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36.試験

 食堂でラルフさんと飲んでいると、

「うー、算術は苦手です……。

 国語や歴史の方がわかりやすいのにぃ」

 リサが食堂の机に教科書とノートを出し、突っ伏していた。

「何やってんだ?」

 酒を飲みながら近寄った。

 すると、

「春になる前に、学校では試験がある。

 リサは学校に行っていなくて、家庭教師だったからな。編入で学校に入って最初の試験なんだ」

 後ろからラルフさんが、言った。

「その……、私は算術が苦手で……。

 商人って算術が必要でしょ? だから……」

 不安そうなリサ。

 チラリと問題を見てみれば、四則演算程度である。

「教えようか?」

「できるのですか」

「まあ、一応な。

 ただ、俺のやり方だからなぁ……、学校とは違うかも……。

 それでいいのなら……ってことにはなるが。

 これは、こういうふうにする……」

 紙に書いて教える。

 眼鏡越しに見上げるリサ。なんか新鮮だ。

 こうやって近づくのも少ない。

 ちょっと意識してしまうな。


 ふと、

「計算機って無いの?」

 と聞いてみた。

「計算機とは?」

「その様子じゃ無いんだな」

「聞いたことが無いだけで、あるのかもしれないけど」

 リサはチラリとラルフさんを見ると、

「主に筆算だな。

 どこかの国にはあるかもしれないが、この国にはない」

 とこちらを見ずに言うのだった。


 ふーん。


「こうやって、こうすれば……こうなるだろ?」

「ああ、そうか! こうなれば、これとこれを足して、できた!」

 リサの努力もあってか、問題を重ねるごとに俺のフォローが無くても計算が終わるようになる。

 元々理解が早いようで、二時間ほど経てば、自分で回答を出せるようになっていた。

「今日は夜も遅い。明日も学校だ」

「あっ、はい……」

 リサは片付け、部屋に上がっていくのだった。


「すまないな」

「別に」

 俺は軽銀を使って工作を始める。

「何をやってる?」

 ラルフさんが聞いてきた。

「んー、計算機?」

 そう言いながら工作を続ける。

 軽銀はイメージしながら魔力を通せば、それに合わせた形になる。


 仕切りを作って、珠を結構作って、棒に刺す。

 仕切りで一珠、五珠を分けてと……。

 定位点って奴を作って……。窪みじゃわかりづらいな。あとでインクでも入れ込むか。

 枠を作って、終わり。十三桁で作ってみた。


「うし……出来上がり」

 興味津々なラルフさん。

「足し算だったらこうね」

 一から十までの足し算を目の前で実行する。

「引き算だったらこう……」

 逆に引いていく。

「掛け算は……、割り算は……」

 目の前で見せる俺。

「これ、うちの奴等に教えてもらえないか?」

 とラルフさん。

「別にいいですけど……物がないです」

「軽銀じゃなあ……」

「ああ、こだわりはないですよ? 木で作っても問題ないですね。

 手元に軽銀があったから、作ったまでです。

 使うなら、あげますよ?

 俺、自分で作れますから」

「えっ……いいのか?」

「はい。俺が持っていても数は作れませんし。

 会頭が持つそろばんは軽銀だっていうことになれば、高級な奴もできるかもしれないですから」

「何て名にする?」

「名?」

「こんなものは今までになかった。

 名をつけるのは当たり前だ」

「算術をする板。算盤(さんばん)ってどうでしょう」


 完全パクリ。

 ちょっとひねっただけ。


「いいな!

 うん、算盤。

 最初に儂が習って、従業員に教えることにしよう

 ドワーフ辺りに飾りを入れてもらうか……。

 ってことは、木で数個作らせる必要がある」

 商売モードに入ったかな?

 まあ、便利なものだから、広がるといいかも。



 結局、リサのテストは問題なかったようだ。

 結果が良かったことが余程嬉しかったのか、

「ありがとう!」

 抱き付かれた。

 ラルフさんに提供した算盤を見たリサが、

「あの算盤っていう計算機が『使える』ってお父様が自慢していました。

 いいなぁ……」

 眼鏡越しの上目遣い。 


 これって欲しいってことだよな?


 同じものを目の前で作って渡すと、

「やた!」

 と飛び上がって喜んでいた。

 やはり計算があったようだ。

 

 まあ、こうして、ラルフ、リサ親子と夜な夜な算盤教室をすることになる。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら、指摘していただけると助かります。

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