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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第十章 初めて旅は異世界で延長戦
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休暇4

 紆余曲折あって、アホ3人組と行動をともにすることになった。名前は……ヤバい。もう忘れた。大中小の男だから、今後もこれで通そう。


 こいつらには俺の手の内を明かしたくないから、魔道具の使用も転移魔法の使用も控えなければならない。行動が制限されて、かなり動きにくくなった。


 ただ、好都合なこともある。薬草の採取は人数が必要だから、こいつらに手伝ってもらえば採取が捗るんじゃないかと思う。ちょっと交渉してみる。


「悪いんだけどさ、街に戻る前に薬草採取を手伝って欲しい。こっちが本来の目的なんだ」


「いいぜ。採取を手伝うくらいどうってことない」


 大男が笑顔で応えると、中男と小男が同調して無言で頷いた。5人も居れば、短時間でもかなり採取できるだろう。


 できれば今日中に街に戻って換金を済ませたい。移動時間のことも考えると、採取に専念できるのは午前中だけだな。俺とアーヴィンだけだったら転移で戻れるのだが、アホ3人組の移動速度に合わせる必要があるから。



 さっそく群生地に移動して、採取に専念した。昨日の分も合わせて、十分な量が確保できたと思う。途中、リザードも数匹駆除したから、今日だけでそれなりの稼ぎになっただろう。


「そろそろいいんじゃないか? 街に帰るぞ」


「もういいのか?」


「ああ。今日中に換金したいからな」


 そして今日中に帰りたい。街の治安が悪いから、あまり長居したくないのだ。あの街は宿屋に泊まることすら危ないような気がする。寝て起きたら荷物が無くなっていました、とか、普通にありそうなんだよ……。



 休憩もせず、荒野を一気に駆け抜けて街に帰ってきた。ただ、ちょっと急ぎすぎたかな。まだ日が高いうちに街に到着してしまった。


「休憩ナシかよ……」


「さすがにキツイぜ……」


 大男と中男が息を切らしながら呟く。小男は疲れ切って声も出ない様子だ。元兵士のくせに、体力ないなあ。


「ちょっと運動不足なんじゃないか? 俺の知り合いの兵士だったら、雑談しながらでも余裕だぞ」


「どこの精鋭兵士だ……オレたちは一般兵だぞ」


 そういえば、グラッド隊は変人揃いだが精鋭部隊だったな。比べたら悪いか。街に入る前に、3人組を少し休ませよう。


「休憩がてら聞きたいんだけど。もし加工済みの薬草が手に入るなら、生の薬草を売って加工済みの薬草を買おうと思っている。売ってる店を知らないか?」


 今日採取した薬草を売るか売らないかの相談だ。

 薬草は、使う前に乾燥などの加工をしなければならない。その処理には手間がかかるため、できれば加工済みを買いたいところだ。ただし、加工品が手に入るか分からなかったので、念のために自分で採取してきた。


「うん? どうだろうなあ……。売っているところは見たことがねぇわ」


「街で加工して、エウラに輸出しているらしいぞ。てか、街で売っても仕方ないだろ。この薬草を使ったポーションなんて、エウラでしか作ってねぇ」


 クレアの話では、ニュンパエアを使ったポーションは特殊で、エウラでしか作っていないらしい。他所では手に入りにくいから俺がここまで来ているのだ。それはわかっている。でも、冒険者ギルドに依頼があるということは、この街で売っていてもおかしくないと考えた。


 俺が持ちかけた相談に、3人組は真剣に話し合って答えを探してくれている。


「いや待てよ。輸出している店に言えば、分けてもらえるんじゃないか?」


 3人の中で答えがまとまったようだ。輸出業者に掛け合うのが最適らしい。悪くないだろう。


「なるほどね。後で案内してくれ」


 ちょっと長い会議ではあったものの、ちょうどいい休憩になった。門番の兵士に賄賂を渡し、街の中に入る。……この賄賂、毎回必要なんだね。金が掛かる街だなあ。



 早く店を探したいところではあるが、買い付けのためには現金が必要だ。先に冒険者ギルドに行き、リザードを換金しよう。


 今俺が持っている金はすべてアレンシア金貨。ミルジアでも使えなくはないが、2割ほど価値が落ちる。賄賂くらいなら我慢できるものの、買い物をするときは使いたくない。


 冒険者ギルドへと急ぎ、カウンターの前にリザードを並べた。


「ずいぶんとまあ……よくこんなに見つけたもんだな……」


 対応したのは、先日のハゲ散らかしたおっさん。おっさんは口元を引き攣らせて対応を開始した。


 なんでも、リザードが一度にこれだけ群れていることは珍しいそうだ。俺たちは当たりを引いたらしい。



 しばらく待っていると、ハゲ散らかしたおっさんが声をかけてきた。


「待たせたな。まず、討伐報酬。リザードが83匹だから金貨166枚だな。それと素材の買い取りだが。状態にバラつきがあるから、全部で246枚。合わせて412枚だ」


 おっさんは、そう言いながらカウンターの上にトレイを置き、硬貨を積んでいった。が、100枚ほど積んだところでその手を止めてしまった。


 412枚の金貨となると、かなりの量になるはず。しかし、トレイに乗った金貨の量は明らかに少ない。銀貨や銅貨だって混じっている。


「おいおい、どう見たって412枚も無いだろ」


「税金を引いている。税金は8割だから、あんたらに渡すのは金貨82枚だ。銀貨以下の細かい金額は明細を確認しな」


 税率がエグい! 高いとは言っていたけど、法外にも程があるぞ。


「本気で言っているのか?」


「税率を下げたきゃ、正規の身分証を出すんだな」


 正気を疑ったが、どうやらマジらしい。なんて街だ……。


 交渉を諦めて硬貨を受け取り、カウンターに背を向けた。すると、中男が声をかけてきた。


「言ったろ。税率が高いんだよ」


「いや、思っていたよりだいぶ高いぞ」


「明細をよく見ろ。引かれているのはそれだけじゃねぇ」


 中男に言われて明細を確認すると、税引き後の金額からさらに1割の手数料が引かれていることに気付いた。


「なんだ、これ……」


「ギルドに支払う手数料だよ。正規の身分証を持たない人間は、こうやって搾取されながら生きていくしかねぇんだ」


「これでも他の街よりはマシなんだ。ここなら捕まる心配はねぇ。他の街に行こうもんなら、あっという間に捕まって奴隷落ちだからな」


 小男が補足する。奴隷になるよりはマシ……か。ここまで搾取されているなら、どっちも似たようなものじゃないかなあ。


「オレたちみたいなもんはなぁ、カツアゲくらいやらないと生きていけねぇ。あんたらなら稼げるだろ。カモを探すっていうならオレたちも手伝うぜ」


 犯罪行為の正当化だな……。気持ちはわからなくもないが、絶対ダメだ。これを許してしまうと、ヒャッハーで世紀末なディストピアに直行便なんだよ。


「いや、俺たちはマジメに生きるよ。お前らも、マジメに生きる道を探したほうがいいと思うぞ」


「できるもんならやってるよ。この街に来た時点で終わりだ。綺麗事は結構なことだが、あんたらもさっさと諦めたほうが身のためだぜ」


 自分の悪行は、巡り巡って自分に返ってくるんだけど……ま、言っても無駄か。日本人の俺とは価値観が違うみたいだし。


「まあいいや。分け前を渡すぞ」


 そう言って、アホの3人組に金貨12枚を渡した。税率の計算が面倒なので、金額は適当だ。薬草採取の手伝い報酬も含めているから、気持ち多め。


「馬鹿か! こんなに貰えねぇ!」


「いいから貰っとけ。それくらいの働きはしているだろ」


 支払う報酬は、渡しすぎも良くないが少なすぎも良くない。3人組は高いと考えているようだが、俺はむしろこれでも少ないと思う。……税金が高すぎるんだよ!



 冒険者ギルドを出て、ニュンパエアを扱う商会を探す。俺とアーヴィンは土地勘ゼロなので、3人組に任せる。

 3人組のリーダーは、最初に絡んできた大男だ。しかし、実際に主導権を握っているのは中男のように見える。明らかに冷静だし、頼りになる雰囲気を持っている。その証拠に、俺たちは自然と中男を先頭に歩いている。


 中男が案内したのは、倉庫街といった雰囲気の場所だ。人通りが少なく、見るからに治安が悪そう。そんな場所で、1人の若者が話しかけてきた。


「やあやあ兄さん方、この商会に何か用かい?」


 若者の視線は中男に向けられている。リーダーだと思ったのだろう。話しかける相手は間違っているが、人を見る目は間違っていないのかなあ。対応は中男に任せる。


「ニュンパエアの買付がしたい。ここでは取り扱っているか?」


「もちろん。良かったら、中を見るかい?」


 若者が近くに居た作業員に話しかけた。男が作業員と握手をすると、作業員は満面の笑みで倉庫の扉を開けた。


「さあ、中に入ってくれ」


 屋根までの高さの棚に、所狭しと商品が詰め込まれていた。取り扱っている商品はニュンパエアだけではない。エウラから買い付けたと思しきポーションもあるし、布や食料品なんかもある。


 おそらく、この商会はエウラとの交易を大規模にやっているのだろう。


「どうだい?」


「いい商品だ。金額は?」


「今日契約してくれるなら、これ1つ、大銀貨1枚で売ってやる」


 若者は麻袋を指さして言う。内容量は1キログラムくらいか。金額は妥当……いや、めちゃくちゃ安いぞ。


 今手元にあるのは、さっき受け取った金貨62枚。これをすべてニュンパエアに交換した場合、在庫のほとんどを買い取ることになりそうだが……いいのかなあ。


「600袋ほど必要なんだが、大丈夫か?」


 ここで俺が口を挟んだ。中男に任せるべきところだが、予算を打ち合わせしてないから仕方がない。


「なるほど……いいだろう。現金即決なら金貨50枚だ。悪くないだろ?」


 さらに安くなった。……怪しい。話がうますぎるぞ。


「おお。上手く買い付けできそうだ。良かったじゃねぇか」


 中男が俺の肩を叩いて笑顔を見せた。この若者の怪しさに気付いていないらしい。


 時間稼ぎをしよう。金を払う前に、どうしても確認しなければならないことがある。


「いや、ちょっと待て。現金が必要なんだろ? 金の準備をする」


「わかった。手付を払ってくれれば夜まで待つぞ」


 若者の意識は俺に向いた。ようやく商談相手が俺だと理解したようだ。


「手付は払えない。そのかわり、俺の身分証を渡しておく。それでどうだ?」


「……いいだろう。身分証は預かった。夜にまたここに来てくれ」


 レイトンとジョナサンの身分証を若者に渡し、若者と別れた。


「おいおい、金ならあるんだろ? 決めなくて良かったのか?」


 中男は納得していないようで、腑に落ちない顔で訪ねてきた。


「いやいや、どう考えても怪しいだろ。ちょっと待ってろ」


 そう言って、倉庫の中で働く従業員に話しかける。


「おい、さっきの奴は誰なんだ?」


「さあ? たまに見かける知らない人っすね」


 従業員はこともなげに答えた。


「……ほらな。最初っから怪しかったんだよ」


「はあ? どういうことだ!?」


「見ればわかるだろ。詐欺師だよ。あいつはここの従業員でもなんでも無い。勝手に『売る』って言っていただけだ」


 まあ、顔パスで倉庫に入っていたら、従業員だと思うよな。たぶん、従業員に賄賂を渡しただけだろうけど。


「くぁぁッ! やられたぜ!」


 中男は悔しそうに地団駄を踏んだ。こいつにとってもいい勉強になったんじゃないかなあ。


 ただ、ここにニュンパエアがあることはわかった。本物の従業員に商談を持ちかける。


「改めて訊くが、ニュンパエアを売ってもらえないか?」


「すんません、定期注文なんで、全部買い手が決まってんすよ。勝手に売れねえっす」


 これもちょっと予想していたんだよな。在庫のほぼ全部だなんて、即決で売っていい量じゃない。


「そっか……。邪魔して悪かったな。ありがとう」


 買えないのなら仕方がない。若者に別れを告げ、倉庫を後にした。



 結局、加工済みのニュンパエアは手に入らなかった。まあ、新鮮なニュンパエアは手に入ったから良しとする。この街とはこれでオサラバだ。二度と来ることはないだろう。というか、二度と来たくない。


 税金は高い、街には詐欺師が居て、少し歩けば絡まれる。俺の中での暮らしにくい街ランキング、ぶっちぎりのナンバーワンだ。


「一応言っておくけど……この街がミルジアの標準ってわけじゃないからね?」


 アーヴィンが苦笑いを浮かべて呟く。


「わかってるよ。少なくとも、お前んとこはマトモだった」


「でしょ?」


 アーヴィンは、ふふんと鼻を鳴らして得意げに答えた。一向に帰りたがらないアーヴィンだが、愛国心は人並みにあるようだ。


 次ミルジアに来ることがあるのなら、犯罪者が少ない街がいいなあ……。

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