17.懐かしい雰囲気
カミラさんの誕生日から一か月ほど経った。
十一月になると、さすがに寒い。
俺は次元収納から、断熱と保温の効果を持ったマントを二つ出す。
一つは俺、もう一つはアセナに渡しておいた。
そんな頃ラルフさんから、
「ホルスとランニングバードの放牧をすることにした。春になったら手に入れるのを手伝ってくれないか?」
と相談を受けた。ギルド経由でなくても依頼は受けられるようで、俺は了承しておく。
朝食に降りると、
「あーマルス君だぁ」
とカミラさん登場。
髪には赤い花の髪飾り。
俺が言った通り、毎日着けている。
「おはよう」
と言うと抱き付いて来ようとした。
さっと俺を持ち上げて、避けるアセナ。
「もう、いいじゃない」
「ダメだ。マルスがまだ許可を出していない」
「マルスくぅん」
涙目で詰め寄る。
「まだ無理かなぁ……。もうちっと大人になってからかな」
「お姉さんが大人にしてあげようか?」
カミラさんが上から言ってきた。
「僕が大人になるのならば、最初はアセナです」
「残念……。まあ私も初めてって訳じゃないから。それにアセナちゃんがマルス君にぞっこんなのも知ってるしね。お姉さんは二号でいいです」
カミラさんはシュンとした顔を作っていた。
「おはようございます。朝からうるさいですね」
リサさんが起きてきたようだ。最近、勉強をし過ぎて少し目が悪くなったらしく、気付いた俺が作った丸眼鏡を着けている。
「眼鏡に合うね。知的に見える」
俺の言葉に真っ赤になるという反応。
「目が悪くなったお陰で、マルスさんに褒められました」
と言ってモジモジしていた。
「あっ、そういえば今度の休み、マルスさん空いていますか?」
「まあ、俺もブラブラしているだけだし。軽く依頼受けているだけだしな」
俺はアセナと日帰りできそうな依頼を適当に受けるようにしていた。
だから、依頼を受けないというのも可能なのだ。
「それじゃ、学校祭に来てもらえませんか?」
「学校祭?」
「ええ、模擬店をしたり、人によっては劇をしたり、そう言えば騎士クラスのトーナメントなんかもあるんです。飛び入りもできますから、マルスさんなら勝っちゃうんじゃないかな」
「ちなみにリサさんは?」
「私は商人の娘だから模擬店ですね。第二棟の入口付近でランニングバードの串焼きを売ります」
「わかりました。その日は休みにして、学校を覗きに行きますね」
すると、チケットのようなものを二枚差し出してくる。
「学校にはこのチケットを持った人しか入ることができません。ですから、これをお持ちになってきてください」
「わかりました、楽しみにしておきます」
学校祭かあ……学園祭みたいなもんかね、模擬店があって、各部活の発表があって……向こうじゃそんな感じだったけど、こっちってどんなだろ。リサさんの内容を聞くにあまり差は無さそうだ。ああトーナメントがちょっと面白そうかな。
そして、リサさんが言っていた学校祭の日。
俺とアセナが朝食に降りた時にはリサさんは既に宿を出ていたらしい。
準備とかもあるのだろう。
「私も行きたいのにぃ!」
とカミラさんが駄々をこねていたが、
「チケットが無いとは入れないらしいです。
まあ、留守番していれば今度新しい料理を作りますから」
と俺が言うと、静かになった。
目が若干硬貨の形。金儲けの匂いがしているのだろう。
学校に向け歩く俺たち。
学校の入口には門がある。ちょっとした城のような大きさ。
門でチケットをチェックされた。
貴族やリサさんのような商会の娘も居るからセキュリティーが厳しいらしい。
中に入ると門の前に大きな通りがある。そこを進むと左手に大きな校舎が何棟も見えてきた。
「第二棟の入口って言っていたな」
校舎には数字が振ってある。
二番の棟ってことなのだろう。
話しと数字に従って向かうと、そこには屋台があった。
お客さんは居ない。
まだ早いのかもしれない。
「おはようさん」
俺はリサさんに声をかけた。
「あっ、マルスさん」
「串焼きって塩焼き?」
「そうですね、塩焼きです。それにハーブをかけるぐらい」
それ以外に何が? という感じのリサさんの返事。
「この屋台だけの特色は?」
俺が聞くと、
「素材がいい?」
そこは疑問符?
「それ以外は差がないのか……」
「そうなります」
要は大差がないということ。
この屋台が人を惹きつける魅力がないということになる。
俺は屋台にあったボールに醤油を出した。
「何ですかそれは?」
「ん? 市場で見つけた調味料。肉に塗るといい味出すんだ。
そうだね、これにこの前の誕生日の時の使い残しの砂糖を入れて、あと、火酒っていう酒を入れて……」
俺は指で味を見た。
「ん、いいね。
あとは、煮たてて……」
ちょっとトロみが付いたタレの出来上がり。
みりんがあるといいんだけどそれは無い物ねだりだろうなあ。
簡単に魔法を使う俺をリサさんとそのクラスメートらしき者たちが俺を見ていた。
「これにつけて焼いてみると……」
櫛に刺さった肉を三本ほど一度そのたれに通し、炭火で焼くと、塩焼きには無い香ばしい匂いが漂い始めた。
「いい匂いだろ?」
焼き加減を見て、出来上がったのを確認すると、アセナに一本、リサさんに一本、俺が一本で食べた。
甘辛な味付けと、焦げた部分の香ばしさが口に広がって美味い。
ハムッとリサさんがかぶりつくと、
「美味しい……」
と言って頬を押さえていた。
更にはアセナが、
「マルス、これはいいな。
もう焼かないのか?」
とおねだり。
「それはいけないだろう?
あとはリサさんたちがやること」
アセナと話していると、
「何だこのいい匂いは、この屋台から漂ってくるな。
えっ、串焼き? こんな串焼きがあったのか?」
そんな事を言いながら客が集まる。
「何でですか?」
「ん? タレが焼ける匂いが人を呼んだんだと思うよ。
そこのボールにある液を使って焼けば、どんどん香ばしいいい匂いが広がる。
そうすればお客さんは匂いにつられてやってくる。
あとは、リサさんたち次第。頑張って!」
そう言うと、あとは丸投げにして串焼きを食べながら俺は去るのだった。
ありゃ?
アセナ、後ろ髪引かれるように振り向かない。
まあ、あとでまた覗くんだから……。
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