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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第二章 旅の始まり
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新人冒険者のはじめてのお使い

「レイモンドさん、良い人で良かったですね。

 とりあえず、ご飯食べましょうか」


「そうだな。どこへ行けばいいだろう。この辺りに食堂のような店はあるのか?」


「朝からやっているのは屋台くらいですね。食堂は夜しかやっていません」




 ルナのおすすめの串焼き(謎肉)を買い、二人で頬張る。味は悪くない。が、固い……。

 イノシシのような味なので、たぶんボアの肉だと思う。

 20cmほどの串に一口サイズの肉を刺して焼いたものだ。



 食べながら辻馬車に乗り込み、現場に向かう。

 精錬所は王都の北側。結構遠い。職人の街になっていて、朝も昼も夜もずっと何かの音が聞こえる地区だという。

 この辺に住んでいる人はよく寝られるもんだ。




 精錬所に到着したので、責任者のおっさんに話をして作業を開始することに。


 目の前には鉄は山積みされている。思った以上に大量だ。軽トラ3台分ほど有るんじゃないのか?


「ルナはマジックバッグ持ってるよね?」


「はい。でも、容量はあまり多くありません。

 この量ですと……、10往復くらいしないといけませんね」


「俺のマジックバッグだと、たぶん4往復くらいだね。

 二人で手分けをすれば3往復くらいかな。

 俺のバッグの中身、預かってくれないか?」


 二つのバッグに詰めるのは効率が悪いので、俺のバッグを空にして効率を上げる。

 女性に荷物を持たせるとか、男としてどうなの? という気持ちはあるが、鉄のほうが断然重いので勘弁してほしい。


 俺のバッグを空にして鉄を詰めると、三分の一ほどの鉄が収まった。予想通り3往復で終わりそうだ。


 出発しようとした時、地図を見ていたルナが「あっ」と声を上げた。


「鍛冶ギルドまで、結構距離があります。馬車移動になりそうです」


 辻馬車はタクシーとは違い、こちらの都合には合わせてくれない。路線バスのような扱いだ。


「走ったほうがいいな。走れる?」


「はい。こう見えても、早朝訓練の経験があるんですよ!」


 胸を張って自慢げなルナ。マジか。あの訓練の経験者ということは、体力は十分あるということ。頼りになるわ。


「じゃあ、走ろうか。ルナに合わせるから、先導よろしく」




 ルナに先導を任せたのだが、走るルートが普通。何か詠唱をしていたので身体強化を掛けたはずだ。

 それなのに、普通に歩道を走っている。これだと歩行者が危険だし、遅い。

 王都内には水路がいくつか有るのだが、真面目に橋を渡っている。幅は2mくらい。

 これくらいの幅なら飛び越えたほうが早いのに……。




 40分ほど走ったところで鍛冶ギルドに到着した。

 鍛冶ギルドもレンガ造りで立派な建物だが、どこか無骨な造りが鍛冶師を連想させる。


 ギルド内の倉庫に鉄を降ろし、精錬所に戻ることに。

 入れる時は重労働だが、出す時はマジックバッグをひっくり返すだけ。

 とても簡単だが、うっかりぶち撒けないように気を付けないとな。


「場所は覚えたから、今度は俺が先導するよ」


「はい。お願いします」




 帰り道は一直線。地図上で線を結び、屋根の上を走るルートだ。

 この場合、自分が落ちなければ歩行者の安全が確保される。


 塀に足を掛けて屋根に駆け上がる。誰の家かは知らないが、壊すわけではないので許してほしい。


 まずは様子見なので、軽く流す程度にしておこう。

 たぶんルナなら余裕でついてくるとは思うのだが、後ろを確認しながら速度を調節する。




 帰りは早かった。20分ほどで到着した。

 ルナは横でハァハァと肩で息をしている。あれ?


「ごめん、キツかった?」


「はい……。いえ、あの……。

 予想外なところを走っていきましたので。ついていくのがやっとでした」


 おかしいな。早朝訓練よりも緩いコースだよ? 魔法による身体強化は効果が薄いのかもしれない。


「ごめんね。ちょっと休んでて。荷物詰め込んじゃうから」


 身体強化、早く教えてあげたほうがいいな。これが終わったら特訓しよう。




 なんだかんだでルナは最後まで走り通した。クソ不味いポーションも飲んでいたが。


 最後の往復の時に昼の鐘が聞こえていたので、ちょうど昼頃だ。


 職人街の屋台で軽く食事をしてギルドに戻る。




 受付のお姉さんは、変わらずカウンターで待受している。「お疲れ様」と軽く挨拶してカウンターに依頼票を置く。


「どうされましたか? 道に迷われました?」


「いや、終わったから、その報告だ」


「もうですか? 早すぎませんか?」


「マジックバッグを持っているからな」


「そうですか。では、確認をしてお支払いしますね」


 そう言って奥に入っていく。

 ギルドを見渡すと、レイモンドのおっさんは居なくなっていた。

 代わりに若い冒険者パーティが難しい顔でテーブルを囲んでいる。

 交代したのだろう。恐らく、冒険者はこの時間に作戦会議や休憩をしているのだろう。


 仕事、ということは、ここに居るだけで多少の報酬が発生しているということ。

 休憩中でも金が入るのだから美味しい話だな。

 緊急時は誰よりも早く動くのだから、責任ある任務なんだろうけど。




「お待たせしました」


 お姉さんが戻ってきて、大銀貨が乗せられたトレーをカウンターに置いた。


「ありがとう」


 と言って銀貨を確認する。状態の良い大銀貨が5枚。依頼書通りの金額だ。

 問題がないようなので、冒険者ギルドを後にする。


「じゃあ、早いけど宿に行こう」


「はい。正直言うと、相当疲れました……」


「ごめん……」




 今日は大通りに面した冒険者向けの宿。食堂付きの大衆宿だ。各部屋が個室で数人で泊まれる。


「いらっしゃいませー! 風鈴亭にようこそ!」


 宿に入ると、かわいい女の子が大きな声で迎えてくれた。

 これだよ、これ。異世界の宿といえば看板娘だよ。


「一部屋で良いよね?」


 一応確認しておく。でも、昨日はダブルベッドだったんだから、今さら部屋を分ける必要も無いだろ。


「はい。大丈夫です」


「一部屋でよろしく」


「わかりました! では、宿泊が一部屋大銀貨1枚です。

 お食事は一人銀貨1枚、桶とタオルは1セット銀貨1枚です」


 大銀貨1枚と銀貨3枚を渡して部屋に入った。桶とタオルは1セットあれば問題ない。

 昨日の宿よりもずいぶん安いが、その分セキュリティが甘い。


 身分証の提出と署名を求められたので、大きな問題は無いと思う。




「今日はお疲れ様」


「はい……。とても疲れました。あんなところを走ったのは初めてです」


 人んちの屋根の上。普段から走っていたらちょっと迷惑だよな。たぶん、うるさい。

 もともと騒々しい職人街だから許されたようなものだ。

 あの辺の人たち、そこらじゅうで鉄を叩いているから。常にカンカン鳴っているんだよ。


「そうだよね。人んちの屋根は俺も初めてだよ。

 でも、走破しようと思うと、強化魔法では限界があると思うんだ。

 だから、俺の身体強化を教えようと思う」


「え? ついに教えてくれるんですか?」


 キラキラと目を輝かせて見つめられる。吸い込まれそうなきれいな瞳にクラッとする。


「そうだね。この訓練は疲れているときのほうがやりやすいから、丁度いいと思うよ」




 ルナにはベッドの上で胡座で座るように指示をして、瞑想のコツを軽く教えた。

 この世界に来たときからやっている、魔法を感じる瞑想法だ。


「体の中にある魔力を感じて。それに気が付くまで魔力に集中」


「え? あの、それは魔力ではなくオーラなのでは?」


「ん? 何が違うの?」


「オーラは肉体に宿る力で、練気法のために必要です。

 魔力とは別物ですよ?」


「いや、俺が感じる限り同じものだよ。自分の中から引き出すか、自分の外から取り込むかの違い」


「そうなんですか? 初めて聞きますよ? それ」


「少し質が違うんだけど、概ね同じものだよ。俺が身体強化に使っているのは確実に魔力。

 ちょっと通すね」


 そう言って、ルナのお腹に手を当てて魔力を送り込む。


 即席スタンガンとして使えないかと開発した魔法だが、魔力を送るだけという何の役にも立たない魔法になった。

 ちょっとくすぐったいらしく、実験台のギルバートは「もう二度と使わないでくれ」と懇願してきた。


 戦闘中にくすぐられるのは確かに嫌だが、嫌がらせ程度にしかならないので封印していた。


「え? ……なんか、これ……。あっ……」


「あれ? 痛かった? 魔力を通すだけの魔法なんだけど」


「いえ……。あの……。あっ。痛くは……っ。ないのですが」


 ルナは胡座を崩して頬を染め、悶えている。


「ごめん、これ、ちょっとくすぐったいんだ」


「あっ……。それも……。なんかっ……。違いま……っ」


 ルナは悶えながら俺に抱きついてきた。耳元で荒い息遣いが聞こえる。






 1時間ほど経った。ルナはだいぶ落ち着きを取り戻している。


「……どうだった? 何かわかった?」


「はい……。何となくわかった気がします。

 ですからその魔法はしばらく無しでお願いします」


 疲れた体に無理をさせてしまったな。意外な副作用だった。やっぱりこの魔法は封印だ。


「無理をさせて悪かった。何となく掴めれば後は繰り返すだけだから」


「いえ。悪い気分ではありませんよ。落ち着いたらまたお願いします。

 冒険者の宿は壁が薄いので……。防音の魔道具が手に入ったらまた」


 いいの? え? 封印中止。練習しておこう。


「うん、わかった。魔力を感じたら、その魔力を体の中で循環させる。

 これが身体強化の基本だよ。難なくできるようになったら次の段階だね。

 できるようになったら言ってね」




 食堂で夕食をすませ、夜まで訓練して寝た。

 訓練は非常に地味だ。二人でひたすら静かにしているだけ。

 俺は身体強化の延長である気配察知の練習をして過ごした。


 実は結構上達している。集中すれば、宿の中はもちろん徒歩10分程度の冒険者ギルドの様子まで何とか察知できる。

 人が増えると精度が落ちるので確実とはいえないのだが。

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