76、押し売り
「そうかしこまらないでちょうだい。クレマンティーヌと呼んでいいかしら? 先ぶれのお手紙をいただいてから、ずっと楽しみにしていたのよ。こう言ってはなんだけど、こちらではまともにお話しできる方がいないものだから。私のことは、ジャクリーンと呼んでちょうだいね」
「はい、ジャクリーン様。若輩でもありますし、どうぞ私のことはお呼び捨てください」
「そうさせてもらうわ。互いに評判は耳にしていても、こうして会うのは初めてね。じつのところ、あなたとお会いできる日を楽しみにしていたのに、ずいぶんとあっさり遠くに嫁いでしまうのですもの。話を聞いた時は本当に驚いたわ」
「夫があまりにも魅力的だったものですから」
「そう、そういうところよ。あなたの目のつけどころの良さに気付いて、また驚いたの」
「恐縮です」
「私も跡取り娘でなければね、そんなふうに行動したかったわ」
「ですが、なげいても状況は変わりませんから」
「そうなのよね。クレマンティーヌのそうやってはっきり言ってくれるところ好きだわ」
「私もジャクリーン様の責任感の強さを好ましく思います。正直、私でしたらすべてを投げ出して逃げ出していたことでしょう」
「……たんに臆病なだけよ。あれこれ見えすぎるのも困りものね。自分の頭の中で完結して、身動きが取れなくなってしまう」
ここだな。
ちょっとしんみりモードの御令嬢に押し売りだ。
「そんなジャクリーン様に贈り物があるのですが」
「あら、何かしら? これでも私とよしみを結びたいという方はたくさんいますから、やたらのものでは驚かないわよ」
私は彼女の許可を得て、それを運び込ませる。
当然、侯爵家側は事前になかみをチャックして、驚き、難色を示したけど。
勝手に行動できないように拘束してあること、侯爵家の護衛を立ち会わせることを条件になんとか許可をもぎとった。
ジャクリーンが私に好意的ってこともあったかもしれない。
大きめのチェストからは、あきらかに生き物が身動きする音と、ムームー言葉にならない声が聞こえる。
目を見開いたジャクリーンの口元が、じわじわほころびる。
まるで未知の洞窟で宝箱を見つけた少年のように目を輝かせながら、先まわりしようとする護衛を制して、自らそろりそろりと蓋を開けた。
「あらまあ、かわいそうに」
言いつつ声が笑っている。
そこには手足を縛られ、猿ぐつわをかまされた男が一人。
ジャクリーンに軽く加虐癖があるなら、こんな作戦もうまくいくかもしれない。




