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グッピーブリーダー  作者: 水遊び
少しは仲良くなれたか?
17/17

入学式

「みつるー。行くわよ」

「へーい」

今日は登校日だ。入学式ともいうが、小学校の時、友達が迎えに来ていたのを思い出す。

裏口の扉にカギはかかっていない。

カギはあるのだが、ロックのレバーが錆び付いて回らないのだ。当然、カギを差し込んでも回らない。

設備屋さんに頼んだから、そのうち何とかなると思う。

「なによその恰好?」

「いや。上下ジーパンで決めてみようかと」

「決まってないから。全然、決まってないから」

「ははは」

ドアを出た途端にダメ出しだ。もう、笑うしかない。

琴美は紺のブレザーというのかスーツだ。似合ってる。うん。かわいい。

「帰りに服を買うからね」

「決定?」

「決定」

「はい」

逆らってはいけない。絶対にだ。

大学まで、電車を乗り継いで1時間だが、福井ではありえない。県外に出てしまう。

それに、かっこいいところを見せようにも、こんな時に限って痴漢が出ない。

なにやってんだ、おっさん頑張れよ。

みつるのつぶやきは電車の騒音に消えていった。


「さすがに学生ばかりね」

駅に着くと、学生の波が出来ていた。

「迷子にならないように手をつなぐ?」

「つながない」

つながないらしい。

桜は満開だが、どこにも無い。大学の構内にも外にも、1本もない。

「君可愛いね。写真部に入らない」

「美術部だよ。君ならモデルでもOKだが、どうだい」

大学の門を抜けると各部の勧誘が迫ってきた。

「モテモテだな」

「うざい」

さーせん。

「あーら可愛い。おかまクラブに入らない?」

「駄目よ。ニューハーフ同好会に決まりよ」

みつるにも勧誘が来た。

「モテモテね」

「悲しい現実だ」

2人は講堂へと入っていった。


☆☆☆☆☆


講堂には椅子がズラリと並んでいて、新入生は3本の通路を通って前から順に埋めてゆく。

隙間が無い様にと声を上げているのは数名の学生。あっちの綺麗なお姉さんの方が良かった。いえ、何でもありません。

前にいた琴美が先に座れと場所を譲る。

男を立てる女になったかと思いきや、隣がキモそうな男だった。期待した私がバカなんですね。分かります。

式典において祝辞は長いのが相場だ。

ふんぞり返ってばかりいないで何とかしろよと思うが、文句を言える立場ではない。

こんな時はシュミレーションや、イメージトレーニングがおすすめだ。


みつるの場合、イメージトレーニングはかるただが、シュミレーションはグッピーのブリーディングだ。

30センチの水槽に選び抜いた王様と妃を入れる。

ロイヤルカップルは寄り添ったり絡んだり、人目もはばからずキスをすることもある。

王様のゴノポジュウムが伸びて合体した瞬間は感動ものだが、グッピーは早漏だ。すぐに終わる。根性なしの王様だ。俺も心配だ。

合体後、夫婦は別居生活に入る。王様の精力が強すぎて妃が弱るからだ。運が良ければ4か月後によりを戻すが、そのまま離縁もありうる。

妃は1か月後に子供を産む。卵胎生なので卵ではなく子供を産む。

王家に生まれた子供たちは生まれてすぐに親と離される。

水温30度の南の島へ行って育成開始だ。

フードタイマーでえさを与える。赤ちゃんが3時間おきにミルクを飲むのと同じだ。

朝と夜にブラインシュリンプを与えると成長速度がグンと上がる。

バカンスは3週間で終わり、国に帰ると男子寮と女子寮に分かれる。自由恋愛禁止だ。

成長がとてつもなく早いマセガキはどこにでもいるが、碌な子が取れないので社会から抹消される。

グッピーの世界は厳しいのだ。人間で良かった。

妃は1回の合体で3回も子供を産む。淡白だ。もっと情熱的な妃はいないものか。

こう、くんず、ほぐれず。いや、何でもない。


「終わったし、帰るよ」

「おう」

長い式典もあっという間だった。


☆☆☆☆☆


「あれ?着信が入ってる。桜ちゃんだ」

良い子はマナーモードだ。今切り替えた。

「桜ちゃん。セールの時はありがとう」

「そんな事より早く帰ってきておくれ。あの水槽が欲しくて店まで来たんだよ」

琴美が顔をよせて堂々と盗み聞きだ。顔が近くなって嬉しいから音声モードにしない。

「すごい行動力だな。持って行ってもいいよ」

「それがさ、設備屋の野郎どもが壊すって聞かないんだ。何とかしておくれよ」

「分かった。1時間で帰る」

琴美と目が合い、互いにうなずく。目と目で語り合える関係になった。さあ、帰ろう。

「あっ、服買わなきゃ」

「後でいい」

「いいの?」

「こっちの方が面白そう」

こういう子だった。


☆☆☆☆☆


店に戻ると険悪ムードが漂っていた。

巨大水槽を背に桜ちゃん。若い集を背に親方だ。

みつるは親方を背に桜ちゃんと向き合った。

「いくつか質問があるけどいい?」

「いいよ」

「まず。この水槽が欲しいってことはアルタムエンジェルだっけ、手に入ったってこと?」

「そうなのよ。それも1000匹よ。この水槽が必要なのよ」

「わかった。でも、絶滅危惧種だよね。偽物じゃないの?」

「本物さ。この目で確かめた」

「了解。じゃ、前に移動料がかかるって言ってたよね。その運送業者はいつ来るの?」

「今日だ。無理を言って頼んだ。今夜中には搬出は終わる」

「なるほど。じゃ、聞いてみる」

みつるは振り返った。


「今度は親方に質問ね?」

「うむ」

「料金に色を付けるのは当然として、次の仕事もあると思うし、仕事を1日延期することは可能?」

「……」

「駄目なら駄目でもいい。その時は、俺がこの水槽を壊す」

「ちょっと、みつる?」

桜ちゃんが声を上げた。

「うちの店構えは特別仕様なんだ。だからこの人たちは福井から来ている。ホテルに泊まって突貫工事だ。それを延期しろなんて、元から無理な話なんだ。これ以上は頼めないよ」

「……」

桜ちゃんが黙った。

「夜なべ仕事になると騒音が問題になる」

「この店は商店街の希望。文句は言わせない」

突然に親方が話し出し、琴美が即答した。

しばしの沈黙があった。

「そういえば、東京見物がまだだったな」

「じゃ?」

「美くしい女の子には嫌われたくないからな」

「ありがとうございます」

むろん冗談だが、これも琴美のおかげだろう。


「これを使っておくれ」

桜ちゃんが財布ごとお金を差し出した。

「それは受け取れん」

「こうでもしないと私の気が済まない。受け取っておくれ」

「いらんと言っている」

へんな押し問答が始まった。

「親方?」

「なんだ?」

「女性の気持ちを無碍にするのは男としてどうなの?」

「言ってくれるじゃないか?」

親方がにらんできた。ちょっと怖い。ほんのちょっと。足が震えて、チビリそうになるくらいだ。

「ならば、受け取ろう」

親方が折れた。

「気持ちは受け取った。だが、こんなチャラチャラした財布はいらん」

そう言いながら、そのままみつるに差し出した。

「まさかとは思うが、俺の気持ちを無碍にはすまいな?」

「ありがたく、頂きます」

そう返すしかないみつるだった。

「てめえら、行くぞ」

親方の後を若い衆が付いていったが、皆嫌そうな顔をしていた。

東京見物はいいものの、その後大変な仕事が待っていると思うと仕方がないのだろう。


「これは返すね」

「1度出したものを受け取れないよ。みつるが貰っておくれ」

財布を桜ちゃんに返そうとして断られた。

「駄目だよ。そんなことをしたら桜ちゃんにお昼をおごってもらえなくなるじゃないか。アルタムエンジェルを手に入れた話聞かせてよ。琴美も来るだろう?」

「もちろんよ。行きましょう?桜さん」

「まったく。ありがとうよ、2人とも」

財布は無事元に戻った。


☆☆☆☆☆


いつもの食堂に向かう途中。桜ちゃんのスマホが鳴った。

そして、急用が出来たと、1万円を押し付けて帰っていった。

「ねえ?」

「うん?」

仕方なく琴美と食堂に行き、いつものラーメンを食べていると琴美が思い出したかのように話しかけてきた。

「ちょっと思ったんだけど、水槽をそのままにしてさ、他の工事って先にできないのかな?」

「……琴美?」

「なに?」

「今の話、聞かなかったことにしたい」

「別に、いいけど」

琴美が肩をすぼめた。

すみません。時間に追われて駄文垂れ流しになってると判断します。しばらく推敲しますのでよろしくお願いします。

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