56、骨抜き
貴族に序列があるように、一口に平民と言っても格差はある。
グリム男爵領にスラムはないけど、下町には漁業を生業としてる者が多く、海運や造船に携わってる者は山の手に住むといった具合だ。
男爵夫人である私だって、漁師たちのとってきた魚や、その奥方が集めてきた貝や海藻をありがたくいただくし、彼らだとて自分たちの街が栄えていくことを誇らしく思ってる。
ただ、まったく引け目がないとも言えなくて……
そもそもの話、船乗りや運送に携わる者、船大工たちはグリムの旦那の直接の部下で、漁師たちはもう少しゆるやかな囲いの中でかかわっている感じだった。
それがグリムの旦那がお貴族様になって、次々新しい方針を打ち出し、またそれが当たってるので、その部下たちはどんどん豊かになる。
高収入をのぞめるレース編みの技術を有してるのもその奥方たちだしね。
もちろん領主として全体を見れば、これじゃいかんということで、漁師たちの方にも梃入れをして、干物やオイル漬けなどの加工品を作らせ金を稼げるようにしたわけだ。
それでもあと一押し足りないと思ったマックスの依頼で、奥サマは「何か考えて」ます。
頭の中で、もわもわ~っとまだしっかり形にならないうちに、シャール・ミンが脇に控えてるのどうなのかね?
いや、基本的に貴婦人が外をうろつくことはないし、人にしろ場所にしろ特に当てがあるわけでもないから、結局シャールに頼むんだけどさ。
準備万端、筆記用の薄板と木炭も用意されてるし。
「このサイズの毛抜きのような物を用意できないかしら? 干物を作る時に、小骨をすべて取り除いて食べやすくすれば、さらに高く売れると思うの。数はとりあえず、海産物の加工に携わっている人の半分に行き渡るくらいでいいかしらね」
「鍋や釜、柄杓など調理器具を専門に打つ鍛冶師がおりますので、そこに発注いたしましょう」
「言うまでもないことかもしれないけれど、この合わせ目の所はぴったり合うようにお願いしたいわ」
「承知いたしました」
シャールは私が落書きした薄板を大事そうに抱え、新たな薄板を私の前にセットする。
む~、まだなんか出るだろうって?




