27.賭け
そしてトーナメント、三日間のスケジュール。
初日は予選のため俺たちの出番はない。
俺と女性陣で屋台の冷やかしだ。
ちなみにこのトーナメントで優勝すると、奴隷は解放されるらしい。
一般者は高額の賞金……白金貨一枚。副賞って訳ではないが、貴族から騎士への招へいの可能性も出てくるそうだ。まあ、この話はいい試合をした者全員に当てはまるということ。
何百人もの参加者。
「トーナメントに出たいかぁ!」と誰かが叫べば「おー!」と地響きのような声が聞こえてきそうな雰囲気。
武器を持った者、杖を持った者、弓を持った者、素手の者。
多くの人が十二の組に分かれ、各組で生き残り戦を始める。
残った一名が予選通過という訳だ。
五十人以上が舞台に上がり、戦いを始める。
ボロボロになった最後の一人が高らかに雄たけびを上げていた。
ちなみに商人は高額の金を出すと出場枠を買うことができる。
自分が推す者を勝たせるため。
予選から参加する者は、予選後半日ほどしかない休息で、全十の戦いをするのは難しいだろう。
商会に推された者は予選を気にせず、トーナメントのみに集中できるわけだ。
ただし、弱ければ恥になるため、推薦された者も手を抜くわけにはいかない。
マルベス商会枠でバルロイ。ペンドルト商会枠で俺。そして、他にも二枠ほど埋まっていた。
つまり十二組だったのは、十六の枠のうち、四つが埋まっていたせいである。
こうして十六人のトーナメント進出者が決まると、賭けが始まる。第一試合が始まるまでの、約半日。胴元であるマルベス商会の賭け屋が店を開き、賭けが始まる。
小口な屋台のような掛け屋から、大口な商店のような賭け屋まで。
カミラさんと共に大きな商店のような掛け屋に向かった。
綺麗な服を着た男性や女性が歩いている。
従業員が来ている服も高そうだ。
俺たち四人がカウンターの前に行くと、
「そこのマルスという人に賭けたいんだけど?」
とカミラさんが言った。
「畏まりました。ここでは金貨十枚以上が対象になりますがよろしいでしょうか?」
金を持っていなさそうってことらしい。
「ええ、問題ないわ」
カミラさんの後ろに立っていたアセナが大きな袋を三つ置いた。
「これで……。白金貨二千三百枚入っていると思います」
「えっ? 二千三百枚?」
「賭けに上限があるとか?」
「そっそれは……上司に聞いてきます」
従業員は後ろに下がった。
すると店長らしき男性が現れる。
「一点掛けで、この金額を?」
「可能であれば」
「誰に賭けられるのですか?」
「マルスという子に。
ああ、この子です。ペンドルト商会の推薦で今回出場する少年ですね。
私の婚約者で、折角出るのなら、マルスに賭けたいと思ったの」
カミラさんの紹介に俺は頭を下げる。
シャツとズボンを着て、木剣を持っているだけの少年。
「その子ですか。
会頭に相談してきます」
というと店長は店を出ていった。
俺たちは待たされる。
しかし、
「マルスであれば問題ないということです」
と言質を聞くことになる。
ぽっと出の若造は問題ないらしい。
そして、掛札を渡されたカミラさんがニッと笑った。
「これで、必死になって俺を邪魔してくると思います。皆さん気を付けて」
「アセナちゃんと、マルス君が居れば大丈夫でしょ?」
「常に傍にいるわけではありません。
試合中は、アセナだけになります。
まあ、いつもは暁のドラゴン亭に一緒に居て、試合の時は闘技場の横で応援してもらえれば……」
「要は一緒に居ればいいわけね」
「それならば、大丈夫」
カミラさんとリサさんが頷いていた。
カミラさんが何かに気付く。
「ってことは、部屋も一緒の方がいいわね」
その言葉に乗って、
「そうそう! 部屋が一緒の方がいいです!」
リサさんも便乗する。
「夜は大丈夫だぞ? 私は殺気に敏感だ。
だから、部屋まで一緒にする必要はないのだ」
「でも近くに居たほうが何かあった時すぐに対応できるでしょ?」
カミラさんの言葉に、
「それはそうだが……」
と言葉が詰まるアセナ。
「そうだねぇ……」
俺が言うと、三人の目は俺に集まった。
「部屋を一緒にするのなら、せめて、自分が寝るベッドは準備してもらおうか。
さすがにあのベッドに四人は無理だからね」
「アセナさんは?」
「アセナは俺の横」
「「ズルい!」」
「その辺は早い遅いだろうねぇ」
すると、
「繋げればいいのだ」
とアセナが言う。
「アセナ、どういうこと?」
「あの幅だから、寝られないのだろう?
元々二つ並べてあるのだから、四つにすればいいだけではないか」
「いいのか?」
「トーナメントの間は、体力温存。
十分な体調で戦わねばな。
カミラとリサへの危険が去れば、元に戻せばいい」
「まあ、アセナがそういうのなら……。
でも寝辛くない?」
「そこは我慢」
俺の体調に配慮したんじゃなかったの?
結局、俺の部屋で四人ということになるのだった。
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