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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第五十四話 最強の壁‼の巻

次回は10月28日に投稿する予定でごわす。また遅れてすまんでごわす。


 雑草を刈り取るようになぎ倒され、瞬く間に元の位置に立たされる。


 痛みよりも、驚きよりも、人を屠る技術の高さを思い知らされた。

 相撲は格闘技でありながら儀式、演舞と揶揄されることもある。

 だがブロッケン山のそれは明らかに違っていた。

 人を倒す為に練り上げられた技術だったのだ。光太郎は血を流し続ける大きな鼻を押さえながら、次の攻撃に備える。

 

 ここまで来れば嫌でも、逃げれば殺されるということを思い知らされていた。


 「そう力むもんじゃないぜ、ソーセージ。コイツはただの遊びだ。ウチの鈴赤ソーセージだってこの程度の事は慣れっこさ。なあ?」


 その時、鈴赤は二つの意味で驚いていた。

 かねてからブロッケン山のトレーニングは過酷な事で有名である。

 一瞬でも気を抜けば命を落としてしまうという噂は真実である。

 

 しかし、今の光太郎との取り組みは明らかに普段のトレーニングの範疇を越えていた。


 殺意があった。


 ブロッケン山は厳しい稽古をつける男だったが、トレーニング中にはいつも配慮や優しさがあった。

 他の東側の力士たちもブロッケン山のそんな人柄に惚れこんでいて、彼を悪く言う者など一人もいない。


 (信じられねえ。あの師匠レーラァがオッサン(※光太郎の事)を殺すつもりだった。ドイツ力士たる何時如何なる時でも慈愛を忘れるなと言っていた師匠レーラァが…)


 鈴赤は同時に光太郎への認識を改めていた。

 何度地面に叩きつけられようとも彼は立ち上がり、ブロッケン山の前に立った。

 ブロッケン山が放つ本気の殺意を身に受けながら、だ。少なくとも今の鈴赤には出来ない芸当だ。


 その背中に鈴赤は心を打たれる。

 いつしか鈴赤は不屈の闘志で立ち上がる光太郎を応援していた。


 「オッサン‼どうした、日本の力士はそんなもんか⁉早く俺に日本の力士のすごいところを見せてくれよ‼」


 (生まれて初めて”大海”を知ったでごわす。おいどんは小さな池の中の出来事しか知らぬ蛙。この機会を生かせずにして何の為の力士でごわすか)


 光太郎は両足で踏ん張ってどうにか体勢を立て直した。


 次の瞬間、光太郎の喉に向かってブロッケン山の手が伸びる。


 光太郎は羽合庵に習ったへのへのもへじ投げのバリエーションの一つを展開する。

 即ち、敵の攻撃が形になる前に反応する事である。

 光太郎は直上から張り手で叩き伏せた。


 バチンッ‼と音がしたと思えばブロッケン山は手を引っ込めながら反時計回りに移動して反撃の場を確保しようとしていた。


 誘い込んだ。

 光太郎は意図して場所取りに成功した事を確認すると攻守を切り替える。

 否、攻守が切り替わることを意識させた。


 ブロッケン山は光太郎の張り手を警戒して低姿勢を保持した。


 そこに光太郎の顔面を狙った鉄砲が襲いかかる。

 光太郎は誘蛾灯に誘われる羽虫のように、張り手を打った。

 それを迎えるはブロッケン山のまわし掴み。

 その瞬間、誰もが光太郎が地面に叩きつけられる姿を想像していた。


 戦っている当人たち以外は。


 光太郎の手が、ブロッケン山の手が互いの指を取り合っていた。

 双方、一歩も譲らない。

 

 光太郎は額から汗を流しながら技が土壇場で間に合ったことを幸いと思っていた。


 ブロッケン山は冷やかすようにピュウと口笛を吹いて不敵に笑っている。


 (全ては掌中の中にあり、というわけでごわすか。おいどん、一杯食わされたでごわすよ。ブロッケン山、噂に違わぬ猛者の中の猛者でごわすかッ‼)


 しかし光太郎はブロッケン山を押しのけようとさらに力を込める。

 ブロッケン山は額に汗を浮かべながら光太郎との力比べにつき合っていた。


 「やるね、若いの。だがこれはほんの前奏曲プレリュードにすぎない。ここまでがお前の祖父さんが考えた旧式の”へのへのもへじ投げ”だ。そして、ここからが俺と俺の師匠の考えた”へのへのもへじ投げ”というわけだ。さあ、地面に頭をぶつける覚悟をしろ。楽しい楽しいダンスの始まりだ」


 「気をつけてください、若ッ‼それは相撲の技ではありません。ブロッケン山の師匠が得意とするレスリングの技ですッ‼」


 ぐいっと力の向きを変えられた。

 五指の力を奪われ、そのまま下に押さえ込まれる。

 相撲の技ではない。レスリングの技だった。

 そこから横に一回転して前に向かって叩き落とされた。

 光太郎は受け身を取る暇も無く、だがすぐに後頭部を押さえながら立ち上がった。


 「ぐおおお…ッ‼この程度の痛み、朝飯前のちゃんこ鍋よりもお安い御用でごわすよ‼」


 強がってはみたが、実際光太郎はしゃがんで悶絶していた。

 今の攻防は肉体よりも精神的なダメージの方が大きかった。

 相撲は腕力も重要だが、足腰の力も例外ではない。

 だが相撲には合気柔術に見られる関節技で相手の体勢を崩してから投げる技が少ない。

 今回ブロッケン山が使ったものは指の力の方向を強引に変化させて相手の動きを止め、さらに腕の力だけで相手を投げるという変則的なものだった。

 光太郎の窮地を見た羽合庵は怒りの形相で土俵に上がった。

 ブロッケン山の肩を突いて光太郎から引き離した。

 羽合庵の知るブロッケン山とは気に入った相手であるほどに稽古の時の容赦、加減が泣くな為る困った性格の持ち主だった。


 「何が”俺の”だ。お前のはただの我流、喧嘩殺法ではないか。そんないい加減なやり方を教えてライン河に申し訳ないとは思わんのか?そもそもお前は遊びがすぎるのだ、ブロッケン山よ。光太郎や鈴赤の世代で”体と痛みで技を覚えろ”などと時代錯誤にもほどがある‼」


 羽合庵の説教を聞いた英樹親方とタナボタ理事は「アンタがそれを言うのか」と微妙な顔をして聞いていた。


 しかし、後輩二人の様子に違和感を覚えた羽合庵はギロリと睨むと委縮して小さくなってしまった。

 光太郎は投げを食らって腕にダメージが無いことにまず驚いていた。

 強いて言うならば背中にわずかばかりの痛みが残るくらいだ。


 ブロッケン山は明らかに力加減をしているということなのだろう。

 羽合庵に怒られながらも、まるでどこ吹く風といった様子で聞き流している。


 羽合庵の説教はヒートアップして鈴赤への教育にまで及んでいた。


 「待てよ、モヒカンのジイサン。俺が師匠レーラァみたいに強くないのは俺の問題であって…」


 「そこまでだ、ソーセージ。この石頭に何と言おうとお前のようなガキ相手じゃ伝わらんさ。それよりもキン星山よ。実際、使ってみてどうだった、旧式の”へのへのもへじ投げ”は?」


 「おいどんのような下手くそが言うのも何でごわすが、技のタイミングを簡単に読まれてしまうような気がするでごわすよ…」


 羽合庵は非常に居心地の悪そうな顔をして光太郎の言葉を聞いていた。

 ブロッケン山は羽合庵の狼狽ぶりを見て、肩を震わせながら苦笑している。

 羽合庵とて好き好んで伝えなかったわけではない。

 これだけは、”へのへのもへじ投げ”を破られて体験して知ってもらう他無かったのだ。


 「これが型通りの稽古から派生して誕生した技の代表的な欠陥だ。技を仕掛けるタイミングが正確すぎて容易に読まれてしまう。仮にもスモーオリンピックに出場するようなレベルの力士ならば、こちらのやっていることは見抜かれてしまうだろうな。どれほど用意周到に練り込まれた戦術を使ってもそれが一度でも見抜かれれば敗北は必死だろう。お前が四流の力士でもこれはわかるはずだ」


 光太郎は目が点になっている。

 そこに美伊東君が現れて小声で内容を分かり易く説明してくれた。


 「技が完全に近いものであればあるほど破られた時のショックが大きいという意味ですよ、若」


 光太郎は両腕を組んで首をかしげる。


 さらに美伊東君は迷路の絵を紙に描いて、深部に入ることもまた出てくる事も難しいという説明を付け加えた。

 そこまでやって光太郎は掌に拳骨を落として納得する。


 鈴赤は光太郎に飛びかかる一歩手前でブロッケン山に取り押さえられていた。


 「すまんのう。おいどんはいつも迷惑をかけているでごわすな、美伊東君。それでブロッケン山殿、おいどんは一体どうすればいいでごわすか?」


 「簡単な話だ、キン星山。お前が羽合庵から教わった基本の型が六十四くらいだろう。そこからさらに俺と俺の師匠が手探りで見つけた千の型を覚えてもらう。印度華麗に殺されるよりもずっとマシだろう?」


 そう言ってブロッケン山は帽子をかぶり直した。

 つまり修行の本番はこれからだ、ということなのだ。


 光太郎は臆せずに、両手で頬叩いて気合を入れ直す。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄いな!と思いました。父は合気はわからないと言ってましたし、もしも対峙したらと考えるだに恐ろしい…… もはや原作(何?)を越えた全くの別物、一種の格闘技小説みたいな作品になってますが、そ…
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