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初めての旅は異世界で  作者: 叶ルル
第六章 異世界観光旅行
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ジャックポット

 朝日が昇る前に目を覚まし、エルフの村を後にした。急ぐ理由は特に無いのだが、出発が遅れると中途半端な時間に王都に到着することになる。

 何をするにも中途半端な時間というのは、なぜかとても損した気分になるんだ。できることは早めに片付けたい。


 森を突っ切って全力で王都に向かった。急いだ甲斐があり、王都に到着したのは昼の鐘が鳴る前だった。宿に行く前に、冒険者ギルドに立ち寄る。

 ギルドのドアを開けて中に入ると、中はいつものように閑散としていた。俺たちが外に行っている間に、諸々の問題が解決したようだ。


 エリシアさんが居るカウンターに行き、声を掛けた。


「久しぶり」


「あ、お久しぶりです。

 お戻りになられていたのですね」


 エリシアさんがいつも通りの爽やかな笑顔で迎えてくれる。


「ああ、ついさっきな。

 買い取りをしてもらいたいんだが、いいか?」


「はい、もちろんです」


 マジックバッグに詰め込まれたグリーンブルを、バッグごと渡す。中身は31頭だ。状態は悪くない。


「今回は1頭分の肉を返してもらおうと思っている。残りは買い取りだ」


 俺たちの食料になる分は確保したい。と言っても、1頭分でも多すぎるくらいだ。切りが良いので1頭分だけ受け取り、余りで燻製でも作ろうと思う。


「分かりました。お預かりしますね。お肉は明日にはお渡しできますので、できるだけ早くいらしてください。

 それと、未払いの買い取り金があります。今日お受け取りできますか?」


 あ、前回のバブーンの買い取りだ。そう言えば、保留にされてそのままになっていたんだった。


「ああ。今日一緒に受け取るよ」


「では準備しますので、少々お待ちください」


 エリシアさんは、そう言いながらマジックバッグとメモのような物を、カウンターの奥にいるギルド職員に渡した。

 今日は職員の数が多いようで、エリシアさんはカウンター業務に専念しているらしい。


「ところで、解体の見学をさせてもらいたいんだが、いいだろうか」


 今回のグリーンブルの教訓、素人に大物の解体は無理。1日でもいいから勉強させてほしい。


「え? はい。講習会がありますので、そちらに行ってみてはいかがでしょうか」


 エリシアさんは一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべ、笑顔で答えた。

 講習があるのか。行ってみたいな。


「あ、講習会だったら、王都よりも別の街に行った方がいいわよ。自腹でいいからアタシも参加するわ」


「そうですね。王都では待ちがありますので、どこか地方の都市で受けた方が早いです。

 一番近い街だと……南西にある『アルコイ』が良いと思います」


 クレアが提案すると、エリシアさんが資料を見ながら答えた。

 参加者は意外と多いようだ。まあ、冒険者にとっては解体は死活問題だからなあ。人気なのも頷ける。次の目的地は『アルコイ』で決定だな。


「そうか。

 じゃあ、アルコイに行ってみるよ。講習はみんなで受けよう」


「次回の講習は5日後なのですが、皆様方のご都合はいかがですか?」


 結構急な話だな。でも日程は無理ではない。さっと準備を済ませて出発すれば、十分間に合うだろう。


「問題ないぞ」


「では、予約しておきますね。前日までにアルコイのギルドに行かないと、キャンセルになりますのでご注意ください」


 ここから予約できるらしい。転写機の魔道具を使ってやり取りしているのだろう。ただの掲示板のような魔道具なのだが、こういう連絡ならむしろスマホよりも使いやすいな。


「ああ、頼むよ」


「私たちも受けていいのですか?」


 ルナが心配そうに聞いてきた。リリィさんとリーズも、戸惑いの表情を見せている。

 たぶん、講習が有料だから気にしているんだと思う。

 聞くと、1人分の料金は大銀貨2枚だそうだ。高いのかな? よく分からない。5人で金貨1枚だ。そう思うと、高いような気がしないでもない。


「こういう講習は、みんなで受けた方がいい。

 クレアの分も俺が出すから、自腹を切らなくてもいいぞ」



 次の予定を話し合っているうちに、査定が終了した。ギルドの職員が、パンパンに膨らんだ布袋を2つ抱えてきた。


「お待たせしました。今回は金額が複雑なのですが、詳細をご覧になりますか?」


 バブーンが大量と、グリーンブルが31匹、調査の報酬と……まだ何かあったかな?

 よく覚えていないから、詳細を見せてもらおう。

 枠線が引かれていないから、少し見にくいな。数量@単価の書式で書かれている。



=============================


 バブーン

  状態:優 0@80

  状態:良 26@20

  状態:可 73@10

  状態:不可 342@2

 計 金貨 1934


 調査報酬

  査定:優 15

 計 金貨 15


 グリーンブル

  状態:優 28@40

  状態:良 3@30

  返却 -18

 計 金貨1192


 薬草シーグァ(大銀貨)

  状態:優 43@5

 計 金貨21、大銀貨5


 総計

  金貨 3162

  大銀貨 5


=============================



 詳細を見て固まる。予想以上に大金だった。こんなにも使い切れる気がしないぞ……。

 確かに、俺は金を稼ぐつもりで行動している。でも使い道を考えていなかった。これだけの金を死蔵するのは拙いな。本気で考えよう。


 あと、バブーンがボロボロ過ぎたな。まともな形を残したつもりだったのだが、不十分だったようだ。査定額が大幅に下がっている。まあ、状態を考慮する余裕は無かったんだ。諦めよう。


 しれっと薬草が査定に含まれている。クレアが採取していた、スイカそっくりの薬草だな。すっかり忘れていたよ。そして意外と高い。

 薬草で大銀貨5枚というのは、この辺りでは考えられない。ミルジアに行かないと採れない薬草だからだろう。



 代金を受け取ったので、エリシアさんに挨拶をして冒険者ギルドを出た。次に済ませたい用事は、王城だな。魔導院で、翻訳の指輪を作るための資料を借りる。



 久しぶりに王都の街を走る。屋根の上を走り抜け、王城にやってきた。この辺りはクーデター未遂事件でかなり破壊されたのだが、すっかりと元通りになっている。

 門番の兵士にひと声掛けて中に入る。いつものことなのだが、こんなに簡単に入れていいのだろうか。


「あれっ! コーじゃないか!」


 背後から突然声を掛けられた。この声は、善だ。

 振り返ると、使徒の2人が立っていた。こいつらは王都から出ていたはずなのだが、いつの間にか帰っていたようだ。


「よう。しばらくぶりだな」


「おや、久しぶりだね。

 私は魔導院に行ってくるから、君たちはゆっくり話をしているといい」


 リリィさんはそう言って、1人でスタスタと先に行ってしまった。魔導院の用事は資料を借りるだけだから、リリィさん1人に任せよう。



「久しぶりだね。全然見なかったけど、どこかに行っていたのかい?」


「ああ、ちょっと南の方にな。お前らも、どこかに行っていたそうじゃないか」


「うん、あたしたちは西の方だよ。リナーレスっていう街。のどかでいい所だったわぁ」


 一条さんが笑みを浮かべて言った。案外楽しんでいるじゃないか。


「ところで、何でリリィさんが一緒に居るんだい? 何かの任務?」


 リリィさんは、最初は使徒たちに魔法を教える教官をしていた。基礎だけなのですぐに終わったみたいだ。使徒の2人は兵士の魔法訓練に移行している。

 俺は魔法訓練に参加したことが無いんだよなあ。興味はあったんだけど、剣術の訓練を優先した。


「いや、今は俺たちと一緒に行動しているんだ。宮廷魔導士は辞めたよ」


「そうなんだ……。コーの周りには、どうして綺麗な女性ばっかり集まるんだろうね」


 善が苦笑いを浮かべて言った。

 パーティメンバーは女性ばかりなんだが、知り合いはおっさんばかりだ。それも結構濃いめのおっさんが多い。グラッド隊の兵士なんかは、ほぼ全員が濃いめのおっさんだぞ。


「たまたまだよ。俺が魔道具の研究をしていたら、自然と集まってきたんだ」


 研究対象が魔物とか武器だったら、きっとおっさんだらけのパーティになっていただろう。

 ルナの代わりにギルバートが居て、リーズやクレアの代わりにレイモンドたち……考えただけでも気が重くなるな。止めておこう。


「魔道具の研究って、あたしたちみたいな日本人でもできるものなの?」


 一条さんが不思議そうに聞いてきた。

 俺も知識と経験が少ないのだが、どんな研究でもやってみれば意外となんとかなるものだ。足りないのもは誰かが補ってくれる。


「まあ、俺1人では無理だな。でもみんなが手伝ってくれるから問題ないぞ」


「そっかぁ……。あたしも何か研究してみようかな。魔法とか?」


 一条さんは少し考えて言った。魔法が上手らしいから、魔法の研究も悪くない。それは俺も並行してやっていることだ。

 転移の魔法、手伝ってくれないかな。マジで訳がわからないんだよ。


「それならちょうどいいな。魔法だったら手伝ってほしいことがあるんだ」


「それは構わないけど、あたしはまだ下手だよ。手伝うなら、もう少し上達してからかな」


 謙遜なのか本気なのか、判断に苦しむな。日本人はこういう時に謙遜したがるから。

 この世界の人たちはあまり謙遜しない。少しでもできるなら「できる」と言い張るんだ。

 まあ、本人が納得できるくらいになったら手伝ってもらおう。その時のために連絡手段が必要だな。今のうちにスマホを渡しておくか。


「じゃあ気が向いたら頼む。

 スマホみたいな魔道具を作ったから、お前らにも渡しておくよ」


「え? 電話?」


「みたいなものだ。通話と位置情報の通知ができる。

 便利な地図や楽しいゲームなんか入っていないからな。便利なアプリの追加は……一応できるが、俺たちの手作業が必要だ」


「いや、そこまでは求めていないよ。凄いじゃないか。本当に作れるんだな……」


 使徒の2人が驚いた表情を見せる。


 魔道具には機能の容量がある。単純に魔法陣を書き込むスペースの問題なのだが、複雑な機能には複雑な魔法陣が必要なので、容量計算は結構難しい。

 地図は別の魔道具で対処している。ゲームなんか入れても容量の無駄だ。少しなら機能の追加をすることもできるが、複雑な機能は無理だな。

 せいぜい匂いを出すとかその程度だ。美味しそうな匂いがするスマホなんて絶対に需要が無いと思ったので、付けていない。この2人が欲しがるなら付けてやろう。



「王城の人に見つからないように注意してくれ。軍事利用されると嫌なんだ」


「いや、それは無理だよ。僕たちの荷物は、王城の人たちが管理してくれているんだ。絶対に見つかるよ」


 至れり尽くせりと言うべきか、プライベート皆無と言うべきか迷うな。荷物の管理を丸投げできれば、確かに楽だ。でも監視されているような物だからなあ。俺なら気分が良くないぞ。


「そうかあ……。じゃあ、居場所を知らせる魔道具だと言えばいい」


 少し考えて答えた。

 実際にその機能が付いているし、その魔道具なら普及している。持っていても不思議ではない。俺と使徒が居場所を教え合うことも、不自然ではない。本人認証が付いているから、見られてもバレることは無いだろう。


「本当に貰ってもいいの? 買うと高いんでしょ?」


「俺たちは作れるからな。問題ない」


「ありがとう。じゃあ、また連絡するね」


 一条さんは興味深くスマホをいじっている。残念だが、そのスマホにはSNSの機能が無いんだ。いじっても楽しくないと思うぞ。



 使徒の2人がスマホをいじっていると、リリィさんが戻ってきた。無事資料を借りることができたみたいだ。

 善と一条さんに別れを告げ、王城を出る。



 その後は宿に行って部屋を借りた。いつもの部屋のセットだ。今回はゆっくりする暇がないな。

 ギルドで依頼したグリーンブルの解体は、明日には出来上がるそうだ。それを受け取って買い出しを済ませたら、すぐに出発する。


 しかし、金の使い道が難しいな。今俺たちは4千枚ほどの金貨を持っている。これだけの金額は大きな買い物をしないと使い切れない。

 大きな買い物と言えば家だろうか。でも王都で家を買うには金貨が3万枚以上必要らしいので、それには全然足りない。


 無駄遣いをしないように注意しないとな。できれば金になる物を買いたい。旅先でいろいろ考えよう。

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― 新着の感想 ―
>クレアの分も俺が出すから、自腹を切らなくてもいいぞ 既に正規加入してた気が……
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