7.宿を取る。
「他に何か質問は?」
「えーっと、宿を取りたいのですが、この街に伝手が無いので……。もし冒険者ギルドで紹介していただけるのなら助かります」
「斡旋はしています。お二人部屋でよろしいですか? 朝食や夕食、風呂やトイレの事もあります。どのようにしましょうか?」
受付嬢が聞いてきたので、
「えーっと、ベッドは一つでも二つでもいいから、朝食も夕食も付いて、風呂やトイレはその部屋にあるようなところはありますか?」
と答える。
「結構なお値段になりますが……」
おっとぉ、白金貨とか?
俺、貨幣価値とか知らないんだよなぁ……。
「ちなみに?」
「高いと銀貨三枚」
ふむ、銀貨なら万単位の枚数で持っている。
「問題ないですね」
当たり前のように俺が言うと、
「畏まりました」
と商会のメモを渡された。
こうして、アセナと俺は紹介された宿に向かうのだった。
既に時間は夕方。俺は馬に乗り、アセナが手綱を引いて宿に向かう途中、
「アセナ。公用語が苦手だろ?
俺が教えるから覚えろ」
俺はアセナに声をかけた。
「でも、銀貨二枚なんて高い宿をとった。我も働かなければ」
「今後のために必要だし、夫の言うことは聞けない?」
さっきも言ったズルい言葉。
「わかった。やる……」
勉強というのが苦手なのだろう、渋々というふうにアセナは頷いた。
夕闇迫る中街の中を歩く。
おっとお、デカい宿。
俺はアセナを連れ、その宿の扉を開ける。
カランカランとベルが鳴ると、妙齢の女性が現れた。
アセナが着た鎧や装備を見るとあからさまに嫌な顔。
「私共の宿にどのような御用件でしょうか?」
宿に来る者と言えば宿泊のような気もするが、ご休憩っていうのもあるのだろうか?
まあお金持ちがそういう目的で来る宿なのかもしれない。
「冒険者ギルドに紹介されてこの宿に来ました」
そう言って受付嬢から預かった紙を差し出す。
「冒険者ギルドから……珍しいですね。大体の冒険者はうちの宿は使いません。高価すぎるからです。すみませんが冒険者の場合、事前に一か月の料金を頂くことになっています。
ですから、二人で銀貨四枚、それの一カ月ですから、金貨一枚に銀貨二十枚になります」
冒険者は信用がないようだ。
しかし、銀貨百枚が金貨一枚ってことがわかったのはいい事。
多分銅貨百枚が銀貨一枚、銀貨百枚が金貨一枚ってところなのだろう。ってことは金貨百枚が白金貨一枚らしい?
「しばらくこの街に居る予定なので、三か月分先払いします」
俺はズボンポケットを次元収納に繋ぐと、無造作にそこから金貨三枚と銀貨六十を枚取り出した。
それを女性に差し出す。
「えっ、ああ。畏まりました」
最初の高圧的な態度がなくなる女性。
俺の行動に驚いているようだ。
「風呂もトイレもその部屋についていると言っていましたが間違いないですか?」
「あっ、はい。間違いありません」
子供のはずの俺がアセナを差し置いて先に進めることに少しびっくりしているのだろう。
「部屋の掃除は?」
「お客様が居ない時に、合鍵を使わせていただいて掃除します。
ベッドのシーツなども交換いたしますのでご了承を。
風呂場にある洗濯籠に洗濯物を入れておいてもらえれば、こちらで洗濯も致しますのでご利用ください」
「防音は?」
「隣に会話が漏れるようなことは無いようにしてあります」
「食事は?」
「朝夕の設定になってはおりますが、昼食も出すことは可能です。その際の追加料金は要りません。
この宿で提供する飲み物に関しては無料です」
「後、最後に、馬を宿の前に繋いであります。
馬を預かってもらえますか?」
「はい、馬丁に言っておきましょう。追加料金はありません」
結構融通が利くらしい。
俺の質問に答える女性。
そのくらい払っているってことか……。
「僕としては以上ですね。そちらからは何か?」
俺が聞くと、
「えっ、ああ、こちらが言おうとしたことは言ってしまいました。
ちなみに、あなたは何歳ですか?」
「ああ、十四歳ですね。保護者はこの獣人、アセナと言いまして十五歳。公用語が苦手なので、何か用がある時は僕に行ってもらったほうがいいかと。内容が伝わらなければ意味がないので」
「えっ、ああ、畏まりました」
冒険者ギルドからの紙を見ると、
「マルス様とアセナ様。
私はカミラと言います。
ごゆっくりおくつろぎください」
と言って話が終わった。
話しが終わると、カミラさんは俺たちを連れて二階の部屋に向かう。
デカい扉があり、開けるとリビング。正面は大きな窓があった。バルコニーもあるらしい。右手にトイレ……水洗だ。そして洗面所兼脱衣所、奥に入ると風呂。
左手にベッドルーム。セミダブルの大きさのものが二つ繋がれていて広々だった。
簡単な説明を終えるとカミラさんは俺に鍵を渡し、部屋を出ていった。
「ふう……」
応接セットのソファーに座る。
「こんな部屋に泊ったことは無い」
「そう? まあ、俺もだがね。
ちょっと疲れたな。風呂に入るか……」
「そうだ、マルスは『風呂』がある部屋を選んだが、そんなに風呂はいいのか?」
「えっ、アセナって風呂入ったことないの?」
「我は行水だな。川で済ませる」
「温かいお湯とか浸からんの?
気持ちいいぞ?」
「浸かったことがないからわからん」
「じゃあ、一緒に風呂に入ろう」
そう言って俺は風呂の準備を始めた。
アセナはその間に鎧を外すようだ。
蛇口に魔石が仕込まれているらしく、ひねったものの魔力を使い湯が張られる。
洋風な風呂らしい。
ただ、湯船は大きめ。
俺とアセナが入っても問題なさそうだ。
石鹸らしきものと海綿。背中を擦るための某のようなものもあった。
あとはタオル。
一応、洗うために使っても良さそうだ。
湯船にお湯を張りながら、風呂の具合を確認するとちょうどいい具合に湯が溜まった。
「アセナ、風呂に入るぞ」
「ああ、わかった」
俺とアセナは脱衣所に入る。
俺身長百五十ぐらい、アセナの身長二メートル近く。
デコボコである。
中に入るとかけ湯をする。
俺に見習いアセナも体に湯をかけた。
湯船に浸かる俺とアセナ。
異性と居ることを意識していないのだろうな。
アセナの奴、普通だ。
俺もなんだか反応しない。
それはそれでいいと思う。
んー、アセナのはデカい。
何もかんもデカい。
俺のも容姿が西洋風のせいか、息子ではなくジュニアだった。
何か前より大きい。
そんな事を思いながら浸かる。
程々体が温まったら、海綿に石鹸をつけて体を洗う。
するとアセナも湯船を出て俺の背後に座った。
そのままもたれかかる。
柔らかい二つスイカが当たる。
そのまま手を伸ばし俺を抱いてきた。
「どうした?」
「ん、安心する」
「今日会ったばっかりだろ?」
「優しい強い者と一緒ならばメスは安心するのだ」
トクトクとアセナの心音を感じる。
「アセナ、背中を洗ってくれるか?」
「いいぞ」
海綿を渡し、背中を擦ってもらった。
「ありがとさん。俺もアセナの背中を洗ってやるよ」
俺は海綿を受け取ると、アセナの背を洗う。
「尻尾は?」
「頼む」
との事なので、直接石鹸を付けて洗い始める。
「あっ」とか「んっ」とかいう声が聞こえた。また何かやらかしたのかもしれないが、無視をしておく。
洗い終わると、俺は湯船に入った。
涙目のアセナ。
ガジガジと俺の首筋に噛みつく。
まあそれで満足するなら良しか……。
尻尾がトリガーだったらしい。
こうしてちょっと長風呂すると、俺たちは風呂を出るのだった。
魔法で両手から温風を出して手櫛で髪を乾かしながら、俺の分もアセナの分も洗濯しておく。
水の中でグルグルとまわる服。
あー、下着は要るなぁ。
俺だけじゃなくて、アセナの分も。
奴隷用らしい貫頭衣じゃちょっとね。
そんな事を考える俺を全裸で指をくわえているアセナ。
「乾かして欲しいのか?」
コクリとアセナが頷いた。
仕方ないね。
まずは振り向いて尻尾を出す。
丁度俺の胸の辺り。
トリガーだとは知っているが、俺は無視をして温風で乾燥させた。
膝がガクガクしており我慢しているのがわかる。
そのあと、アセナを座らせると、頭を乾燥した。
耳も敏感らしく我慢をしていた。
「ウシ、終わり。
風呂は気持ちよかっただろ?」
俺が言うと、頷くアセナだが、再びの涙目。
「くーん」
いや、犬みたいに甘えた声出しても……。
乾かし終わると、俺とアセナは服を着てそのままベッドに入る。
そして、アセナは俺を抱くと、体を擦りつけたあと、クンクンと匂いを嗅ぐ。
「何をやっているんだ?」
「マルスの匂いと我の匂いが一緒になるようにしている。白狼の番は同じ匂い。本当ならマルスに抱いてもらって同じ匂いになる。でも、まだマルスの体は子供。我の夫でも、まだ子供。だから体を摺り寄せる」
と言っていた。
風呂の中での行動も、ベッドの中の行動も俺のためらしい。
「すまないな」
俺が頭を撫でると、
「強いオスに嫁ぐことができた白狼は幸せ者。
だから気にしない」
そう言って一層俺に体を擦りつけるアセナだった。
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