64、取り引き
「少々失礼してバングルを装着してまいりますので、申し訳ありませんがお待ちください」
「ああ、急かずともよい」
その間に、先ほど私たちが射的に使った小物とは比べものにならないサイズの石の置物を並べさせておく。
「では、参ります」
そう、私は高圧洗浄機なみの水圧を実現した。
ただ、自力ではほんの数秒しかもたないんだよね。
数ある石像を一薙ぎで倒した私と、倒れた石像を驚愕の表情で見比べる前子爵閣下。
「うむ、うむ。これは考えねばなるまい。まさか動力石の力を一気に爆発的に引き出すことができるとは」
ぶつぶつ言いながら頭を振り、しばらくしてやっと少し冷静さを取り戻したようだ。
「逆に動力石にその力を戻せると考えたのはなぜだ」
「お恥ずかしい話ですが、たんなる当て推量にすぎません。理屈はわかりませんが、カーペンター子爵領ではすでにそれを実現しているのではないかと考えました」
「その根拠はなんだ」
「動力石の数です。私たちは日々、魔物の駆除に苦労していますが、当然ですがその数は有限です。たとえクズ魔石を有効利用しようともです」
「……そこまで読まれているのか」
私はにこりとする。どうやら当りのようだ。
「カーペンター子爵領があのバングルを売り出すにあたり、魔石に……いえ動力石に再度、力の素を込められる方法があるならどれほどと考えたにすぎません。しかしたいていの場合、開発当初はまだ無駄があり、とても効率的とは言えないことが多いように思います」
「……では、我々はその割に合わなさをどう補えばよいかな」
「魔石は本当に魔物からしかとれないのでしょうか」
「む」
その顔色を見る限りこれも当り。
もちろん元になる情報は、シャールがある程度集めてるわけだけど。
部外者が他領の核心部にまで迫れるわけもないから、推論に推論を重ねて、最後は度胸で乗り切るしかない。
「鉄鉱石のように、魔石の成分が含まれた物質が採取できる鉱山のようなものがあれば、どうでしょう。カーペンター子爵家の技術力であれば、それらを抽出し加工することもそう難しいことではないのでは?」
貴族家当主はそれがどんなに小さなものでも、鉱山の存在を王家に報告する義務がある。
そして、王家はそれに馬鹿みたいな税金をかけるって話。
ふう~と疲れたように猫背になる前子爵。
「こんな老いぼれをそう脅しつけるな。そなた、いったい何が望みだ」
「先にお願いしました機構が完成した暁には、閣下がご健在の間だけでけっこうです、その存在ごと秘匿していただきたく」
「……かわりに、我が領の魔石のもろもろについては口をつぐむと」
「はい。不遜な言いようになり、申し訳ございません」
「ハハッ、姿形など当てにならぬ、油断ならぬ人物と話に聞いていたものを高をくくった私がわるいのだ。期限を設けるなど、加減というものも心得ている……相わかった。前カーペンター子爵ブレイク・セオ・カーペンターが新機構秘匿の件にかんしては全権を持ってこれを約束する」
「ありがとう存じます。私もクレマンティーヌ・ジェシー・グリムの矜持にかけて、魔石の件にかんしまして決して、それが家族であっても口外いたしません」
「うむ。しかし、まったく不思議であるのだが、そなたはその機構ができると信じて疑わないのだな」
「僭越ながら、閣下のお顔を拝見いたしますに、できると確信しておられるようですので」
「これはまた、うむ。して、それをどのように使うのだ。それによって形や大きさ、出力を考えねばならぬ」
「船に取り付けたく存じます」
「船か」
「無風の時でも、人工的な風を帆に吹き付けて進むか、船底から水を噴射して進ませるか。私は、魔法の機構にかんしても船にかんしてもまったくの素人ですので、お手数ですが主人であるグリム男爵とご相談していただきたく存じます。田舎のせまい屋敷ではありますが、精一杯おもてなしいたしますので、心ゆくまでご滞在いただければ、これに勝るよろこびはありません」
「では、世話になるとしよう」
ずっと立ちっぱなしで重要なことを話し合ったことを不快がるでもない。
その後、少しの休憩をはさんで昼食となったのだけど。
閣下は、我が家の食事をたいそう気に入ってくれたようだ。




