71、男爵夫人ムーブ
私はこちらに背を向けてる青年に向かって、可能な限り太い声を上げた。
「慮外者、そこに直れ。我はグリム男爵夫人、クレマンティーヌ・ジェシー・グリムなるぞ」
ぱっとふり返った青年が歯をむき出しにする。
「なんと無礼な女だ。俺はマッケンジー辺境伯の嫡男だぞ」
ほうほう!
「痴れ者が。たとえ親が高位貴族だろうと、無位無官の子に何の価値があろうか。男爵夫人である我の方がよほど身分が高いことを知らぬとは、さてはお前、貴族の子弟をかたる偽物だな」
「こ、このやろう、不敬罪で叩き切ってやる」
腰の剣に手をかけんとする格好だけは一人前。でも、そこに剣はないのでまわりからは笑いが漏れる。
それでさらに逆上してるけど。
「間抜けにもほどがあるな。そもそも共も連れず他領をうろつく貴族の嫡男がどこにいる。それこそ、お前が偽物である証拠ではないか」
「うるさい、うるさい。俺はマッケンジー辺境伯の嫡男なんだぞ」
なんか言動もいまいち幼いし、長男であっても跡取りに指名されるとは思えない。
まして、こんな騒ぎを起こしちゃねぇ。
それでもマッケンジーの血筋なら使いようがあるな、フフフッ。
「では、証拠はあるのか?」
「は?」
「お前の身分を証明するものだ」
彼は自分の手の指を見、すでに何もないとわかってるはずの腰を見、胸元をぺたぺたと触って、開き直ったように声を張り上げた。
「俺が俺であることに何の証がいるものか!」
一見カッコイイっぽいこと言ってるけど、なんて意識の低さだろう。
比べるものがあると余計にそう思うよ。




