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20.学校祭トーナメント(本戦)

 再びトーナメント会場に戻る俺とアセナ。

「お前があの屋台にタレを提供したのか?」

 知らない少年に声をかけられた。

「ああ、リサさんの屋台にタレを提供したのは俺ですが」

「お前のせいでうちの屋台の利益が出ない。肉を使い切らないと買取りさせられるんだ。

 そんなことに貴重な小遣いを使わされる僕はイライラしている。

 だから、僕は君を叩きのめしたい」

「それは、あなた達の屋台の努力が足りないのでは? まあ、叩きのめす云々は当たった時によろしくお願いします」

 俺は頭を下げておいた。


 八人で乗トーナメントは学校推薦と野良参加を四組作って戦う感じだ。

 ルールは簡単。「参った」と降参するか、訓練場の舞台から落ちるか、審判が「戦闘不能」と判断した時である。

 野良参加の前に並ぶ学校推薦枠の面々は、デカいのが一人、普通なのが二人、女性が一人だった。

 雰囲気からして負ける気はしないな。


 俺は最初の試合で、目の前に立つのは「こいつ本当に十四歳?」と言うようなアセナよりも背が高い男。両手持ちらしい大きな両刃の斧を持っていた。

「お前、いい女連れてるな。奴隷か?

 奴隷はいい、命令すれば何でもしてくれるからな。

 もうやったのか?

 その年じゃ無理だよな。母ちゃん恋しいんだろそんなデカい乳を弄っているんだからな」


 ふむ……、童貞卒業している。俺よりもランクが上らしい。


「アセナはいい女で、俺の妻です。命令すればいう事を聞いてくれるでしょうが、そんな事をしなくてもいろいろやってくれます。甘える女性の可愛さとかは知らないんじゃないですか? かわいそうですね」

 俺が言うと、アセナは見せつけるように俺に抱き付いた。

 ギギギ……。

 歯ぎしりの音が聞こえた。

 巨体にひるむどころか、言い返したことが気に入らなかったのか、俺は睨み付けられる。


「二人とも前に!」

 審判の声がかかり、訓練場の中央に俺は向かった。

「試合で死んでもだれも文句は言わないんだ。お前を絶対に殺してやる」

 物騒な言葉を吐く男を俺は冷めた目で見ていた。

「始め!」の声で俺に向かってくる男。

「これで終わりだぁ!」

 両手で斧を振り被ると、渾身と思われる力で薪を割るように振り下ろしてきた。


 遅っ……。


 俺は盾を落とし、左手でその斧を挟んで止める。

 勢いのせいか、部隊の敷石が割れベコリと両足が埋まった。

 唖然として佇む男。

「えっ、何でだ! こんな小さなやつがこの斧を片手で止める! あり得ない!」

「小さなやつの力が弱いと誰が決めたんでしょうか?」

「こんな奴が居るのか! 斧がピクリとも動かない」

 脂汗をかきながら俺の手から外そうと必死に力を入れている。

 俺はニイと笑うと、

「確か、魔法剣は使ってよかったはずですよね。

 ああ、そうだ。試合で死んでも文句は言われないんだった」

 俺は右手で木剣を抜くと刀身に魔力を纏わせる。そしてスッと斧の柄に触れると、金属の柄が切れた。

 斧を外そうと思いっきり力を入れていたせいか、柄が斬れると勢いよくひっくり返り大の字になった。

 俺は上から睨み付けると、

「さて、この斧いらないんで、返しますね」

 斧の刃の部分を投げる。

「ズン」と音がして落ちた場所は男の急所ギリギリ。

「ヒイ」と言う声と共に男は白目を剥き、股間から湯気が立つ。

 広がる水たまり。


 審判も唖然として何も言わない。

 観客も息をのんでいた。

 俺は木剣に再び魔力を通すと、男の首を持ち、

「えーっと、殺したほうが?」

 と聞いてみる。

「まっ、待て!」

 審判は急いで俺の手を持ち、

「勝者マルス!」

 と高らかに俺の勝利を宣言。


 舞台から降りると、

「さすがマルス」

 アセナに抱き付かれ、俺はスイカに包まれる。よほど興奮したのか俺の頭をグリグリとスイカに押し付けていた。


 他の試合を見たが、基本は学校推薦のメンバーが勝っている。

 基本、野良は負けるらしい。

 噛ませ犬的な立場のようだ。学校推薦たちは既にどこぞの騎士団への就職が約束されていて、アピールタイムになっているということだ。

 緩い就職活動だねぇ。



 準決勝の相手は槍使いだった。

 体格的には俺より少し大きい程度。

 毎日学校で訓練し、鍛え上げたからだということなのか、フルプレートメイルの重量など気にしないのかもしれない。

 魔法系の補助なんかもあるのかもしれない。

 よく見れば、さっきの勘違い男。

「叩きのめす」と言う言葉に期待しよう。


 うっすらと光る槍。素早さの補助があるのか、結構な速さで俺を突いてきた。

 その柄を持ち、力を流すと、勢いのまま突っ込んできた相手を木剣で叩きつける。

 魔力を纏わせてないから切れはしなかったが、兜に斜めに凹みが付き。鼻が潰れたのか、兜の中から鼻血が流れ始めた。

 衝撃で昏倒した相手は倒れると動かなくなった。

「しょっ勝者! マルス」

 あっという間の結末に再び沈黙する観客だった。


 もう一つの準決勝は、学校推薦同士だったらしい。

 双剣と片手剣の戦いになる。片手剣は盾を持っていたが、素早さと手数で圧倒した双剣が、早々に勝利していた。



 そして決勝。

 舞台の上で向かい合う俺と対戦相手。

 現れたのはアセナのような双剣使い。女性。軽い軽銀を使い、極限まで薄くしたようなフルプレートメイル。

 速さでの勝負なのだろう。

 馬上では双剣は使い辛そうだがなぁ。


「幼いながら、四天王のうちの二人を簡単に倒すとは……。あの剛腕のガストルの斧を片手で受け止める膂力、技量のラクスの攻撃を簡単に躱す素早さ……素晴らしい。しかし、神速の二つ名を持つ私に勝てるとは思わない事だな!」

 ビッと右手に持った剣を俺に向け、上から言うお嬢さん。


 四天王って何?

 しかし、二つ名なんて恥ずかしくないのかね?


「ぷっ、神速だって……」

 俺が笑うと、

「しっ、仕方ないだろう? 校内のランク戦で上位四名には四天王として、個性にあった二つ名が贈られるのだ。いくら恥ずかしくともこの学校では名誉」

 と言うお嬢さんは赤い顔。

「ぷっ……、自分で恥ずかしいって言ってるし」

 再び俺が言うと、プルプルと手を震わせ、何かがキレた。

「言うなぁ! 絶対にその口を塞いでやるぅ!」

 怒っているのか恥ずかしいのかわからないような赤い顔をすると、「始め」の声も無いままに俺に襲い掛かってきた。

 慌てて「始め」の声をあげる審判。


 双剣を使った攻撃は先のラクスよりは早かった。とはいえアセナに比べれば全然。

 怒りに任せて直線的に攻撃してきている。

 俺は中指に魔力を纏わせて双剣を躱しざまにお嬢さんの兜にデコピンを喰らわした。

 ラリアットのように、縦にまわると、そのまま後頭部から地面に落ちる。

 シンとする会場。


 さて終わり……。


 しかし、審判は、

「武器以外による攻撃は違反とみなします」

 との事。


 武器以外での攻撃が禁止なのは見てなかったなぁ。

 一応ガントレットしてるんだが……ガントレットは防具判定なのかね?


 チラチラと俺を見る審判。


 暴れられたら困るって?

 しないよそんなこと。

 こんな試合に出たのが間違い。


 俺はフッと笑うと。

「そうですか、わかりました。ルール違いの事をしたのは僕です。負けを認めましょう」

 そう言うと、俺は舞台から降りた。

「マルス、いいのか?」

「こんな試合で優勝しても面白くもなんともない。だったらアセナと手合わせしているほうが楽しいしな」

「うむ、(われ)もマルスと手合わせしていると楽しい。そうだな、弱い者いじめは良くない。こんな試合、出ないほうが良かったのかもしれないな」


 賞金も賞状も辞退して俺は去った。

 結局学校推薦の誰かが準優勝になったようだった。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら、指摘していただけると助かります。

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