61、バングル
付与魔法の家系であるカーペンター子爵家は、こちらの問い合わせに対して相変わらず丁寧な返事をくれる。
それをいいことに月一で手紙を送り続ける私。
羊皮紙は高い? そんなことでうだうだ言う夫じゃございません!
手紙の内容は、毎回ほぼ同じ。
新発売の魔法のスクロールがないかってことと、外付けバッテリーの完成はいつになりそうか。
我ながら、誰かと話したいがためにお客様相談室に電話をかけまくるボケかけの老人みたいだなって思うけど。
うん、向こうにすればやっかいなクレーマーも同然だな。
でも実際のところ、商会を通してだけどスクロールは買い続けてるし、いいお客様でもあるんだ。きっと。
あとは自身の名前をウグイス嬢に連呼させる政治家のごとく、私やグリム男爵領の名を覚えてもらおうと思ってさ。
そして、とうとう待ちに待った外部バッテリー完成のお知らせが。
即、購入だ!
お財布の許す限り欲しいところだけど、「大変申し訳ございませんが」って一人につき一個の限定販売。
でも、これは希望者多数ってわけじゃなくて、性能を確認して納得したら、次を購入して欲しいんだって。
多少まどろっこしく感じるけど、向こうはあくまで商売込みの親切心……魔法に造詣が深い者が極少なことを考えれば納得するしかない。
なにせ、貴族はいま使える自分の魔法が最上だと思ってるし、平民はスクロールで得られたものだけでも十分満足していて、それより上があるなんて考えもしないだろう。
さて、厳重に梱包された箱を開けると、出てきたのは幅広のバングル、それ対応の魔石、取扱説明書。
バングルは、幾何学模様の装飾が施された性別を選ばないデザインになっていて、二枚の金属を溶接したと思しき内部には、魔法のスクロールに描かれているミミズのような模様が、びっちり彫りまれているのではないかと推測する。
まあ、見たってわからないし、私は使えさえすればいいわけだから、わざわざ破壊してみようとは思わないけどね。
そして飾りの一部ですというように真ん中に魔石をセットするくぼみがあって、よそで手に入れた魔石がこれに合わないことは明らか。
さらに使い捨てだそうだから、定期購入せざるを得ないというわけ。
さすがは商売上手だな。
ちなみに魔石は、真珠のように魔物が体内で生成する。
大きく形が整っていて色の美しいものは、そのまま貴婦人の胸元や、耳および指を飾ることになる。
カーペンター子爵家は別として、ほかの誰も別の使い道なんて考えようともしないだろう。
当然のように小さく弱い魔物から採れる魔石はクズあつかいで、それでも商会に持っていけばいくばくかの金になるという話だ。
さて、そのクズ魔石はどこに行くんでしょうね?
電池代わりの魔石はカボションカットで、これがこのまま魔物の胸から出てきたとは子供でも思わないだろう。
カーペンター子爵家が、魔石を自在にこねくり回す技術を持っていると考えるのが自然だ。
もっとも、取扱説明書には動力石と明記されてるだけで、私が瞬時にそれを魔石と結びつけたのは、前世のサブカル知識による。
つまり、私の妄想って可能性もあるわけだ。
それはともかく、まずはバングルの検証をしよう。
私の腕には大きすぎたのでふくらはぎに装着。注水。
あーっはっはっ、これで勝てる!
いや、テンションもあがるよ。
金がかかるという以外はデメリットなしに、一度に風呂桶百七十八杯分の水が出せたんだもの。




