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22.学校祭(打ち上げ)

 学校祭での打ち上げを暁のドラゴン亭でやることになったらしい。

 利益も出たらしく、それを全部打ち上げに回すそうだ。

 暁のドラゴン亭って結構お高い店らしいんだが、結構な利益だったのだろう。


 テーブルで白のシャツにチェックのベストとスカートの女性陣と、ベストは一緒でチェックのズボンの男性陣が集まっている。

 その中でリサさんが楽しそうに話している。

 未成年ということで、ケーキとお茶を頼んでいるようだ。結構な数かあるから余れば持ち帰りなのかもしれない。


 俺はと言うと、別の机でアセナと共にラルフさんと話をしている。

「で、あの醤油と言うのは何だ?」

「ああ、ここから西に十日ほど行ったところにあるラロック村と言う所で生産されている調味料のようです」

「なぜリサに?」

「醤油は肉などによく合います。ですから、塩だけの串焼きよりも醤油のたれを作ることで選択肢を増やしました。

 更には、醤油が焦げるいい匂いを流すことで、集客を期待したんです」

「前にも言ったが、リサはペンドルト商会を継がねばならん。であるから、リサ本人の力だけで賞状を手に入れて欲しかった」

「はて? ラルフさんがそういうことを言うとは思いませんでした」

 俺が首を傾げると、

「どういう事だ?」

 少し怒ったのか声が大きくなる。

「ラルフさん一人であの店を大きくしたと言っているみたいで……。そりゃラルフさんの手腕で大きくなった部分もあるのでしょうが、その下で働く部下である従業員さんや心を癒してくれた奥さんやリサさんが居てこそ……ではないでしょうか?

 ほら、リサさんは屋台で一緒に頑張った方を慰労しています。

 ちゃんと頭を張っています」

 ラルフさんはじっと打ち上げを見ていた。

「それに、ラルフさんの人脈で取引をしているのではないですか?

 俺はリサさんの人脈です。それを使っただけの事。そうじゃないでしょうか?」

「ふむ……。

 マルス君は本当に十四歳か?」

「はい、冒険者ギルドカードでも……あれ?」

 冒険者ギルドカードの年齢はどういうシステムか知らないが、年齢を表示する。

「十五になっていますね。

 十五歳らしいです」

 ラルフさんは苦笑いしながら、

「自分の誕生日ぐらい覚えてろ……。にしろ、年齢と精神年齢があっていない。

 同年代の男と話をしている気分だよ」

 と言っていた。


 向こうの世界ではラルフさんよりも年上だったんだがね。


「成人したのなら酒を飲むかい?」

 ラルフさんが言った。

 ピクリとアセナの耳が動く。

「そうですね、串焼きを出してもらって飲みましょうか」

 アセナの尻尾がゆっくりと動く。

 タレのレシピは暁のドラゴン亭の調理人に伝えておいた。


「飲み物は……エールかな。

 ラルフさんもエールで?」

「ああ、任せよう」

 ラルフさんが頷いた。

「アセナもそれでいいな」

「うむ、頼む」

 アセナの尻尾が加速する。



「すみませーん! 串焼き三人前お願いします!

 あとエール三つ」

 調理場に聞こえるように大きな声で声をかけた。

 すると、

「マルス君は未成年じゃ?」

 とカミラさんが現れる。

「ほら!」

 俺は冒険者ギルドカードの年齢欄を見せた。

 カミラさんがニコリと笑うと、

「畏まりましたお客様」

 そう言ってニコリと笑うと奥に向かう。

 暫くするとカミラさんの後ろに皿に山盛りに盛った串焼きとエールのジョッキを四つ持った従業員が現れた。

「一つ多くないですか?」

「マルス君の誕生日会をしてないでしょ?

 だから私もこの飲み会に参加」

 カミラさんが俺の左側に座る。


「成人おめでとう!」

 の乾杯をカミラさんがすると、飲みが始まった。

 初めてのエールの味は向こうで味わったことがある味ではなかった。


 冷えてない炭酸は美味しくない。


 俺がジョッキの中身を魔法で冷やすと、ジョッキの表面に結露ができる。

 それを再び飲むと、向こうの少し気の抜けたビールのような味になった。

「うん、美味い」

 俺は頷く。

 串を持って串焼きを食べ、再びエールを煽る。


 あー、久しぶりの味だ


「マルス君。そのジョッキに何をした? 結露するということは中身が冷えているということ」

 ラルフさんは結露の原理はわからないが、冷えたものの表面に空気が当たって冷えると結露するのは知っているようだ。

「ああ……、中身を魔法で冷やしたんです。ラルフさんも体験してみますか?」

「やってみてもらえるか?」

 魔法で冷やすとラルフさんのジョッキも結露した。

 そして、エールを煽り、目を見開いた。

「美味いな。苦みと泡のバランスが変わる。

 苦みが収まって、泡の刺激が喉に気持ちいい」

「えっ、(われ)も」

「私も」

 アセナもカミラさんもジョッキを差し出す。

 冷やして飲むと、

「美味いな」

「美味しい」

 そして串焼きを口に入れると、

「合うな」

「うん、合う合う」

 二人で頷く。


「僕が思うに、屋台で冷えたエールと串焼きを売ったら、お客さんが来そうですね。

 店が要りませんから飲み屋よりも少し低価格に設定すれば、仕事終わりなんかにお酒を引っかけて帰るなんて人も増えそうです」

「冷えたエールを準備するのは難しい」

「冷やす道具みたいなのは無いんですか?」

「魔道具を使うと言う方法もあるのだが、魔道具は高いのだ。軽銀……ミスリル……を使って魔道具を加工するのに魔力が必要でな。更には器用な者でないといけない。

「軽銀ですか……」

 俺はポケットから軽銀でできたナイフを取り出した。

「これは軽銀製のナイフです。加工するというのは?」

「軽銀に魔力を通せば柔らかくなると聞く。

 その方法は一子相伝でな。なかなか表に出ない」


 魔力を通して柔らかくするのか……。分子同士の結合を緩くする?

 ナイフを持って魔力を通すと、柔らかな粘度のようになった。

「マルス君それ……」

 俺を見て固まるラルフさん。

「何となくやってみたら大丈夫でした」

 板状にして、指で切って筒状にする。

 隙間をなぞると、そこが埋まってパイプ状になった。


 ラルフさんにアセナ、カミラさんがじっと見ている。

 俺はその筒に冷却の魔法を使った。


 ん? 思ったより魔力が入るな。

 入るだけ入れてみるか……。


 暫くすると魔力が入らなくなる。

 触ると冷たかった。


「これを注ぎ口に着ければ、冷えたエールが出て来たり……」

 俺が呟くと、カミラさんがコルク栓のようなものを持ってきた。

「マルス君、これ使えない?」

 持ってきた栓にアイスの魔法がかかった軽銀のパイプを突っ込み、穴をあけた。

 パイプの中に入ったカスは除去しておく。

 細い木を加工して、テーパー状にすると、パイプの中に突っ込んだ。

「これでどう?」

 カミラさんに渡すと、俺の意図したことがわかったようだ。

「これを樽に刺して、この細い栓を抜くと魔道具を通ってエールが出てくる訳ね」

 樽酒方式。

「そういうこと」

「早速使ってみる」


 カミラさんはそう言うと、自分のジョッキを持って奥に行った。


 調理場からバタバタと音がする。

 暫く経つと、

 結露させたジョッキを持ったカミラさんが戻ってきた。

「成功! 当然、私へのプレゼントなんでしょ?」

「僕が持っていても仕方ないですからね。カミラさんにあげますよ。その代わり、お酒飲み放題で」

「それでいいわよ!」

 そう言うと、ジョッキを煽った。

「マルス君。軽銀の板は余っているよな?」

 残っていた板の事を言っているようだ。

「ええ、言ってもらえれば、すぐに作りますよ。

 別にエールに使わなくとも、水でもいいですからね。

 店があって、生ぬるい水が出るよりも冷たい水が出る店のほうがお客さんは来そうですから」

「軽銀はこちらからも提供するので、あとでその注ぎ口の製作依頼を出させてもらおう」

「畏まりました」

 俺は頷いた。


 ちなみに今後、ラロック村へ行って、醤油を仕入れるそうだ。

 串焼きの繁盛に目をつけたラルフさん。

 屋台を焼き台と、冷える注ぎ口をつけたエールの樽を使うことで、ツマミと酒と言う黄金タッグを屋台で売ることにしたようだ。

 期せずして赤ちょうちん誕生である。

 疲れた成人男性……もとい、一部女性が、提灯に向かってゴキブリホイホイのように集まる姿がこの世界でも始まるのだろう。

 まあ、前はその一人だったわけだが……。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら、指摘していただけると助かります。

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