35、祝祭
いや、はじめは私も、あれもしたいこれもしたい、ああしたらいいんじゃないか、こうしたらいいんじゃないかってたくさん妄想したんだ。
前世の記憶があるだけに、アイデアは湯水のごとく……まあ、皆パクリだけど。
でも、目的を見失っちゃいけないって気付いた。
大事なのは私を領民に見てもらうこと。
いまは皆、どんな女が来たんだろうって興味津々だけど、あれこれ準備に時間を掛けたがために一月先だの半年先にでもなったら、興味を持つのにも飽きて、どうでもいいよって状態になりかねない。
平民の生活は日々せわしなく、貴族のような悠長なことは言ってられないんじゃないかな。
実際、接してみたグレンもバトリーも、紳士然としたアーノルドですら短気だ。
第二回、第三回って小会議をくり返すうちに計画はブラッシュアップされて、予想以上に積極的な彼らの意見を取り入れた結果。
まず、領民がもれなく楽しめるように祭りは三日間行うことになった。
まあ、船の出入りを止められるのは天候だけで、当然、積み荷の上げ下ろしを休むわけにはいかない。
私の希望でバザールなども普段通り行われることになったし、交代制が当たり前の休日や休憩時間に、それぞれ参加できるように工夫したわけだ。
いわゆるパレードで、私が手持ちの白いドレスを着ようとしてることをどこからか聞きつけたアーノルドから、それは見事なレースのベールの提供があり、面目を潰された旦那様をなだめるのに苦労した。
いや、いまから注文服を作るのは間に合わないからね。
どうしてもって言うから普段着と、もしもの時のための夜会用のドレスと、茶会でも着られるドレスを数点作ったけどさ。
なにせ祭りが開始されたのは、第一回実行員会小会議が開かれた日から数えて十日後のこと。
船乗りたちは楽器をかなでたり歌うことも上手く、私たち夫婦の乗る馬の前後を歩きながら、それはもう見事に盛り上げてくれた。
細い階段状の路地を行く時なんて、家々の窓から奥様方が花びらをまいてくれたりして、感動!
もちろん競技会はひな壇で観覧し、優勝者をたたえるのも私の役目だ。
いざ競技会がはじまるという時になって、地味な上に誰でもできそうな皮むきと、職人芸の最高峰みたいなレース編みを同列にあつかうことを不満に思う人もいるんじゃないかって、ちょっと不安になったけど。
蓋を開けてみれば、皮むき部門で優勝したのが七歳の女の子だったので、その器用さや集中力・根気を心からほめない奴はクズってなもの。
「あなたの栄誉をたたえ、魔法のスクロールを贈ります。種類を選べますが、どれがよろしいかしら」
「あ、あ、りがとうございます。あの、着火で」
うん。各種用意してたけど、男女関係なく着火のスクロールが人気。
生活がぐっと便利になるものね。
あ、船乗りだっていう男は注水のスクロールを選んでたよ。




