16.当日
さて、カミラさんの誕生日になる。
ここで仕込んでおくのが、グリビシさん。
男が欲しいというカミラさんへのプレゼント。
何かターゲットが俺になっているので、撒き餌として提供しようかと。
独身らしくちょーどいい。
金髪碧眼の無精ひげを少しはやしたナイスガイ。
この世界の三十路は結構なオッサンらしいのでその辺がマイナスかもしれないが
「紹介して良いか?」
と聞くと、
「いいですよ」
と頷いていた。
あとはラルフさんが俺のお菓子が気になると言っていたのでなんかプレゼントを持ってくるだろう。
俺は何にしよう……。
んー、ああ、そういやダンジョンで手に入れた貴金属の中から適当なのを選ぶか……。
「我は何をプレゼントすればいいのだ?」
「俺とアセナは一緒でいいだろう。番だからね。
で、この水色のペンダントと、赤い花の髪飾り、緑のブローチ。どれがいいかな?」
「人の趣味はわからんが、我は赤い花の髪飾りがいいのう。我が傅き主付けてもらうのがいい」
アセナにとっては、あくまでも自分が従だという証明なのかもしれない。
まあ、カミラさんはそうではないだろうが、俺が見繕いアセナが選んだということで、二人が一緒であることを印象付けるにはいいと思う。
さて、プレゼントは決まった。
さて、誕生日と言えばケーキ。
大量に手に入れた牛乳でバターと生クリームを製造。小麦粉、バターに卵に牛乳、更には蜂蜜でスポンジを作った。
ラルフさんに聞けば、砂糖もあるらしく、生クリームへの味付けで使わせてもらう。
生クリームを入れて砂糖を入れて、冷やしながらシャカシャカと泡だて器で角を立てた。
指で掬って舐めたら無茶美味い。
皮羊紙を見つけ綺麗にして、絞り金具を自前で作る。
薄い鉄板を見つけ、テーパーにすると、ギザギザにする。
スポンジケーキを上下二つに割って下に生クリームを塗ってドライフルーツ入れてと……。
上を乗せて、更に周りに生クリームぬって、皮羊紙と金具で搾り機出来上がり。
適当に柄を書いて、色どりを考えながら再びのドライフルーツ。
この世界では蝋燭は載せないらしく、そのままで終わり。
人数は、俺、アセナ、カミラさん、リサさん、お菓子チェックのラルフさん。計五名。
食事については、金貨一枚で宿の調理人に任せた。
何かブタっぽい丸焼きの足に飾りが付いている。
某アニメのようにブタの尻尾でシャンパンの栓を抜いたりする趣向は……ないよな。
見たことが無いような鳥も丸焼きだった。
スープにパン、リサダ、果物も並ぶ。
ん、一応準備万端。
指定の時間が近づき、
「いらっしゃいませ」
と言う店員の声が聞こえると、参加者が集まってくる。
外から来るのはラルフさんだけ。
皆がテーブルに座ると、主賓のカミラさんは赤いドレスを着ていた。
全員の前にワインが並べられ、なぜか乾杯の音頭は俺。
一応未成年なんだがなぁ。
おっとリサさんもか……。
「誕生日おめでとう」
とグラスを上げ、食事を始めた。
程々の間の後、
「マルス君ぅん」
と少し酔ったのか抱き付いてくるカミラさん。
アセナの耳がピクリと動く。
「カミラ殿、マルスは私の夫」
「いいじゃない、誕生日ぐらい。
私、男居ないし……」
今だ!
「男の人、紹介しましょうか?」
「誰?」
「通りの衣料品店の店長」
「どんな人?」
「無精髭がワイルドな、
アラサーのナイスガイ。独身らしいです」
ウンウンと頷くと、カミラさんが微妙な顔。
「私無精髭苦手。
キスするときチクチクするでしょ?
だったらマルス君がいいなぁ」
俺の頬に頬を摺り寄せる。
クリビシさん轟沈。
「ゴホン」
今度はリサさんの咳払い。
そして、
「マルスさんは、どんな誕生日会を?」
と聞いてきた。
「俺は山ん中だったからねぇ。今回のお菓子みたいなのを作って終わりだね。
服もこれ一着。ただ、サイズ調整の魔法がかかっているのと、なぜか自動修復も付いていたから、破れることもなかった。
ああ、いつも持っている木剣が一番だったかな。あれで父さんと修行に明け暮れた。
まあ、その父も最近死んだんだけどね」
「あっ、すみません」
リサさんは「父が死んだ」と言う言葉に反応する。
「んー、気を使ってくれてありがとう。
でもね、多分、父親が死なないと今ここには居ないと思うんだ。アセナにも会えなかったし、カミラさんにもリサさんにもラルフさんにも会えなかったと思う。
まあ、父親の死がきっかけになったんだろうね。まあ、情けないことに父の遺産に頼りっきりで、この宿に泊まったままだけどね」
当然嘘である。
「私はマルス君がこの宿に泊まってくれてよかったわよ。
お陰で、いつも仕事だけでさみしい誕生日だったのが、こんな感じで祝ってもらえる。
いいなぁ、アセナちゃんは。
マルス君みたいな夫が欲しい。年下いいなぁ」
そんなに連呼しなくてもでも……。
すると、
「マルスがどうしてもと言うのなら、カミラ殿がマルスの妻になるのは気にしない。マルスは私が一番だと言ってくれた。だから、カミラ殿が来ても二番になるそれでもいいのならだがな」
フンとアセナがそっぽを向いた。
「ほれ、お前はどうなのだ?」
ラルフさんがリサさんに言う。
「私は……助けてもらって、話し相手になってもらって、マルスさんがアセナさんを大切にしているのを見て、私もそうしてもらいたいなぁって思って……。
もう少し経って、学校を卒業して、マルスさんがいいのなら、妻にしてください」
ペコリとあまたを下げる
「えっ? ラルフさん的にはいいのですか? 俺は冒険者ですから、商会の跡など継ぎませんよ?」
「ふむ……。儂はまだ三十一だぞ? 五年後に孫ができて、そこからその孫を鍛え上げれば、十分に跡を継げるだろう。それに、リサが冒険者という訳でもあるまい? マルス君の代わりに働いてもらうさ」
ニヤリと笑うラルフさんだった。
おっと、前の世界の俺より若い。
なんか決まりつつ、酒と食事が進む。
腹がいっぱいになる前に、ケーキ出すか。
俺は調理場からケーキをホールで持ってきた。
そして、カミラさんの前に置く。
「あら、綺麗。これがお菓子?」
「気に入りました?」
「ええ、これを私に! 嬉しい」
どさくさに紛れて抱き付くカミラさんをアセナとリサさんが睨み付けていた。
八つ切りにして、一つずつ前に置く。
「さて、食べてみてください」
俺が言うと、皆が食べ始める。
「あっ、美味しい」
「うむ、甘くてうまいな。甘くてフワフワした中にあるベリー系や柑橘系の酸味が味を引き締める」
「そうです。この酸っぱさがこの甘さを際立たせています」
カミラさん、アセナ、リサさんが絶賛した。
「確かにこれは旨いな。
しかし、単品で出したほうが本当に味わえそうだが?」
ラルフさんが聞いてきた。
「今回はお酒と料理の後に出しましたが、切ってお茶の時に食べる方がいいかもしれませんね」
「お茶と一緒にか……。この色使いであれば、女性に受けそうだな」
「そうですね、新鮮な果物が手に入れば、今回のようなドライフルーツではなく、果物そのものを使う方がいいかもしれません。クリームが甘いので、酸味がある果物が合うと思います」
「ふむ……。
材料はホルスの乳とランニングバードの卵、あとは砂糖と小麦粉だったな」
「はい、ホルスの乳は加工して、クリームと脂分を手に入れる必要があります」
「作り方は難しいのか?」
「まあ、ある程度コツはありますが、慣れれば簡単です」
ラルフさんは腕を組む。
「お茶を出し、このお菓子のバリエーションを増やして提供する店を作ってみてはどうだろう?」
おっと、喫茶店。
「いいのではないでしょうか?」
「当然、この店で出してもいいのよね?」
「ええ、問題ありません」
シェフの一人は俺が作っている時にメモを取りながら手伝っていた。
「マルス君。ホルスの乳を手に入れるにはどうしたらいいと思う?」
一応俺は考える。
「広い土地で、群れを飼うのはどうでしょう?
エサをやり、人に慣らし、乳を搾ることに慣れさせれば、ホルス自体も乳を分けてくれるのではないでしょうか?
そうすれば、わざわざ森の中のホルスを探さずとも、乳を手に入れることができます。
オスは一頭残し、残りのオスはそれなりに大きくなった所で肉にすることで、食肉も手に入ります。
同様にランニングバードについても卵と肉で可能かと」
「ふむ……」
顎に手を当てラルフさんは考えていた。
「お菓子も味わった。
儂が居る必要はなくなったが、プレゼントを渡しておらんな。
誕生日会と言うのにプレゼントが無いのもいかんだろう。儂のプレゼントはこれだ」
そう言うと、パンパンと手を叩く。
すると、待ち構えたように、赤い花束が入った籠を持った者が現れた。
食事が始まってから二時間ぐらい、ずっと待っていたのか……。
「女性には花が無難だろう? であるから、これを送ろう。この街の高級宿としてよくやってくれていると思う。今後の発展を期待しているぞ」
ラルフさんはそう言った。
「お父様に続いて私ですね」
そう言うと、青い綺麗な紙で包まれたものを差し出した。
「何かしら」
とカミラさんが包みを開ける。
「あら、ハンカチね。
細かい模様が書かれて綺麗。
使わせてもらうわ」
そう言って、自分の前に置く。
そして俺。
「アセナと一緒に決めたんだ」
俺が差し出したのは真っ赤な花の髪飾り。
五つの赤い金属の花びらの中央に黄色い宝石が付く。
髪の毛に差し込んで使うかんざしのような感じの髪飾りだった。
俺はどんな宝石や貴金属が使われているのかはわからない、
「あっ、綺麗……」
カミラさんはその髪飾りを手に取った。
「マルス君、あれは?」
急にラルフさんが聞いてきた。
「ああ、父の遺産に入っていたものの一つです」
「さて、君のお父さんは何者だい?
その花びらはヒヒイロカネ。中央の宝石は魔石で何か魔法が閉じ込められている。土台はプラチナだ。
普通の者が持つ物ではない。
君の父親が元々高貴な貴族で依頼して作った物か……それとも……」
ラルフさんが一つ溜めると、
「君が凄腕の冒険者かだ……。数あるダンジョンの深層では装飾品も出ると聞く」
と言った。
「それを言うなら私の父が凄腕の冒険者だという可能性もありますが?」
「まあ、これは儂の推測であって、証拠はないがね」
ほとんど当てられている俺だが、ウンとは言うつもりはない。
「証拠がないのであれば僕は山奥で修業をした子供ということにしておきましょう」
「認めているようなものじゃないのかい?」
「認めるつもりはありません。剣と魔法が強いのは父に学んだからで、金を持っているのはその父の遺産を持っているからです」
「まあ、そういうことにしておこう。
そう言えば、最近マルス君の噂が出ているのを知っているか?」
ニヤけるラルフさん。
「何かあるんですか?」
「そう言えば学校でも……。どこかの大貴族の息子が獣人と一緒に高級宿に泊まっていると……」
「俺が貴族?」
自分を指差して聞く。
「そうね、そんな事を聞いてきた商人も居たわね」
カミラが笑ったあと、
「ただの冒険者だとは言っておいたけど。逆に隠し事があると思ったみたい」
と言っていた。
ふう……変な方に俺の知名度が上がっているらしい……。
「話が大分反れているので戻します。
その髪飾りはカミラさんへのプレゼントです。ですから、使っていただけると嬉しいですね」
「カミラ、それ多分、白金貨一枚じゃ買えないからな」
ラルフさんが言う。
「えっ?」
カミラさんが手を引いた。
「でも宝飾品っていうのは使うためにある物。あまり大きくないので目立たないかもしれませんが、普段使いで使ってください」
俺が言うと、
「じゃあ、つけて」
と言って頭を前に出してきた。
すっと髪に刺すと、赤いドレスに似合ってキラキラと輝いていた。
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