33.巨人の国のお姫様
朝食に感動するゴーグー。
「こんなものを食べていたのか?」
「普通だから……」
とは言うが、聞いちゃいねえ。
ガツガツと手で食べる姿を見て、喉を詰めるな……と思ったら、フラグだったらしく、喉を詰めた。
俺は水を渡す。
朝食を終えると、食堂で話を聞いてみることにした。
周りにはアセナとカミラ、リサ。
なんだか、事情聴取?
「んー、何歳?」
「十五歳」
同い年らしい。
「先に居た冒険者が言っていたのだが、野良の巨人族と普通の巨人族の差って?」
「巨人族は巨人の国から出てはいけない。
巨人族は他の国では魔物と判断されるから……。
しかし、巨人の国でも他国との交渉事のために国の外に出る必要がある。
そんな時には左腕に金の腕輪をつけるのだ。
その腕輪は魔力を集める力があって、それをつけていれば、縮小化したままで居られる。人の中に居てもわからないし、巨人族だとわかっても、国の代表だということで襲われたりはしなくなる」
「要は、金の腕輪が無いゴーグーは襲われる立場になる訳か」
「そう……」
ゴーグーが頷いた。
「お前、これからどうするんだ?
国に帰りたいっぽい話をしていたが」
ゴーグーに聞いた。
「わからない」
「わからないとは?」
「帰りたかったけど、帰らなくてもいいかなと思った」
「なんで?」
「ここで食べた朝食が美味しかったから」
「どんなものを食べていたんだ?」
「生きたボアやホルス。あと、その中の魔石が歯に詰まるし。ニチャニチャするし……。
マルスと居れば、魔力も補給してもらえるし……」
「仕事はどうするんだ?」
「仕事?」
「ああ、俺も込みで仕事をしている。
俺とアセナは冒険者、カミラは宿屋。リサは学生」
「それなら、冒険者」
「しかし冒険者をするならば、公用語は必要。
巨人の国の教育は知らないが、話ができなくて殺されそうになった。
もし、俺が居なくて、元に戻っても、話ができる、できないは必要かと?」
「公用語を覚えれば、居てもいい?」
「公用語だけでなく、人の世界での生活の仕方もね」
カミラが言った。
「うー」
「あと、親は?」
俺が聞くと、
「居る……」
と答えるゴーグー。
「連絡できないのか?」
「わからない」
「この辺は、ラルフさんに聞いてみるか……」
次の日、ゴーグーを連れペンドルト商会に居た。
「ラルフさん、巨人の国って知っています?」
「ああ、知ってはいるが、あまり詳しくはない。
クリンプ王国と言ってあそこは閉鎖的だぞ。
ビルヘルという街のみが対外に解放されている。
国内には許可がないと入れないんだ。
その許可を持つ商人は少ない」
「巨人の国までの距離は?」
「そうだなあ……馬車で一か月ぐらいだろうか……」
そう言ったあと、
「急に巨人の国なんてどうしたんだ?」
ラルフさんが聞いてきた。
「そこにいる、若干痴女風な少女は巨人族です」
服を買っていないせいで、ビキニの水着を着た感じのままなゴーグー。
「マルスはそういうのが好きなのかと思ったぞ」
「嫌いではないですけど、そういうのは人に見せずに俺の前で見せてもらいたいです」
「まあ、普通はな……」
「話がそれましたが、その巨人の国に手紙などは可能なのでしょうか?」
「できなくはない。こちら側の宛先をビルヘルにして、クリンプ王国側の宛先が書ければ問題ないな。ただし、巨人語と公用語を使える者……、ああそこに居たか」
ラルフさんが苦笑いした。
「ペンドルト商会から、手紙を送ることは?」
「可能だ。ただし、時間はかかるぞ?」
「向こうの親に、生存を報告するためなので、少々時間がかかってもいいかと。
それで、向こうが連絡を取りたければ手紙が来るでしょうし、会いたい人が来る可能性もあります」
「わかった、手紙を預けてもらえば手配しよう。
同じものを何通か準備してもらえないか?
治安が悪い道もある。街道で盗賊なんかに奪われて、手紙が届かない事があるんだ」
「手紙なんて出したことがありません。
何通ぐらい準備すれば?」
「そうだな、五通ぐらい準備してもらえれば、問題ないだろう。
こちらでも、護衛が多い大きな商隊に任せるようにする」
「料金は?」
「お前に金はもらえんよ。お陰で、この街一番……いや、この辺で一番の商会にしてもらった」
ペンドルト商会はマルベス商会を吸収し、取引が拡大している。
以前よりもペンドルト商会に来る馬車の数も増えたのではないだろうか。
「でも、商会潰しの二つ名を持つ俺が、ちゃんとラルフさんに金を払うということが重要なのでは?」
「すでに、お前がうちのリサの相手だというのは有名な話。わざわざお前を相手してまで、手を出そうというものはおるまいて」
「まあ、それでも払っておきますね。
ラルフさんが、俺に意見できる存在であることを認識させておけば、口利きの結果、商機になることもあるかもしれませんから」
「わかった、いくらでもいいから、儂に渡してくれ」
ラルフさんは渋々頷いた。
話が終わったことに気が付いたようで、
「どうなった?」
ゴーグーが聞いてきた。
「手紙を届けてくれるそうだ。
生きていることくらいは親に連絡しないとな」
「それは……確かに……」
仕方ないというようにゴーグーは呟く。
「手紙を書く上で必要な物はこちらで準備しよう。
それで、字は書けるか?」
「当然書けるぞ」
フフンと誇らしげにゴーグーが言う。
ん?
「両親は字が読めるのか?
手紙を出しても読めないんじゃ意味がないからな」
最悪、字が読める者に読んでもらうということもあるだろうが……。
「当然だ! 巨人語も公用語も読めるぞ」
再び誇らしげ。
ん? ちょっと待て。
アセナは獣人語さえ読み書きが完全とは言わなかった。ましてや公用語は読み書きできなかった。それを当てはめれば、ゴーグーは巨人語さえ書けない可能性がある。しかし、ゴーグーは「書ける」といった。字を習う環境に居たことになる。
「公用語が勉強不足」って言ってたな。別の言語を習う環境もあったってことだ。
更に両親が巨人語だけでなく公用語まで話せるということは、ゴーグーの両親が人間とかかわることが多いことにならないだろうか。
商人であれば、夫婦でバイリンガルというのは少ないはず。
ならば、巨人の国の外交を担当する貴族。または王族の可能性が高いと考える。
「お前って貴族か王族の娘?」
思い切って聞いてみた。
「ひぇ?」
キョトンとして俺を見ると、
「何でわかった?」
と呟いた。
「当たりかよ!
まさか、お姫様とかで、外の世界が見たくなったって、隠れて国を出たとか?
えらいさんの娘だってバレるから、巷の女の子の服を着て、金の腕輪外したとか?
その結果、魔力量が足りなくなって巨大化して、野良の巨人だと思われて、人に追われる始末に?
勉強不足で、公用語が使えないから、説得もできなかったんだろ?」
当たりなのか、俺が問う度に、「うっ」とか「ぐっ」とか言いながら身もだえていた。
「で、あなたはどなた様?
ゴーグーって名さえ、正しいのかわからないな」
「ゴーグーは本当に私の名。
姓はオウストラ」
と呟いた。
すると、ラルフさんがゴーグーに近寄り、俺を見て、
「今、オウストラって言わなかったか?」
といった。
「ええ……ゴーグーの姓はオウストラと……」
「おい、それってクリンプ王国の王家の姓の一つだぞ。
確か現王の姓だったような……」
マジか!
俺は頭を抱えた。
「お前王族か?」
「そこの男に聞いたのか?」
「ああ、オウストラが現王の姓だと聞いた」
「私は第一王女」
「お転婆姫って訳か」
「お転婆言うな!」
言い返すゴーグー。
「目を盗んで外に出て、迷子になんかなる奴は、お転婆って言うんだ!
お前死んでたら外交問題だぞ!」
「そんな……」
「まあいい、早速手紙を書くぞ」
そうゴーグーに言ったあと、
「ラルフさん。悪いんだけど、いい紙といい封筒、あといいインクってある?」
「有るが……早速か。王族っていうのなら仕方ない。
わかった、俺も急いでもらおう」
「封蝋って持ってるんですか?」
「ああ、ペンドルト商会用のものがある」
「俺、そんなの持っていないから、ペンドルト商会のものでお願いします。封蝋があるようなところに保護されたとなれば、向こうも安心するでしょうから」
逆に警戒もされそうだが……。
「わかった。儂の信用が役に立つのなら使えばいい」
ラルフさんが人を呼び、紙と飾りのついた封筒、そしてインクが揃う。
羽ペンを使い、手紙を書き始めるゴーグー。
その手紙には俺の名前は出ていたので、「コブドーの街で保護しており、手紙で依頼を頂ければ、すぐにそちらに連れて行きます」と追記しておく。
同じものを五通書くと、それぞれ封筒に入れてペンドルト商会の封蝋をしてもらった。
「じゃあ、お願いします」
俺が言うと、
「任せろ。急がせる」
ラルフさんがサムズアップ。
さて、いつクリンプ王国に手紙が届くのやら……。
読んでいただきありがとうございます。
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