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32.強制依頼

 えーっと、いろいろあって、最近、俺は恐れられています。

 マルベス商会の会頭が今ではペンドルト商会の奴隷になったせいでしょう。

 俺の言い分もあるんです。

 好きな女性を取られそうになったら、反抗しなきゃいけないでしょう?

 結果、恐れられちゃいました。


「まあ、仕方ないわねぇ。

 大きな商会の一つを潰しちゃったし」

 食堂に座る俺の前に紅茶を出すと、カミラが横に座った。

「そりゃそうだけど……」

 俺が呟く。

「マルスが、どこかの大貴族の落とし種だって話が出てるわね。

 街を影で操っているとかいう噂もある」

「それも違うんだけどなぁ……」

(われ)はマルスが今のままであれば問題ない」

「そうね」

 アセナとカミラが頷いている。

「まあ、悩んでも仕方ないわよ。

 今まで通りで行きましょう」

「そうだな」

 ということになった。

 学校に行ったリサを除き、三人で紅茶を飲んでいると、宿の扉を開けて冒険者ギルドのルナさんが飛び込んでくる。

「あっ、マルス君」

「はい、何でしょう?」

「えーっと……、ノルドを倒したマルス君が一番ギルドの中で強いの。

 それで、街の冒険者ギルドとして、巨人族の討伐を命じます」

「へ?

 断れぇーーー」

「る?」か「ない?」か、言葉を選ぼうとしているとそれに先んじて、

「ないわ」

 ルナさんが言う。

「ないんですか?」

「ええ、冒険者ギルドに入っている限り、指名依頼は誰にでもあり得る。

 とりあえず水晶を持ってきたから、それで確認してみて」

 簡易版なのか小さな水晶を取り出した。

 ギルドカードを取り出してかざすと、白く輝いた。


 水晶様が言うにはできるらしい。

 仕方ないのか?


「わかりました。場所は?」

「北門を出て街道沿いに進んだ先です」

「アセナ、行くぞ!」

「わかったのだ」

 俺たちは北門へ向かった。


「おいお前ら、この門の先には巨人が居て、街道を塞いでいる」

 門番が俺たちを止める。

「ああ……ギルドからの依頼で、ここに来た訳です。

 討伐するにしろ、この門の外へでなきゃいけないので」

「ああ、わかった」

 そう言うと、門の脇の通用門を開けてくれるのだった。



 北門を出て、暫く歩くと、巨人族の頭が見えてきた。


 雌型?

 褐色の肌。ブラウンの少しパーマがかった髪の毛だった。

 身長十八メートル。ガンダムほどの身長。

 何かの魔物の皮のようなものをビキニのように着ていた。

 スタイルがいい。

 隙間から……。


「マールースー」

 ジト目のアセナ。

「仕方ないだろう? 見えるんだから」

 俺は巨人語で、

「おーい! どうかしたのか?」

 と声をかけた。

 すると巨人が俺を見下げる

「道がわからなくなった。

 どこからきたのかわからない。

 言葉が話せないから、人間に襲われるし……」

 巨人族の涙が落ちる。

 落ちた涙がちょっとした罰ゲームで落下する水のように大きく広がった。


 うぉ……涙がデカい。


「俺の名はマルス。

 お前の名前は?」

「ゴーグー」


 おぉ……ゴーグ?

 おっと、ゴーグーね。


「公用語は話せるか?」

「勉強をさぼっていたせいで、話せない」


 こいつも話せないのか……。

 しかし、勉強ってどういうこと?


 そんな時、

「おお、マルス。

 この巨人族を倒しに来てくれたのか!」

 知らない冒険者に声をかけられた。

 隠れていたのが出てきたようだ。

「アンタら、だれ?」

「俺たちは知らないか……あまり有名じゃないからな。

 しかし、俺はお前を知っている。悪名名高き商会潰し」


 そんな風に言われている訳か……。


「さて、あんた。俺としてはこの巨人は倒さない。

 話をして、対処法を考える」

「バカだなあ。金の腕輪が無い巨人は、殺してもいいんだよ。

 皮や骨はいい素材になる。

 肉も魔力があるから、魔法使いが喜ぶんだ」


 野良?

 よくわからんな。


「ふむ……。

 じゃあ、あんたが倒せばいい。

 でも俺は、この巨人族側につくよ。

 ただ、迷って、不安で泣いているだけなのに、それを殺すなんてできない。

 ほら、やってみろ。

 その瞬間、お前らは潰す」

「マルスよ、そいつらは殺していいのか?」

 アセナが出てきた。

 アセナも赤狼などという通り名が付いているらしく、冒険者たちがビビり始めた。

「巨人なんてどうするんだ! 生かすとしてもどうやって生かす。

 食べる物なんてないんだぞ!」

「俺は巨人語が話せる。

 それを話し合って調べるんだよ!

 巨人の相手をする気が無いのなら、さっさと行け!」

 俺は手をヒラヒラと振った。


 悪役らしくなってきたじゃないか。


「ヒィ!」

 冒険者が声をあげると逃げるようにして去っていった。



「おーい、どうするよ?」

 ゴーグーに話しかける。

「どうするとは?」

「帰り道が無いのなら、どこかに住まなきゃいかん。

 生きていくには食料が必要だ」

「そもそも巨人は魔力を自然から魔力を得ているの。

 でも、その魔力では徐々に減る。追加で何かから手に入れないといけない」

 要は魔力を補給できればいいわけか。

「魔力を補給ってできないのか?」

「補給?」

 俺は近寄るとゴーグーのデカい足に触った。

 手を添えて、そこにヒールをかけるように魔力を通す。

「うっ……ああ……凄い」

 身もだえるゴーグー。

 シュルシュルと小さくなる。


 あり?

 小さくなっちゃった。

 身長百五十センチ以下?

 褐色のお嬢ちゃん。


 俺でも見下ろすくらい。

 ゴーグーもキョトン。

「お前はバケモノか!」

「そんなの知らんよ」

「巨人の体内の魔力が飽和すると、縮小化が可能となる」

「ふーん」


 知らねーし。

 でも、凄い魔力の密度になっているのはわかる。

 圧縮された肉体を維持するのに魔力が必要なのかね?


「でも、縮小化できない野良の巨人族は狩られるわけね」

「うー、それを言われると辛い」

 ゴーグーは目を伏せながら言った。


 んー。鋭い視線。

 振り向けばアセナが俺を睨んでいる。

「何を話している!

 それに何で小さくなった」

「ああ、俺の魔力で小さくなったらしい。

 こいつはゴーグー。

 道に迷ってここまで来たらしいな。

 それで、人間様に攻撃されたから、反撃したそうな」

「ふむ……、どうするのだ?」

「どうするも何も、どうしよう」

「まあ、あの身長だから、連れて帰ったらいいんじゃないのか?」

「俺もそう思うんだが、誰かさんのある時とおんなじで、言葉がわからない」

「覚えればいいでだろ? 私も覚えたのだ、ゴーグーも覚えればいい。

 それこそ、少しの間でも人と共に生きるのであればな」

「まあ、とりあえず連れて帰って、その辺はあとで聞いてみるか」

 再びゴーグーに向き合う。

「俺んち行くか?

 宿ぐらいは準備してやる。

 食事もな。殺したり売り払ったりしないから安心しろ。

 まあ、信用してもらうしかないんだがね」

 ゴーグーは考えると、

「私を見て襲わなかったのはお前だけだ。

 頼む」

 と頭を下げる。


「アセナ、ゴーグーを連れて帰るぞ」

「わかったのだ」

 俺はゴーグーを連れて街に戻った。

「巨人族は逃げた」

 と言えば、ゴーグーが増えているはずなのに門はすんなり開く。

 そのまま何事も無かったかのように冒険者ギルドに向かうのだった。



 戻ればルナさんが待っていた。

「倒されたのですか?」

「いいや? 巨人族はそこにいる」

 ゴーグーを指差す俺。

「ただの人間ではありませんか」

「俺が嘘ついてる?

 商会潰しは嘘つきと思われている訳だ。

 でも、本当に巨人族は彼女だ。巨人族は体内に魔力が満ちると小さくなれるらしい。

 そこで、俺が彼女に魔力を分けて、小さくしたんだ。

 北門から出た街道を探しても巨人は居ないから確認してもらえればわかるよ。

 どうしてもというのなら、巨大化してもらうが、街が大騒ぎになると思うんで、やめた方がいいかと……」

「本当なら、報酬をどうしましょう?」

「まあ、巨人語で話をしただけで、討伐していないから、報酬も要らない」

「わかりました。

 そういうのなら、今回の依頼は無かったことにします」

 ウンウンと頷くとルナさんが言った。


 ホクホクなのはギルドからの出費が無くなってよかったって?


「じゃあ、俺の用事は終わり。アセナ帰るぞ」

「おう」

 巨人語で、

「ゴーグーついて来い」

「ああ」

 三人で暁のドラゴン亭に戻るのだった。



 原始人っぽい感じでゴーグーと共に俺とアセナは戻ると早速、

「誰連れてきたのよ!」

「誰ですかその女性は」

 カミラとリサに詰め寄られる。

「んー、巨人族のゴーグーだ。

 道に迷って困っていると言っていたから連れてきた。

 公用語は話せないから、意思疎通は難しいかもな。

 アセナの時と同じで、公用語は覚えてもらう」

「巨人族には見えないのですが。

 私より少し年下の少女のようです」

 リサが聞く。

「巨大化してもらおうか?

 宿が崩れるかもしれないが」

 俺がニヤリとすると、

「まっ、待って。それは困るわ」

 カミラが焦り始める。

「冗談だよカミラ。

 それで、部屋ってある?」

「それはあるけど、宿に泊まった事なんてあるのかしら……」

「それは知らない。

 でも、言葉がわかるのも俺だけなんだよなぁ……」

「じゃあ、マルスの部屋に連れて行けばいいじゃない」

「だよなぁ……」

(われ)は嫌だぞ。

 添い寝ができない」

「ん? 添い寝はするぞ?

 その辺は納得するだろう」


 俺は巨人語で、

「巨人語は俺しか知らない。

 だから俺の部屋に泊まってもらうことにするが、そこには俺の妻が居る。

 ベッドは別にするが、まあいろいろと迷惑をかけるかもしれない」

「一人でもいいんだぞ?」

「それでも一日は一緒に居てもらおうか。

 部屋の設備の使い方を説明しないとな」

「なぜ、お前と私で泊まらないのだ?」

「俺の妻が焼きもちを焼くから。

 考えてもみろ、若い女性と若い夫が二人っきりなんだぞ?

 何かあったら困ると思うだろう?」

「何かとは?」

「ああ……子作り」

「こっ……子作りだと? ないない」

 手を振って全否定するゴーグー。

「俺はそう思うんだが、妻がな……」

 ゴーグーはプッと笑うと、

「尻に敷かれているのだな」

 と笑う。


 仕方ないだろ?



 アセナと三人で風呂に入り、ゴーグーに風呂の使い方を教える。

 巨人族風呂は巨大化している時は湖だそうな。

 温泉もあるらしい。時期を見て行ってみたい。


 基本的な事を教え、俺とアセナ、ゴーグーに分かれてベッドに入るのだった。

 今日は何も無しで……。

 しかし、少し気に入らないのか、アセナの暫く甘噛みが続くのだった。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら、指摘していただけると助かります。

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