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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第百二十七話 ジークフリートの赤い魔剣ッ‼の巻

次回は1月17日くらいに投稿する予定です。遅れてばっかですいません。

 

 (ヤツの蹴りを”稲妻”とは良く言った物だ。後少しガードに入るのが遅れたら意識を持っていかれたぜ)


 ブロッケン山はラーメン山の必殺の一撃を受けたのにも関わらず微動だにしない。

 ヨーロッパ系ゆえに発勁という着想を得る事が出来ないブロッケン山は彼なりに対応策という物を考えていた。

 その策とは打撃を受ける際に筋肉を引き締め、関節を曲げて肉体の硬度を高める。

 誰でも思いつくありふれた手段だったが、ブロッケン山はそこに東洋の精神論的な思想、即ち肉体を鉄の鎧に変化させるイメージを抱くという物を追加する。

 結果は上々というほどではなく昏倒と気絶を防ぐ程度のものだったが十分な効果を得る事は出来た。


 ラーメン山はこの試合で今の技を使う事はない。ブロッケン山の”必殺技封じ”は微量だが確実にラーメン山の戦力を削いでいたのだ。


 「強い、強すぎる…。あれが東ドイツ最強の力士ブロッケン山…」


 中国側の観客席から玉王山が弱気な声を出す。

 この傲岸不遜を絵に描いたような男の目にもラーメン山の即ち中国相撲拳法の窮地は手に取るように理解出来た。


 「野郎…。贋物まがいものとはいえ完全に硬気功を自分の物にしていやがる」


 毒手山の声にも勢いという物が感じられない。

 それもそのはず普段の戦いならば今の一撃で形成逆転が為されたとラーメン山の仲間たちは考えていた。

 しかしブロッケン山は一時的に体勢を崩しはしたが以前と変わらぬ様子でラーメン山の前に立っている。

 実際はブロッケン山の瘦せ我慢だとったしても脅威という他はない。

 そしてラーメン山はさらにそこから一歩進んでブロッケン山が自分と同じく本気を出していない事に気がついていた。


 (ブロッケン山め。まだあれを使わないつもりか…。象林腹より受け継いだ忌まわしき魔剣を使わずに、私と死合うつもりか…ッ‼)


 ラーメン山はこれほど実力を見せてもまだ敵に軽く見られているという屈辱的な事実に身を焦がすような怒りを覚える。


 ブロッケン山は間髪入れずに張り手を打つ。

 必殺の”88(アハトアハト)”ほどの威力はないが土俵際に押し込むくらいの力を込めた。


 「カァッ‼」


 ラーメン山は細い目を開いてブロッケン山の張り手を全て叩き落とした。

 

 そして手招きをしつつ…。

 「私を殺すつもりで打って来い、ブロッケン山。どんな攻撃だろうが全て撃ち落とすッ‼」

 さらなる追撃を促すべく檄を飛ばした。

 

 ブロッケン山は口元を歪ませて好戦的な笑みを浮かべた。

 かつてこれほどまで対戦相手から強力な誘いを受けたことがあろうか。

 ブロッケン山は若い頃から敵の前で本気を出す事を禁じられてきていた。

 例え命を賭けた真剣勝負だろうと、相手を殺してしまえば敗北扱いにされてしまう。

 競技と格闘技が抱える背理にブロッケン山はいつも悩まされてきた。


 だがこの力士は違う。

 全力で挑まねば屍を晒すのはブロッケン山の方だろう。


 全身の血流が熱気を浴びて波打つ。


 「了解だ、中国人形チャイナドール。俺もそろそろ身体が温まってきたところでね…」


 知らずのうちに舌を舐めずる。ブロッケン山の心は猛烈に”渇き”を感じていた。


 (ラーメン山。奥義だの秘技だのはお前ら相撲拳法の専売特許じゃねえ…。ドイツにはドイツの流儀ってのがあるって事を教えてやらあ)

 

 空気が収斂する。

 気迫がこれ以上ないほどに研ぎ澄まされる。


 ラーメン山を除いてその事に気がついたのはブロッケン山と長年行動を共にしてきた力士、ヴァンツァー山だった。


 「見ろよ、鈴赤。お前の親父が禁断の技を使うぜ…」


 ヴァンツァー山は緊張した面持ちで鈴赤の肩に手を置く。

 その時、何よりも鈴赤を驚かせたのはヴァンツァー山が恐怖に打ち震えているという事実だった。


 「叔父貴…。親父はどうしちまったんだ‼一体これから何が始まるっていうんだよ‼」


 鈴赤は自分にまで伝染しつつある恐怖を払拭しようと大声を出した。

 なぜならば今土俵の上で戦っている力士の放つ殺気は明らかに鈴赤の知るブロッケン山とは別物だったからである。

 それは”氷”と”炎”両方の性質を備えた異質な力。

 敵には死と絶望を与え、味方には勝利と希望を与える。


 「まるで魔剣ノートゥングじゃねえか…」


 そして鈴赤のか細い呟きと共にブロッケン山が駆けだした。

 鞘から抜かれた魔剣は敵の息の根を止めるまで決して止まる事は無い。


 その名も…「ジークフリートの赤い魔剣‼」


 ブロッケン山は一瞬にしてラーメン山の目の前に現れ、左の鎖骨から腰へと手刀を振り抜く。


 「ラーメン山ッ‼」


 土の上に鮮血が飛び散る。直撃ではない。

 手刀そのものはラーメン山が真剣白刃取りよろしく受け止めている。

 しかし斬撃の威力はラーメン山の身体にまで届いていた。

 むしろ皮と肉だけで済んだのはラーメン山の修行の賜物だろう。


 「ぐッ‼」


 ラーメン山は思わず呻き声を上げた。


 計算外だった。

 斬撃はあくまで斬撃で、痛みさえ乗り越えればその後でも普通に戦えると考えていた。

 しかし、今こうして肉を斬られて己の見積もりの甘さという物を実感させられている。


 (この斬撃は気脈そのものを断ってしまったのか。不覚、これでは戦うどころではない。距離を取らねば…)


 ラーメン山は手刀を押し返した後、後方に飛び退った。


 「ああ、糞。普段から使っているわけじゃねえから決まらねえな…」


 ブロッケン山は手刀の状態を解き、手首を振って血を払い落す。


 手応えはあった。

 残念ながらラーメン山の肉体を両断する事は出来なかったが、しばらくは厄介な”気”を使った戦法は使えないだろう。


 「すげえ…。あれが本当のゲルマン式相撲かよ。無敵じゃねえか…」


 「そうだ、鈴赤。あれこそが五体を武器に変える最強の格闘技、ゲルマン式相撲だ」


 ヴァンツァー山は力強く拳の形を作る。

 象林原の引退後、この技を継承できる力士は東西ドイツのいずれにも現れなかった。

 ヴァンツァー山も肉体を”魔剣”に変化させるまでは出来たが、ブロッケン山のように維持するには至らなかった。


 後日談となるが、鈴赤はとある数奇な運命の後に十代でこの奥義を完成させる。

 さらに”魔剣”はキン星山・海星光太郎との共闘、人生の師であるキン星山・軍神こと海星翔平の特訓によって”聖剣”と呼ばれるまで高みに達する。

 この運命の巡り合わせを天命を全うしたブロッケン山は皮肉まじりに「俺に似なくて良かったな」と笑う事だろう。


 「ブロッケン山よ、お前なら勝てる。頼むから勝ってくれ…」


 ヴァンツァー山は鬼神の如き威容をもってラーメン山の前に立ちはだかるブロッケン山が力を底の底まで使い果たした抜け殻である事を知っていた。

 ヴァンツァー山にもっと力があれば故国の名誉を彼一人に背負わせるような事にはならなかった。

 思えば若い頃からブロッケン山は最後の戦士として不本意な戦いばかりを強いられてきた。

 雨の日も、風の日も命令があれば土俵に立って勝利する。

 たった一度の敗北も許されない相撲など、真剣勝負の相撲ではない。


 だがブロッケン山は不平等な境遇であるにも関わらず勝ち続けた。

 その結果、選手生命が失われる事になっても勝ち続けた。

 間も無くブロッケン山は限界を迎え遠からずうちに倒れるだろう。

 だからこそ最後の大会だけは自由にしてやりたかった。


 「やっちまえ、親父‼アンタの、ゲルマン式相撲こそが最強だって事を俺に見せてくれ‼」


 鈴赤は父親と同じ場所に巻いたホータイ・マキマキの包帯を握り締めながら応援する。

 運命は予断を許さない。

 この時、親子の決別の時はすぐそこまで近づきつつあった。


 ブロッケン山は右肩を大きく回して準備を整えた。


 ”魔剣”の体力消耗は激しく、一日に三度も使えば力尽きしてしまうのだ。


 (…四度目は己の命を奪う、か)


 もう顔を思い出す事も出来ない父親からそう教わった。


 「おい、ラーメン山。冥途の土産に良い事を教えてやるよ。俺の”魔剣”はな…」


 そう言ってブロッケン山は頭上に手刀を構える。

 

 「ラーメン山、今が好機だ。ブロッケン山が調子に乗っている間に距離を詰めろ。お前なら出来る‼」


 ムエタイ山はブロッケン山の奥義の欠点を見抜いていた。

 技の威力と速度は驚嘆に値する代物だったが、あの独特の構えから技を放つまでには”溜め”が必要だった。


 (おそらくあの上段の構えは虚偽フェイク。真の構えは…目だ。早く気がついてくれよ、ラーメン山…)


 ムエタイ山の予想は正しく、ブロッケン山は”魔剣”を放つ前に自分の力を一点に収束させなければならない。

 手刀の軌道ゆえに”線”の動きに警戒してしまうが、”魔剣”の本領は狙った”点”の部位を中心に切断する事にあった。


 「ハァァァーーーッ!」


 ラーメン山は意を決して大地を蹴る。

 ブロッケン山ほどの力士ともなれば自分の技の欠点に気がつかぬはずはない。


 (だが”火中の栗”は手を伸ばして拾わねばその熱さを知る事もないッ‼ここが正念場だ)


 ブロッケン山は迷わず”魔剣”を抜いた。

 当たれば絶命必至の斬撃が紅の閃光と化してラーメン山に襲いかかる。


 「ブロッケン山よ、見せてやろう。これが硬気功の極意、”大三元の舞”だッ‼ハチャアアアーーーッ‼」


 ラーメン山の眼前に迫るブロッケン山の魔剣。

 しかし魔剣による連続攻撃を全てすり抜けてラーメン山はブロッケン山の前に立つ。

 そして”気”の乗った張り手を打った。

 ブロッケン山は当たる寸前に両腕を交叉して張り手を受け止める。

 ラーメン山はすぐに後退してブロッケン山の反撃を警戒する。


 (やはりそうだったのか。あの硬気功の真似事は”魔剣”の予備動作。つまり手順としては全身を鋼に変える技を使わなければ”魔剣”は使えない。そして、一定の時間が経過すると…)


 ブロッケン山は前進して距離を詰めようとする。

 ラーメン山は逆に距離を詰めて組み合おうと突進する。


 (ああ、糞がッ‼全然噛み合わねえじゃねえかよ‼)


 ブロッケン山は図らずもラーメン山と正面からぶつかり合う。

 試合の当初から”ラーメン山は体格の不利から自発的に組んでこない”というのがブロッケン山の見立てだった。

 ラーメン山はブロッケン山の体を少しでも土俵の外に追いやろうと体重を前方にかける。

 

 結果としてラーメン山の”予想よみ”は的中した。


 (見えてきたぞ、”魔剣”の正体が…。魔剣とは 精神集中 → 肉体の硬質化 → 魔剣発動 という三つの過程を通る事で成立する技だ。つまり正規の手順を踏まなければ”魔剣”は生まれない)


 ラーメン山は足を引っ掛けてブロッケン山を横に投げようとする。

 ブロッケン山は慌ててその場に残り劣勢に持ち込まれないようにした。


 (クソッタレが…ッ‼…投げに集中すれば剣を作り出すイメージを持続させる事が出来ないんだよ‼)


 ブロッケン山は既に自分の持ちうる最大の奥義がラーメン山に見破られている事に気がついていた。

 仮にこのまま”魔剣”の”精製”に固執すればラーメン山はそれを利用してくるだろう。

 だがそれはラーメン山も同等の条件であり、ブロッケン山が”魔剣”の状態を解除すれば…。

 そしてブロッケン山は笑った。


 「勝つためには何でもやるのが俺の流儀なんだよ‼」


 ブロッケン山はラーメン山の右腕を引っ張り、脇に挟み込んだ。

 そのまま片脚立ちになってラーメン山をぶん投げる。


 …故意に左手の自由を許しながら。


 ラーメン山は足の指先を地面に引っ掛けて転倒を免れた。


 「容易い挑発だ。今度はこちらから行くぞ」


 ラーメン山はブロッケン山に取られた右腕を引き抜き、まわしの右を後ろから掴んだ。

 そしてブロッケン山の体を持ち上げて地面に落とす。


 「残念。後少しだったな、ラーメン山ちゃんよ」


 投げられる直前、ブロッケン山は悪びれる様子も無しにラーメン山の頭に右手を乗せて足元に向かって押した。


 「おのれ‼」


 ラーメン山は怒号を発すると同時にブロッケン山の体を土俵中央に向かって投げた。

 ブロッケン山は空中で一回転してから難無く着地する。


 「…この距離ならばお前の魔剣とやらも使えまい」


 ラーメン山はここでブロッケン山の足の動きに注目する。

 ブロッケン山が相手の間近まで一気に距離を詰める技を持っているという話は聞いた事が無かったが、ブロッケン山が射程距離という欠陥を放置しておくとは思えない。

 その本性は大胆にして繊細。


 ラーメン山は万の軍と対峙する覚悟をもってブロッケン山を見た。


 「…ったく、少しは慢心するとか可愛いところを見せてみろよ…。これでも今の俺はかなり追い詰められているんだぜ?」


 ラーメン山は自分から動く気配を見せない。

 ブロッケン山もまた一定の距離を保ったまま腰の高い位置で構える。

 試合会場はいつしか二人の力士によって取り込まれ、誰一人として口を開く者はいない。

 刻一刻と迫る決着の時を前に無窮の沈黙が会場内を支配する。


 ラーメン山は肌に薄ら寒さを感じている。

 敵の術中にあるという自覚はあった。


 (やはり、この状況も虚偽か。ブロッケン山は既に魔剣を完成させている…。問題はどう対応するかではない。どのタイミングで仕掛けてくるか、という事だ)


 額からタラリと汗が流れる。


 ラーメン山は額に付いた汗を払い、目を伏せる。


 「ああッ‼馬鹿者が‼ブロッケン山につけ入る隙を与えてはならんぞ‼」


 玉王山がラーメン山のらしからぬ失態を見て大声で叫ぶ。

 玉王山は配下の闇力士五点星によって取り押さえられた。


 (玉王山ヤツの動揺は想定内だ。…後で千回は蹴ってやるつもりだが)


 ラーメン山はブロッケン山の方を見る。

 動く気配は無し。


 「”将を射んとする者はまず馬を射よ”だ。まずは将を拝むとするか…」


 ラーメン山は構えを片脚立ちに移行して右手を前に出す。


 ラーメン山の奥義”猛虎百歩神張り手”を使うつもりだった。

 対してブロッケン山は相変わらず両手を同じくらいの位置に揃えながら立っている。


 「良し。この勝負、もらったぞ。あの距離ならばブロッケン山に反撃する手段はない」


 「猛虎百歩神張り手の本領は技が当たった後にある。ブロッケン山め、猛虎に生きながら食われる幻影を見て苦しむがいい」


 砲岩山と毒手山は笑い合う。

 二人とも以前ラーメン山と戦った時にこの技を食らった過去があった(毒手山は二回)。


 しかし犬繰山とムエタイ山の表情は暗い。

 二人はラーメン山の実力を疑っていなかったが何か腑に落ちない違和感のような物を感じていた。


 「犬繰山、これは…」


 「落ち着け、ムエタイ山。ラーメン山の事だ。きっと何か考えがあるはずだ…」


 ラーメン山は息を大きく吸い込んで半歩前に踏み込む。

 同時にブロッケン山に向かって右手を前に突き出した。


 「奥義、猛虎百歩神張り手ッ‼ハチャアアアアアーーーッ‼」


 ラーメン山の右手の先から巨大な猛虎が大口を開いて襲いかかる。

 ブロッケン山は口の端を歪ませて右手を横に、左手を上に構えた。


 「光太郎、お前と修行しておいて本当に良かったぜ。今の俺には断片的にだが”へのへのもへじ投げ”が使える。お前のお陰だ、日本の友よ」


 ブロッケン山は十字を描くように両手を払った。


 「⁉」


 ラーメン山は咄嗟に猛虎百歩神張り手を中断して防御に回る。


 しかし時すでに遅し。


 ブロッケン山の飛翔する”魔剣”は既に放たれた後だった。


 「あばよ、ラーメン山。お前は間違いなく俺にとって最強の敵だったぜ」


 ザンッ‼


 次の瞬間、”魔剣”が作り出した真空の刃がラーメン山の肉体を十文字に切り裂いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] どうなるんだよおおお! ……すいません、ちょっと興奮しました。素晴らしい引きです。 [気になる点] ランボーはいないんですね(何) [一言] 原作(ん?)はネプチューンの新技が披露され、…
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