21.学校祭(屋台)
俺は鎧を外し、次元収納に仕舞う。
いつもの服に木剣のみ。
身軽な姿でリサさんの屋台に向かった。
試合が終わったのが丁度昼過ぎ、忙しそうな屋台。
アセナは屋台に近寄ると、
「リサ殿手伝おうか?」
と声をかけていた。
アセナに気付いたリサさんは、
「あっ、トーナメントはどうだったんですか?」
と聞いてきた。
「マルスの勝ち……と言いたいところだが、ルールでケチが付いてな。武器以外で攻撃したからと言って反則負けになったのだ。それでマルスのやる気も無くなり、準優勝も辞退して、この屋台に来たという訳だな」
「変なルールですね」
「そうであろう? まあ、あのように弱い生徒どもとマルスが本気で戦うこともあるまい。それよりも、この屋台を手伝って美味い串焼きを頂こうということになったのだ」
ニッと笑ってアセナが言った。
「まあ、そういうこと」
俺が言うと、
「人手が足りなくて困っていたんで、助かります」
リサさんはにっこりと笑っていた。
アセナと俺は手を洗うと、アセナが串をさし、俺が焼く。
アセナは五つの肉のかけらを放り投げると、空中で串に刺していた。
馴れると十五の肉を頬り投げ、三本の串があっという間に出来上がる。
人目につくところでやっていたせいか、このパフォーマンスでも、客が集まったようだ。
焼くのは時間がかかるが、仕方ないので魔法で一気に焼き目を入れ、その後やじっくりと炭火で焼いた。
それでも焼きの係が一人増えたことで、客が捌けるようになったようだ。
徐々に列は短くなり、手が空く者もでてきた。
「今のうちに順番に昼食を食べるといい」
俺はリサさんに言った。
しかし、
「ちょっと食べる物を買いに行くには時間がないですね。
うちほどではないにしろ、どの屋台に行ってもお客さんが居る時間になります」
と苦笑い。
昼食は諦めているようだ。
次元収納から買いだめしていた野営用のパンを放出。
魔法で温め、切り目を入れて、そこに野菜と串焼きの肉。
そしてその上から酢を探して作っておいたマヨネーズをかけた。
焼き肉バーガー的な物。
あー……マスタードがあればなぁ。
「そこに置いておくから、順番に食べればいいよ」
手際の良さに、リサさん以下従業員が驚いてはいたが、次々と手を出し「美味しい」と声をあげる。
お客さんも「それをくれ」と欲しがってきたが「賄いですので」と言って断った。
昼を乗り切り、その後忙しくなるかと思ったが、第二便の肉も使い切り、リサさんの屋台は閉店になる。
全ての片付けが終わった後、ペンドルト商会の従業員が屋台を回収していった。
新しい屋台の試作だったらしい。
そして、何も無くなると解散になった。
俺とアセナ、リサさんは別の屋台を冷やかして歩いていた。
腹も減ったので適当な物で腹を満たす。
「うーん、リサ殿の屋台の串焼きが良かったのう」
ちょっと不満なアセナ。
「もしかしたら私たちの屋台の売り上げが一番かも」
ニコニコのリサさん。
「そりゃ良かった。手伝った甲斐があるね」
嬉しそうなリサさんの顔を見ると、自然と俺も笑っていた。
「うーむ」
串焼きを引きずっているアセナ。
ちょっとがっかりしているのか、耳を伏せ尻尾が垂れる
「暁のドラゴン亭で、同じような物を作ってやるからがまんしな」
俺が言うと、
「うむ、それを期待していたのだ!」
ピンと耳が立ち、尻尾がファサファサと揺れた。
現金なもんだ。
後日、リサさんの屋台の売り上げと利益は学校祭の一番ということで表彰されたらしい。ここで表彰されるということは商才があると認められるということで、名誉だということだった。
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