11.過分な報酬
二度寝して再び目を覚ますと、俺の顔はアセナのスイカに挟まれていた。
体を動かすと、ギュッと両手で絞めてくる。
あー、まだサインもらってないや。更には書類もペンドルト商会に置いたままだ。
取りに行かないとなぁ……。
いきなり失敗っていうのもよろしくないだろうし。
手を動かし、何とかアセナの尻尾を触ると「ヒャン」と言って目を覚ました。
俺はアセナに、
「おはようさん」
と声をかける。
「マルスぅ」
ガジガジと甘噛みを始めるアセナ。
まあ、尻尾を触ったしなぁ。
暫く甘噛みさせると、
「さて、目を覚ましたのなら、飯を食いに行くぞ」
「うー、もう?」
少し不機嫌そうにベッドを降りるとアセナは服を着始めた。
俺も同じく服を着る。
食堂に降り、食事をとったらそのまま前のペンドルト商会に向かう。
俺とアセナが顏を見つけた店員が、すぐにラルフさんを呼びに行った。
「これは、マルス君。今日は何の用だい?」
「冒険者ギルドの書類を回収に来ました。
サインをしていただけているでしょうか?」
俺が聞くと、
「こちらになります」
と店員が書類を持ってきた。
俺はそれを受け取る。
その時、見たことがある女の子が現れた。
「マルスさん、私のために貴重な実を探していただきありがとうございます」
と頭を下げる。
水色の髪の女の子。多分リサさんだろう。
大きくなれば美人になりそうだ。
さすがにこの歳に食指は動かないぞと……。
「いえいえ、元気になってよかったです。
貴重な実と言っても俺には必要な物ではなかったので、病気だったリサさんに使ってもらっても問題ないのです。気にしないでください」
俺は当たり障りがなさそうな事を言った。
「あのぉ、後ろに居られる獣人の方は?」
「ああ、僕の妻です」
「えっ?」
「薬指に指輪もありますよ?」
「なぜ獣人などと」
「『獣人などと』と言われると困りますね。
一緒に居たいから居るだけです」
「えっ、獣人を妻に?」
ラルフさんが俺に聞いた。
「ダメですかね?」
「いや、悪い意味ではなく、獣人に夫と思われていることが凄い。
獣人が夫と認める時は、自分よりも強い者を選ぶ。
つまり、そこに居る白狼族の娘よりもマルス君のほうが強いということになる。
白狼族は一騎当千の獣人。
その白狼族に認められるとは……」
「一応、オヤジに鍛えられましたから……」
「やはり、ロキ・バンゴランの息子?」
疑うような目。
「違います。
それでは、冒険者ギルドに行きますので、失礼しますね」
少々強引に、ペンドルト商会を出る。
「何を話していたのだ。一部しかわからなかった」
アセナが聞いてくる。
「ああ、アセナが俺の婚約者だと言ったら、『白狼族に力で認められるのは凄い』だってさ」
俺の言葉に、
「その通り」
とウンウンと頷いていた。
冒険者ギルドで、いつもの受付嬢に書類を提出する。
「えっ……本当に!」
驚きながら俺を見た。
「そこに、ラルフ・ペンドルトとサインがあると思うのですが……」
「確かに……」
この書類には依頼した本人しかサインができないらしい。
だから、サインがある時点で本人のものということになる。
「それでは手続きをしてきます」
そう言うと受付嬢は奥に向かうと、小袋に白金貨三枚を入れて持ってくる。
「これが報酬です。金貨三百枚ということでしたので、白金貨三枚になります。
それにしても、どうやって神樹の実を……」
「実は取ってきた訳じゃないんです。僕のオヤジが一つ持っていました。オヤジが死んで、遺産としてもらった物の中にあっただけ」
「ダンジョンで探してきたものではないと?」
「オヤジがどこで手に入れたのかはわからないけども、俺はタダもらっただけですから」
「そういうことですか、実そのものはマルスさんの力ではなかったと」
受付嬢は納得したようだ。
小袋を受け取ると、ポケットから次元収納に仕舞う。
「それでは失礼しますね」
俺は冒険者ギルドを出るのだった。
小僧が過分な報酬を持つと、それを耳にした奪えると思うものも出てくるようで……。少し人気の少ない場所を歩いていると、二十人程の男に囲まれた。
舌なめずりするアセナ。
「殺っていいのか?」
「出方を見てからかなあ」
すると、
「そこの坊ちゃん。話を聞けばたまたま持っていた神樹の実で、大金を手に入れたそうじゃないですか。そこの獣人が居たとしても、この人数で勝てるとお思いでしょうか?
おとなしく手に入れた物を私どもに提供していただけませんでしょうか?」
背が高く痩身の男がナイフを手で弄びながら俺に言ってきた。
ふむ、丁寧な言い方だ。
だからと言って、金を払うつもりもない。
「嫌だと言ったら?」
俺が聞くと、
「えへへへへ」
と笑う
ナイフや短剣を抜くと、ずいと残りの者が前に出た。
前の世界では「命は大切に」なんて教育を受けていたが、この世界の命は安い。そして殺らなきゃ殺られる。
「殺るか」
俺が獣人語でアセナに言うと、アセナは弾け飛ぶ。。
炎と氷を刀身に纏った双剣が正面に居た男の首を切り裂く。
すぐに次の標的を決めるアセナ。
「てめえ!」
と言って襲ってくる男たち。
俺の方が弱いと思われているらしい。
俺は木剣に魔力を纏わせると、アセナよりも早く動いた。
男たちには残像が見えたようで、周りから一瞬前に居た場所へナイフを持って飛び掛かる。
「遅いよ」
俺は刀身を伸ばし後ろから横一文字に斬ると、四人程の男たちの上半身と下半身が分かれて内臓を派手にぶち撒いた。
アセナは素早さと力に物を言わせ、次々と襲撃者たちを葬り去る。
俺も近くに居た男たちを斬り捨てた。
数瞬の後、残ったのは俺に話しかけた男一人、
「たっ、助けてくれ!」
腰を抜かし、失禁までした男。
少し前までの余裕はない。
「残念。
でも、俺が弱かったら、逆の立場だろ?
殺されて屍を晒しているのは俺。
だから、許すつもりはないよ」
俺は軽く縦に剣を振るった。
男は縦に線が入ると、そのまま左右に別れて倒れる。
「久々の人殺しだな」
「そうなのか?」
「ああ、我を捕まえようとした奴等と戦って以来。
あの時はクスリやら魔法やらで弱らされてしまった。
それでも半数ぐらいは殺ったがな」
「あっそう」
多分、アセナの戦闘力も半端ないのだと思う。
俺たちは死体を放置し、街を歩くのだった。
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