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34.材料確保再び

 初めて雪が積もった次の日。

 リサが学校から帰ってきた。

 友達らしき女の子も数人。

「おかえり」

「たっ……ただいま」

「珍しいな。友達と一緒か?」

「うん……。マルスさんが見たいって言うから……」

「なんで?」

「商会潰し……って言われてるから、怖い人と思われてて……」

「ああ、そういうこと……」

「そう、『そんなこと無い』って言っても信用してもらえないの」

「んー、別に気にしないけど」

「悔しいじゃない」

「リサが怖いと思っていないのなら問題ないぞ?

 まあ、実際に商会を潰したのは確かだしね。

 君たち、俺はこんな感じ」

 俺はリサが連れてきた友達に言った。

「なーんだ、普通じゃない」

「もっと『俺に付いて来い』とか『この木刀で何人も殺しているんだ』とかいうのかと思った」


 俺って、どう思われてるんだろ……。

 ウンコ座りで木剣片手に睨んでいる感じ?


「ほら、普通でしょ?」

 リサが友達に言う。

「むやみやたらに暴れるのかと思った」


 酷いな。


「ああ、商会を潰したのは、影でリサが賭けに使われていたからだね」

「えーっと、リサちゃんを取られたくなかったから?」

「そういうことになるね」

「きゃ、羨ましい」

「ほっ、ほら、普通なんだから、もうみんな帰ってよ」

 リサは無理やり引きはがすように、お友達を連れて行くのだった。


「あんな感じで、マルスさんの事を学校で聞かれるの」

 苦笑いのリサ。

「悪いな。目立ち過ぎた」

「いや、いいの。私はいいの。

 でも、マルスさんの事を勘違いされるのが嫌で……。

 ちょっと言ったら、こんな事になって……」

「ありがとな」

 俺はポンとリサの頭に手を置いた。

「さて、中に入って紅茶でも飲むか。

 今日は新しいお菓子だ」

「うわ、やった!

 おいしいの?」

「今日はプリンって奴。

 なかなかの出来栄え。美味いぞぉ」


 俺たちは中に入る。

「遅いぞマルス」

 すでに涎が……のアセナ。

「ちょっと、外でリサの友達に捕まっちまってな」

「早く食べましょう。いい匂いしてるのを待つのは大変」

 何とかつばを飲み込んで、残念な感じにならないようにしているカミラ。

「これがお菓子とは……。王宮でも見たことが無い」

 こっちも若干残念な、ゴーグー。

 とりあえず、下着とズボンとシャツの上下を買い込んで、痴女状態は脱している。

「まあ、親父に教わった菓子だからな。知らなくて当然」

 ゴーグーはさぼっていたとはいえ、公用語の知識は程々あったようで、暫くの指導で公用語で話ができるようになっていた。

 待ての状態で、テーブルで待っていたアセナにカミラ、ゴーグー。

「さあ、みんなでお茶を楽しもうか」

 俺とリサが席に着くと、ティータイムが始まるのだった。


 んー、ホルスの乳の在庫が少ない。

 卵もだなぁ……。

 ラルフさん、早く頼みますよぉ。



 在庫が無くなったホルスの乳とランニングバードの卵を手に入れるため、アセナとゴーグーを連れて森に入った。

 ゴーグーは冒険者ギルドで冒険者登録してある。

 巨人の国でも冒険者ギルドはあるそうな。


 馬はゴーグーが乗り、俺とアセナが走る。

 半日走ると、以前に野営した場所に着く。

 全快のようにホルスの群れを探し、眠らせ、痺れさせると、ゴーグーに巨大化してもらい固定。アセナに乳しぼりを任せる。

 俺はと言うと、同じく眠らせ、痺れさせたランニングバードの巣から、無精卵の採集。

 次元収納を使えば取り放題。


 夕方になり、いつもより多めに手に入れたホルスの乳と卵に満足した俺たちは、テントを張り毛布を出してたき火を作ると、野営の準備を始めた。

 街で手に入れた、グランドボアというイノシシの肉を焼き、パンにはさむ。暁のドラゴン亭で作ってもらったスープを鍋ごと出し、注ぎ分けて、体を温めた。


 食事が終わったころ、アセナが花をスンスンと動かし、

「ふむ……森狼が現れたか……。

 血の匂いもする」

 と呟いた。

「普通はたき火をしておれば、近寄ってこないような魔物なのだがな。

 今日は(われ)が縄張りを主張しておらんから、匂いに気付かんかったのかもしれん」

 そう言ったあと、二メートルは有ろうかという、狼が現れた。

 しかし、体は痩せこけ、右の前足を引きずっている。

 体にも何カ所か切り傷があった。

 そして、萎みきった乳房。

 その後ろからトコトコと丸い子狼が三頭現れる。

「グルルルル……」

 母親は威圧しているようだが、アセナも俺も、更にはゴーグーでさえ気にもしていない。

「どう言う状況?」

 狼に詳しそうなアセナに聞いてみた。

「母狼がケガをして、子供に乳をやれるほど体力が残っていないのだろうな。

 獲物となりそうな馬と人間が来たと思って出てきたのだろう。

 一番弱い馬を倒したいが、(われ)やマルス、ゴーグーさえもが森狼よりも魔力が大きいことで、焦って攻めあぐねている。

 母狼が死ぬことは子狼の死に直結するからな」

 悲しそうな目でアセナが母狼を見ていた。

「さて、俺は助けた方がいいのかね?」

「狩りもできない母親だ、このまま放っておいても、あの四頭の死は確実」

「アセナとしては?」

「助けて欲しい」

 懇願するような目。

「ゴーグーは?」

「子狼が可愛いから……助けて欲しい」

 ゴーグーがコクリと頷いた。


 俺は母狼と子狼を眠らせると、母狼の体を魔法で治療する。

「もう、グランドボアの肉がないんだよなぁ……。さっきみんなで食っちまっただろ?」

「狩りをしてこようか?」

 アセナが言う。

「暗闇だが……」

「夜目は利く」

「それでもだな……・

 んー、とっておきを出すか」

 俺は次元収納から、明らかにグランドボアと違う肉を取り出した。

 アセナとゴーグーが目を見張る。

「それは何だ! その魔力量はどう言うことだ!」

「私もこんなに魔力がある肉を見たことが無い」

 二人が俺に詰め寄った。

 ただの黒龍の肉。ダンジョンでドロップしたものを回収し、次元収納に無尽蔵にあるものである。

 しかし、

「んー黒龍の肉? 親父の遺産の中に入っていた奴。

 だからとっておき」

 と俺は説明した。

「そんな肉、森狼なんかにやらなくても」

 アセナは続いて「(われ)にくれ」と言いたげなそぶり。

「でも、この森狼は餓死しそうなんだろ?

 まあ、黒龍の肉は程々あるから、何なら、明日の朝焼いて出すから」

 と言うと、

「約束だからな!」

「約束ですよ!」

 と約束させられるのだった。


 食い意地は狼よりあるようです。


 母狼と子狼を起こすと、体が治っていることに驚き、体を見回そうとグルグルと回っていた。

 子狼が母狼に集まり、乳を吸おうとするが、出ないのか「クーン、クーン」とねだっていた。

 母狼が俺に視線を移したのを確認すると、母狼の前に黒龍の肉を投げる。

 スンスンと鼻で臭いをかぎ、俺を見る母狼。

「食っていいぞ」

 通じるとは思っていないが、獣人語でそう言ってみると、ゆっくりと舐めた。

 目を見開き、俺を再び見る。

「黒龍などの肉を、森狼が食べることなどはないからな。あまりの魔力量に驚いたのだろう」

 アセナが言った。

「食っていいぞ」

 俺が再び言うと、俺をチラチラ見ながら、食べ始めた。

 腹が減っているせいか、美味いせいかわからないが、止まらずに一抱えほどある肉を食べきる。

「薄く光っていないか?」

「体内に魔力を取り込み過ぎたのだろう。強制的に進化するぞ!」

 アセナが言った時には、母狼の毛は灰色から黒に変わっていた。

 母狼の乳は張り、ポタポタと溢れてきている。

 子狼は貪るように吸い始める。

 それに合わせるように子狼の体は黒くなり、一回り大きくなった。

「母狼の魔力吸っちゃったのね」

 俺が言うと、

「そういうことだな」

 アセナが頷く。

 満腹になった子狼たちが火の周りに集まり寝始めた。

「味方確定かね?」

「向こうはそう思っているだろうな」

 アセナが頷く。

「可愛いなー」

 ゴーグーが呟いた。

「姫様なら婚約者ぐらい居るだろ?

 さっさと結婚して子供を作ればいいじゃないか」

 若干セクハラな発言。

「居ないわよ! 婚約者なんて」

「お転婆すぎて逃げられたか?」

 俺が聞くと、ゴーグーの言葉が詰まった。


 図星?


 微妙な空気が流れる。

「マルス、言い過ぎ」

 アセナが呟く。

「反省しとります」

 頭を下げるのだった。


 そんな時、母親が俺の前に来ると、伏せの姿勢。

「従うらしいぞ?」

 アセナが言う。

「恩を感じているのだろう。

 狼は頭がいいからな」


 ん? アセナは残念だったような……。


 俺が考えたことに気付いたのか、アセナがゴホンと咳払いする

「森狼程度の魔物が人を襲うのは珍しい。

 人の方が強いというのを知っているからな。

 本来は群れで行動するはずの森狼だが、何らかの事情で群れを出たのだろう。

 どちらにせよ、母狼一頭だけならまだしも、子狼が居る状況ではこの狼の家族は死ぬしかなかった」

「だったら、母狼はどうしたいんだろうな」

「我々の帰り際にわかるんじゃないか?

 ついてきたいのなら、ついてくるだろう」

 アセナが言った。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら、指摘していただけると助かります。

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