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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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人探し4

 捜索2日目。一度エルミンスールに帰って資金を追加し、ついでに一泊してきた。ここで状況を再確認しよう。


 今回の依頼は、アレンシアから逃亡した犯罪者貴族を捕らえてアレンシアに強制送還することだ。王に居場所を知らせるだけでもいい。

 ターゲットの名前はベルフォート伯爵というらしい。おそらく偽名を使っているだろうから、この名前は参考程度にしかならないと思う。肖像画も預かったが、詐欺レベルで顔が違うらしいので何の役にも立たない。


 改めて考えると、ただの人探しというにはかなりハードルが高い依頼だ……。しかし、進展が無いわけではない。

 最近領主館に出入りし始めたアレンシア出身の人間が居るというので、俺はこいつがターゲットなのではないかと睨んでいる。十中八九間違いないだろうな。


 どうにか彼と接触するため、領主とのつながりを持ちたいところだ。そこで、どうにかできそうな奴、黒い牙に依頼しようと思い、連中のアジトへとやってきた。


「おい、頭は居るか?」


 建物の外に居た下っ端を捕まえて声をかけた。


「はっ!! 少々お待ちを!」


 下っ端は体を強張らせ、一目散に建物の中へと消えていく。すると、すぐに頭が表に出てきた。


「どうした? まだ何かあったか?」


 頭が怯えたような表情で言う。なぜか怖がられているような気がする……まあ、心をボッキボキにへし折った直後だから、多少怖がられるのも仕方がないか。


「頼んでいた人探しの件だが、進展があった。どうやら領主館に出入りしているらしい。領主に顔をつなぎたいんだけど、どうにかならないか?」


「……なるほど。残念だが、我々はまだ結成が浅く、領主までのつながりを持っていない」


 頭は首を横に振りながら答える。あてが外れたか……。大きな犯罪者集団なら、裏で領主とつながっていてもおかしくないと思ったんだけどなあ。領主も相当悪そうだから。


「わかった。他を当たってみよう」


「いや、我々が使おうと考えていた手がある。試してみるか?」


 頭自身もつながりを持とうと画策している様子だ。


「俺が使ってもいいのか?」


「そうだな。我々には難題だった。あんたならできるかもしれない」


「助かる。聞かせてくれ」


「領主は、次の食事会の目玉として真っ白なリザード(ホワイトリザード)を所望しているらしい。それを入手することができれば、領主に取り入ることも不可能ではないだろう」


 頭の話では、普通のリザードよりも手強くて、とんでもなく見つかりにくいという。


「本当に居るのか? リザードは何匹も討伐しているが、一度も見たことがないぞ」


「だろうな。幻と呼ばれるほどの個体だ。詳しいことは商会で聞け。『黒い牙の者だ』と言えば取り合ってもらえるはずだ」


 その商会は、領主館に食材を卸す大商会だそうだ。領主から出される無理難題を解決する商会として、領主からの信頼も厚いらしい。


 黒い牙の規模では、その商会と関われる機会なんて訪れない。それが何の偶然か、向こうから依頼が来たのだという。


 しかし、黒い牙にはその依頼を遂行できるメンバーが居ない。諦めようとしたところで俺が来た。黒い牙がほしいのは報酬ではなく実績なので、俺が依頼を達成して報酬を受け取っても問題ないそうだ。



 というわけで、その商会の事務所にやってきた。大商会と言うには少々狭い……いや、だいぶ狭い。四畳半くらいの小さな事務所に、穏やかな顔をした1人のおっさんが居た。


「誰だい?」


 口調も穏やか。しかし、奇妙な迫力と貫禄を感じる。見かけによらずやり手っぽいな。気が抜けない。


「黒い牙だ。ホワイトリザードの入手を任された。話を聞かせてくれ」


「へえ、君たちが……?」


 おっさんは怪訝そうに俺たちを覗き込む。あ、そうか。俺はまだ若いし、アーヴィンに至っては子どもだ。信頼されないのも無理はないか。


「見えないかもしれないが、これでも冒険者だよ。2人ともな」


「ごめん、ごめん。気を悪くさせたね。疑っているわけではないよ。ホワイトリザードさえ獲ってきてくれたらいい」


 おっさんは作り笑いを浮かべて言う。俺たちには期待していない、といった様子だ。まあ、そんなことは関係ないな。俺たちはやるべきことをやるだけ。


「俺たちは領主と繋がりを持ちたいと思っている。もし白いリザードを持ってこれたら、仲介してもらえないか?」


「ああ、いいんじゃない? 考えとくね」


 おっさんはいい加減な態度で頷く。どうせ無理だろ? くらいに思っているようだ。さっきからずっとこの調子だが……。


「そんなに俺たちのことが信用できないか?」


「いや、そうではないよ。誰に任せたって難しい。今、片っ端から声をかけているところなんだ」


 そもそも誰にも期待してないらしい。それほど難しい案件だということだろうか。


「そんなに難しいのか?」


「そうだね……。でも、目撃例はあるよ。沼地の真ん中あたりに居るらしい」


 情報としては頼りない。でもまあ、闇雲に探るよりはマシか。


「わかった。探してみよう」


「無理なら無理で構わない。怒りはしないさ。報酬も出せないけどね」


 シビアだな……。まあ、冒険者ってのはそういうもんか。とにかくやるしか無い。結果を出せなきゃ収入はゼロだ。もう慣れた。



 商会の事務所を出て、すぐに沼地へと転移した。さっそく捜索に移りたいところだが、1つ気になる。


 俺は今までにそれなりに多くの魔物を討伐してきたと思うが、白い魔物は見たことがない。それほど遭遇率が低いということだ。俺よりも人生経験が豊富なアーヴィン(子ども)にも確認してみよう。


「アーヴィン、白いリザードに心当たりは?」


「リザードではないけど、白い魔物の話は聞いたことあるよ。白い魔物はどれも臆病で、人を避ける傾向にあるんだってさ」


 普通の魔物は人を見かけたら積極的に襲ってくる。しかし、白い魔物は逆の性質を持っているようだ。


 魔物は多くの人よりも感覚が鋭敏で、人よりも早く敵の気配に気付く。普通の魔物はそこで不意打ちを狙ってくるが、白い魔物は逆に逃げていくのだろう。これでは狙って狩るのは難しい。


 あれ? この依頼、俺たちに有利すぎないか? 気配察知を使えば余裕だろ。


「思ったよりも早く終わりそうだな」


「そんなこと無いでしょ。ボクですら、白い魔物を見たことがないんだよ?」


 アーヴィンは不安げな笑みを浮かべて言う。アーヴィンは使徒だったときに俺よりも多くの魔物と対峙したはず。それでも見たことがないということは、遭遇率がものすごく低いようだ。


「大丈夫。とりあえず真ん中あたりまで移動するぞ」


「えっ? 無理!!」


 アーヴィンはまだ水の上を走ることができないらしい。この沼地は足場にできる水草がたくさんあるから、難易度は低いと思うんだけどなあ。


 まあいいや。俺はアーヴィンを小脇に抱え、水の上を駆け出した。そして真ん中に向けてひた走る……あ、発見。前方にいそいそと逃げ出す魔物の集団が居る。すごくわかりやすい行動だな。


 速度を上げて急接近すると、頭だけを水面に出して大急ぎで移動する魔物の集団を目視できた。先頭のリザードの頭は白い。やっぱりそうだったようだ。


 アンチマテリアルライフルの魔法を展開し、逃げ惑うリザードの後頭部を狙い撃ちして一気に仕留めた。……楽勝すぎて怖いな。


 リザードの集団は全部で13匹。ホワイトリザードをボスとする集団だったようだ。規模は小さいが、少数精鋭の部隊なのだろう。



 ものすごい早さで達成できちゃったなあ。外で一晩明かすつもりだったんだけど、街に帰れちゃうぞ。


「リザードを回収して帰ろうか」


 そう言って立ち止まる。しかしここは水面だ。立ち止まったら沈む。と言っても、ここの沼地は全体的に浅い。へそあたりまで水に浸かるだけだ。


「あぶっ! 溺れるっ!!」


 アーヴィンがジタバタと暴れる……あ、そういえば小脇に抱えているんだったな。ここはちょうどアーヴィンが沈むくらいの水深。アーヴィンは水から顔を出そうと必死でもがいている。この光景、なんだか前にも見たような……デジャブかな?


「いや、ごめん。忘れてたわ」


 仕留めたリザードをマジックバッグに詰め込むが、思ったより嵩張る。盗難対策のため、今日持ってきているマジックバッグは容量が小さい。どうにか詰め込んだが、白いリザードの上半身がはみ出している。


 これは一刻も早く納品しないと……。


「急ぐぞ。すぐに街に戻る」


「その前に着替えたい!」


 ああ、たしかに着替えたい。こんなずぶ濡れのまま街へ行くわけにはいかない。エルミンスールを経由して、例の商会に移動した。




「約束のリザードを持ってきたぞ」


 扉を開けるなり、そう叫んで白いリザードを事務所に放り込んだ。狭い事務所がリザードで埋め尽くされる。


「ちょっ! こんなところに置かないで!」


 おっさんが慌てて怒鳴ったので、リザードを部屋の隅に寄せた。めちゃくちゃ邪魔だが、ここ以外に置く場所が見当たらない。


「これでいいか?」


「いや、まあ……仕方ないね。しかし、本当に獲ってくるとは……」


 おっさんは複雑な表情を浮かべて呟く。説明が面倒だから、適当に言い訳しておこう。


「まあな。たまたま近くに居たんだ。俺たちは運が良かった」


「運だけでどうにかなる相手じゃないんだけど……」


 おっさんはまだ何か腑に落ちない様子。話を変えてごまかそう。


「ところで、白いリザード以外はいらないのか?」


 討伐したリザードは全部で13匹。普通のリザードがあと12匹残っている。もし欲しいようであれば、ここですべて売ってもいい。


「悪いね、必要なのはホワイトリザードだけなんだ。残りは冒険者ギルドで引き取ってもらって」


「そっか。了解だ」


 押し売りする気はない。それで大丈夫だ。俺たちは正規の身分証を手に入れたから、アホみたいな税金を収める必要がなくなった。冒険者ギルドに売却しても損はしない。


「しかし、君たちはずいぶん優秀なようだね……うん、君たちなら大丈夫。領主につながりそうな人を紹介してあげる」


 大事な約束だ。直接領主につながるわけではないのが残念だが、これで一歩前進した。


「ありがたい。頼むよ」


「じゃあ、僕は報酬を準備しておくね。日が落ちたらここに来てよ。一緒にメシを食おう。奢るよ」


 おっさんは上機嫌に言う。思ったよりも信頼を稼げたのかな。タダ飯の誘いだ。断る理由はない。


「わかった。じゃあ、夕方にまた」


 そう言って商会を後にした。日が落ちるまでまだ時間がある。今のうちに残りのリザードを売り払っておこう。もうマジックバッグの中身がパンパンなんだ。すぐに空にしたい。



 冒険者ギルドに移動したが、そこにはいつものハゲ散らかしたおっさんの姿はなく、代わりに筋肉隆々な青年が待ち受けていた。


「あれ? いつものおっさんはどうした?」


 青年に問いかける。


「いつもの……ああ、この街のギルド長だね。今日は本部の会議に出掛けているよ。私は本部から派遣された臨時職員だ」


 あの情けなくハゲ散らかしたおっさんはギルド長だったのか。てっきり下っ端だと思っていたぞ。人は見かけによらないものだなあ。


「なるほどね。ま、俺としては買い取ってもらえれば文句無いがな」


 そう言って、獲ってきたリザードをカウンターの前に置いた。


「おお、これは見事なリザードだ。査定をしてくる。ちょっと待ってな」


 青年はリザードをくまなくチェックしながらメモを取り、そのメモを持ってカウンターの奥に引っ込んだ。



 しばらくぼんやりと待っていると、青年がみすぼらしい巾着袋を抱えて戻ってきた。その巾着袋に、今回の報酬が入っているのだろう。


「待たせたね。リザードの討伐報酬が金貨24枚、買い取りで90枚。合わせて金貨114枚だ。明細を確認してくれ」


 おかしい……普通の明細だ。イカれた税金が引かれていないのは予定通りなのだが、ワケのわからない手数料が引かれていない。


「全額貰えるのか?」


「当然だ。ここは他所よりも税金が高い場合もあるが、君たちには適用されないよ」


 何度明細を読み返しても、依頼票にあった額面通り貰えている。今回も満額貰えるとは考えていなかった。きっと多少の割り引きは発生するだろうと。


「まさか、手数料すら掛からないとは……」


「手数料? 何の話だ?」


 手数料は存在しないのかよ! あのクソハゲ……存在しない料金を徴収して着服しているな。ギルド長までも犯罪者とはね。さすが、犯罪者の街だよ。


 あのハゲは今度締め上げるとして、まずは夕食だな。日が落ちる前に移動して、おっさんを待っていよう。

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