「今の話、どう聞いても数年前のことだよね。じゃあターシャさんは最近死んだばっかりでしょ? その生まれ変わりみたいな扱いをされても反応に困るんだけど」

「それは……」

「よく聞いて。私はターシャさんじゃない!」


 怒りすら感じさせる口調で強く言い切った詩乃へ、兵馬は目を丸くして少し驚く。

 それから肩を落とし、すっかり消沈した様子でうなだれる。


「わかってる。わかってた、つもりだったんだけど……失礼だよな。不愉快な思いをさせてごめん」

「謝れとか、そういうことじゃなくて!!」


 鼻先の付きそうな距離へと顔を近付け、詩乃は瞳を覗き込む。

 留めた涙に覆われた兵馬の視界に、自分の姿を強引に映しこむ。

 そして一転、いつもの静かでそっけない口調で、しかしそこに熱を込めて語る。


「私はターシャさんじゃない。だから私は死なないよ。村では病気になったけど、なんやかんやで死ななかったでしょ」

「いや、あの時はかなり危なかっ」

「でも死ななかった」

「……そうだね」


 頷いた兵馬の手を両手で包み込んだ。

 青年が辿ってきた不遇と与えられた愛情、それを突然に取り上げられた経緯を知って、なら新しい温もりを伝えようと手を握りしめる。


「私は兵馬を置いていかない。寂しければいつでも手を握ってあげる。だから私を守ろうとするだけじゃなくて、私を頼って」

「……」

「私と兵馬は、対等な仲間だから」


 兵馬は神妙に目を閉じる。

 詩乃の声を反芻(はんすう)して飲み込み、死に別れたターシャを想い、息を吐いてから詩乃を見る。

 少し不機嫌な瞳でまっすぐに見つめてきていて、選んだ言葉の真摯さは胸に響いた。

 一つ頷き、兵馬はゆっくりと口を開く。


「…………ありがとう、詩乃」


 他にも聞きたいことはあるけれど、それは聞いたとしてもきっと教えてもらえない。

 今はこれで十分だと、詩乃はまつ毛を揺らしながら頷いた。

 その仕草にようやく話の帰着点を見出したプリムラは、頬を緩ませ、ニヤニヤ笑いを浮かべながらを開いた。


「対等な仲間かぁ。対等もいいけど……ふふふ、兵馬が詩乃に何を求めてるかわかった気がするなぁ」

「……なんだよ、プリムラ。妙な笑い方をして」

「求めてるって、何を?」


 兵馬は迷惑そうに眉をひそめ、詩乃はプリムラの言わんとしていることがわからずに首を傾げる。

 プリムラはそんな二人を見比べてもう一声。


「ズバリ、母性! ターシャさんが母親代わりだったなら、そっくりの詩乃にも同じ母性を求めてるはず!」

「やめろ! 格好悪いだろ!」

「はあ、母性……?」


 兵馬は珍しく語調を荒げさせている。図星な部分があったのだろうか。

 母性と言われてもまるでピンとこないが、詩乃はなんとなく兵馬の頭に手を乗せ、それから軽く撫でてみた。


「こう?」

「……っ! し、詩乃、僕は別にそんなつもりじゃ……!」

「あはは、元気出たじゃん兵馬! 詩乃に撫でてもらえてよかったね!」

「……くそっ、僕をからかった仕返しはどこかでするから覚えておけよ、プリムラ!」

「なんで!? 今ちょっと嬉しそうだったくせに!」

「よくわかんないけど、頭ぐらいはいつでも撫でるから。言ってね」

「だから違うって言ってるだろ!?」

「事情はわかったけど、いくらターシャさんに似てる私に話しかけるきっかけが欲しかったからって、財布をスるのはやっぱりどうかと思う。不器用か」

「そ、それは……まだ引っぱるのかい、その話! 本当に悪かったって!」


 賑々しくやりとりを始めた三人を目に、ドニは穏やかに含み笑う。

 なるほど、プリムラは人形ながらに細やかな気遣いのできる性格らしい。的確にからかいを浴びせ、少し強引に兵馬をいつもの調子に戻してみせた。


自律人形(オートマタ)のお嬢さんもそばにいる。以前とは違う。君の運命もきっと別のものになっているさ、兵馬樹)


 そう内心に独り言ち、ドニはポンと手を打ち席を立った。


「佐倉詩乃。今の話の全て、他所で他言しないと約束をしてもらえるかな?」

「私は事情を知りたいだけ。人にペラペラ喋るつもりはないよ」

「フフフ、結構。ならばお帰りいただいても構わないよ。それと、君が私にとっての致命的な情報を聞かされていないこともわかった」

「マルゲリータが調べていたことなら、私は何も聞かされてません」

「そうだろうね。だとすれば、君の命を狙う理由ももうない」


 目の前で昔話を語ったドニ。兵馬の旧知であるドニは、詩乃を狙う暗殺組織シャングリラの首魁だ。

 長話の間に忘れそうになっていた事実を思い出し、そのドニが詩乃をもう狙わないと口にした。

 詩乃は未だに懐疑的な目をしているが、プリムラが横でほうっと安堵の息を吐いたのが聞こえた。

 そこでふと、ドニが問う。


「さて、お帰りの前に会っていくかな? マルゲリータさんと」

「会わせてくれるの……!?」


 詩乃が椅子を蹴るように立ち、その反応を予見していたかのようにちょうどのタイミングで奥の間のドアが開かれた。

 ドニは役者然とした所作で手を水平に伸ばし、詩乃たちをそのドアへと誘う。


「さあどうぞ、奥へ」

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