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血染めの覇道  作者: 舞って!ふじわらしのぶ騎士!
王道 キン星山編 第一章 輝け!キン星山!
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第百十話 反撃の狼煙‼の巻

次回は九月一日に投稿するでごわすよ‼あくまで予定ね‼


 突如として視界を覆うキン星山の文金高島田髷。

 想定内のカウンターだが間合いから出るわけにも行かず、回避不能。


 (俺ならば耐えられる。いやさ、見事耐えて見せる…ッ‼)


 その瞬間、フラの舞は奥歯を噛み締めて耐える事に集中する。


 ガン‼という音と共にフラの舞の鼻先にキン星山の頭部が当り、後方に弾かれる。


 フラの舞はキン星山の頭骨を顔面で一度受けた直後に背中を反って威力を逃がした。

 これはあくまで相撲の試合ではよくある場面の一つにすぎないが、フラの舞はキン星山の術中にあることを看破する。

 強いて言うならば手ごたえが”薄い”のだ。

 如何に消耗しているとはいえ現役の力士の頭突きを受けてこの程度という事は無い。

 そして今の状態で威力の加減をするような暇は皆無だった。


 フラの舞は目を閉じることなくキン星山の次の行動を静かに見守った。

 するとキン星山の手は抜け目なくフラの舞のまわしの左側を狙っていた。

 フラの舞はそれを逆手にとって自らのまわしの左側に伸びた手を左手で捕まえる。

 後はキン星山の腕を折って投げるだけの簡単な仕事だった。


 この時点においてフラの舞に落ち度は何も無いと断言出来よう。

 重要なのは格闘技や相撲という競技にはそもそも正答というものが存在しないという点である。

 フラの舞が最善を尽くしたように、光太郎もまた最善を尽くした。

 どちらも正しく、どちらも間違ってはいない。

 もし両者に差があったとしたならばそれは”運”という気まぐれな要素だったのだろう。

 これまで光太郎の歩んできた敗者としての人生が、ほんの少しだけフラの舞の先読みの上を行っていた。それだけの事だった。


 「これで終わりだ‼キン星山ッッ‼」


 フラの舞は光太郎の左腕を脇に挟んで関節の破壊を試みる。

 奥義”崖っぷちのど根性”を使った”かんぬき”が光太郎の腕を圧壊させようとするがここに誤算が生じた。

 光太郎特有の瞬間的に発動する”崖っぷちのど根性”が技の出がかりに干渉したのである。

 フラの舞は光太郎の思惑通りに”崖っぷちのど根性”を使って対抗するが、光太郎は自身の左腕を放棄して次の行動に移る。

 今度はフラの舞の左側に回り込んで側面からまわしを取る格好となった。

 フラの舞が自分から仕掛けた”かんぬき”は容易には外すことは出来ない。

 理外の力、”崖っぷちのど根性”の副作用とも言えよう。


 「あんさんの腕力かいなちからを利用させてもらってごわすよ、フラの舞どん。これでおいどんはようやっとあんさんをぶん投げることが出来るでごわす…」


 ミシリと光太郎の左腕の骨が悲鳴を上げる。

 腕の一本、勝利の代償と考えれば軽いものだ。

 フラの舞は必死の形相で光太郎に覚悟の程を聞いた。


 「それで俺がお前の腕をへし折ることになってもか…。いいのか、相撲を続けられなくなるかもしれんのだぞ?」


 フラの舞は渾身の力で光太郎の左腕を締め上げる。

 その時、光太郎は腰を落としてすくい投げの準備に入った。迷いも、焦りも無い満ち足りた表情でフラの舞の問いかけに答える。


 「あんさん、おいどんを舐めすぎでごわすよ。力士が土俵に立つ時、命を捨てる覚悟を持つことは当然の事。腕の一本や二本、どうってことないでごわす‼」


 光太郎は涙目で叫んだ。

 やはり怖いものは恐いし、骨折は可能な限り避けたい。

 それは力士であっても同じという事だろう。


 羽合庵と美伊東君は先にズッコケていた。


 だがこの局面でフラの舞を相手に正面から勝負を仕掛けるからにはダメージを最小限に抑える”対策”は持っていた。

 光太郎は自分からフラの舞に密着してかんぬきに抵抗せず、技に掛かりに行った。

 結果、容易に左腕を砕かれると思われるが関節技というものは刀同様に刃を通らせなければ即ち距離を置かなければ効果を発揮するまで時間がかかるという状況がある。

 首絞めや鯖折りなどは逆の状態になるが、腕にかける技の場合はある程度は引っ張る距離が必要なのだ(※相撲にアキレス腱固めはないので足関節は省略させてもらう)。

 時間にしてわずかなものではあるが、それでも状況を一点させるには十分だった。

 今、光太郎の左腕はフラの舞に閂をかけられて一体化している。

 そう今の光太郎はフラの舞のまわしの一方を取らなくても良い状況にあったのだ。

 そこで誰よりもいち早く己の悪手に気がついたフラの舞は閂を外して、正面からの取っ組合いに戻そうとする。

 光太郎はフラの舞の手から逃れるように今度は土俵際に向かって移動した。

 当然、かんぬきもまわしを取っている手も外れていない。

 土俵上の二人の追っかけ合いに似た姿を見た諸葛亮が嬉しそうに笑う。

 今、背後を取るという作戦が功を奏したのだ。


 「実際に相手の後ろに回り込むのではなく、相手に自分の背中を追わせることで有利な状況を作り上げる。ははっ、虎が自分の尻尾を追いかけているみたいですね。羽合庵殿」


 「果たして喜んで良いものやら…。孔明よ、そもそもこの形に落ち着くまでどれほどの時間を費やしたと思う。後二回は勝たなければならないというのに…」


 フラの舞は光太郎の決して楽観は出来ない現状を憂いながら、その先に微かな光明が生まれたことを感じる。

 フラの舞の成長を祝ってやりたい気持ちもあるわけだが、それは傲慢というものだ。

 羽合庵は自嘲しながらこの戦いのさ刺繍局面を見守ることにした。

 フラの舞とキン星山の戦いはどちらか一方が土俵に倒れるまで続くのである。即ち、この戦いは終わってはいない。


 「フラの舞ッ‼耐えろッ‼ここで倒れなければお前の勝ちだッ‼」


 カナダ山は大声でフラの舞の最後の抵抗を称える。

 フラの舞は光太郎の足払いを受けながら土俵に残っていた。

 彼の身体からは既に”崖っぷちのど根性”の力が失われ、自分の力だけで立っている。

 今や力と技では決して負けないはずの相手に負けようとしていた。

 自分よりも小さな体格の相手に負けた経験のあるカナダ山は誰よりもフラの舞の気持ちに共感することが出来た。

 ここで負ければ、自分の存在そのものが否定されたような虚しい気持ちをカナダ山は誰よりも痛感していた。

 決して己は稽古を怠っていたわけではない。

 たかがシャツのボタンを一つ掛け違えただけでこのような結果に甘んじてしまったのだ。


 スペシャル山も両目に涙を溜めながらフラの舞を応援する。

 彼も知っている。勝てるはずの戦いに負けてしまった時の無力感を、誰よりも知っている。

 四方八方手を尽くしたというのに勝利は高く遠く、誰しも手にすることは出来ないのだ。


 「フラの舞ッ‼ここで負けたら全てが終わりだッ‼二勝のアドバンテージなんて最初から無いッ‼何でもいいから勝ってくれーッ‼」


 スペシャル山は言葉に魂を乗せて応援に徹する。

 カナダ山とスペシャル山は知っていた。この世に負けても良い戦いなど存在しない。

 例え勝つ事が全てでは無かったとしても、勝たなければ全ての努力は水泡に帰してしまうのだ。

 

 フラの舞は二人の応援を全身で受け止め、光太郎に最後の反撃を仕掛ける。

 それは即ち、光太郎の左腕の閂を外し後方に倒す荒業”蛙がけ”だった。


 「例え醜い決まり手と蔑まされようとも俺は負けるわけにはいかん…ッ‼キン星山、やはりお前はここで終わりだ」


 フラの舞は自分の軸足を光太郎に刈らせてから背中に向かって倒れ込んだ。

 このまま倒れる事になれば土俵に背中を着けるのは光太郎になるのは間違いない。

 フラの舞は自由になった手で光太郎の左手首を取り、肩甲骨を光太郎に押し当てる。

 光太郎もまた最後の”崖っぷちのど根性”を発動し、フラの舞の身体を軸にして背面を取る。

 そして両足で着地してから、フラの舞の手ごと背後から抱き締めた。


 ぞくり。


 フラの舞の背筋に冷たい汗が流れる。


 (この技は…ドイツ代表ブロッケン山の十八番フェイバリットホールドかッッ‼)


 光太郎は両腕でフラの舞の身体を固定して背中から地面に向かって落とす。

 それは”原爆固め”には程遠い”背落とし”にすぎない技だった。


 だが胸を張って言える言葉がある。


 「ごっちゃんです、ブロッケン山‼あんさんの技を使わせてもらうでごわすよ‼これがキン星山流ジャーマンスープレックスホールド投げでごわす‼」


 ズンッ‼


 光太郎はアーチを描き、フラの舞の脳天を地面に叩きつけた。

 フラの舞は最後まで抵抗したが、力及ばず投げられてしまう。

 白目を剥いて意識を失ってしまったが最後の最後まで勝利を諦めることは無かった。


 光太郎は気絶したフラの舞を優しく寝かせて、離れて行った。


 やがて張昭は両目から滝のような涙を流し、軍配を光太郎の方に向かって上げる。

 光太郎は屈んだ状態で頭を下げながら勝利の宣告を受けた。辛い、本当に辛い戦いだった。


 「勝者、キン星山ッ‼二人とも天晴、見事な戦いだった‼」


 張昭の宣言が終わった後に土俵の中にスペシャル山とカナダ山が飛び込んでくる。

 二人は気を失ったフラの舞をすぐに土俵の外に運んだ。

 光太郎も土俵の外に出て美伊東君と羽合庵から救護を受ける。


 どうにか左腕を失うことは無かったが、限界はかなり近い状態だった。


 「よくやった、光太郎。次の戦いで負ければ、やはりそこで終わりなのだが今のところは褒めてやろう。よりによってドイツ男の技で勝ったのは納得がいかんがな…」


 羽合庵は苦笑しながら光太郎の左の肘に冷やしたタオルを巻いてやる。

 閂をかけられていた箇所は赤く腫れていたが、光太郎は自力で肘関節を曲げられるので骨折していない。

 この場において冷却処置など気休めでしかないが、肉体への負担は可能な限り軽減してやらねばならぬという老婆心が働いたのである。

 その間、美伊東君は光太郎の身体をマッサージしながらダメージが残っていないかを確認していた。


 「美伊東君、おいどんは次の試合を戦うことは出来そうでごわすか?何かこう勝ったのはいいでごわすが、生きた心地がないでごわすよ…」


 光太郎の顔から先ほどまでの勇ましさはすっかりと失われ、いつもの間抜け面に戻っている。

 美伊東君は眼鏡を輝かせながら、マッサージを切り上げて光太郎の下腹の肉をつねった。

 光太郎は不意の痛みに{ぎゃっ!」と悲鳴を上げる。

 羽合庵は冷気を失ったタオルを水につけながら皮肉っぽく笑っていた。


 「何を弱気な事を言っているんですか、若。残りの試合を二回、勝たないと優勝できないんですよ?」


 「優勝…っておいどんはこの次でテキサス山と戦った後は準決勝あたりで棄権するつもりだったでごわすよ!…あ痛っ‼もうつねるのは勘弁して欲しいでごわすよ‼」


 美伊東君はあまりにも情けない光太郎の弱音に痺れを切らして、さらに腹を抓った。

 羽合庵は自分に助けを求めようとする光太郎の悲痛な懇願を無視しながら冷やしタオルで応急処置を施す。


 一方、試合の後に暢昭は自分から諸葛亮と諸葛瑾と魯粛の前に現れて頑迷な己の非を謝罪していた。諸葛亮は孫権の重臣から一方的に頭を下げられて恐縮している。


 「諸葛亮殿といわれたか、この度はワシの考えに非がある。他者の話を聞かずに、また近しい者の気持ちを考えずにただ己の考えを押しつけるだけの事がどれほど愚かな事かをフラの舞とキン星山の戦いから学ばせてもらった。ワシは貴公と諸葛瑾、そして魯粛の側として周瑜将軍の説得にあたろうと思う。この辺りで手を打ってはくれぬか?」


 「頭をお上げください、張昭殿。私は何も周瑜将軍や貴方を屈服させる為、ここに来たのではありません。我が主君、劉備様と呉の盟主孫権様を引き合わせ共に難局に立ち向かうようという話が出来れば幸いというものです。それほどまでに今の曹操は危険な存在だ…」


 諸葛亮もまた張昭に頭を下げる。

 江南の地に入るまでは得意の口先八丁で会談を惑わせてやろうと思っていたが、張昭同様に光太郎とフラの舞の戦いに魅せられて邪まな気持ちは消え失せていた。

 今は真心から、張昭のような思慮深い家臣を抱える孫権という人物を見たいという気持ちが何よりも勝っていた。

 それだけにもう一人の孫権の腹心、周瑜将軍との接見は重要なものとなろう。

 諸葛亮はここからが本番と意気込みを強める。

 諸葛瑾と魯粛も諸葛亮と同じ気持ちで張昭と手を取り、周瑜将軍の搭乗を待つことにした。


 ほぼ同じ頃、フラの舞は意識を取り戻して額の上に置いてあった冷やしタオルに手をかけた。

 目の前には目を赤く腫らせたカナダ山とスペシャル山が替えのタオルを持っている。


 (いくら何でも二枚は同時に使わないだろうに…)


 フラの舞は二人の大袈裟な気遣いに苦笑しながら感謝していた。


 「…。カナダ山、スペシャル山、教えてくれ。俺はどうやって負けたんだ?」


 フラの舞はタオルをどけてから身体の状態を確かめる。

 まだ後頭部に痛みが残っている事を除いては無傷に等しい。

 その痛みも甘寧が用意してくれたであろう氷枕によって治まりつつある。


 向こうでトンカチのようなもので凌統と一緒に氷を割っている甘寧に向かって軽く頭を下げておいた。


 「ドイツの代表ブロッケン山ゆずりのジャーマンスープレックス投げさ。ここぞというところで大技を狙ってくるなんて敵もなかなかやるもんだね」


 「安心しろ、兄弟。こっちはまだ一勝分のアドバンテージがあるんだ。次は格の違いってもんを教えてやろうぜ。へへっ!」


 カナダ山はフラの舞からタオルを受け取り、バケツに入れてまた冷やした。


 フラの舞は光太郎との戦いを思い出しながら次の戦いの戦略を組み立てる。


 しばらく柴桑の城の内部は落ち着いた状態になったが一人の男の登場によって再び騒然としたものに変わる。

 その男とは孫権の直属の近衛兵、周泰だった。

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